第5話(マッハサイド):過去にタイムスリップ?
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Virtua Quest - Tsukiyoi Castle
https://www.youtube.com/watch?v=EYaS9oXqsP8
そもそも、何で明は自分がこの様な場所に居るのか、そして何故にこの様な事態になっているのかを移動しながら考える。
(前に俺がトリップしたのがヘルヴァナールで、あれは典型的な中世ヨーロッパ風の世界……そして今度はタイムスリップって奴か!?)
13歳から3つの格闘技を習得し、現在ではパチンコ店店長ながらもロールプレイングゲーマーでもある明は兼山や連と一緒にコンシューマーゲームやネットゲームのロールプレイングゲームをプレイする事が良くある。
ロールプレイングゲームでは和風世界や日本チックな民族等が居るのは当たり前であるとの認識であったが、まさか自分がそんな和風の時代にやって来るとは思いもしなかった。
(まさか、伊達政宗とか居るんじゃねーだろーな)
そうだとしたら喜んで良いのかビックリしてしまうのか。
実際にそう言う状況になってみなければ分からないと、伊達政宗の出身地である宮城県出身の明は複雑な心境である。
六本木の洋子のクラブで謎の虹色の光に包まれた明は、光が収まってみると自分が変な場所に立って居る事に気がついた。
ビルの一角で経営している洋子のそのクラブの床とは全く違う、硬めではあるものの靴の裏から伝わって来るその地面の感触は間違い無く土であったのだから。
しかも周りを見渡してみれば、それこそ時代劇のドラマや社会の教科書でイラストとして掲載されていたものとしてしか見た事の無い、純和風の建築様式の建物ばかりだった。
和風世界のロールプレイングゲームでもそうした背景はモデリングされてグラフィックとして再現されているが、目の前に佇んでいる瓦屋根の建物はどう考えても現実だった。
(まさか、俺は日光江戸村にでも来ちまったんじゃ……!?)
路地裏から少し進んだ……と言うよりも1本向こう側の通りからはザワザワと人々の賑わう声が聞こえて来る。
とにかくそっちの方向に向かってみれば何か分かるかもしれないと思い、明は焦る気持ちを存分に前面に押し出した表情と走り方で路地裏を駆け抜ける。
だが、その路地裏から表通りに出てみた所で見えた光景は明のイメージよりもはるかに大きなものだった。
(……あっ、ここ江戸村じゃねーや)
人間は予想外のシチュエーションに直面した時、パニックになるか妙に冷静になるかが分かれるらしい。
正常性バイアスとも呼ばれるのであろうこの現象に、明はまさに今直面していたのだった。
何故ならば、明が見上げるその視線の先には明らかに大きな城がある。
しかも、表通りを歩いている人間達は揃いも揃って江戸時代の格好である。
ちょんまげ、着物、腰に刀の侍、駕籠を使って運ぶ男達等々、どう見ても今の明の現代ファッションとは似ても似つかない、と言うかそもそも比べ様の無い江戸時代そのものの風景がそこにはあった。
(って事は、ここは江戸なのか……?)
ならば本当に自分はタイムスリップしてしまったのだろうかと思いながらも、ひとまず近くに居る侍に声を掛けて情報収集開始。
「あー、すみません、聞いても良いかな……?」
「む、何用だ?」
「えーと、ここって一体何処なんでしょう?」
次の瞬間、明は自分の耳を疑う以上の物凄いショックを受けてしまう回答をその侍から貰う事になった。
「ここか? ここは陽明国の首都、斉羽だろうが。その恰好からするとザラス大陸の他の場所からやって来たのか?」
「は、はぁ……?」
何処だ、陽明国って。
何だ、斉羽って。
そもそも、ザラス大陸って一体どう言う事なんだ。
見事……かも知れない様なそうでも無い様な3段落ち……にすらして欲しくないその回答に対して、明はうーんと腕を組んで悩む。
(ど、どうリアクションすりゃー良いんだ俺は!! ここは来たふりをすれば良いのか? それとも正直に答えるべきなのか!?)
メンタル面で脆さがある明は、こう言う時に優柔不断になりがちな一面がある。
それでも答えなければ先には進めない。
だから、明はこんな回答を侍の質問に対してしてみた。
「まぁ、そんな所なのかな。ちょっとど忘れしてしまって……はは、それじゃどうも!」
今は場所が分かっただけでも良いのかも知れないと思い、自分で色々と見回ってみて現状をもっと把握してみようと考えた明は礼を言い、くるりと侍に背中を向ける。
……が。
「怪しいな」
「はい?」
背中から掛かった声に対して、明はバッと勢い良く後ろを振り向く。
そこにはいかにも、逃げる事は許さないと言う雰囲気を身に纏った侍の姿が。
「い、いやいやちょっと待ってくださいよ、俺の何処が怪しいって言うんですか。ほら、何処からどう見たって好青年じゃないですか~やだなぁ~はは……は……ははっ……」
もはや乾いた笑いしか出て来ない。
目の前の侍の目から察するに「お前の何処が好青年なんだ」と言う突っ込みの心境しか見えない。
そもそも、相手から見て左側が黄緑で右側がオレンジの髪の色をした、Tシャツの上からでも分かる程筋肉質な肉体を持っている、和装とはかけ離れたファッションスタイルの男に好青年だと言われても説得力が無いだろう、と明は侍に言われている様な気がした。




