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第42話(水都氏サイド):帝都マイセン

「ひゃっほう!はやーい!」


 青空の下、マーレイの歓声が響く。


「おーい、マーレイ!あとどれくらいで着くんだ?」


 はしゃいでいる少年に向かい、明は風に負けないよう大声を張り上げる。

 その声が聞こえたのか、マーレイはシュヴィリスの背上にいる明へと顔をふり仰いで声を上げた。


「この速さなら、あと二時間かからないくらいで着いちゃうんじゃないかな!」

『…あの山脈から吹き降ろす風に乗れたのはついてたよね。さっさとこの重い荷物を降ろしたいよ』


 リースレインから吹き降ろす山風に押されるように、シュヴィリスは予定よりも速い速度で森の上を飛ぶことができた。


 シュヴィリスの背にまたがる明とジェイノリーからは、時たま遠くに人里らしき街並みや街道をゆく荷馬車が確認出来ている。

 未開の地が多いのか、この地にはびこる魔物の影響か。

 森の上をゆくシュヴィリス達を見咎めるような者は現れず、旅は順調であった。


「あ、もうちょっと進路を左に寄せれる?この先に村があるから避けたいんだ」

『仕方ないなぁ』


 くいと空をゆく竜の体が左に傾く。

 シュヴィリスの背に張り付きながら、明はしみじみと呟いた。


「やっぱ案内がいると全然違うよな」


 道に迷うこともなく、安全に危険すらも回避できる。

 この世界に来てから、これほど安心のできる旅があっただろうか。

 つかの間の休息をゆったりと過ごしながら、竜はまっすぐに帝都を目指して空を飛ぶ。






 シュヴィリスに乗った明とジェイノリーが帝都を目指している頃、その目的地でもある帝都マイセンに一人迷い込んだ地球から来た男は闘技場へと足を運んでいた。


 とりあえず情報収集のためにと武道大会に出ようと決心した周二であったが、人混みにもまれながらたどり着いた受付でまずは予選会なるものを通過しなければ本戦の武道大会には出場出来ないことを知った。


「近年では参加者が増える一方でして…。予選会には本日から参加いただけます」


 手慣れたようにそう告げる受付の兵士は、そう言ってくいっと奥まった場所にある扉を指さした。

 そちらからは野太い雄叫びや、金属を打ち合わせたような甲高い音が響いている。

 どうやらそこが予選会場であるらしかった。

 周二は迷うそぶりも見せずに口を開いた。


「参加する」

「…失礼ですが、武具をお持ちではないようですが?」

「これでいいんだ」


 不思議そうな顔の兵士に向けて、周二はこれでいいのだと軽くうなずくと予選会場へと足を向けた。

 慌てたように案じる声を背中に受けて、周二は気負った様子もなく闘技場へと姿を消した。



 その日の夕刻。

 武道大会に珍しい技を使う無手の男が出るとの話題が街を駆け抜けていた。


「あ、おいジェイノリー!珍しい技を使う無手の男って、まさか…」

「あぁ、可能性はある」


 牛肉に似た味わいのガルブルズの串焼きを頬張りながら、明は周囲の人々の話に耳を澄ませていたジェイノリーへと声をかけた。

 ジェイノリーもまた、その可能性に気が付いたのだろう。

 明たちの仲間は格闘家と称される者たちばかりなのだ。


 この世界の主流である剣を持たずに戦うというだけで、仲間である可能性は高まる。


「なあ、マーレイ。武道大会ってやつなんだが…」


 そう言って振り返った先。


「おえっ」

「っぎゃああ!出すならよそでやれよ畜生ッ!」

「ご、ごめんなさいっ!ゼキ!、端っこ行くよ!」


 屋台の店先でモザイク必須の何かを吐き出す男と、怒鳴り散らす店主。

 必死に謝りながら大人の男を抱えて頑張って引きずっていこうとする少年の姿があった。

 祭りの人混みも、恐れをなしたかのように周囲を避けて彼らの周りだけ空き地ができる。


「…」

「…この世界にも酔い止めがあればいいのだがな」


 冷静にそう漏らすジェイノリーに、明は仕方がないと大きく息を吐き出した。

 ドラッグストアがあるとは到底思えない。


 頑張ってうずくまるゼキの腕を引くマーレイを助けるために、明は項垂れる男の腕を抱えて立ち上がった。


「俺たち武道大会を見に行きたかったんだけどなぁ」


 少年の力では男一人を運び出せるとは思えない。

 この人混みの中、帝都まで案内をしてくれたマーレイを放っておくことも出来ずに明は仕方がないと口を開く。


「こいつ、どこに運べばいいんだ?」


 そんな明に、マーレイは助かったと安堵を顔に浮かべて礼を述べると言った。


「僕の家まで。それに、武道大会は祭りの最終日だから今日はやってないよ」

「げ…」

「どうせ、宿も何もよくわかってないんでしょ?」

「まあな…」


 何せ初めて訪れた街なのだ。

 勝手がわからないのは仕方がないだろう。


 いつの間にか傍らまで歩み寄ってきたジェイノリーが、マーレイから場を譲り明の反対側からゼキの肩を担ぐ。

 ふらふらと足取りもおぼつかないゼキを両脇から担ぎ上げた明たちに、マーレイはにっこりと笑いかけた。


「僕の家に来る?二人くらいなら泊めてあげられるよ!」


 いいことを思いついたと言いたげにマーレイは明るく言い放った。


「いいのか?」


 ありがたい申し出に、明は顔を輝かせてマーレイを見た。


「いいよいいよ!それに、どっちにしろゼキを運んでもらいたいし…そのお礼?ってことでいいんじゃない?」


 ジェイノリーを見れば、彼もその提案は悪くないだろうと小さく頷きを返す。


「助かるぜ、マーレイ」

「ううん、いいのいいの!こっちもゼキを運んでもらって助かるし」


 それに、と喧騒にまぎれるほどの声でマーレイは呟く。


「それに、不審者は目の届くところにいてもらった方が都合がいいんだよね」


 誰にも聞きとがめられないほどの囁きは賑やかな祭りの喧騒にかき消される。

 その言葉を聞いたのはただ一人だけ。

 明とジェイノリーに両脇を抱えられていたゼキの腕が、ぴくりと動いたのを二人は知らない。

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