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第69話(水都氏サイド):謎の勢力

 国の中心地でもある帝都を守る外壁は厚く、見上げるほどの高さで街の周囲をぐるりと覆っていた。

 帝都の東側外壁に沿って建つその石造りの砦は、東の外門を警備する兵士たちの詰所でもある。


 騎馬に先行させて馬車は門から脇にそれた、堅牢な塔の前でゆっくりと停車した。


 ガタガタと馬車の振動に身を任せていたジェイノリーはふいに馬車が停車したことに気づき顔を上げる。

 車内に座していたカールは体をほぐすようにゆっくりと首を回していた。


 そうしてすぐに馬車の外から、足早に駆け寄ってくる靴音と声が聞こえてくる。


「閣下」


 扉の向こうから聞こえる声に、シュナイダーは身を乗り出すと扉を開いた。

 外で待ち構えていた豊かな髭を蓄えた砦の責任者であるバルナバが深々と頭を下げる。


「お待ち申しておりました」


 バルナバの言葉に頷きを軽く返し、カールは腰を上げながら言葉を繰り出す。


「おう。警備について話がある。担当者を集めてくれ」

「っは。会議所をご用意しております」


 馬車を降り、歩き始めたカールに付き従いながら素早く言葉を返すバルナバは、傍らで待機する兵士に向けて小さく首を振る。


 素早く馬車に乗り込み、拘束されていたジェイノリーを引き摺り下ろした兵士達にカールはちらと視線を向けて、付き従うバルナバへ向け「どこに収容する予定だ?」と尋ねた。


「ヘインズ様より連絡をうけ、彼奴らの収容は北塔を用意してあります」

「…そうか。ならば襲撃されても街に被害は出ないな」


 明朗に答える男の言葉に鷹揚に頷き、カールは前を向くと外壁沿いに建てられた館へと歩み始めた。





 ◇





 目深くフードを引きおろし、酒場の壁に背を預けて座り込む男がいた。


 ちらとわずかに顔を上げた男の視線の先には、立ち並ぶ家々の屋根から覗く鋭くとがった尖塔がある。


 マイセンの街、東部。

 東外門前の大通りでは、街を出る者と外からやってきた者が交差してたいそうな賑わいを見せていた。


 異国情緒にあふれるその喧騒を聞きながら、周二は何かを考え込むかのようにじっと黙したまま。

 そんな彼の傍らに、どさりと重い音を立てて荷が降ってきた。


 顔を向ければ、そこには周二にとっては見慣れた日本人風の顔立ちをした男が立っている。

 周二を追っていた兵士達とかわしていた片言の会話を思い起こす。

 黒い髪に黒い瞳を持つ人物を他に見たことはないが、周二が知らないだけでこの世界にはそういった色を持つ国があるのだろう。


 この外壁まで周二を匿ってくれた異国の男は、そうしてなめらかな言葉で言った。


「…本当にここでいいのだな」


 確認するかのような言葉に、周二は無言で頷く。

 他の仲間達が街の外へ出ていないことは、この異国の男達の聞き込みからわかっていた。


 先ほど護送の馬車が通ったという話もあり、連行されたのならばこの東外門の砦だろうというのが彼らの見解だ。

 その言葉を周二はすんなりと納得していた。

 彼らが周二を欺く利点などはないのだ。

 どうして自分を助けてくれたのかも謎ではあるが、その疑問に答えてくれる気はないらしい。


 それでも手助けをしてもらって感謝の念を抱いている周二は、小さく男に向かって礼を言った。


「まあ、がんばれよ。これは餞別だ」


 周二の傍らに落とした麻の布袋を指さして、男はくるりと背を向けた。


 重量のある音と大きさの袋を確認し、周二は男の背に再度「…感謝する」と呟いた。

 男は足を止め、わずかに顔を振り向かせた。


「…いや。お前らも”元の世界”に戻れるといいな」

「…っ?!待て…!!」


 歩き始めた男の言葉に、周二は素早く立ち上がり駆けだす。

 男とはそれほど言葉を交わしたわけではない。

 互いの名すら明かしていないのだ。

 それなのに、周二達が”違う世界”から来たと、何故彼らは知りえているのか。

 狭い路地を抜けた男に追いつこうと、周二は地を蹴り通りに出た。


「!」


 大通りに飛び出した周二は慌てて周囲を見渡すが、そこにはあの特徴的な黒髪の男の姿はどこにもない。


 人々のにぎやかな喧騒があふれる街の中で、周二は一人立ち尽くしていた。


「…何がどうなっているんだ」


 まるで狐に化かされたような思いだ。


 がりっと頭をかきむしり、周二は眉根を寄せると大きく息を吐き出した。

 ずれたフードをかぶり直し、先ほどまで座り込んでいた酒場の壁へと戻ってくる。


 男がおいていった袋を開くと、中を覗き込んだ周二の顔はいっそうしかめられた。


「…日持ちのしそうな食糧に、これはマントか…?っふん、ご丁寧に、旅支度を整えてくれたというわけか…」


 通りで袋がかさばるわけだ。

 二人分の旅装と、しばらく持ちそうな食糧。

 自分はすでに男が用意していた旅装に着替えている。


「こっちの人数も把握済みかよ」


 薄気味悪い思いに舌打ちを一つ落とし、そうして周二はその袋を肩に担ぎあげた。

 そして気付く。


「…シュヴィリスの分がない」


 しばし足を止めるが、まあシュヴィリスだし何とかなるだろう。

 まあ、いいかと判断して周二はゆっくりと大通りへ向かい歩き始めた。


 街を出る為にも、まずは囚われた明とジェイノリーを救出しなければならない。

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