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第39話(マッハサイド):酔った魔族と数センチレベルのパフォーマンス

 雪山の精霊達に別れを告げて、シュヴィリスはバッサバッサと山を降り始める。

 ソアラをぶつけない様に早々に山から離れ、大回りのルートでふもとの村を目指す。

 ゼキやマーレイの話によれば、下手に村に近付くとシュヴィリスの事が知られてしまい色々とややこしい事になるらしい。

 となればそのややこしい事態を少しでも避けてリスクを減らす為に、遠回りをして麓の村へと向かって貰う事になった。

 時刻はそろそろ夕方になろうとしているが、まだ陽は落ちていないのでシュヴィリスの姿は簡単に見つかってしまう。

 しかもソアラをぶら下げて運んでいるのだからそのシルエットは余計に大きくなる。

 そしてそのソアラの中ではゼキが真っ青な顔をして時々「うぷっ……」とか言いながら口に手を当てている。

 シートが彼の色々な物で汚れてしまう日もそう遠くは無いのかも知れない。


 グワングワンと揺れるソアラをぶら下げ、シュヴィリスはとりあえずそのソアラをぶら下げたまま山の麓の村から少し離れた平原まで降りる事に成功した。

『あー疲れたー。でもまだ運ばなきゃいけないんでしょ、このソアラ』

「そうだよ。運んで持って行かなきゃならないんだ。わりーけど頑張ってくれ」

 そう言いつつ明はソアラのドアを開けてみる。

 その車内の中では正反対の表情をした2人の魔族の姿があった。

「あー面白かったー」

「……うぷっ……うう……」

(酔ったのかよ)

 どうやらゼキは高所恐怖症と乗り物酔いを同時に発症していたらしい。対照的にマーレイは非常にケロッとした表情を浮かべている。

 その様子を見て明はやれやれと首を横に振った。

「あー、ジェイノリー……ゼキは酔ったらしい。ちょっと介抱してやってくれねえか」

「そうみたいだな。それじゃあシートリクライニングさせて楽な体勢にしてやった方が良いな」


 だが、その要望に明は首を横に振る。

「あーそりゃ無理だ」

「何故?」

「これさー、ブリッドのフルバケットシートなんだよ運転席も助手席も。つまりレース用のマシンと同じシートが2つともついてるんだ。リクライニング機能なんてレースには必要無いから倒すのは無理だ」

 かと言って30ソアラは元々クーペモデル。

 ドアが2つしか無い上に、4人乗れると言ってもリアシートに人間を寝かせるのには少々きつい車だ。

「JZZ30のリアシートはハッキリ言って狭いし……あーそれじゃあシュヴィリス、とりあえずちょっと背中貸してくれ」

『え……人間以外の生き物乗せるのあんまり気が進まないけどなぁ』

「ゼキは今は魔族だけど元々人間だったんだから文句言うなよ、ほら」

『もー、分かったよ』


 明に急かされてしぶしぶ、と言った様子でシュヴィリスはゼキを背中に乗せて酔いがさめるまで休ませる事にした。

 だが、マーレイからこんな質問が次の瞬間飛んで来る。

「ねぇねぇ、明おじさん」

「何だ?」

「このクルマ? とか言う乗り物って実際にどうやって動くの? 確か山の上では動かす前に雪精達に止められたから動かせて無かったよね? 僕は興味があるんだけど」

「ああこれか? まぁ色々な動きが出来る。流石にドラゴンみたいに空飛んだりとかワープしたりとかは出来ないけど、荒地とか沼地とかの走れない様な場所でも無い限りは馬よりもずっと速い乗り物だ」

 この世界の人間であるマーレイからしてみれば未知のテクノロジーが詰まった乗り物である事は間違い無いので、明はゼキの酔いがさめるまでちょっとしたパフォーマンスを披露する事に。

「それじゃ……ちょっとだけ見せるか。ジェイノリーも協力して欲しいんだけど」

「俺か?」

 一体何を始めるのだろうかと思いつつ、ジェイノリーはその場に直立不動で静止する。


 ロープがついたままでもタイヤがしっかりと回って曲がってくれればソアラを動かすのは問題無い為、明はマーレイをまずソアラの助手席に乗せる。

「これからおもしれーもん見せてやるよ」

「……?」

 きょとんとするマーレイを横目で見ながら明はソアラのエンジンを掛け、シートベルトをマーレイに締めさせて自分も勿論締める。

「おーいジェイノリー、そこから絶対に動くんじゃねえぞ!!」

「あ、ああ……」

 地球の人間で医師免許の他に車の免許も持っている内科医だが車の事にはまるでさっぱりなので、明はまさか自分を撥ね飛ばすつもりでは無いだろうと思いつつその場でジェイノリーは直立不動をキープ。


 それを見て明はソアラのクラッチを繋いでいざスタート。

 ジェイノリーの横までゆっくり加速し、そこから左にハンドルを切りつつサイドブレーキを引いて一気にソアラの向きを変える。

 そのままテールスライド状態に持ち込んでジェイノリーの足に当たるか当たらないかの位置を絶妙にキープしながら砂煙を巻き上げ、1JZ-GTEのエキゾーストサウンドを響かせてグルグルと3周。

 俗に言う「定常円旋回ていじょうえんせんかい」である。

「えっ……えっ?」

 マーレイは勿論初体験の未体験の動き、エキゾーストサウンド、フロントガラスやサイドガラスを流れる景色とジェイノリーの身体を見ながらきょとんとした顔で、ゼキが酔いからさめるまでとことんドリフトを楽しむ。

 だが、不思議とその間は怖いと言う気持ちはしなかったのであった。

https://www.youtube.com/watch?v=utLPvsvKeRs

パフォーマンスパフォーマンス。数センチレベルのパフォーマンス。

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