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第73話(マッハサイド):シュヴィリスの奪還作戦

 シュヴィリスはあの緑のドラゴンが潜んでいると思われる森の方角から竜の気配を感じていた為、そっち方面は避けて逆方面のもう1つの森の中に30ソアラを隠した。

【はぁ、全く……この国の連中は血の気が多いんじゃないの?】

 マーレイの屋敷に向かった時にカイザスタンの兵士達と出くわしてしまったが、ソアラをぶつけない様にぐわんっと大きく振り回すだけで退いてくれたので良かった。

 それでも兵士達がざわめいているのが見えたので、仕事熱心な一面が垣間見えたのは分かるのだがシュヴィリスにとっては不都合である。

【まぁ良いや。それじゃ明とジェイノリーと……周二も居るのかな。捕まっちゃったみたいだし……あーもう、めんどくさいなぁ!!】

 心の中で毒づいてみても状況を変えられる訳でも無い。

 みんな揃って元の世界に帰ると決めた以上、自分が動かなければこのカイザスタンから何時まで経っても逃れられない。


 だったらその捕らえられた方角をまず探るべきだと精神を集中させる。

【うーん、明の波動をあの門の向こう側から感じるね。あっちには何があるのかな?】

 マイセンの街の中を色々と見回っていた時の記憶をシュヴィリスは手繰り寄せ、そして1つの場所に辿り着く。

【確かあそこは……ああ、東の砦かなんかじゃ無かったかな?】

 となると高い所に閉じ込められている可能性も十分に高い。

 だけど自分が助けに行かなくて誰が助けに行くんだ? と言う妙な使命感が自分の心の中に生まれたシュヴィリスは、まずドラゴンの姿から人の姿になって30ソアラの車内をガサゴソと漁って「道具」を見つけ、それをポケットに突っ込む。

 それから意を決して、地球人達が囚われている場所に向かうべくマイセンの街の城壁へと向かう。


 しかしそのまま真正面から侵入する程頭を使わない訳では無い。

『戦いが苦手なら、その分頭脳で色々やれば良いじゃん』とは同じ7色のドラゴンの1匹であるアサドールのセリフだった。

 別にアサドールが言う程頭も良くないし、絵を描く位しか楽しみが無いけど……と思っているシュヴィリスだが、それでも精一杯の知恵を振り絞って地球人奪還作戦に突入する。

 ヘルヴァナールでも地球でも、そしてこの世界でも魔術が使えるのは大きなアドバンテージだ。

 だからその魔術を使ってまずは城壁を超える。

【あのドゼウスとか言う国から脱出する時に使った、あの魔術で……】

 本当であれば明の波動を感じる城壁側から回り込みたかったのだが、そっちの方にはドラゴンの気配も感じ取れる。

 魔術を使って城壁をよじ登っている間に襲撃でもされたら全て計画がパァになってしまうので、ここは遠回りをしてでも安全策を取るシュヴィリス。

 意外とこう言う時程、このドラゴンは慎重に行動するタイプだったりする。


 日本のことわざに「急がば回れ」と言うのがあると言う事を日本の生活で知ったので、そのことわざをその意味通りに実行する為に城壁に辿り着いたシュヴィリス。

 まず城壁を自分の魔術で凍らせる。と言っても一部分だけだ。

 あのドゼウスの時に使った魔術の応用で、氷のハシゴを作り出して城壁をよじ登れる様にする。

 それに時間が経てば氷も解けて地面に溶け落ち、そしてハシゴの形跡も無くなってしまうので場合によっては完全犯罪も可能だ。

 水系統の魔術を得意とするシュヴィリスだから出来る芸当である。

【ふぅ……何とかこれで良いかな】

 なかなかイメージ通りに作り上げるのは骨の折れる作業なので、あの時のドゼウスの自分を褒めてやりたい気持ちのシュヴィリス。

 もしかしたら今の様にある程度余裕があるかも知れない状況よりも、切羽詰まった状況の方が自分は力を発揮出来るのかも知れないと思ってしまった。


 そのハシゴで城壁を乗り越え、手近な場所にある4階建ての家……と言うよりもちょっとしたビルの様な建物の屋根へと飛び降りて夜の帝都をひた走るシュヴィリス。

 祭りの後で油断して警備を減らしたのかと思いきや、やはり自分がドラゴンの姿になったのが原因か今でも警備体制があちこちに敷かれている。

 それでも昼の人の多さと警備の多さよりは少ないので、裏路地を選んで緩慢な行動を避けていれば警備を潜り抜けるのはそれほど大した事でも無かったのが救いだった。

『あそこか……』

 裏路地の角から少し先に見える、明の気配を感じるその建物。

 明らかに堅牢な造りをしている砦なので、忍び込むには一苦労しそうだ。

 でもこっちには「道具」がある。地球人達を助け出す為の「道具」が。

 その道具をガサゴソとポケットから取り出して握りしめ、シュヴィリスはまず警備の隙を見計らって砦の中へと入り込む。

 人間の時のシュヴィリスは他の3人の地球人よりも体重が軽いので、足音もその分小さく出来るのがポイントだ。

 だけど本番はここからと言って良い。

 家に辿り着くまでが遠足であると言われる様に、砦に忍び込むだけで無く、地球人3人に出会うまででも無く、地球人3人と30ソアラと共にこのカイザスタンから無事に逃げ切るまでがこの奪還作戦だ。

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