第12話(マッハサイド):やってきた竜と逃げ出すトリッパー
その時。
「……ん?」
何処からかバサッ、バサッと何だか聞き覚えのある音が明の耳に聞こえて来た。
一触即発のこの状況で、お互いの出方を窺う為に部屋の中が静まり返っていたのが功を奏したらしいのだが、果たしてこの音は一体……?
「……何事だ?」
佐々木もどうやらその音に気がついたらしく、次第に侍達の間にもざわめきが広がる。
「あっ、あそこだ!!」
1人の侍が声を上げたので、今は戦闘モードを解除して佐々木も明もその侍が指差す方向に駆け寄る。
「……あっ!?」
明にとっては見覚えのあるシルエット。
それは紛れも無くあの六本木のクラブで自分と一緒に居た筈の画家のドラゴンである、青いボディが印象的なシュヴィリスだったのだ。
シュヴィリスはそのまま翼を動かし、斉羽城の瓦屋根の上に着地する。
『ああー、やっぱり明だ!!』
「えっ、ど、どうしてここに居んだよ!?」
明は驚いているのだが、それ以上に驚いているのが佐々木だった。
「青龍だと? おいトリッパー、これも貴様の仲間なのか?」
明が答えようとしたその時、それよりも先にシュヴィリスが口を開く。
『これって何だよ。随分失礼な物言いだね、あんた』
どうやら佐々木の発言にシュヴィリスはカチンと来てしまったらしい。
そんな様子のシュヴィリスに対して、明は手を伸ばして叫ぶ。
「おいシュヴィリス、脱出すっぞ!!」
『は?』
「ここに居たら、俺等1人と1匹共に解剖実験のサンプルにされちまう!!」
『はぁ~? 異世界人だってばらしたの?』
それを聞いて、改めて佐々木は「ふむ」とアゴに手を当てて明に向き直る。
「………異世界人だと? なるほど、中身はどうなっているのだ、少しばらさせてくれ。なに、すぐ元に戻すさ」
当然明の答えはNOだ。
「嫌です。お断りします。同じ人間だからバラしても別に収穫無いと思うし……」
しかしその次の瞬間、シュヴィリスが明にとんでもない告白をし始める。
『……いや、この人は人間じゃ無いよ』
「は?」
人間じゃ無いって言うのはどう言う事なのであろうか?
比喩表現の一種であれば良く使われるその例えだが、ここは異世界。
だとすると……?
『僕には分かるね。あんた、人間とは違う別の生き物でしょ』
「えっ、そうなのか?」
思わず佐々木の方を見てみると、佐々木は仏頂面ではあるものの感心した様子で首を縦に振っていた。
「……流石は青龍か。ならば、この青龍もサンプルにさせて貰わなければな。どうやら違う世界の龍らしいから、絶対に逃がすなよ」
地球とは違う世界と言う事であり、人間の姿をしていても中身はどうやら人間では無いのかも知れない、と明は今までのRPGで仕入れて来た色々な知識から結論付けた。
当然、この佐々木の発言に関してもシュヴィリスから出る答えはNOである。
『嫌だね。何で僕がサンプルにされなきゃならないのさ。僕は単純に明の波動を感じたから、はるばるドゼウスとか言う所からやって来たんだよね。だからそんなサンプルになるなんて死んでもごめんだね』
そのセリフを言い終わると同時に、シュヴィリスはあのドゼウスの時と同じく霧を発生させる。
だが……。
「私を甘く見て貰っては困るな、龍よ」
佐々木が腕を横薙ぎに払うと、何と霧が一瞬にして分散してしまった。
『ふうん、やっぱり人間じゃ無いからそれなりにやるんだね』
だったらこれはどうだとばかりにシュヴィリスは空中で尻尾を動かし、物理攻撃で壁を破壊する。
「総員下がれ!!」
佐々木の命令で侍達が下がる。それと同時に部屋が思いっ切り揺れ出す。
侍達は止むを得ず刀を抜いて応戦しようとするが、明がそのチャンスを見逃す筈が無かった。
「どけっ!!」
侍達の人間の壁が手薄な場所に思いっきりタックルをかまし、案内されたルートを思い出しつつ城の内部を駆け出した。
「半数は私と共に逃げたトリッパーを追いかけろ。半数はこっちのドラゴンに応戦だ」
冷静な口調で指示を飛ばし、佐々木も明の後を追いかけ始める。
せっかくトリッパーがわざわざこの城までやって来たと言うのに、ここでみすみす逃がす訳には行かないのだ。
そう思うと、自然と佐々木の口元が緩んでいる。
「ふははは……逃がさんぞ、トリッパー!!」
その声が届いたかどうか分からないが、明は必死の形相で城の中を駆け巡る。
(ちっきしょおおおおお、こんな世界で俺は死んでたまるかってんだよ!!)
自分を追いかけて来た「素手の」侍達に対して、まずは火のついた行灯を倒して城に火を放つ。
どうも自分はこの国では火に因縁があるみたいだと心の中で思いつつ、消火活動に向かった侍達に放火をした事を詫びながら明はひたすらに走った。
(すまねぇ、だがそっちが俺をサンプルにするとか言い出さなけりゃ、俺だってこんな事しねえし!!)
シュヴィリスの安全もそうなのだが、まずは自分がこの城から無事に逃げ出さない事にはその無事も確認出来ないのでとにかく脱出が先決である。
だがしかし、この後に明はとんでもない事態に遭遇する事になるのであった。




