第68話(マッハサイド):動くドラゴンと二つの馬車
謎の馬車が周二を乗せて東門から出ようとしているその頃、この世界で生まれた存在では無い青いドラゴンのシュヴィリスは、再びマーレイの屋敷へと戻って来ていた。
屋敷に残したままの30ソアラを回収しなければならない。
結局この国では周二に再会出来た事以外で何も得るものは無く、それどころか大騒ぎになってしまっている状況をドラゴンである自分が作り出してしまったのでさっさとこの国からの脱出を図る。
今まで屋敷の中で感じていた複数人の気配が無い所を見ると、どうやら地球からやって来た人間3人を追い掛け回す為に出払ってしまった様である。
それならそれで逆に好都合な展開なので、輸送する為に謎の材質のロープでグルグル巻き、もとい確実に準備された30ソアラを再び持ち上げる。
『ググッ……あー、やっぱり重いんだよこれは……』
何時か再会出来たら絶対、ソアラの更なる軽量化を兼山に頼んでやる、とシュヴィリスはこの時に決心しながら大空に翼を動かして飛び立つ。
シュヴィリスはドラゴンなので街中を突っ切る訳には行かず、とにかく少しだけ回り込むルートで東門方面に向かった。
周二から話を聞いていた限りでは、確かトオカッタとか言う変な名前の国もこのカイザスタンから東にあった筈なのでそっちを目指すのは当たり前と言えば当たり前である。
だからソアラを貴族街の屋敷の屋根だったり、城壁に設置されている監視用の出っ張りみたいな塔にぶつけたりしない様に高く飛び上がる。
ソアラの重さが文字通り足を引っ張ってしまうが、目立たない様に脱出する効果もあるので自分の出来る限り高い場所まで飛び上がったシュヴィリスは、今度はそのままソアラを落とさない様に翼を動かしてカイザスタン上空から脱出するのだった。
ジェイノリーはカイザスタン帝国騎士団と警備隊の連合軍に捕まってしまった。
そしてあの3人組のリーダー格であるワカメみたいな赤いヘアースタイルのカールと言う男……何と帝国騎士団と警備隊を纏める大将軍だったらしい彼が直々に、カイザスタンの誇る大きな城であるガルデバラ城に移送する事になった。
(これから俺、どうなるんだろうか?)
心の中で尋ねても答えは返って来ない。
護送用の馬車の中にはジェイノリーだけでは無く、見張りとしてそのカールとその側近2人組のロックヒルが乗っているし、ジェイノリーが手技と足技の格闘戦を得意としている事も十分に3人組にもニルラインとヘインズの双璧の将軍にも知られているので、手足に手かせと足かせをそれぞれはめられて更にその2つを鎖で連結すると言う徹底ぶりだ。
本当はカールは城で今回の事件について報告するつもりだったのだが、自分が負けた相手と言う事もあって自分が直々に護送を担当したい気持ちが強くなり、そうさせて欲しいと申し出た位なのだから。
(この展開、まさにデジャヴだ……)
ザカタリスではロープでグルグル巻きにされてミノムシ状態で運ばれた思い出があったが、ここでは冷たい手かせと足かせで固定されると言う屈辱的な運ばれ方である。
「……なぁ、せめてもう少しこの固定の仕方は何とかならないのか? 大将軍」
馬車の外にも警備隊と騎士団の人員を配置して、まるで見世物の様に扱われるかの如くゆっくりと進む馬車の中でジェイノリーはそう口を開く。
「逃げようと思っても逃げられないのだから、ここまでする必要は……」
「無礼者!!」
そこまで言いかけたジェイノリーの首筋に、鋭い声と同時に短剣の刃が突き付けられる。
その一連の動作をしたのは、ジェイノリーの隣に座っている銀髪のカールの副官シュナイダーだった。
「このお方は、本来であれば貴様がそう気安く話し掛ける事も出来ない様なお方なのだぞ。少しは自分の立場と言うものを考えたらどうだ?」
「十分そんな事は分かってる。この状況だから逃げられるものも逃げられないだろう。しかしこの体勢は辛いんだよ俺も。だから本当にどうにかしてくれないか」
シュナイダーのセリフにも冷静に淡々と返答するジェイノリーに対し、カール本人が今度は口を開いた。
「剣を下ろせ、シュナイダー」
「しかし閣下……」
「俺が良いっつってんだから良いんだよ」
自分の上官の命令に、しぶしぶ短剣を下ろして鞘にシュナイダーは収める。
それを見てカールは再度口を開いた。
「悪いけどお前の要望は聞き入れられないな。これから色々尋問させて貰わなきゃならないから、逃がす訳にはいかねーんだよこっちも」
そこまでカールがジェイノリーに言った時、馬車がガクンと揺れて止まる。
「……何だ?」
ロックヒルがその異常事態に外を窺おうとしたが、それよりも早く馬車のドアがガンガンとノックされる。
ドアの窓から外に見えたのは、ヒゲ面の騎士が馬車のドアをノックしている姿だった。
「ザッヘル、どうした?」
「カール大将軍閣下に、ニルライン様より伝言があります!」
ザッヘルと呼ばれたその騎士団員がカールに何かを耳打ちすると、カールの顔色が変わったのがジェイノリーにも見て取れた。
「本当か!?」
「はい。なので至急東の城塞支部まで護送する様にと!!」
「……分かった。そう言う事だからお前の行き先は変更させて貰うぜ」
そう言われても何処に連れて行かれるのか、ジェイノリーにはさっぱり分からない。
「もう何処にでも連れて行ってくれ……」
それだけ言い残し、ジェイノリーは疲れた身体を休める為にこの状況で眠りに就くのだった。




