第71話(マッハサイド):奪還作戦行動開始
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白騎士物語 Infiltration
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時刻は夕方から夜になろうかとしている頃。
周二は沈み行く夕日に照らされている東城塞支部を見上げ、行動を開始する。
(祭りもそろそろ終わる。つまり気を抜くなら今の時間だろうな)
夜になれば1日の纏めがどうのこうの……と言う事もあって、逆に「1日の最後だから気を抜かずに仕事をする!」と言う考えを持つ人間が多くなるのでは無いか? と推測している周二。
その前の今の時間帯であれば、祭りにやって来る人間と祭りを見終わって出て行く人間がばらけて来る時間帯でもあるので、気を引き締め直す前の俗に言う「たるんでいる」状態になる。
だから心理状況から考えて今がチャンスだ、と踏んだ周二は新たに帝都で情報収集をした結果を基に潜入出来ないかを考え始めた。
元々この東城塞支部は、普段は東外門の検閲と警護が担当業務になっている。
その一方で戦争等の争い事がある時には、兵士が多数詰める事の出来る小さな砦へ早変わりするシステム。まさに一石二鳥の場所だ。
警備隊が管理する支部で、内側に兵士の宿舎等の施設が立ち並んでいる。
だから「外」から来る敵の為に造られた城塞らしいが、それが「中」から攻め込まれるのなら果たしてどうなるのだろうか。
厳密に言えば「中」の人間では無い周二だが、その点には興味が無い訳では無かった。
(確か、外壁側への入り口は砦用と一般用の外門の2つだけだったな)
砦用の門から入り込まなければ北塔には辿り着けないだろう。
その為には見張りの兵士の目をどうにかして潜り抜けなければ行けない。
(くっそ……見張りの目はやっぱり厳しそうだ。他に何処か出入り出来そうな場所は……あれ?)
歯ぎしりをしながら周りを見渡してみると、北の塔からはどうやら兵士達の宿舎に渡り廊下で繋がっている様だ。
その隅の方なら何とか兵士に見つからずに裏手に回り込めると踏んだ周二は、大きな身体を小さく纏まらせた亀の子状態でなるべく足音を殺しながら素早く移動。
(ふぅ、この裏手は警備の人員も居ない様だな)
頭隠して尻隠さず……とはまた意味が違うが、人通りの多い表ばかりに注目して裏に割く人員を置いていないのは幸いだった。
だからその宿舎の裏に回り込み、丁度空いていた窓の1つから宿舎の中に入り込む。
ここからが正念場だ。
(人の気配はありありとするな……)
それでも自分は進まなければならない。
周二はその決意だけを胸にして、窓が開いていた部屋のドアからドアの先の様子を気配と耳で伺う。
(先の様子が分からない以上、慎重に慎重を重ねて進むしか無いな)
もはや重複祭りだが、今はそんな重複の状況に構っている場合でも無さそうだ。
ただでさえ心が「重い」状況なのに。
それでも兵士の宿舎だからか、重要拠点では無い以上見張りの兵士が至る所の扉の前にそれぞれ立っている……と言う状況では無いらしい。
もしくは祭りの警備関係で人が出払っているのだろうか。
それならそれで有り難いので、周二は素早く移動をして宿舎の内部を進んで行く。
(さっき外から見た限りだと、方角的にはこっちの方に渡り廊下がある気がするんだが……)
城塞と言えども広さ的にはそこまで広くない。建物自体はそこそこ大きいものの、建物の数が少ないのでその分横のスペースは小さく出来る。
やはり敷地を余り大きくしてしまうと、出入りするだけでも相当な時間が掛かるからだろう。
問題は広さを稼ぐ為に縦のスペースがそこそこある事だ。
縦のスペースがある分、余計に横のスペースが節約出来るので東城塞支部は小さめに見える。
だから縦のスペースを考えてみると、渡り廊下で繋がっているのはどうやら2階部分らしい。
壁伝いに曲がり角を曲がる度に先の気配を伺い、兵士の足音が聞こえて来たらすぐに違うルートを探して宿舎内部を進む周二。
そして……。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
息切れしているのは体力的なものでは無く、精神的な疲労によるものだ。
精神的な疲労で息切れを起こすのも珍しいなーと心の中で思いつつも、ようやく渡り廊下に辿り着いた周二は周りに人の気配が無い事を確認してその渡り廊下を早足で駆け抜ける。
空を見上げてみれば既に薄暗くなって来ているので、結構な時間をその宿舎の中で走り回っていた様だった。
後はこの先の北の塔まで向かい、ここからどうにかして自分がジェイノリーと明の居場所を突き止めて助け出す事……だと思っていたその矢先。
「……!?」
強い視線を感じて思わず周二は足を止める。
それもただの視線では無く、こちらを憎むかの様な寒気のする視線。
この視線はもしや……と思って360度周囲を見渡してみるが、視線の主は何処にも居ない。
(何だこの感じは……)
しかし、その視線は前に何処かで感じた事がある様な種類の視線でもあると周二は本能的に確信した。
(色々と不協和音がここにもあるみたいだな)
だったら急ぐだけだ、と周二は再び足を動かして渡り廊下を駆け抜け始める。
そんな自分を城壁の上から見つめる、首に緑色の文様が浮かんでいるローブ姿の男には気付かぬままに……。




