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第53話(水都氏サイド):次の目的地と修羅場の始まり

 遠藤真由美に電話をかけてみた明は、彼女が他にあるという大陸にいるという以外にめぼしい情報も得られずに嘆息した。

 聞いたことがない国名、『グランスキャート』とは一体どこにあるというのか。

 無事に仲間が全員そろうことは出来るのかと先行きが不安にもなる。


「あー…、真由美は何でもグランスキャート?とかいう国にいて、この大陸にはいねぇみたいだわ」


 困ったようにそう告げる明に、同じく通話を終えたジェイノリーが小さく頷く。


 彼の方は宝坂令次と話した結果、明よりも詳しい情報を仕入れることに成功している。


「令次の方は西にあるホーエルン諸島にいるようだ。中央大陸に何か手がかりになるようなものがあると言っていたが…」


 そう言って残る周二へと視線を向ける。

 ジェイノリーの視線を受けて、周二も携帯をしまいながら口を開いた。


「…兼山も中央の島に来いと言っていた。あいつは今、ベスタ帝国とやらで楽しくやっているようだ」

「楽しく?何だか羨ましいぜ。俺もゆっくり異世界を楽しみたいんだけどなぁ」


 陽明国に落ちてきてから、何かしらと騒動に巻き込まれゆっくりする暇もなかった明はそう言って大きく息を吐き出した。

 その思いはジェイノリーも同じであり、消沈する明を横目に苦笑を零す。


「ともかく、現在地が世界の北ということがわかっただけでも良かった。中央大陸へ向かうには、南を目指せばいいわけだ」

「…海を渡る必要があるな」


 周二の言葉に、明も顔を上げると相槌を返した。


「いざとなりゃ、シュヴィリスに乗せてってもらえばいいしな!」

『うげ。また僕が運ぶわけぇ?ただでさえでかい荷物があるんだから、勘弁してよね』


 顔をしかめてそう漏らすシュヴィリスに、明は笑顔で「頼むって!」と両手を合わせている。


「…中央大陸までの距離もわからないんだ。海の上では休む場所もない。さすがの竜でも危険だな」


 冷静にそう進言するジェイノリーに、明とシュヴィリスはそろって「ああ!」と思い出したように声を上げた。

 鉄の塊をぶら下げていくには、危険が過ぎるというものだ。


 ジェイノリーの言葉に、周二もそれならばと難しそうな顔で口を開いた。


「何処かから船に乗らないといけないだろうな。この辺りで一番の港町が、東南にあると冒険者たちが話しているのを聞いたことがある。確か名は…”トオカッタ”」

「…遠かった?」

「…”トオカッタ”だ」

「…遠いのか?」

「まあ、近くはないだろう」


 仏頂面でそういい切った周二に、明はふうんと頷きを返す。


「変な名前だな」

「まあ、異世界だしな」


 ばっさりとその一言ですべてを片付けて、周二はジェイノリーへと向き合った。


「トオカッタはドルセニアっていう国にある。この大陸で一番でかい国らしいぞ」

「それならば、中央行きの船も間違いなく出ているだろうな」


 ジェイノリーの言葉に、三人と一頭の行先は決まった。


「よし、それじゃあそのトオカッタやらに向けていざ、しゅっぱ…」

「そこで何をしているっ!!」


 拳を抱え上げ、高らかに宣言しようとする明の言葉を遮る声が路地裏に響き渡る。

 咎めるような口調に、明は恐る恐る声のした方へと目を向けた。


 通りから姿を見せているのは、五人ほどの兵士達だ。

 街の警備だろうか、あちこちでみかけていた姿に明は困ったように他の二人へと目を向ける。


「ど、どうする…?」

「これは…」

「そうだな」


 そっと気取られぬように周囲を伺ったシュヴィリスがダメ押しのように囁いた。


『…ここへ向かって人が集まってきてるみたいだね』


 ジェイノリーは深くため息をついた。

 ようやく合流の目途も立ってきたというのに、こんなところで足止めを食らうわけにはいかない。


「何をこそこそとしているっ!お前たち、身分証は?!」


 ざっと兵士たちが路地裏へと足を踏み入れる。


 ジェイノリーは素早く二人へと視線を合わせた。


「…逃げるか」

『…彼らからは”敵意”が感じられるし、それがいいだろうね』

「うへ、ここでもかよ…」

「…お前たち、何をやらかしてきたんだ」


 がっくりとうなだれる明に、迷うことなく逃げることを選択するジェイノリー。

 不穏なことを言い出すシュヴィリスを見つめる周二の顔はひきつっていた。


「誤解すんなっ!俺は!何もやってねぇっ!」


 そんな周二にうがあっと声を荒げた明に、兵士たちが敏感に反応して剣を抜き放つ。


「動くなっ!怪しい奴らめ、詳しくは詰め所で話を聞こう!」


 殺気に満ちたその場で、ジェイノリーは明を見つめた。


「明…」

「う…その、すまん…」


 ふうっと大きく息を吐き出して、ジェイノリーはシュヴィリスを見やった。


「頼めるか?」

『仕方ないね』


 肩を竦めて、シュヴィリスはそう漏らす。

 そうして正確にジェイノリーの思惑をくみ取った彼は、ふわりと片手を振るった。


 途端、視界を遮るほどの濃密な霧が狭い路地裏にあふれかえる。


「うわっ!なんだこれは!!」

「く、前が…がはっ!」

「だ、だいじょ…っぶ!」


 そうして霧が晴れたその場には、昏倒させられた兵士達だけが残されていた。

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