第78話(マッハサイド):痛み分け
そんな事を勝手に決められても、シュヴィリスだって痛いのは真面目に勘弁して欲しい。
『鱗は僕達ドラゴンにとっては大事な物なんだよ。駅前で配ってるポケットティッシュじゃ無いんだから、そんなに簡単にあげられる訳が無いって!!』
ブンブンと大きな首を横に振って拒否の意思を示すシュヴィリスだが、その時シュヴィリスの目の前で唸り声を上げていたドラゴンから声が聞こえて来た。
『僕達は窓の弁償だけして貰えればそれで良いんだけどさぁ、さっきからそっちの言い分は一体何な訳?』
『えっ、と言われても僕は事実を言ってるだけなんだよ。あの状況なら仕方無いでしょ!?』
「黙らないか、翡翠」
ドラゴン同士で会話を繰り広げているこの状況は、とりあえず地球では創作物の中でしか見られない光景である。
ロズバンと名乗った騎士団員は何とかこの翡翠と言う名前のグリーンのドラゴンを宥めようとしているのだが、今度ばかりはシュヴィリスの態度にうんざりしているらしいのでヒートアップが止まらない。
『わざとじゃなきゃ何しても良い訳じゃ無いでしょうが!』
『だ、か、ら、あの状況なら無理だって。不可抗力だよ不可抗力。文句だったら僕に言わないでさ、この世界に僕達を呼んだ存在に言ってくれないかな?』
しかし、そのシュヴィリスの苛立ち交じりのセリフにロズバンと翡翠の顔つきが目に見えて変わった。
「……この、世界?」
『どう言う事? この世界って……』
キョトンとする1人と1匹に対し、シュヴィリスはこの世界に来る前に六本木のクラブで起こった事の一部を話した。
『僕達、店でパーティやってたの。そしてその店を出ようとした時に何処からか『助けて……』って声が聞こえて来て、その後すぐに何か変な光に包まれてさ。で、こっちの3人は何処でどうしてたかって言うのは僕はそれぞれの口からしか聞いてないから知らないんだけど、僕はあの時ああやって空にいきなり出ちゃって、そのまま城に落ちた訳。無理じゃん、こんなの。どうやって回避しろって言うのさ?』
ちょっとずつ話題がずれているのが気になるが、それでもロズバンと翡翠は顔をお互いに見合わせる。
一方の地球人チームはその動向を黙って見守っているだけだった。
「その不思議な声に聞き覚えはあるか? 竜よ」
『ある訳無いじゃん』
ロズバンの質問に即座に返答するシュヴィリス。
「ではそちらの人間の方達は? まずは私と戦った貴方からだ」
「俺も無い」
「無いな」
「……」
明とジェイノリーは言葉で否定し、周二は黙ったまま首を横に振る事で否定の意を示す。
ロズバンも翡翠も、もしかしたらこの人間と竜は……と言う考えに達する。
『もしかして……君達って、違う世界からやって来たの?』
「うーん、どうもそうらしい。俺達も半信半疑だったんだが、やっぱりこう言う世界で色々な国があるってなると、こっちとしてもそう思わざるを得ないんだよな」
ジェイノリーが落ち着いた口調でそう言うと、そこに明が口を挟んで来た。
「それにさー、俺達それぞれ別の国に最初出ちゃったみたいで一体何でこんな事になったのかさっぱりなんだわ。あの助けてって言う変な声も全くあれ以来聞こえて来ないし、これからどうするか悩んでるんだよな」
本当は中央大陸に向かう予定があるのだが、ここはあえて行き先を言わない事にしておく明。
「……で、鱗を譲ればもう俺達を追わないつもりか?」
明のセリフが終わり、周二が淡々とした抑揚の無い口調でロズバンと翡翠にそう尋ねてみる。
「ああ。こちらとしては窓の弁償だけしてもらえればそれで十分だとは思っているのだが……」
「が?」
何だか歯切れの悪いロズバン。
何か不都合でもあるのか? とばかりに「が?」に力を込める周二に対し、翡翠がこんな事を言い出して来た。
『僕達の王様は竜の僕達に優しいからね。だから色々とおもてなしとかしてくれると思うよー』
「おもてなし、ねぇ……」
今までの事があるので、ドゼウスと言う国に対してもその説明だけからすると違う意味での「おもてなし」が待っているとしかイメージ出来ない3人。
それにシュヴィリスにとっても、やっぱり違う意味での「おもてなし」を初っ端に受けているのでその誘いには乗りたくないのが現状だった。
地球からやって来た3人はとにかく早くトオカッタに向かいたいので、ここはもうさっさと鱗を渡してくれる様にシュヴィリスに頼む。
「頼む、シュヴィリス。鱗渡せばそれで全て丸く収まるんだ」
『だからやだ。鱗だけにこれ以上僕の逆鱗に触れないでよね』
「面白くねーよ」
ジェイノリーの頼みに即座に拒否したシュヴィリスだが、不必要なギャグに明が即座に冷ややかな顔と声で突っ込みを入れる。
だが、そこで声を上げたのが周二だった。
「……確かにシュヴィリスの言う事も一理ある」
「えっ?」
「何言ってんだよ周二?」
キョトンとするジェイノリーと明だが、周二のセリフには続きがあった。
「だが、向こうの言い分も分かる。ここは痛み分けと言う事で勘弁して貰えないだろうか。俺達全員は自分たちの世界に帰りたい。これは同じ気持ちの筈だ。それにここで鱗を渡さなければ俺達はまたこのドゼウスの人間やドラゴンに追い回される事になる。このソアラをぶら下げたままじゃ絶対に逃げ切れないのはお前も分かっただろう、シュヴィリス。だからその苦労や危険性と言ったリスクを考えると、ここで鱗を渡して帰って貰った方が良いんじゃないのか?」
普段は非常に無口な周二のその長いセリフに、シュヴィリスはうっと言葉を詰まらせて溜息を吐いた。
『……もー、分かったよ。3枚までなら良いよ。それ以上は僕もあげられないからね!!』




