第34話(マッハサイド):追ってきた人影とトリッキーすぎる武器
「はぁっ……はぁ、はぁっ……」
荒い息が周囲の空気の中に吸い込まれて消えて行く。
しかしそんな事を今は気にしている必要は無い。
この黒竜の塔までやって来て、上へ上へと階段を上る。階段は埃が溜まっており、足形が残って埃が舞い散るがジェイノリーは気にしていられない。
後ろからは自分とは別の足音が聞こえて来ているからだ。
(この年齢になればもう若くない。それでも、俺は前へと進む為にこの塔を上るしか無い!!)
何者かの足音を背後に聞きつつ、ジェイノリーは目の前に出現した最上階の大扉を荒っぽく蹴り開け放つ。
「はぁ、はぁあ……っ!?」
ヤバイ、ここは行き止まりだ。
そう思って引き返そうにも、今までこの長い長い螺旋階段を上り続けて来ただけに幾ら格闘技経験者のジェイノリーでも流石に体力的に厳しい。
それでも、この塔の何処かに地球に戻る為のヒントがあれば。
そう思って、このかなりカーテンの多い部屋の中を探し始めようと踏み出そうとした……その瞬間。
「もうお仕舞いだ。ここで行き止まりだからな」
「く……っ!!」
同じ様に走り通しで息を切らせてはいるものの、まだジェイノリーとは違って余裕がありそうな男が1人。
このドゼウス帝国の騎士団員の1人だ。
だけど、妙だ。
この騎士団員の手には不思議な形のグローブがはまっている。
それをはめた騎士団員が優雅な動きで手を上げるその一瞬。
「……!!」
物凄い悪寒を感じ、ジェイノリーはバック転ですぐさま後ろに飛びのいた。
塔の最上階に差し込む明け方の陽の光を受けて、きらりと何かが空中で輝く。
それはビィンと言う妙な音を立ててジェイノリーの目の前を掠める。
そのジェイノリーの紙一重の回避に、騎士団員は感心の息を漏らす。
「ほう、この武器を避けるとは」
「……それはもしかして、ワイヤーか何かだな?」
「そうだ。さぁ、細切れにされたくなければ俺と一緒に来て貰おう」
ロングソードの他にこんな武器が。
だけどここまで来て指示に従うつもりはジェイノリーには毛頭無かった。
「まだ名前も名乗ってない様な相手と一緒に行ける訳が無いだろう」
冷静で余裕がある振りをしているが、実際は頭の中が緊張とパニックでどうにかなってしまいそうなジェイノリーのそのセリフに、男は手をだらんと落としたまま答える。
「ならば名乗らせて貰う。俺はドゼウス帝国騎士団本部の情報部総本部長、クランベル・リヒターだ」
「情報部の本部長なら、俺なんかに構ってないでさっさと情報集めに戻ればどうだ」
「その情報集めの為に俺はここに来た。さぁ、話は終わりだ。俺と来い!」
クランベルと名乗った男のその要求に、ジェイノリーは一旦深呼吸をして無言でチラリと辺りを見渡す。
(……この部屋のこの構造なら……)
何か戦法を思いついたらしいジェイノリーはクランベルの方に向き直り、無言でファイティングポーズをとった。
それを見てクランベルは1つ頷く。
「来る気は無いか。ならばこちらも実力行使だ!!」
ブンッとワイヤーが迫って来るのが太陽の光で分かる。
明け方の太陽の光が無ければワイヤーを見切れていなかっただろうと思いつつ、きらきら輝く死の光に対してジェイノリーはこの部屋の中の構造を利用したバトルを展開。
カーテンが大量にある事を逆に利用して上手く身を隠しながら何とか反撃のチャンスを窺う。
それに、このカーテンはワイヤーの攻撃をブロックしてくれる物でもあるのだ。
ワイヤーはナイフの様に曲がらない素材で出来ていない。むしろ曲がらなければワイヤーの意味が無い。
クランベルがグルグルとワイヤーを巻き取っているのがその証拠だ。
曲がるワイヤーと一緒でこの部屋の至る所にあるカーテンも柔らかいので、その柔らかい素材の後ろに隠れる様にすれば勝手にワイヤーがカーテンを滑ってしまうのでブロック出来る。
しかも切り裂く事も出来ない。
まるでスプーンで粉砂糖に切れ目を入れようとしても出来ない様に、幾らジェイノリーにクランベルがワイヤーを当てようとしてもカーテンで上手く滑らせてブロックだ。
カーテンが上手く視界を遮っている事に気がついたクランベルは、ならばとそのカーテンのレールの部分をワイヤーで切断しに掛かる。
「ぬん!」
「くっ!!」
レールが切れてしまいカーテンも地面に落ちてしまった。別の場所に移動しても同じくカーテンレールをクランベルが切断しに掛かるので段々逃げ場が無くなって来る。
しかも合間合間に仕込みナイフまで投げて来る非常に厄介な相手だ。
(どうすれば良い……どうすれば!)
このままでは殺されてしまう。
目の前で切断されて落ちて来たカーテンレールを身体をずらしてかわし、そのかわして移動した場所からクランベルの様子を見る。
(巻き取らなければ奴は攻撃出来ない。あいつの手元に向かって動くから……)
そう考えてみると隙は意外と見つかるかも知れない。
だが油断は禁物だとジェイノリーは気を引き締める。
何せ彼は、ザカタリス王国で1度負けてしまっているのだから。




