第48話(マッハサイド):トイレで食事の話は厳禁です
周二は控え室には戻らず、先にトイレに向かう。
これから先でどんな相手が待っているのだろうかと考えるよりも先に情報収集が必要なので、誰か情報提供をしてくれる人間が居るかどうかを見に来たのだが……。
(選手以外は入れないみたいだな)
目当ての情報収集はどうしよう……と考えていると、自分が用を足している横に誰かが入って来た。
一緒に並んで用を足す周二がふと横を見れば、そこにはひょろっとした細身で背の高い男が立っている。
髪の毛は緑で腰に届く位にかなり長い。
この男も参加してたのかと思いつつ、周二は用を足してその男の後ろを通り抜けようとした……とその時。
『ねぇ、君って噂になってる武器を使わずに戦ってる人間だよね?』
「……そうだが」
他人との無駄な馴れ合いを嫌う周二だが、情報収集が目的でもあるので適当に返事をとりあえず返しておく。
『さっきの試合は結構凄かったらしいね。僕は見る事が出来てなかったから分からないけどさ。でも、武器も持たずにここまで勝ち上がって来られたんだ? 凄いね』
「……何が言いたい?」
生産性の無い会話に興味の無い周二は、さっさと自分から情報収集をしたいと思いつつ男の話が終わるのを待つ。
……が。
ぐぎゅるぅうううううう~~~……。
トイレで盛大に腹の虫。こんなにも場所とシチュエーションのミスマッチがあって良いものだろうか。
『ねぇ、何か食べる物持ってないかな?』
「トイレで食べ物の話はするな。だったら何か買ってくれば良いだろう」
これ以上は付き合ってられない様な気もしたが、情報収集の為に我慢して……と思う周二が更にテンションを下げる原因になる一言を目の前の男は発する。
『僕、お金あんまり持ってないんだよね』
「おごらないぞ。そもそも俺も金が無い」
無駄に爽やかに言われても、自分にも金が無いのだからどうしようも無い。
『じゃあ何か食べに行こっか?』
「人の話を聞いていたのかあんたは。と言うかあんたもこの大会に参加しているんだろう?」
『そうだけどお腹が空いたんだよー。遠くドゼウスからやって来たから疲れたよー』
そう言われても……と思ったが、何だか聞いた事の無い地名が出て来た。
この男は冒険者なのだろうか? それにしては軽装だ。
「ドゼウス……じゃあ、こっちからも頼みがある。そのドゼウスって言う所はどんな特徴があるんだ?」
少しでも情報収集出来ればと思ったのだが、この後に周二は思いもよらない情報を手に入れてしまう!!
『んー? ドゼウスは僕の住んでる国だよ。竜の王国さ。名前の通り竜に守られている国でね。この国とはいざこざがあったんだよ。でも最近、もっともっと大きないざこざがあってね』
「いざこざか」
『うん。いきなり空から城に落っこちて来た青い人間が、竜の姿になって何処かへ飛んで行ってしまったんだよ。どうもこの大陸に生息している竜じゃ無いらしいんだよねー』
「……え?」
自分は今とんでもない事を聞いた気がする。
青い人間? 竜の姿?
何だか物凄く心臓がドックンドックン鼓動しているのを感じつつ、あくまで冷静な口調で周二は続ける。
「何か大事になっているみたいだが……もう少し詳しく聞かせてくれないか?」
だけど目の前の男は首を横に振った。
『うーん、これ以上の事は実は僕も知らないんだ。ごめんね。ただまぁ、色々と面倒な事になっているらしいよ』
「そうか……」
そこから先が大事なんじゃないかともどかしさを感じながら、男の目を見て周二は気が付いた。
(あれ? 瞳孔が……)
その瞳孔の形は自分も見た事がある。
まさかこの目の前に立っている男は……。
そしてその城に落ちて来た青い男の話は……。
「分かった、それじゃ俺は次の試合があるから」
『えー、肉とか食べに行こうよー!! ねーってばー!!』
その男の必死な呼びかけも耳に入らず、周二は控え室に戻って考え込む。
(さっきの男の話だが……何か不自然だな)
心に引っ掛かるものを感じつつ、その引っ掛かりの原因を考えている周二は次の試合に呼び出される。
しかし今は2回戦の相手の事よりも、その引っ掛かりの方が今の周二には気に掛かる事であった。
(城に落ちて来た……ってなればその城が何処にあるかは分からないけど、少なくともそんな場所に落ちたと言う事は当然王様とかの耳にも入る筈だ。そしてそれを知りえるのは城の関係者とかその城を訪れていた観光客とか色々な線が考えられるけど、さっきの男は竜の王国だと言っていた……。そしてあの男の目。あの目は人間の物では無いな。じゃあもしかしたら、あの男は……!!)
引っ掛かりが一気に取れた気がした。
(あいつはまさかとは思うが、ドラゴン……!? と言う事は竜の王国で、それならドラゴンが大切に扱われていそうだ。だとしたらその王国から何らかの原因があってここまでやって来たドラゴンが、この大会にも参加しているのか?)
恐ろしい事実が分かった様な気がする牧場経営者は、2回戦へのステージへと足を進める。




