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第31話(マッハサイド):命がけのパフォーマンス

 マーレイが歌い始めると同時に明とゼキも動く。

 どちらかと言えば重量級の部類に入る明と、細身な体格のゼキでは「普通に」考えれば明の方が有利である。

 だけどゼキは普通の人間である事を止めた魔族。

 RPG好きな明にとっては「現実の世界では」未知の存在であると同時に、「RPGの世界では」良く見かける種族なので目の前でワクワク感が止まらなかった。

 だが今の状況は演武なので、相手を殺さない様にするのは勿論であり怪我をさせない様に相手に攻撃を当てなければならない……いわば見に来てくれているお客さんに対してのパフォーマンスだからだ。

 そのパフォーマンスを成功させる為には、相手との意思疎通は当たり前だがそれ以前に基礎のテクニックが出来ている必要がある。

 生半可なテクニックで演武をやろうとすれば、何らかのアクシデントに繋がってしまうのは目に見えているからだ。

 それに、いきなり戦い始める訳では無い。

 確かにいきなり戦う演武もあるのだが、まずは基礎の動きを見せてから組手の演武に入る場合がほとんどだろう。

 今の2人も同じであり、それぞれの習って来た武術の型を披露する事から始める。

 ゼキはゼキの習って来た剣術をロングソードを使って披露し、明は剛柔流空手、柔道、それからボクシングと雪の上である事をものともせずに披露する。

 柔道は組手が前提なので投げ技の動きを見せる事しか出来なかったが。


 そして明のターンが終わり次第すぐに明とゼキは向かい合う。

 ここからが組手なので演武の本番とも言えるだろう。

「ふっ!」

 先に動いたのはゼキだった。

 明に向かって間合いを詰めながらロングソードを上段から振り下ろしにかかるものの、そのロングソードが振り下ろされる前に明はゼキのロングソードを握っている手首を掴んで、そのまま背負い投げでゼキを雪の地面に投げ落とす。

 ただし勢いをつけずにあくまでも柔らかく。これは演武だからだ。

「ふん!」

 明はゼキに踏みつけで追い打ちをかけようとするものの、ゼキも雪の地面を転がって回避。

 そのまま素早く立ち上がってミドルキックで明の腹を蹴り飛ばす。

「ぐっ……」

 だけど体格差と体重差があるので明はほとんど動かない。

 お返しとばかりに明は空手仕込みの左回し蹴りを繰り出すが、すっとゼキも屈んで避けつつその体勢を利用して明の軸足を払い飛ばす。

「ぬお!」

 今度は上手く行ったので明が地面に倒れるが、転んでもただでは起きない。

 地面に手をつきながらぐるっと身体を回転させ、雪を手で掴んで手の中で固めてゼキに目くらましで下から上に向かって投げつける。

「っ!?」

 その目くらましで一瞬ゼキの動きが止まった。


 そこを明は見逃さず、ゼキの股の間に腕を突っ込んでゼキを持ち上げる。

「うおおっ!?」

 膝を曲げ腰に力を集中させ、背筋をしっかり伸ばして肩の上にゼキを乗せて、そしてゼキの身体を回転させて背中から雪の上に落とす。

 体格の大きさを問わず非常に有効であり、シンプルなので覚えるのも簡単であるこの肩車でダイナミックな演武を披露。

 雪がクッションになってダメージも大した事が無かった。

 こうして2人がある程度お互いに攻撃を受けた所で演武が終了。

 コノエは相変わらずの仏頂面だったが、雪の女王はそれなりに満足してくれたらしい。

『うむ、それなりに楽しむ事が出来たぞ。わらわも良いものを見られた』

「そ、それじゃあ……」

 マーレイの明るくなった顔に応える様に、雪の女王はこう宣言する。

『ああ、それは持って行くが良い。領域への侵犯も不問とさせて貰おう』

「あ、ありがとうございます!」

「寛大な処分、誠に感謝致します」

 明とゼキもほっと胸を撫で下ろし、どうやらこの危機的状況は過ぎ去ってくれた様だった。


 だけど問題はこの30ソアラをどうやってここから運び出すかと言う事だ。

 勿論手で持って行ける筈も無い。

「えっと……何かこう、シュパッと一瞬でこれを下まで運び出せる様な便利な魔術とかって無いですかね?」

「ある訳無かろう」

 即座にコノエからNOの返事を出されて明は途方に暮れる。

「走らせるのは無理だよなぁ。この山道って狭い?」

「結構狭いし急だし、この大きさじゃ道を通り抜けるのは無理だと思うよ」

 マーレイからも追い打ちをかけるかの様な情報がもたらされる。

 まさかこの30ソアラが丸ごとこの世界にやって来るなんて。

「うーん……あ、そうだ」

 ポンっと手を打った明は何かを思いついた顔をする。

「ロープありませんか? ロープ。それでこのソアラを括り付けて、俺の知り合いのドラゴンに空に向かって持ち上げて貰うんですよ。そうすればほら、ここから上手い具合に運び出せるんじゃないですかね?」

「成る程な、その手があるか」

 コノエもちょっとだけ感心した様子を見せるが、その知り合いのドラゴン……シュヴィリスがジェイノリーと一緒にここに戻って来ない事には動き様が無い。

 それまで時間が余ってしまったので、地球の事をもっと聞かせて欲しいと雪の女王が願い出た事もあり、明は携帯の電波が通じる神殿で食事もご馳走して貰う事になったのであった。

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