第41話(マッハサイド):松原周二という男
流れ出る汗。
「はぁ……はぁ……ふぅ……」
荒い息を吐きながら、山口県から何故かこんな異世界までやって来る事になってしまった松原周二はどっかりと近くの椅子に腰を下ろして一休み。
山口県出身で関東で就職をした後、現在は妻の実家が北海道にある牧場なのでそこの牧場主をやっているのが彼である。
クラブで一緒に過ごしていた兼山や連とは趣味の関係で同じチームに所属しているので、暇を見ては関東に戻って来ているのだ。
そんな関東へのリターンを楽しんでいた筈が、あのクラブで変な光に巻き込まれてしまってから一変してしまって数日。
気が付けば彼は、訳の分からない見知らぬ町で1人ぼっちのまま慌ただしい日々を過ごしていた。
と言うのも、突然このマイセンと言う大きな町の路地裏にワープしてしまった周二は何が何だか分からないままで、いきなりガラの悪い男女に絡まれてしまった。
大柄で屈強な体躯をしている周二だが、相手が4人組みだった為に数の暴力でナメられていたのだろう。
いきなり恐喝事件の被害者になりそうになったのだ。
つまり未遂で終わったと言うのは、彼が北海道に渡ってから29歳の時に始めたプロレスでその男女4人組みを蹴散らしたからである。
殺さない程度に手加減をしていたとは言え、余程親しい人間以外は例えそれが自分の親戚だろうとも自分のテリトリーに踏み込まれるのが大嫌いな周二は、当然その4人組みに反発したのだ。
「おい、見慣れない格好だが金持ってたら置いて行け」
「……断る」
「へーああそう、だったら力尽くでやるしか無いわね!」
そう言って槍を突き出して来た女だが、それを腕で弾きつつ女の顔にビンタ。
それを見て色めき立った残りの3人に対しても、周二は無言で対応。
プロレス仕込みの強烈なキックでロングソードを振り被って来た男に対し、先手必勝で路地の壁まで蹴り飛ばす。
更に後ろから向かって来た魔術師の女に対してはその身体を軽々と持ち上げ、残りの1人の斧使いの男に向かって投げ飛ばしてぶつける。
最後に最初にビンタした女に対してもう1発ビンタをし、これ以上面倒な事にならない様にさっさと退散したのであった。
まだ関東の横浜に住んでいて仕事に行き詰っていた頃に、仲間の2人から総合格闘技をやらないかと誘われ3人で一緒に総合格闘技を始めた。
関東から離れた今でも牧場の仕事で更に鍛えたその大柄で筋肉質な身体を活かし、総合格闘技の打撃技とプロレスの関節技や投げ技を組み合わせた戦法で北海道ではそこそこの成績を誇っている。
ちなみにその総合格闘技に誘って来た2人とは仲が良いが、他の人にはやけに冷たく基本的には無口で無表情の事が多い。
他人に過去を詮索されるのも嫌いだが、その2人だけには心を開いている。
今回六本木のクラブに集まった中ではその2人のメンバーは居なかったが、その2人と同じチームで活動している連と兼山とそのチームのリーダーである淳、それから別のチームで一緒に活動している洋子と永治も居た周二はそれ等のメンバーに誘われる形でクラブにやって来たのだった。
だが関東での趣味の活動を終えて北海道に帰るまでの間に、まさかこんな事が起こってしまうなんて到底イメージ出来なかったのが今の彼である。
当然と言えば当然だ。
いきなりこんな場所に飛ばされてしまい、そして恐喝事件の被害者になり掛けるなんて。
(……これはしばらく、関東に戻って来るのは控えた方が良さそうだな……)
そう決意した周二だったが、とりあえずここが何処なのか現状を把握しなければいけない。
今の連中の格好からしてみると、明らかに現代の日本で見かける事は無い服装に武器だったので彼の脳裏に余り良くない思い出がフラッシュバックして来た。
(まさか、またヘルヴァナールと同じ……)
以前その総合格闘技に誘って来た2人や兼山、連、それから永治等と一緒に周二は異世界へとトリップしてしまった経験があるのだ。
その時は色々な人間のサポートもあり、その世界では揉め事に巻き込まれたりドラゴンに出会ったりと言う事がありつつも日本に無事に帰って来られた。
そもそも、そのヘルヴァナールにトリップしてしまったのはそのドラゴン達のリーダーのせいなのだが。
そして何故か今ではそのドラゴン達が日本にやって来て、普段は人間の姿で生活していると言う訳の分からない展開になっている。
勿論周二だって意味が分からないままだが、少なくとも自分の牧場での生活に支障が出ない様にしてくれればそれで良い。
でもこのままだと確実に支障が出る。
結局4人組みに絡まれた後に路地裏から出て、ここが地球では無い事を知った。
カイザスタン帝国のマイセンの町、と言うヘルヴァナールとはまた違う場所であると言うのが分かって、丁度色々と城下町が祭り関係で人手不足だったのもあって色々な店を手伝っているのだ。
当然このままここで暮らそうとは思っておらず、この数日地道に情報収集をしていたのだがさっぱり情報が掴めぬまま。
だったらその祭りのイベント……国外からも参加者があると言う武道大会に参加してみる事で何か情報が得られるかも知れないと彼は漠然と思っていたのである。




