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プロローグ(水都氏サイド):異世界サイド

 寛いだようにソファに横たわり、テレビを見ている男がいた。

 短い黒髪の男は、退屈そうにリモコンを弄る。


 そうして、はたと動きを止めた。

 男の視線がまっすぐに本来なら床があるはずの空間を見つめている。

 そこには何処までも広がる白い空間が広がっていた。


『……不思議なこともあるもんだ』


 管理されている世界に穴があいたのを感じ取り、男はゆっくりとソファの上に身を起こす。


 瞳さえも漆黒の男の姿をしたそれはにやりと口元に笑みを浮かべると白い空間へと目を向けた。


『次元の穴は開かれた。さて、どうするかな』


 呟いて、男は己の管理する世界へと目を向けた。

 人が感知できない、遥かな次元での話である。




 ◇



 世界の東に位置する精霊の棲む地、グラス大陸。

 魔術大国、グランスキャート王国王城にて。

 世界が歪んだその時、黒衣を纏った王は気だるげに玉座に腰掛けていた。

 何やら眼下で声を上げている宰相に、王はふいに片手で払うような仕草をする。

 それだけで宰相は口を噤んだ。

 疑問を挟むこともなく沈黙したままの宰相は、緊張したように黒の王を伺い見る。


 王の深淵の眼差しは遠く空の彼方を見つめていた。

 見えない何かが見えているかのように、王の眉が不愉快そうにしかめられた。


「…時神の仕業か?面倒な。俺の領域を荒らすつもりか」


 肘をつきそう漏らす声は冷ややかであった。


「陛下…」

「…ゆけ。我が領域を侵犯せし愚者どもをひっ捕らえよ」


 片手を振るって王は宣言した。

 その言葉に、宰相は「ただちに!」と答えると大慌てで謁見の間を後にした。






 グランスキャートよりはるか西にある無数の島からなるユーラス諸島。

 唯一の国家である群島国家、ホーエルン王国の有する島の一つ。


 その地下深くに人目を忍ぶように建てられた基地内で、男は巨大なモニターを睨み付けた。


「馬鹿な…こんな時期に時空の裂け目(タイムホール)だと…」


 機器が並ぶ室内に、警告音だろう音がやかましく鳴り響いている。


「国内に時空の(ひずみ)を確認っ!現在所在地を確認中…!」

「伝令!宇宙外縁機構より通信!タイムホールは世界各地で発生した模様っ!!」


 ばたばたと慌ただしく動き回る制服の男たちを見下ろして、その場を司る男はぎりりと歯ぎしりした。


「いったい何が起こっているのだ…っ!」


 司令官が悔しげに声をもらしていた同時刻。

 海を挟んだ南の大陸でも同じことを呟く男がいた。





 南大陸、ベスタ帝国。

 やはり人目を忍ぶためか、地中深くに作られた軍の基地内部。


 ばんっとエラーメッセージにあふれた画面を叩きつけて男は怒鳴り声を上げた。


「いったい何が起こっている…!!状況はどうなっているのだ!!!」

「も、申し訳ありませんっ!現在解析班が時空波を追跡しているところです!」

「くそったれ!解析急げよ!」


 計器類が立ち並ぶモニター類を前に走り回る部下たちを見つめて、男はがりっと爪を噛んだ。

 唐突に始まった非常事態に、男はため息をつくと手元の端末をいじり始めた。



 地下で様々な怒号が飛び交う中、地上より遥か高く。


 雲にさえ手が届きそうな空のただなかに、翼を広げた巨大な生き物の姿があった。


「…気づいたか、ハイエン」

「グオ」


 雲間に浮かぶ白い竜は、背に乗せた人物の呟きに鳴いて答えた。


「この時期に時空の裂け目(タイムホール)とは、何やら面倒事の気配がするな」


 ベスタ帝国、竜騎士団団長のブライゼはそう呟くと目を伏せた。

 日課である空の散歩を楽しんでいたのだが、それどころではなくなったようだ。


「戻ろう。本部に行けば何かわかるだろう」


 空の上からでは何が起きたのかを判断することは出来そうもない。


 そう断じたブライゼは白竜の背を叩く。

 言葉がなくても通じるのだろう。

 下降を始めた竜にブライゼは満足そうに微笑んだ。






 そうして北の大地でも異変は起こる。


 ザラス大陸東部に位置する、竜の護るドゼウス王国。

 その地を治める若き王は、先日発生した土砂災害の報告を受けてその恩賞を功労者に渡すところであった。


 輝くような黄金の髪、鮮やかな青と金色に輝く竜の眼を持つ国王ライゼンは深々と頭を垂れた騎士へと激励の言葉を送っていた。


「ご苦労だった、今後も職務に励むがいい」

「はっ!ありがたきお言葉!」


 溌剌とした騎士の答えに、ライゼンは満足そうに頷いて…そうして表情を険しくさせると遥か頭上へと視線をやった。

 その眼差しの鋭さに、傍らに控えていた近衛騎士であるロズバンがすぐさま反応し王の唯一の后を奥へと誘導する。


 次の瞬間、大気が鳴動した。


 びりびりと空気が揺れる。

 何かが急激な速度で近づいて来るようだ。

 魔力を感じ取れない人間である騎士たちも、王の視線の先を見据えて警戒態勢をとる。


 この国の王家には竜の血が流れている。

 その為に鋭敏な感覚は、時に護衛の騎士すら感知できない何かを捕えるのだ。


「…下がれ!場所を開けろ!空から何か降ってくるぞ!」


 唐突にライゼンが声を張り上げた。


 それに答える様に、さっと騎士たちが行動を開始する。

 咄嗟に反応出来ないでいた宰相の腕を取り避難させ、全ての騎士が剣を抜き放ち壁際へと後退する。


「陛下、御下がり下さい」


 近衛師団長であるロズバンがそう言ってライゼンの前に出た。


 ガシャアアアアアン!!

 天窓が砕け散る音の直後、窓を突き破って天より落下してきた何かが謁見の間の床に衝突する。


 ドゴォオオオオオン!


 轟音が上がり、砕け散った床石と土煙に天より舞い散るガラス片が混じり辺りの視界が悪くなった。

 眉をしかめ、ライゼンが一声発する。


「マルスッ!」

「”風よはしれ”!」


 ライゼンの言葉に、すぐさまその意をとらえた騎士の一人が腕を振るった。


 力ある言葉の詠唱に、室内に一筋の風の道が出来上がる。


 煙る視界が瞬く間に晴れてゆく。

 突然の襲撃に緊張感を高まらせて、騎士たちはゆっくりと落下地点を包囲した。

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