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第16話(水都氏サイド):困惑するドゼウス陣営

 カンッカンッと木を打つ甲高い音が鳴り響く。

 第二近衛師団、修練場では金髪も鮮やかな少年が一人の騎士に稽古をつけてもらっていた。


「やあっ、たあっ!」

「踏み込みが甘いです。それでは足元をすくわれます」


 少年の剣を受けていた大柄な男が、そう言って手にした木剣で間隙の合間を縫い少年の膝をすくいとる。


「うわっ!」


 上だけに集中していたのか、少年は何の反応もすることが出来ずに姿勢を崩しひっくり返った。


「うぅ、痛た…」

「大丈夫ですか、アレクセイ殿下」


 騎士はそう言っていかめしい顔を心配そうに歪めて倒れた少年に向けて手を差し出した。


「だ、大丈夫だよパリス」


 ドゼウス王国の王弟であるアレクセイは、そう言って立ち上がった。


 アレクセイの護衛でもある第二近衛師団の長であるパリスは、その様子に満足げに笑みを浮かべて頷いた。


「強くなられました。以前はすぐに泣いてしまわれておいででしたのに」

「パリス!それはもうずっと前のことだよっ!」


 カッと頬を紅潮させて声を荒げるアレクセイに、パリスは穏やかに微笑んだまま。

 大人の余裕に、アレクセイはむすっと頬を膨らませた。


 いまだ成長途上のアレクセイの伸びしろはまだまだある。

 向上心もあるし、将来が期待できそうだとパリスはこの国の未来の明るさを感じて笑う。

 そんな時だ。

 バタバタと慌ただしく駆けてくる気配に、パリスはちらりと目をはせる。


「師団長っ!」

「…何だ」


 部下である青の小隊長が素早く駆けより、パリスに耳打ちした。

 その内容に、パリスの眉がかすかに寄る。


「…それはまことか」

「はい」


 瞑目し、パリスはアレクセイへと振り返る。


「殿下、私は用事が出来ました。申し訳ありませんが後の鍛錬はガレリオが請け負います」

「わかっている」


 頷き返すアレクセイへ深い一礼を返し、パリスは足早に城の中央へと足を進めた。


 そんな大人たちの背を見送り、アレクセイは小さくため息をつく。


「…僕も兄上のお力になれたらなぁ…」

「…直になれますよ。成人されたら、騎士団に入られるのでしょう?」


 いつのまにか傍らに寄ってきた騎士のガレリオは、そう言ってにやりと笑みを浮かべる。

 その懐っこい笑みに、アレクセイもまた小さく笑い返してそびえたつ王城へと目を向けた。


「うん、そのためにパリスに剣を習ってるんだ」

「それじゃ、続き始めますか」


 木剣を握りしめたアレクセイに、ガレリオはそう言うと笑って木剣を構えた。






 ドゼウス王国、国王執務室。


「それは真か」


 国王ライゼンは目の前に立つ騎士マルスへと問いかける。

 まっすぐに王を見つめ返す鳶色の瞳は、ためらうこともなく言葉を続けた。


「御意。現在確認されているだけでも、北の森、そしてザカタリス方面でも何らかの異常が起きている模様です」

「…我らでも正確に特定は出来ぬ。すまぬな、王よ」


 マルスの言葉に続くように、壁際に立つ真白の髪をした男が口を開いた。

 アメジストに輝く瞳は、瞳孔が縦に割れている。

 人とは異なる異彩を放つ男は、この国を守護する七竜がうちの一頭。

 白龍のロウが人に化けているのである。


 七竜の中でも長い時を生きてきたロウであったが、今回起こった事態は全くの想定外のものであった。


 何せ、ロウはシュヴィリスという名の竜を知らなかった。


 この国に住む竜種はそれぞれに何らかの繋がりがあるが、どうやらかの竜はこの近辺を住みかとする竜ではないようで誰も彼のことを知らなかった。


 ちらりと傍らを見やれば、真っ蒼な髪を長く垂らせた美青年がぼんやりと虚空を見つめて立っている。

 話を聞いている様子がないので、ロウは仕方なく青龍である青年をつついた。


「アサギ、王に話を」

「…あ、うん。あのね、この辺にね、そんな名前の青竜は住んでないみたいだよ」


 どこか幼いしゃべり方は、このアサギという名の龍がまだ年若いせいか。もしくは、長い時を一人で引きこもっていたせいだろう。


「この辺というのは、ドゼウス近隣をさすか?」

「ううん、リースレインの山からこっち側は全部」


 リースレインというのはこの大陸の中央に縦に遮るようにそびえる巨大な霊峰を含む山脈の名だ。

 リースレインにより東西に分断されているために、アサギが示した範囲というのは意外に広大であるのだ。


 考え込むライゼンは顏を上げると側近の名を呼んだ。


「クランベル」

「ここに」


 するりと現れた男は、この国の密偵を束ねる情報部を統括しているクランベルだ。

 そんな男に、ライゼンは目を向けると一つ頷いた。


「情報が少なすぎる。お前はとりあえず話にあった北の森を探ってこい。今はノアールが留守にしているし、何かあっても気づけないからな」

「探るだけ、でよろしいので?」


 クランベルの言葉に、ライゼンは苦笑を浮かべて頷いた。


「ああ。敵かどうかも不明なんだ。おまけに、相手が竜族なら相手をするのは厳しいだろう?無事に帰ってくるのが任務だからな」

「…御意」


 優しい王の言葉に、クランベルも苦笑を浮かべて立ち上がる。


「では、私はザカタリスの方に探りをいれます」


 そう言ってマルスもまた、一礼すると窓から外へ飛び出していった。


 直後、鮮やかなレモンイエローの竜が空へと駆け上がっていったのを見届けてライゼンは部屋に残る面々の顔を見渡した。


「そういうことだ。皆も、しばらくは警戒を続けてくれ」


 了承の返事を聞いて、ライゼンは椅子から立ち上がると窓から空を見上げた。


「…何事も起こらなければよいのだが」


 そう呟いて、王は青と金に輝く眼差しを伏せた。


 今はただ、報告を待つよりは他はない。

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