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第11話(水都氏サイド):異質な将軍

 居並んだ男たちがそろって頭を下げる。

 先ほどよりもいっそう張りつめたその場の空気に、明も慌てて頭を下げた。


 足音はしなかった。

 けれども部屋の空気がわずかに動くのに、何者かの入室を悟る。


 肌に感じる空気は嫌に重い。

 何より先ほどの高松の顔色の悪さも気にかかる。


 ”将軍”とは初めにここで会うことになっていた人物だろうか?


(…というか、上様と将軍は同じじゃねぇんだな)


 徳川幕府とはどうやら違う仕組みのようだ。

 ちょっと残念な気もするが、まあ違う世界ならば仕方がないだろう。何せここは江戸ではないのだから。

 そんなことをつらつらと考えていると、その場に鋭い声が通る。


「面を上げろ」


 まるで刃のように冷ややかな声だ。


 顔を上げると、壇上の高松の傍らに男が立っていた。


 年の頃は四十前だろうか。こけた頬は男に凄味を与えていた。

 高く結い上げた髪は長く、その眼差しには温度がなかった。

 まるで実験動物を眺めるような、気味の悪い眼差しだ。


 …何よりも、殿様がいるってのに立ちっぱなしなのは問題ではないのだろうか?


 訝しむ明は、高松の顔を伺い見てからその表情をさらに険しくした。


 高松は怯えていた。

 傍らの男に対する恐怖が明らかな様子に、明はこの男への警戒を高める。


(…あの人にいい殿様があんだけ怖がってんだ、こいつ、そうとうやばい奴か…?)


 将軍というからには、普通に考えれば殿様よりも下の位だろうと思うのだが…。

 どうにも、彼らの様子からは高松が上の立場のようには思われなかった。


「…殿。勝手をなされては困ります」

「ひっ、す、すまぬ佐々木将軍……。よ、余もとりっぱーに会いたかったのだ…」


 完全に引け腰の高松に、佐々木将軍は変わらぬ態度で言葉を放った。

 言葉だけは高松のことを敬っているようだが、その眼差しと態度は明らかに高松を下に見ているようだ。


「”トリッパー”は希少価値が高いのです。余計なことを漏らして、実験結果に影響が出ては困ります」

「っ、しょ、将軍っ!稲本殿は…っ!」


 佐々木から飛び出た言葉に明はぎょっとした。

 実験結果とは、何やら平穏ではない。


(まさか捕まって実験されたりとか…しないよな?)


 何も悪いことは…まあ、豪勢なたき火はしたのだが。ともかく、即捕まるような悪事を働いた覚えは無い。


(まずいな、嫌な予感がする…)


 何やら、不穏な空気が流れているようだ。

 焦ったような高松に、その焦燥を強くする。


「そこの。殿はお疲れだ。部屋までお連れせよ」


 佐々木の声に、控えていた侍たちが瞬時に動く。


「はっ!!」

「将軍!!私は…っ!ま、待て…!将軍!!どうか寛大にっ!稲本殿は…!」


 さっと動いた男たちに両脇を抱えられて高松は引きずられるように奥へと連れていかれた。


 悲痛なまでの叫びの残響に明の肌は総毛だっていた。


 何かがおかしかった。

 それが”何か”は明には上手く説明は出来なかったが、鳥肌が立つほどの違和感に拳を握りしめる。


(ふつう殿さまの方が偉いだろうに…何だってんだ、あの扱いは…っ!)


 あれではあまりにも高松が哀れである。

 もしかしたら、あの若い殿さまには実権がないのかもしれない。

 そう考えて、明は目の前の男を睨み上げた。


 真に城を牛耳るのは、恐らく目の前に立つこの佐々木という男に違いがない。


「…」


 黒い目が温度もなくじっと明を観察している。

 明の睨みも気にした風もなく、淡々とこちらを見つめる目はまるでガラスでできた偽物のように冷ややかだ。


「…あんた、何だってんだ」


 この男はやばい。

 明の勘が警戒を告げている。


 ただ黙って立っているだけなのだが、佐々木には隙というものがなかった。

 攻撃すれば瞬く間にその腰元の刀で切って捨てられる、そのようなイメージが浮かんでくる。


 じわりと嫌な汗が浮かんだ。


(この男は、強い)


 将軍という役職は飾りではないということか。

 どうやら実力を伴っているらしい。

 そういえば、この音が歩くときに音がなかったことを思い出す。

 明はじっと佐々木を見返していたが、佐々木の方もまじまじと明の観察を終えたらしい。

 唐突に佐々木が口を開いた。


「珍しい髪をしている。それは染めているのか」

「あ?」


 思わず険のある声で返してしまう。

 いきなりの言葉はなぜか髪についてで、突然すぎてさっぱり意味が分からなかった。


「まあ、答えぬでもよい。捕獲してからじっくりと調べればすむことだ」


 佐々木は明の返事を期待してはいなかったらしい。

 何よりも、その言葉の不穏さに明は思わず膝を立ててすぐに立ち上がれるように身を起こした。


 その動きに、室内の侍たちが一気に警戒を増して同じく膝を立たせる。

 佐々木が片手でそれらを制し、そうして淡々と声を上げた。


「…傷つけるな。貴重なサンプルだ」


 その声を合図に、明ははじかれるように後方へ跳んで距離を取った。


 がたがたと音が室内に響く。

 周囲のふすまが一斉に開き、そこからは侍たちがずらりと待機している。

 いつの間にか囲まれていたようだ。


 先ほどの佐々木の言葉があるせいか、男たちは皆刀は抜かずに素手なことが幸運である。


「っちぃ。さすがにこりゃ、やべぇなぁ…」


 ぎりっと言葉を吐き捨て、明は拳を構えた。

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