第82話(マッハサイド):トオカッタはやっぱり遠かった
バサバサと再び翼をはためかせ、シュヴィリスは30ソアラをぶら下げて東へ向かって飛んで行く。
カイザスタンで情報収集していた周二が手に入れた地図を見て、トオカッタと書かれている場所を目指しているのだ。
「港町だっけか、トオカッタって」
周二に尋ねる明に対し、その周二は無言で頷く。
「ああ。詳しい地理とかは分からんが、中央大陸と呼ばれる場所に向かうのであればその港町でまた情報を集めてから船に乗ろう」
しかし、横でそのやりとりを聞いていたジェイノリーが会話に割り込んで来た。
「さっきから考えていたんだが、俺達はそのまま乗れば良いしシュヴィリスは人間の姿で乗船すれば良いとして……このぶら下げてる車はどうするんだ?」
「……問題はそこだろうな」
明も、それから周二も同じ事を懸念する。
明が最初にトリップしてしまった陽明国は明らかに江戸時代の風景をそっくりそのままこの世界に持って来た様な国だったし、一部分しか見ていないが城に落下したシュヴィリスと塔に向かったジェイノリーが滞在していたドゼウス王国も、車と言えば馬が引っ張る馬車位しか存在していない中世ヨーロッパ風の世界観と言える。
そしてジェイノリーが最初にとんでもない場所に現れてしまったザカタリスも同じく中世ヨーロッパ風の街並みを要していたし、さっきようやく脱出出来たカイザスタン……周二が最初にトリップした、武術大会が開かれていた国もまた同じ世界観である。
つまり自分達が居るこの世界では、中世ヨーロッパ位の時代考証をするべきだろうと地球人の3人は同じ様に頭の中に思い描く。
そこにさっきの翡翠とか言うドラゴンだったり、ザカタリスのカラやカイン、それから雪山で遭遇した精霊達の様な人外の存在が闊歩している「いかにもファンタジーです」と言うのがこの世界では常識らしい。
そんな場所に、現代の地球のテクノロジーである車を大っぴらに持ち込んだらそれだけでかなり目立ってしまう。
スマートフォンも既に存在がバレているし、明は陽明の高松から「科学テクノロジーに関する話を広めるととんでもない事になってしまう」と忠告まで受けている。
その「とんでもない事」が一体何なのかまでは分からないが、少なくとも無事に全員揃って地球に帰る事が難しくなってしまうと言うのは簡単にイメージ出来る。
「つまり、俺達はまだまだコソコソしてなきゃいけねえって事かよ……」
ドラゴンの上だと言うのに両腕を組んで、上手くバランスを取りつつ明が唸る。
「幾らカモフラージュしているからと言っても限界があるだろうし、乗船するに当たってこんなに大きな車を乗せて貰えるかどうかがまず分からん」
「重量オーバーで載せられない、等と言う事にならなければ良いがな」
周二の懸念にジェイノリーも同意したが、とにかくそのトオカッタと呼ばれる港町に着陸してみなければ事態がどう転がるか分からないのもまた事実である。
『この車重いから、その港町に着いたら僕はすぐに降りるよ。それから腹ごしらえもしたいしね』
ドラゴンもれっきとした生物なので、当然ではあるが人間と同じ様に腹立って空くし眠くもなる。
その食べる量と寝る時間が違うだけの話だが、これだけの重量物を携えて長い距離と時間を飛び続けるのは流石にシュヴィリスも堪えるらしい。
『そもそも僕、こんなに運動なんてしないしねぇ……』
「ああ、御前は絵を描いてる方が好きだもんな」
シュヴィリスのぼやきに反応した明がそう言うと、それに答えるかの様にシュヴィリスは尻尾をブンブンと空中で動かしてみる。
『そうだよ。全くもう……これがグラルバルトとかエルヴェダーとかだったらまた話は変わって来るんだろうけどねー』
今この場には……それ以前にあの洋子のクラブにも一緒に来ていなかった、黄色いドラゴンのグラルバルトと赤いドラゴンの名前を呟いてしんみりした空気になる、ヘルヴァナールの伝説の青いドラゴンであるシュヴィリス。
「地球に居る他のメンバー……俺達が居なくなったのをしているのだろうか?」
「そもそも地球に帰ったら浦島状態になってたりして?」
「それは勘弁して貰いたいな」
地球に戻ったら300年年月が過ぎていました……なんて事態も100パーセント考えられない訳では無い、と言うのが怖い所である。
「ウラシマタロウ? とは何だ?」
「あー、えっと日本の昔話として語り継がれてるんだけど……」
明と周二で浦島太郎のあらすじから結末までをジェイノリーに説明している間にも、3人を乗せてソアラをぶら下げたシュヴィリスは確実に港町トオカッタに向かって飛んで行く。
トオカッタはドルセニア海王国と呼ばれている、海に面した王国の港町だと言う話なので明と周二にとっては懐かしい感じもする。
何故なら明は宮城県の名取市出身、周二は山口県の工業都市である宇部市出身と言う、どちらも海に面した市の出身だからだ。
港町と言う事は魚料理が盛んなのかも知れないと考える3人は、期待と不安を胸にドラゴンの背中に乗ってトオカッタへと飛んで行くのだった。




