第9話(マッハサイド):やっぱりここはどこなんだ?
(トリッパーって、もしかするとこの世界じゃそんなに珍しく無いんじゃ……)
斉羽城へと案内、もとい重要参考人として連行されている宮城県民は心の中でグルグルと思考を巡らせていた。
確かに聞こえた。
自分をその斉羽城まで案内してくれると言っていた男の口から出て来た「とりっぱー」が明の考えている異世界トリッパーと言うので間違いが無いのだとすれば、この世界では異世界トリップなんて別に驚く事でも……。
(あれっ?)
そこまで考えて、ふと明は気がついた事がある。
(ちょちょちょ待て待て、この世界では……って……え、この世界って……)
日光の江戸村かと思っていたが、そうで無いのは最初の侍とのやり取りで既に明にも分かっていた。
だけど、こうして改めて考えてみれば「この世界」とか「トリッパー」なんてワードが出て来る事自体がおかしい。
(となれば、ここは……何処なんだ?)
明の頭の中がこんがらがって、だんだんと爆発しそうになって来た。
もしかして、地球ですら無いのでは?
となると、ここはヘルヴァナールの何処かになるのだろうか?
自分が知らないだけで、まだヘルヴァナールにはこう言った昔の日本っぽい場所があったりしたのだろうか?
(しかし……俺が生まれ育った日本の昔の様な光景がヘルヴァナールにあるなんて話、聞いた事が無かったぜ?)
ヘルヴァナールではドラゴンの背中に乗せて貰って、それこそヘルヴァナール世界1周観光をさせて貰った事もある。
それともここは未来のヘルヴァナールなのか?
いや、過去のヘルヴァナールと言う可能性もまだまだ捨て切れない。
(うおおおおおおおおおおおおおお分かんねええええええええええええええええええええ!!)
その屈強な体格とは裏腹にメンタル的に弱りがちな明は、頭を使う事は余り得意な方では無い。
腕っぷしは強い方であると自分では思っているものの、この考え事と腕っぷしの強さは一切関係が無いのでどうしようも無い。
それに、明にはまだ分からない事があった。
(この火消しの頭領……さっき将軍がどうのこうのって言ってなかったっけ?)
先程の大騒ぎの中での会話を思い出して、明は再び思考を巡らせる。
(ってか、将軍に会うってなると城に行くんだよな……城って言うと中世ヨーロッパじゃなくて、それこそ江戸城だとか大阪城だとか、俺の地元宮城の仙台城とかそっち系の城だよな、あれってどう考えてもさぁ)
高くそびえ立つそのシルエットを遠目に見て、明はその存在感に目を奪われる。
(でも、まぁ……別に何か悪い事した訳じゃ無えし、別に堂々としてりゃ問題無えだろ)
悪い事をしていないと言うのであれば、別にビクビクする必要なんかこれっぽっちも無い。
もし理不尽な事が起こるのであれば、その時は全力で立ち向かうだけである。
と言うか、トリッパーが一般的な世界だったらもしかするとそのトリッパーが持ち込んだテクノロジーもこの世界にあるのかも知れないと考え始める明。
(前にも俺みたいに「江戸」って言う奴が居たって事は、シンプルに考えてみりゃあ俺と同じく日本……もしくは日本を知っている外国人が地球からトリップして来た人間の例があるのか。ここが地球じゃないとすれば、地球に良く似た別の世界だったりパラレルワールドって言う可能性も高いぜ。で、で、で、その前に居たトリッパーが持ち込んだテクノロジーってどんなのだろーなー!?)
すでに明の頭の中では、トリッパーがテクノロジーを持ち込んだと言う事が確定している様である。
(2017年の大阪城には、現代風にガラス張りのエレベーターがあるって地元の恵から聞いた事があるからな。まさかあの城にもエレベーターがあるんじゃねーだろうな?)
そしてそれを考えてみると、あの城に居ると言う将軍はどんな人物なのかも気になる。
(予想ではちょんまげだな。それから将軍って言う位だから結構強そうなイメージ……あーでも「よっぽどの事」が無い限りは別に戦おうとかそんな気は起こらないぜ。それから将軍が居るって事は殿様も居るのかな。やっぱりちょんまげとか太いのかな?)
将軍とか殿様って言っても、実際にはそれこそテレビドラマの時代劇の中であるとか和風ネットゲームの中位でしか見た事が無いので、現実に体験している今の状況の中で見られると言うのであれば存分に見ておきたいと明は思っている。
(出来れば写真とかも撮らせて貰いてーんだけど、そこまで贅沢は言えるのか?)
いや、言えないと心の中で反語を呟きつつ、明は赤いカラーパンツのポケットにしまっているスマートフォンの存在を確かめる。
(これがありゃ、色々役に立つかも知れねえけど……まぁ、まずは城に行くとしようか)
スマートフォンで通話まで出来るとは思わないにせよ、この世界の写真を撮って記録しておく事位は出来そうだ。
でも、スマートフォンがこの世界にあるのかどうかは分からない。
迂闊に出せばそれだけで取り上げられてしまうだろう。
それだけは避けたい所である。
そんな事を考えている明の目の前には、何時の間にかその将軍の居城である斉羽城が間近に迫っていた。




