第92話(マッハサイド):やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい
ドゼウスからの追っ手がこの街にやって来ている。
しかもドゼウスからの追っ手と言うのが、シュヴィリスと同じドラゴンだとするのなら非常に厄介極まりないのは確かである。
だからこそさっさとこの街から離れたいので、今は船の手配をしに行ってくれたジョージアが先導して逃走の手助けをしてくれている。
「くそっ、まさか本当にここまで追って来るとは!」
一部分であるとは言え、確かに棲み処を破壊してしまったのは紛れも無い事実。
そのリベンジをしにここまでやって来た、あのブラックドラゴンの足止めをしてくれているので凄く申し訳ない気持ちになるジェイノリーだが、だからと言って自分達があのブラックドラゴンを止められる筈も無い。
それ程までに強力なドラゴンの殺気を背中に感じつつ、とにかく今はさっさとジョージアとビアードが手配してくれた船に向かうだけだ。
だが、不安材料はまだまだある。
「なぁ、そう言えばさっきまだあの船は整備中だとか何だとか言って無かったか!?」
「ああ、そうだよ! まだ整備の途中だ!」
「くっそぉ……!!」
そうなって来ると出港が遅れるかも知れないので、あのブラックドラゴンが追いついて来る可能性が限り無く……。
「……ん?」
周二が何かに気がついた顔をして、それから一気に顔が青ざめて行く。
「なぁ、シュヴィリス」
『な、何!?』
「さんまるそあらは?」
『…………あっ』
「30ソアラ」が「さんまるそあら」と凄く棒読みになってしまったのは、もうどうにも止められない状態で重要な事に気がついた周二の重大な心の乱れを表わしているらしい。
「ええっ、まさかソアラを忘れたのかよ!?」
「嘘……だろう……!?」
「何だよ!? 何の話だ!?」
明とジェイノリーもその事実に呆然とするのを見て、いまいち状況が飲み込めていないジョージアが足を止めずに問いかける。
「お、俺達のあのデカイ荷物がまだ庭に置きっぱなしなんだよ!!」
「何だってえ!?」
思わず足が止まってしまうジョージアだったが、この状況であの屋敷に取りに行ける程の余裕は無い。
何故ならあのビアードや守本がブラックドラゴンと戦っている場所を通らなければならない上に、ビアードの屋敷までは距離があり過ぎるからである。
しかもさっきの整備中だと言う情報が本当ならば、出港が遅れるとかそれ以前の問題で重い30ソアラを船に載せる事など到底無理な話になって来るだろう、と言う結論にジョージア以外の一行は心の中で意見を一致させる。
「うう~ん……でもあんた達も見た通り、あの黒い男は恐らく人外の存在だからね。この街を廃墟にさせてしまったらそれこそまずい事になる。とにかく今は諦めてくれないか。必ず後で何とかしてみせる」
「何とかって?」
「それは後で考える。とにかく今は船に向かうのが真面目に第一条件だ!!」
あのめんどくさそうな態度を見せていた時とはまるで別人のジョージアの剣幕に対し、何も言い返す事が出来ない地球からやって来たトリップメンバーとドラゴンのシュヴィリス。
『あれはやばいって! さっさと船に向かおう! 考えるのは後で幾らでも出来るでしょ!』
シュヴィリスと同じドラゴンかも知れない黒い男の強大な気配を思い返し、シュヴィリスもジョージアの剣幕が伝染したかの様な顔つきと声色で人間達を促し、再び一行は走り出した。
そうしてようやく船着き場まで辿り着いた一行だったが、その顔色にはかなりの疲労が見えている。
だがそれ以上に顔つきを曇らせる光景が目の前にあった。
「うっふぇ……マジか……まだまだ時間が掛かりそうだ……」
まだまだ作業中の船の様子、それからその船に群がって作業をしている整備士達の様子を見て明が率直な感想を漏らす。
しかし時間を掛けている余裕は無い。作業を中断してでももうすぐに出港して貰わなければあのブラックドラゴンらしき黒い男からは逃れられないからだ。
その事を伝えにジョージアが整備士達に声を掛けに行くものの、1度始めた作業の規模が規模だけに材料を片付けたり、まだまだ作業が中途半端で出港出来るまでにそれなりの時間が掛かるらしいと言う事がジョージアの口から伝えられる。
「くっそ……これじゃあどうしようもねーじゃねーかよぉ!!」
「落ち着け……足止めしてくれているんだ。何とかなると信じるしか無いだろう」
頭を抱えてしゃがみ込む明に冷静な口調で周二がそう声を掛けるものの、セリフとは裏腹に珍しく焦り気味の表情をしているのは明らかだった。
『……まだまだ争いは続いているみたいだね……』
今は人間の姿であるものの、ドラゴンなので人間とは比べ物にならない程の聴力を持っているシュヴィリスが、遠くから聞こえる争いの音を確実にその耳でキャッチしてそう呟く。
このまま作業が終わる前にあの争いの源に追いつかれてしまったらジ・エンドである。
「周二の言う通り、今は信じるしか無い」
だから俺達も手伝えるだけの事をしよう、とジェイノリーが声をかけてトリップメンバー4名も船が1分でも1秒でも早く出港出来る様に片づけを手伝い始めた。




