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第2話(水都氏サイド):降ってきた青い男の正体

 空から降って来て、その上床を粉砕した挙句に無傷で立ち上がった男。

 はたしてこれが普通の人間であろうか。


 見慣れない出で立ちの男を眼下に見下ろして、ライゼンはその秀麗な眉をしかめた。


 この気配は、邪悪な者ではなさそうだ。

 では何者なのか。


 明らかな人外らしき存在を前に、男を取り囲む騎士たちの包囲が狭まる。


「…我が国に何の用だ」

『んんー、特に用があるわけじゃあないんだけどねー』


 男はこれだけの騎士に囲まれていながらも怯んだ様子がない。


 不確かな男の言動に、仕方がないとライゼンは口を開いた。


「ここはドゼウス王国の王都、クーリアだ」

『ドゼウス…?聞いたことないな』


 シュヴィリスが怪訝そうに顔をしかめる。

 シュヴィリスには国名も、そして街の名前も全く覚えがないものだった。

 これは困ったと内心ひそかに唸っていると、王様らしき人物がなおも言葉を放ってくる。


「侵入者でないというのならば別室で話を伺おう」

『えー、何で僕が君たちの言うこと聞かないといけないわけ?指図しないでよね』


 むっとしてそう言い返せば、周囲がにわかに殺気だった。

 面倒事の予感にシュヴィリスはため息を零す。


 ライゼンはちらりと室内の騎士たちを目を向けた。


「マルス!ゴトー!」


 騎士たちの中でも抜きんだって力を持つ二人の名を呼ぶ。

 すぐさま輪の中から、体格のいい騎士が一人と細身の騎士が進み出る。


「おう、お前さん、ちょっくら牢屋まで付き合ってくれねえかな?何、大人しくしてくれたら悪いようにはしないからよ」


 そう気楽にいうも、男は手にした剣を抜き放ち油断なく構えている。

 その頬には竜の形をした赤い紋様がある。

 ゴトーは赤竜と契約を交わした騎士なのだ。竜の力を借り受けて、その能力は人外とも渡り合えるほど。


 剣を向けられたシュヴィリスは嘆いた。

 これでは話を聞くことも難しい。

 それもそうだろう。

 よくよく考えてみれば、武器を手にした人外が王様と思わしき人物の目の前に降ってきた。

 警戒するなという方が無理なのかもしれない。

 それでも、意図してこの場所に落ちたわけではないシュヴィリスには納得は出来かねる。


『えー何それ横暴!僕は何もしてないのに、いきなり牢屋とかありえなくない?勘弁してよね、ほんと』


 そのそばに立つ騎士もまた、黄竜と契約を交わした竜騎士であった。

 風の騎士の異名を持つマルスはレイピアのように細身の剣を抜き放ち、涼しげな顔でシュヴィリスを見やっている。


 その眉が何かを見咎めたようにかすかにしかめられた。


「……まさか、これは」


 マルスと呼ばれた男が言い切る間もなく、ゴトーが一気にシュヴィリスに躍りかかった。


「大人しく捕まれっ!」

『こんのぉおおおおお!!!』


 シュヴィリスは仕方ないとばかりに手にした長柄のバトルアックスを振るった。

 振り下ろされた剣戟を下から振り上げて弾き返す。


 人間にしてはなかなかの力だが、竜である身のシュヴィリスにとっては苦はない。

 ブォンと風をきり斧が舞う。

 ゴトーは驚いたように目を見開いた。


「うわっ!」


 大柄な体格のゴトーが、軽い子猫のように斧の一撃で浮かび上がる。

 そのままなす術もなく吹き飛ばされるように吹っ飛んでいく姿に、周囲を囲む他の騎士たちが怯んだ。


「…なんという馬鹿力だ!!奴はオーガか何かか?!」


 壇上から王を護っていたロズバンが、飛ばされてゆくゴトーを見て舌打ちした。

 あのゴトーで駄目なら、ただの人である他の騎士たちに勝ち目はない。


『うおりゃあああああああ!!!』


 シュヴィリスと名乗る不審者はゴトーを吹き飛ばしただけでは飽き足らず、なおもブンブンと武器を振り回していた。

 そして、取り落した。


『あ』

「避けろぉおおおおお!!!」


 回していた勢いのまま飛来したロングアックスを避けるために、騎士たちが全力で回避を試みる。

 あの力のままに飛んできた斧の刃にぶち当たれば、鎧があるとはいえどうなることか。


 慌てて飛びのいて人が避けたその場所に、ドスゥウウウン!と床を突き破り斧が突き立った。


『ご、ごめんね?悪気はなかったんだよ?ほら、君たちもそんなところに突っ立ってるのが悪いって言うかさぁ…』


 焦ったようにそう漏らすシュヴィリスを、周囲の騎士たちは恐ろしいものを見る眼差しで見つめる。


 力はあるが扱いは不得手なのだろう。

 こんな男に、刃物を持たせておくのは恐ろしい。


「あまり武芸に秀でているわけでは無さそうだ。太刀筋が単調すぎる」


 男の行動をじっくりと観察して、ロズバンは呟いた。


「っつー、いてて…」


 視界の隅では壁に打ち付けられたゴトーが立ち上がるところだ。

 あの男も大概頑丈に出来ている。


「この野郎!よくもやりやがったな!」


 再び剣を構えて突進してきたゴトーに向け、鋭い声が飛んだ。


「気を付けろゴトー!!奴は竜だ!!!」

「っはぁああああああ?!」

『お?正解だよ!それ、ご褒美だ!』


 マルスが叫んだ直後、楽しげな男の声が聞こえたと思うと瞬く間に何も見えないほどの濃霧が現れる。


「水蒸気…霧か!」


 ちっと舌打ちをして、マルスはありったけの魔力を乗せて腕を振るった。


「”風よ、風よ!走りて吹き払え!”」

『うわわ…!』


 ごうっと何処からともなく吹き込んできた風が、唯一外と繋がる天窓へと抜けてゆく。

 慌てたようなシュヴィリスの声が聞こえてくる。

 けれども霧が晴れた時、男の姿は何処にもなくなっていた。


「一体何処へ…?!」


 騒然となるその場で、ただ一人玉座の前に立つ王だけはその視線をまっすぐ頭上へ向けていた。


「……逃げられたか」

「何と…!氷の足場?!」


 空の見える天窓からは、きらきらと輝く氷の粒が降り注ぐ。

 床の上に散らばる氷の砕けた後は、男の作り出した足場の残骸か。


 慌てて頭上へ目を向けた騎士たちが目にしたのは、「よいせっと」と声を出し足をかけて天窓から屋根へよじ登る男の姿だった。


「っくそ!待ちやがれ!不審者ぁああああ!!!」


 大声をあげて怒鳴りつけるゴトーに、屋根までよじ登ったシュヴィリスはふんっと鼻で笑い飛ばしてひらりと片手を振るった。


『やだねぇ、これだから脳筋は。待てと言われて待つ馬鹿はいないでしょー』


 遥か眼下では、ゴトーが悔しそうに地団駄を踏んでいる。


 シュヴィリスは視線を動かし前を向いた。

 目の前に広がる広大な街並みは、どこか古臭く見慣れた六本木の面影は何処にもない。


 通りをのんびりとゆく馬車を見止めて、シュヴィリスは呟いた。


『…いったい何処なんだろうね、ここは』

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