大きなネコさんと鳥さんとトカゲさん
くろいかげ……。
こわい……だけど……。
彼は、形の伴わない虚ろな世界で微睡んでいた。
「モフ、モフ……」
名前を呼ぶ声が聞こえる。声は、少しずつ遠ざかっていく。
とても寂しい。
(ご主人様……)
「おい、大丈夫か?」
「う、う~ん」
「おいっ?」
「うん?」
(誰かぼくの身体を揺すってる……ご主人様かな?)
微睡の中にいた彼は、目を開けて起き上がり、身体をブルブルとさせる。そして、辺りをぼんやりと見回した。
周りは見たこともない緑の景色。たくさんの木々が生えており、どこかの森のようだった。
「ここどこ?」
「ここどこ、じゃねぇよ。寝ぼけてんのか?」
「ん?」
声が聞こえた方へ振り向くと、そこには見たこともない動物がいた。
その動物は、真っ黒な毛に覆われた、見た目は猫のような動物。
見た目は猫であったが体格は普通の猫とは違い、近所に住む猫よりも何倍も大きく、彼とさほど変わらなかった。
だが、動きは彼とはまるで別物。
でんと構える彼とは違い、大きな猫はとてもしなやかそうな動きを見せている。
「キミ、だれ? ネコさん?」
「ねこさん? なんだそいつは? それに誰かと聞きたいのはこっちなんだが……まぁいい。俺はシゼルのトーマだ」
「シゼル?」
「そうだ。風のように地を駆け、空を走るように木を登り、魚のように軽やかに泳ぐ。このシーラスの森一番の戦士の一族だ」
「ふ~ん」
「なんだ、その反応……それで、お前は? ここらでは見かけない獣のようだが」
「ぼく? ぼくは秋田犬のモフだよ」
モフと名乗った秋田犬は、身体が大きくがっしりとしており、ピンと張った三角の耳と、くるんと巻いた尻尾を持っていた。
背中の毛は茶色で、胸からお腹にかけては真っ白。
丁寧に手入れしてあるのか、モフの毛はふわふわであった。
トーマは聞き慣れぬ獣の名前に、片耳を折りながら訝しんでいる。
「あきたいぬ?」
「そ、いぬだよ。名前はモフ」
「いぬねぇ……聞いたこともない獣だな。どこから来たんだ? 何しにこの森に?」
「何しに? 何だっけ、どうしてここに居るんだろう? 何かあったような?」
モフは首を傾げて、何があったのか思い出そうとする。だけど、記憶は霞がかっていて捉えどころがない。
「ん~、覚えてないや」
「はっ?」
「あの、ぼく、おうちに帰りたいんだけど、ここどこ?」
「いや、だからシーラスの森と……いまいち、要領を得ない奴だな。図体はでかいし強そうに見えたんだが。ただの間抜けなのか?」
「まぬけはひどいよぉ。それより、ご主人様知らない? 勝手に出歩いてると困らせちゃうから、早く帰らないと」
「ご主人様? お前、誰かの御付きなのか? そのご主人様とやらは、どんな獣なんだ?」
「ご主人様はにんげんだよ」
「なっ!? 人間だとぉっ!?」
トーマは、急に大きな声を上げてモフに牙を剥き出す。
「ウウゥ~、貴様! 人間の回し者かっ! 事と次第によっては容赦しねぇぞっ」
「ど、どうしたの? なんで怒っているの?」
「何故怒ってるかだって? 当然だろっ! 人間は俺たち獣の敵だからだ!」
「そ、そんなことないよ、にんげんはいいやつだよ」
「ふざけた事をぬかすな!!」
「ひゃっ」
トーマの大きな声にビックリして、モフは耳をパタリと下げた。
トーマは牙を剥きだしたままでしゃべり続ける。
「俺だって、弱肉強食の掟は知っている。弱き者は食べられる……だけど、人間達は違うっ! 俺らを食べるわけでもなく、ただ狩りを楽しむだけっ。そのためだけに俺たちを殺すっ!」
モフは勢いに押されて、ずっと黙っていた。
でも、モフの知るにんげんは、そんなことはしない。
とっても優しくて、おいしいご飯をくれる良い人たち。だから、トーマの言うようなひどいことは絶対にしないと思っていた。
だけど、トーマが嘘をついているようにも見えない。
(ここに住むにんげんは、わるい人たちなのかな? わるい人……?)
霞みがかった記憶の中に、くろいかげが浮かぶ。
そのかげを思い浮かべると、何だか胸がざわつく。
しかし、それが何故なのか分からない。
(ま、いっか。わるい人もいるだろうし。でも、いい人だってたくさんいる)
モフは胸のざわめきについて、さほど気にする様子もなく、トーマに自分の知るにんげんのことを知ってもらおうと思った。
「ねぇ、トーマ」
「なんだっ」
「トーマの知っているにんげんはわるい人かもしれないけど、ぼくの知っているにんげん、ご主人様はいい人だよ」
「……は?」
「だから、ぼくもいい犬。いい動物だよ。だから、心配しないで」
「はぁ……?」
「もう、怒るの止めようよ。悲しくなっちゃうから」
「はぁ~、なんだコイツ……」
モフが一生懸命に説明をしているのに、トーマは呆れた様子を見せる。
モフはその態度に、ちょっとムッとした。
「むぅ~、失礼しちゃうなぁ」
「失礼しちゃうって……あ~あ、それは悪かった悪かった」
「あ、そうだ。ところでトーマ」
「あ~、なんだ?」
「僕のおうちどこ?」
「そんなもん俺が知るかっ!」
「ねぇねぇ、トーマ待ってよ」
「…………」
トーマはモフを無視して、森の中をズンズンと進んでいく。
モフは何か気に障るようなことをしてしまったのだろうか?
だけど、怒っていたとしても、なにがなんでも帰り道を教えてもらわないと、モフは困ってしまう。
「ねぇねぇ、トーマってば」
「うるさいなぁ、なんでついてくるんだよ?」
「他にどうしようないから」
「はぁ~、変な奴に関わっちまったなぁ。もう、どっか行けよ、しっし……ん?」
トーマは途中で言葉を止めて、モフのお腹の部分を見ている。
「おい、お前、腹を怪我してるのか?」
「え?」
トーマに言われて、モフは自分のお腹の部分を見る。
すると、真っ白なはずのお腹の毛の一部が赤色に染まっていた。
モフはその部分に顔を近づけてみる。そこには傷があったが、それは小さく、出血もすでに止まっているみたいだ。
モフには、その傷がいつできたのか覚えがなかった。
「なに、この傷……? あれ、これって……ううう」
その傷を見ていると、ズキリと頭に痛みが走った。
霞が掛かる記憶の向こうにいる、くろいかげ。それが揺らり揺らりと近づいて来る。
そのかげは、とてもこわいもの。
モフはブルブルと身体を震わせる。
様子のおかしいモフを見て、トーマが怪訝そうに声を掛けてくる。
「どうしたんだ、おい?」
「えっ?」
「大丈夫か?」
「うん……たぶん」
「おかしなやつ」
トーマの声で気が逸れて、モフの恐怖心はすっかり消えてなくなっていた。その代わりに、家に帰らなきゃいけないことを思い出す。
「そうだ、おうち。トーマ、ぼくはおうちに帰らないといけないんだ」
「俺に言ってどうする? 俺がお前の家なんか知るわけないだろ」
「じゃあ、一緒に探そう」
「なんでそうなるんだよっ。はぁ~……むぅ」
トーマは立ち止まって、大きく息を吐いたかと思うと、顔を傾けて難しい顔を見せた。
だが、すぐに何かを思いついたように言葉を出す。
「あ、そうだ」
「なにっ、おうち知ってるの!?」
「ちがうっ。食いつきがはえーよ。ただ、知ってそうな獣に心当たりがあるだけだ」
「だれ、だれ、だれ?」
「鬱陶しいなぁ……森の守り神様であるデュカット様だよ」
「神様なの?」
「ちがう、守り神って言われている獣だ」
「どんな感じの動物なの?」
「会えばわかる。こっちだ」
トーマは歩き出して、近くの茂みの中へと入っていく。
「あ、待ってよ~」
しばらくてくてくと歩いていると、洞窟が見えてきた。
「この中にいるの? 守り神って動物が」
「ああ、くれぐれも失礼のないようにな」
「大丈夫だよ、ぼく、お手もお座りも待てもできるくらいだし」
「……へぇ~、そうか~」
トーマは不安そうな表情を見せて、とぼとぼと歩き始める。
モフはトーマが自分のことを信頼してくれないことが、少し寂しかった。
(ぼくは知らない人や動物に吼えたり、噛みついたりしないのになぁ……)
モフがトーマに案内されて、洞窟に入ろうとすると、頭の上の方から声が聞こえてきた。
「ちょいと、待ちなさい。あなたたち、ここに何用?」
モフが何だろうと思って上を向くと、そこには大きな鳥さんがいた。
鳥さんはモフたちの目の前に舞い降りる。
「久しぶりね、トーマ」
「なんだ、リフォンじゃないか。驚かせやがって」
「あら、トーマは怖がりねぇ」
「んだとっ」
トーマは大きな鳥さんと知り合いのよう。
二匹の軽妙なやり取りをよそに、モフは見たこともない鳥さんを、興味深そうにジッと見ていた。
(ご近所に住んでいる、南国に住む派手な鳥さんっぽいなぁ)
鳥さんの背丈は、モフが四本足で立っている状態から、頭一つ分飛び出ているくらいの大きさ。
頭の方は赤色の羽毛で、胸の部分に白の羽毛を挟んで、胴体は薄い緑色になっている。太陽の光を受けると、羽がキラキラと光って、とても綺麗。
「あの、鳥さんだーれ?」
「あら、これは失礼だったわね。私はグレム族のリフォン。森一番のオシャレさんよ」
「おしゃれ?」
「そう、この煌びやかな羽が自慢なの。それであなたは誰なの?」
「僕は秋田犬のモフだよ。お姉さん」
「やだ、お姉さんだななんてっ」
リフォンと名乗った鳥は、モフの『お姉さん』という言葉に反応して、照れている様子。
なんでだろうと、モフが首を捻っていると、トーマがその理由を教えてくれた。
「モフ、そいつは男だぞ」
「え、そうなの。ごめんなさい、きれいだったから勘違いしちゃった」
「綺麗……フフン、いいのよ別に。中々良い子ね。それで、あきたいぬだっけ? 知らないわね。どこから来たの?」
「わかんない」
「ん、それはどういうこと?」
モフとリフォンは見合って首を傾げる。
その様子を見て、トーマが面倒くさそうにリフォンに事情を説明する。
「こいつが何者で、どこから来たか分からないから、デュカット様にお伺いを立てようとな」
「ああ、それで。じゃあ、私が案内してあげる。ついてきなさい」
リフォンは身体を左右にひょこひょこと揺らせながら、洞窟の中に入っていく。
その後をモフは急ぎ足で追いかける。
「うん、わかった。ほら、トーマ。いくよっ」
「ああって、なんでお前が俺に指図してんだよ。全く、調子の狂う奴だな」
モフはリフォンの案内で、デュカット様という動物に会うために洞窟に入っていった。
モフは洞窟内部が興味深いのか、首を上下左右に振りながら、落ち着きなく歩いている。
洞窟の中は薄暗く、外の地面とは違いでこぼこしていて、とても歩きにくい。それに外よりも、気温がずっと低かった。
「ねぇ、リフォン。洞窟の中、少し寒いね」
「そうねぇ、寒いの苦手?」
「ううん、雪好きだし。暑い方が苦手。リフォンは大丈夫なの、洞窟の中?」
「私は寒いのも暑いのもへっちゃらよ」
「そうじゃなくて、鳥って暗いところだと目がよく見えないって聞いたことあるけど」
「まーね。でも、グレム族は上級種だから、普通の鳥族と違ってその弱点は克服してるわよ」
「じょうきゅう? 暗いところでも目が見えるから、フクロウさんなのかな?」
「ふくろう? あなた、何を言っているの?」
「二匹とも、おしゃべりはそこまでだ。広間に出るぞ」
歩きにくい道を抜けると、大きな空洞に出た。ただっぴろい空間の奥には、背の高い大岩があって、そこのてっぺんに何か大きな動物がいる。
トーマは岩の上を見上げて、大きな動物に丁寧な口調で話しをかけた
「デュカット様、失礼いたします。少々、お時間をよろしいでしょうか?」
「おお~、その声はトーマか」
大きな動物がのそりと首を上げると、モフはちょっとびっくりした声を上げた。
「ふわ~、でっかいトカゲさん」
大きな動物は全身が緑色の年老いたトカゲさんだった。背中には普通のトカゲさんにはない、蝙蝠のような大きな羽が生えている。
モフがあんぐりと大きな口を開けて見ていると、トーマとリフォンから怒られた。
「お前っ!? 失礼だぞっ!」
「あなたっ!? なんてことを!」
「え?」
モフは何で怒られているのかわからなくて、首を傾げてしまう。
その様子を見た大きなトカゲさんが、大きな笑い声を上げた。
「ふぉっふぉっふぉっ、トカゲとは。これはまた、愉快なことを」
「申し訳ありません、デュカット様。誇り高き龍族に対して、このような非礼をっ」
「ええ、本当に申し訳ありません。この子、ちょっと変わった子でして」
トーマとリフォンは慌てた様子で、龍族とかいうデュカットに謝っている。それを見て、モフはちょっと不安になった。
(怖い動物なのかなぁ?)
しかし、その不安とは裏腹に、デュカットは怒ったような雰囲気を見せなかった。
「よいよい、その獣は私を知らんのだからな。だろう、異界の獣よ」
「いかいのけもの? ぼくは秋田犬だよ、おじいさん。名前はモフっていうんだ」
「ほう、秋田犬というのか。中々よい毛並みをしておる獣じゃのう」
「うん、いっつもご主人様が手入れをしてくれるんだ」
「そうか、それは良い主人に巡り合えたのだな」
「うんっ」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「そ、そうよ、何よ今の話!?」
トーマとリフォンが、モフとデュカットが会話を遮るように、驚いた声を上げてきた。
「異界の獣? 何ですか、それはっ?」
「このモフって子、別の世界から来た獣だとおっしゃるの、デュカット様」
「いかにも。それで、帰り道を探しておるのだろう、モフよ」
「すごーい、おじいさん。なんでわかるの?」
「この森で、起こることはなーんでも、知っておるからなぁ」
「すごいすごい。じゃあ、ぼくのおうち、どこにあるのか知ってるの?」
「もちろんだとも。古城の遺跡の奥深くにある門が、誤作動を起こして動いておるのじゃろう。その遺跡に向かえば、門がお前を家へ帰してくれる」
「ほんとっ! それじゃ、ご主人様に会えるんだねっ!」
「ああ」
「わーいっ」
モフはとっても嬉しくて、その場でぐるぐるとまわり始めた。
浮かれ、はしゃぎまわるモフを見ながら、トーマが何やらぶつくさと言っている。
「全く、騒がしいやつだなっ。人間の主の何がいいんだか……?」
その言葉に、リフォンが耳を疑うような態度を表した。
「人間の主? どういうこと、トーマ」
「ああ、言ってなかったな。モフのご主人様とやらは人間らしい」
「人間が? もしかしてこの子、私たちの敵なのかしら?」
「あれが、そう見えるか?」
モフはまだぐるぐると同じ場所を回っている。
「ああ、そうね……」
「それにあいつは、別の世界の獣なんだろ。敵も何もないだろ」
「そうだったわね。信じがたいけど……」
二匹は呆れた様子で言葉を交わす。
そこにデュカットが会話に加わってきた。
「あの子には、人間の主がいるのか?」
「え、ええ、そうみたいです。馬鹿げた話ですが」
トーマが言葉を返すと、デュカットは目を細めて、優しげにモフを見つめた。
「そうか……あの子のいる世界では、まだ人と獣が共に暮らせているのか……」
デュカットは、はしゃぎまわるモフを通して、何かを思い出しているようだ。
「フフ、つまらない感傷か……モフよ」
「うん? なに」
名前を呼ばれたモフはようやく回るのを止める。そして、首を傾げてデュカットを眺めた。
「お前は珍しい異界からの客人だ。せっかくだから、わしから加護を授けよう」
「かご? 何それ、おいしいの?」
モフは加護の意味が分からず、首を捻るばかり。
そんなモフとは違い、トーマとリフォンは驚いた表情を見せる。
「デュカット様、何もそのようなことを」
「そうよ、異界の獣だか何だかわからないけど、そんなことしなくても」
「よいよい、懐かしい良き記憶を思い出させてくれた礼だ。これ、モフ、少し前へ」
「うん? 何かくれるの?」
「ああ。まぁ、大したものではないがな。むぅ……」
デュカットが小さくうなり声を上げると、モフの頭上にキラキラした光が降ってきた。
光はモフのふわふわの毛にくっつくと、弾けるように消えていく。
「何これ? きれーい」
「ま、お守りみたいなもんじゃ。トーマ、リフォン」
「はい、何でしょうか?」
「なにかしら?」
「今からモフを遺跡まで案内してやってくれ。門がいつまでも開いているとは限らんし」
「え……ま、まぁ、いいですけど。なんでリフォンまで?」
「なによ、私に何か文句でもあんの?」
「移動するのに、鳥のお前だと邪魔だろ」
「やだ、それって嫉妬? だから、地べたをはい回るしか能のない獣は」
「なんだとっ?」
「なによっ?」
トーマとリフォンは、お互いに顔近づけて睨みあう。それをデュカットが諌める。
「これこれ、よさんか」
「ぐぬぅ~」
「むぎぎぎ」
二匹は互いに納得のいっていない様子だったが、デュカットに間を入られては、これ以上争うわけにもいかず矛を収めた。
「それでよい。獣同士、仲良くせんとな。トーマ、お前はモフの道案内と護衛を頼む」
「はい」
「リフォン、お前は彼らの目になってやってくれ」
「私が目に? ということは……」
「うむ、人間が森の中に侵入しておる」
「やーね、性懲りもなく。わかりました。人間と鉢合わせならないように心掛けます」
「頼んだぞ。それと、お前たちは異界の門へ近づくな。あれは、我らにとっては危険な代物だからな」
「わかっています。俺たちはこの森以外では暮らせませんからね」
「そうね、気を付けるわ」
みんながモフを家に帰してあげるべく話をしている。しかし、そのことを理解しているのかいないのか、モフは彼らに催促してきた。
「ねぇねぇ、早く行こうよ。ご主人様に会いたいんだからさぁ」
「はぁ~、どんだけ人間の主が好きなんだ、こいつは……」
「異界だか何だか知らないけど、ホント変わった子」
「はやくはやく~」
モフは広間の入口部分を左右に行ったり来たりしている。
「わかったわかった。それではデュカット様、あの間抜けを案内してきます」
「私も、失礼しますわ」
「うむ、くれぐれも人間には気を付けてな」
「はい」
「ええ」
二匹はデュカットに返事をすると、モフの元に向かう。
モフは自分に近づいてくるトーマとリフォンを、尻尾を激しく振りながら出迎えた。