第6話(マッハサイド):江戸時代じゃないの?
でも、明の本能がその瞬間告げだした。
(ここで着いて行ってしまったら、きっと何か良くない事に巻き込まれちまう!!)
勿論、その良くない事が何なのかは明には分からない。
しかしここでこの侍に一緒について行った先には、自分がこの場所から東京に2度と帰れない可能性があると判断したのだ。
少なくとも、今は。
まだ今はこの侍の指示に従って足を止めるべきでは無いと判断し、明はイチかバチかの行動に出る。
「ややっ! ドラゴンだっ!!」
タイムスリップをして来たと言うのであれば、もしかしたらカタカナ文字の単語には気を逸らしてくれるかもしれない。
そう考えた明の行動は……。
「龍だと? 何色だ!?」
「はい?」
イチでもバチでも無く、第3の方向に繋がってしまった様だった。
しかしここで迷っている時間は無い。
明は咄嗟にこう答える。
「あ、青いのだよ青いの!! ほらほらあそこ……あー行っちゃう行っちゃう!!」
「何ぃ!? 青い龍だと!?」
何が発端になったのかは分からないが、侍の顔つきが明らかに変わって明の指差す方向を振り向いて空を見上げ始める。
(今の内じゃ!!)
漫画であれば「シュタタタタ!!」と擬音がしそうな速さで、明は自分が最初に立っていたあの路地裏へと逆戻りをする事に成功。
すぐさま近くの物陰に隠れて、追って来た侍をやり過ごして何とか事無きを得た。
(ああ……危なかったぜ。でもここは一体何処なんだよ!?)
息を整えて落ち着いてみれば、自分が居るこの場所はもしかしたら日本じゃない……いや、そもそも地球かどうかも怪しくなって来た。
(ま、まさかまたヘルヴァナールの時みたいに……!?)
考えられない話では無い。
実際オンラインゲームの世界では中華風の世界や日本風の世界等も存在しているし、こうした異世界があったって何ら不思議では無いのだと明はゲーマーの知識と経験から判断する。
その判断は明に対して大きな不安感と不信感と絶望感と、そしてちょっとのワクワク感をもたらすのに時間は掛からなかった。
(ザラス大陸って言ってたな……あの侍。で、俺の服装に関しても特に驚いた様子は見られなかった。って事は、まさかこんなファッションが存在しているのか!?)
江戸時代風の場所だけって言うのならまだしも、まさか自分のファッションと似た様な場所があるのでは無いか?
そう考えた明は、ひとまずほとぼりが冷めるまで表通りには出ない事にする。
(ここ等辺に居たら、あの侍みたいに巡回している奴が来てもおかしくねえな……)
ならば別の場所に移動して、陽が沈むのを待った方が良いだろうと考えた明は表通りとはまた別の方向である裏路地の奥に向かって歩き出した。
そうしてほとぼりが冷め、陽が落ちるのを待つ事4時間。
腕時計で時間をチェックしながら非常に暇な時間を過ごしていた……訳でも無かった。
裏通りを見て回るだけでも、今の日本ではそれこそ日光の江戸村位でしか見られない様な風景が色々あって面白かったのだ。
裏通りから別の裏通りへと歩き、それから表通りは小走りで横断して別の裏通りへ。
賑やかさを避けつつ観光してみるだけでも、のれんの出ている店や家を見て回ったり怪しい場所に好奇心で少し近づいてみたりして、何だか結果オーライと言うべきなのか充実した時間を過ごしていた明。
そんな明は裏通りを歩き回り、気が付けば1つの大きな屋敷の前に立っていた。
(へーえ、何だか金持ってそうな奴の住んでそうな場所だぜ)
あくまで予想でしか無いのだが、こう言う場所で時代劇と言えば修羅場がありそうな気がしないでも無い。
そんな思いで屋敷の周りを見張りに見つからない様に見物していた明だったが、まさかの事実にぶち当たる。
(あれっ、門が開いてる? 不用心だなぁ……)
と思いつつも、ちょっとだけなら見ても良いかな……と明らかな不法侵入で警察……いや、岡っ引きに連行される行動を明は取ってしまったが、これが罰になったのかとんでもない事実を目撃する事になってしまう。
それが夜のいかがわしい密会現場……どう考えても闇の取引と言えるものだった。
これまでのそんな事を回想しつつ、俺には関係無いし……とさっさと中庭部分から立ち去る事を決めて明は忍び足で立ち去る。
(俺は時代劇の黄門様でも無ければ、桜吹雪の人でもねえよ……)
自分にはそんな力は無いし、これ以上の厄介事に首を突っ込むのは避けようと自分の行動を反省しながら自分が忍び込んだあの開けっ放しの出入り口へと向かった……筈が。
「おらあ、さっさと来いやぁ!!」
「やめてぇ、放して下さい!!」
(えっ!?)
咄嗟に灯篭の陰に隠れた明の目に飛び込んで来たのは、着物姿の若い人間が明らかにそれっぽい風貌のガラの悪い男達に引っ張られ、屋敷の中に連れ込まれるシーンだった。
明は灯篭の陰で息も気配も殺しながら、その集団が過ぎ去ってくれるのを待つばかりだった。
(すまねぇ~~!! お、俺だって修羅場なんだよ!!)
それに5人いっぺん相手は無理なので、明は心の中で謝罪するしか無かった。




