第1話(マッハサイド):急転直下(違う?)
ドガシャバリーン、ガランガラン!! ガッシャーーーーン!!
自分の耳をつんざく音が響き渡ると同時に、人間の姿となっているその身体にも大きな衝撃が伝わる。
突然の出来事に唖然としていたシュヴィリスは、思わず目を覆ってしまう程の強さで発光する虹色の光に包まれて六本木のクラブから姿を消した。
そして、そんな耳障りな大音量の衝撃と自分の身体に伝わって来る痛みで目を覚ました時には……もう全てが遅かった。
『あてて……あっ……あ……何なのよ……うぐぅ……ってあれ? あ、あれ……何この空気……ってか、ここ何処?』
もうもうと立ち上る土煙と、そこ等中一帯に飛び散るガラスの破片。
それを何処からか吹いて来た風が一掃して、シュヴィリスの目に映る視界がクリアになって来た。
だが、そのクリアになって行く視界の先に待ち受けていたものは、自分に向かってロングソードと言うロングソードを構えている大勢の武装した人間達であるとシュヴィリスは理解するのに少しだけ時間が掛かった。
その大勢の武装集団……恰好からして騎士団だろうか? の一角がすっと開いたかと思うと、そこから金髪の男が姿を現す。
恰好が明らかに1人だけ違う……いや、良く見てみればその隣には銀髪の細身の男と茶髪のこれまた細身ではあるが武装している男が控えつつシュヴィリスの元に歩いて来た。
でも、その纏っているオーラは明らかに人間の「それ」では無い事にシュヴィリスも気が付いた。
【あれ……この男……それから茶髪の男も何か……何か違う?】
シュヴィリスはヘルヴァナールの7匹のドラゴンの中ではまだまだ若手の部類に入る立ち位置だ。
しかし、若手と言ってもその実はれっきとしたドラゴン。魔術だって使える。
水系統の魔術を専門としており、雨を降らせる事が出来たり鉄砲水を撃ち出したりする事が出来るのだ。
人間の姿になった時には魔術も使うのだが、それ以外にも自分の愛用している長い柄の両手斧を駆使する斧使いでもある。
ただし、他のドラゴンと明らかに違う所は彼が引きこもり体質だと言う事であった。
【もう……せっかく良い画材を新宿で手に入れたと思ったのに……ん、えっ、あれっ!?】
思わず自分の落下地点をキョロキョロと見渡し、六本木の時には銃刀法違反で捕まるからと持って来ていなかった筈の自分愛用のロングバトルアックスが何故か自分のそばに落ちている事に気が付いたシュヴィリスはひとまずそれを回収する。
だけど、せっかく新宿で手に入れた画材の詰まっているビニール袋が見当たらない。
しかも、そのビニール袋の中にはヘルヴァナールで愛用していた自分の大切な絵筆も入っているのだ。
人間の姿でヘルヴァナールで行動する時のシュヴィリスは、ドラゴンだとバレると色々とまずい事もあるのでフリーの画家と言う名目で人間社会に馴染む様に心掛けていた。
しかし、どちらかと言えばそのインドアな職業から部屋の中に引きこもって何時間でも連続で絵画やイラストを描き続けているので、他のドラゴンと比べれば戦う事に関しては余り慣れていないと言うのが実情だった。
でも、クラブを出る時に手に持っていた筈の画材入りのビニール袋が無くなっているなら話はまた別である。
【でもなぁ……この流れ、多分僕を無事に逃がしてはくれないだろうなぁ】
何と無くそんな感じの空気である事を察したシュヴィリスは、目の前に歩み寄って来た金髪の男含む3人の人間に対して口を開いた。
『あー、えー、ええと、その、ガラス代弁償するべきなのかな。だったらゴメン、僕ね、今画材買いまくってお金あんまり持ってないんだよ。それとも……僕を実験材料にでもするつもりかな?』
前にアメリカで実験材料にされそうになった経緯があり、その時はすったもんだの追いかけっこの末に現地の人間と話をした上で、しっかりとした検査をして貰ってから「正体を大っぴらにしない」と言う条件を双方合意で約束してから地球に滞在する事を許されているドラゴン達。
ヘルヴァナールにもまだ帰る事が出来ないのに、いきなり謎の光に包まれて物凄い衝撃を身体に受けて目が覚めただけで無く、辺りを見渡してみたらこんな所でこうして武器を向けられている。
そんな状況に陥っているだけでも、非常に今のシュヴィリスにとっては不愉快なのである。
その不愉快なオーラを全開にして、愛用の斧をゆっくりと構えるシュヴィリスに対してようやく目の前の金髪の男が口を開いた。
「貴様、何者だ」
普通の人間であればその声だけでぞくりと全身が粟立つ筈なのだが、シュヴィリスはあいにく人間では無い。
引きこもりの自分にも分かる位の明らかな敵意を目の前の男……いや、この大きな広間らしき場所に居る全員から向けられていると感じたシュヴィリスは、いざとなれば自分がドラゴンになって逃げ出す事も考えつつその回答を始めた。
『僕はシュヴィリス。しがないフリーの画家だよ。で、この状況をしっかり説明してくれないと困るんだよねぇ? 何が何だか訳分からないんだからさぁ?』
その瞬間、自分に向けられる敵意が更にアップしたのをシュヴィリスは肌で感じ取った。