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第30話(水都氏サイド):女王の提案

 雪に埋もれかかるソアラを眺め、明はどうしたものかと息を吐き出した。


「…これじゃあ動かせそうにねぇな」


 そもそもがこんな雪山の山頂付近から、道もないのに車を走らせるのが土台無理な話なのだ。

 これではどうやって運べばいいのか見当もつかない。


「まさかこんなでかいもんが落ちてるとは思わなかったしなぁ…」


 ぼりぼりと頭をかいてみるも、解決策など浮かんでくる気配はなかった。


 そんな明を後方から見守っていたコノエが口を開いた。


「探し物が見つかったようで何よりだ。それで、お前達に対する罰だが…」


 淡々と話すコノエの言葉に、明は元よりマーレイとゼキの両名も慌てて問い返した。


「ちょ、待って…っ!罰って僕らも!?」

「コノエ殿、それは我々も含まれているのですか?」


 言い募る二人からの言葉にも眉ひとつ動かさず、コノエは彫像のごとき表情のまま口を開く。


「無論。領域侵犯の罪を償ってもらうぞ」

「そんなっ!」

「お待ちを!我らは決して害意があったわけでは…っ!」

「おいおいおい、まじかよ…」


 抗議する三人を冷ややかな眼差しで見つめてコノエは気にした様子もなく言葉を続けた。


「知らなかったで全てが許されるとでも思っているのか?人間ども」


 冷酷に言い放つコノエに、マーレイは上目づかいで言いすがる。


「うぅ…情状酌量の余地とか…」

「それはお前たちが勝手に作り出した理念であろう。勝手に押し付けるでない」

「うぐぐ…」


 うなって黙り込むマーレイ。

 少年の姿をした彼の嘆願にも、コノエはぴくりとも表情を動かさずに冷ややかに答える。


 国では立場がある彼でも、ここは人種の国ですらない精霊達の領域だ。

 その理は人の世とは異なるものである、そんなところに踏み込んでしまった自分たちの落ち度というほかない。

 だがそんな彼らに救いの手が伸びる。


『…そうじゃの、その方ら。何か芸でもしてみるかの』

「女王?」


 コノエの背後に控えていた雪の女王が、凛とした美貌にゆるく微笑を浮かべて笑っていた。

 訝しげに問いかけるコノエの眉がしかめられる。


『わらわを楽しませる事が出来たのなら、それをもって償いとしよう。その鉄の塊もくれてやるわ。そちらの下界の者らも何か余興を披露せよ』

「女王よ、それは…」

『構わぬであろう?その者たちが他意があったわけではないということは知れたのじゃ。それでよいではないか』

「……」


 じとりとコノエからの温度のない視線を受け流し、女王はそう言って困惑する三人へと声をかけた。


『さて、誰からじゃ?』


 女王の言葉を受けた三人は顔を見合わせた。


「ど、どうする?芸なんて、何をすればいいのか…」


 困惑する明に、マーレイは小声で二人に提案する。


「歌とか、そういうのでいいと思う。精霊族は歌や踊りを好むはずだし」

「…どちらも無理だ」


 真っ青な顔でゼキが呟いた。

 幼少のころより騎士を志してきたゼキにとって、どちらも縁のない生活を送ってきたのだ。


 困惑仕切りのゼキに、マーレイもどうしたものかと腕を組んだ。


「うーん、困ったなぁ…」

「いや、俺の方も困ってんだけどよ」


 そんなマーレイに向けて明も眉をしかめてそう漏らした。


 急に芸を披露しろなどと言われても、ぱっと何かが出てくるわけではない。


 困った顔をした男を二人も前にして、マーレイはますます唸って口をへの字に結んだ。


「おじさんもか…んんー…そうだなぁ」


 ややあって、マーレイはこれしかないかと一つ頷いた。


「僕が歌うから、二人は何か適当に歌に合わせて演武でもしててよ」


 明の体格足の運びから、何らかの武に通じていると判断したマーレイであったが、それは正解であった。


 マーレイの提案に、明とゼキは顔を見合わせる。


「適当にって…大丈夫なのか?」

「演武ってだけなら、そりゃ助かるけどよ」


 ぶつくさとそう漏らす二人に、マーレイは両手を腰に当てて頬を膨らませた。


「もうっ!それじゃ、ほかにいい案あるの?!」

「…いや、ない」

「…あー、悪い。何も思いつかねぇわ」

「分かればよろしい!」


 得意げにふんぞり返るマーレイに、明は苦笑した。

 まだ少年といった年頃であるのに、しっかりと頼りがいのあるいい性格をしている。


「軽く歌うから、よく聞いといてよ」


 そう言って小声で歌い出したマーレイの歌を聞き逃さないように、ゼキと明は顔を寄せて耳を澄ませる。

 さらさらと聴こえてくる歌は、戦う者達への賛歌であった。

 これならば何とかなるかもしれない。

 そう思った明に、ゼキもまたわずかに顔を輝かせて顔を上げた。

 無言で頷きを交わす。


「…準備は出来たか?」


 焦れたようにコノエが声をかける。

 それを受けて、マーレイは歌を止めるとその場で体をほぐしていた二人へと振り返る。


「二人とも、準備はいい?」


 振り返った先、ぱしんと拳を打ち鳴らす明はにやりと笑い、ゼキは懐に入れていた剣を取り出して頷く。


「いつでもいけるぜ!」

「やるしかないからな…!」


 気合を入れて三人は振り返る。


 冷ややかなコノエの眼差しに負けずと、マーレイは二人へ向けて声を放った。


「行くよ…!」


 その言葉に威勢よく返事をしながら、明とゼキは一歩足を踏み出した。

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