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あるのじゃ  作者: のじゃー
9/19

9

 ーー翌朝。

 食事の席でアルテが唐突に提案してきた。


「ねえねえ、街に行こうっ!」


 何故いきなり?

 そう思ってしまうのも無理はないだろう。

 先日のアルテ先生の授業では、街のことを散々扱き下ろしていたのだから。

 曰く、汚ない上に穢いので、行くと色んな意味でよごれるのだと。


「危機意識を持って欲しいから少し大袈裟に言っただけだよっ!」


「内容が生々しくて、とてもそうは思えんかったが……公開処刑の話などドン引きだったぞ」


「これから行くところは安全だからっ! ねっ?」


「むぅ……アルテがそう言うならば構わんが……、何か目的でもあるのか?」


「お買い物だよっ!」


 そういうことならと、食後のアルテに流されるまま森から出て街に向かうことになった。

 

(……ま、一度は自分の目で異世界の街を見てみたいと思っておったから、いい機会じゃな)


 魔法でふわりと浮かびあがるアルテ。

 その魔力の流れを自分も真似てみると、飛翔するというよりは海を泳ぐように身体が突然ふわふわ宙に浮かんだ。


「わ、ちゃんと飛べるんだ!出発ーっ!」


「むぇ!? 待っ……!!」


 そのままアルテの魔力に無理矢理引っ張られて空高く舞い上がり、2人並んで大空に舞い上がる。

 風を切って飛び始めると、景色が緑一色の密林から山岳地帯や湿地、荒野や砂漠や雪原等々目まぐるしく変わっていく。


(こ、この高さから落ちたら間違いなく死ぬじゃろうな……)


 雲の上からの眺めは絶景ではあったが、恐怖でそれどころではなかった。


 ーー数刻後。


 ようやく環境に慣れて自分だけで飛べるようになると、景色を楽しむ余裕が出てきた。


(おおぉ……!)


 地上には魔物と呼ばれる異形の生物がひしめいている。

 空には小型の蜥蜴ーー飛竜が飛び回り、遠く地平線の近くには超巨大な亀のような生物が見える。

 ぐるりと首を回して反対側に目を向けると、大地が空に浮かんでいたり、雲を貫く高さの樹木が生えていたり、といった具合に、元の世界では考えられない光景が溢れていた。

 

「本当にここは異世界なんじゃな!」


 未知の世界を前にして、年甲斐もなく心がわくわくしている自分がいた。

 アルテに出会わなければ今も陰鬱な密林で暮らしていたと思うと、この妖精には感謝してもしきれない。


「のう、アルテよ」


「なになに?」


「その、ありがとう。お礼を言いたくなったのじゃ……アルテには色々と感謝しておってじゃな? そのぅ……もしアルテと出会えねば、わしはあの森で一生を終えていたかもしれんし……」


「……」


「あ、あれじゃ!! いつか何かの形で恩に報いたいと思うておるから、よければこれからも一緒に居て欲しいのじゃ!」


「…………わたしこそ……」


「アルテ?」


「……ううん! 何でもないっ! えへへ、こちらこそよろしくねっ!」


 アルテは口調こそ明るいが、何故かその顔が泣き笑いのように見えて胸がもやもやしてしまう。

 どうすべきか迷った末、魔法を微調整してアルテにスッと近寄り、自分がいつもされていたように指でそーっと頭を撫でてみることにした。

 拒絶される事はない……はず。


「ふぇ……?」


「嫌であったらなら言ってくれればやめるが……」


「あわ、あわわわっ!」


「ど、どうじゃ……?」


 するとアルテは狼狽して、言葉にならないのか口をぱくぱくさせている。

 柄にも無く照れていた。

 

「……あ、ありがとっ!」


 それからは話題をがらりと変えて、今まで世界中を旅してきたアルテの冒険譚などの当たり障りがない話をしていた。


「ーーでね、耳長族(エルフ)の国にある世界樹は近くで見るとすっごく綺麗だったんだよ!今度わたしが連れていってあげるっ!」


「ふふっ、それもよいが、やはり空に浮かぶという浮遊都市の話が一際心踊ったのぅ」


「えー、海底都市の方がいい眺めだったよ?」


 そんな話を続ける内に、どこかの山脈の中腹辺りに差し掛かり、ぼこぼこと小さな穴が大量に空いた崖が見えてきたところでアルテがそれを指差した。

 

「あそこが煌めきの都市ファレーズだよっ!」


「ほう、これが異世界の街……」


 遠目からでは、岩肌が露出した単なる巨大な断崖にしか見えない。

 現に、アルテに言われるまで景色の一部としか見ておらず、街などと考えもしなかった。

 数キロ規模で連なる峡谷のいったい何処から何処までが都市なのか、穴ボコの全てが地下都市に通じるものだとすれば、全容を把握するのは簡単にはいかないだろう。


(これは断崖絶壁をそのまま利用した天然の要塞じゃな。恐らくは戦争や侵略行為を見越して……)


 そんな事を考えながら宙に浮かんでいると、バサバサと翼をはためかせて3匹の飛竜が接近してきた。


「そこの白い奴、都市ファレーズに何用だ!」


 叫んだのは飛竜の背に乗った軽装な女性だった。

 くすんだ赤髪を風に靡かせながら片手で竜の手綱を持ち、もう一方の手でこちらに長槍を向けてくる。

 よく見ると、その子以外にも2匹の飛竜の上にはそれぞれ1人づつ小柄な人間が乗っており、こちらも険しい顔で武器を抜いている。

 哨戒要員に見付かったのだと気付いた。


『アルテよ、どうするのじゃ?』


『わたしの事は認識できていないと思うから、あなたが対応してねっ!教えた通りにすれば大丈夫っ!』


『ふむ、分かった』


 空間魔法を発動して、先日アルテが採ってきたリンゴのような果物を取り出す。

 リンゴがよく見えるように頭上に翳しながら事前の打ち合わせ通りに口を開く。


「あー、わしは宝玉を買いにきたのじゃ。お金の代わりにアプルの実を幾つか持参しておる」


「そ、それはっ」


 リンゴーーアプルの実を見せた途端、赤髪の女性が動揺を顕にする。

 そんなに甘いものが好きなのだろうか?


「念のため、本物か確認させてもらうぞ!」


「うむ、分かったのじゃ」


 アプルの実をポイッと放り投げる。

 するとその行動が予想外だったのか、赤髪の女性は果実を受け取り損ない、危うく落としかけて顔色を蒼くしている。


「お、お前ぇぇ!いきなり何をするんだ!?」


「うむ、すまん……」


 さすがに行儀が悪かったと反省して頭を下げると、赤髪の女性は何か言いたげにしながらも一旦矛を納めた。

 他の飛竜に乗った青髪の少女も近付いてきて、アプルの実をまじまじと眺めている。


「あの、ルーベンス隊長、それ本物なんですか? 偽物だったりしません?」


「昔、1度だけ実物を見たことがあるのだが……この魔力は間違いなく本物のアプルだ」 


「えっ? どうするんですかこれ、大変な事じゃないですか!?」


「うるさいぞラピス!上の判断を仰ぐしかないだろう!」


 ギャーギャーとかしましいやり取りを終えたのか、ルーベンスと呼ばれた赤髪の女性がこちらに関心を戻した。


「待たせてすまない。街に案内する前に幾つか聞いておきたい事がある」


 こうしている間もルーベンスの部下らしき一人が穴ボコに向かって飛んでいるところを見るに、報告に向かったから暫く待って欲しいのだろう。


「何が知りたいのじゃ?」


「まずは……っと、その前に自己紹介くらいはしておこうか。私は都市ファレーズ所属、飛竜部隊の隊長ルーベンスだ」


「わしはナナシじゃ。宜しく頼む」


 名前に関しては記憶が無いので、一時的な措置として安直に【名無し】と名乗ることにした。


「ナナシ殿の目的は"宝玉"に相違ないんだな?」


「うむ。それから服や生活用品など、とにかく色々と手に入れたいと思うておる」


「商人というわけか」


「まあ、当たらずとも遠からずかのう。魔石の類であれば幾つか売ることも出来るぞ」


「その大きさ……」


 再び空間魔法で、以前倒したケルベロスの魔石を取り出す。

 直径30センチ程もある巨大な魔石を、ルーベンスは眉間に皺を寄せてまじまじと観察して、やがて重々しく口を開いた。


「ナナシ殿は何者なんだ……」


「何者とは?」


「飛竜を用いず独力で空を飛び、事も無げに空間魔法を扱い、取り出したのは災厄クラスの魔物の魔石ときた。気にならない訳がないだろう。初めは魔道具で見栄を張った幼い普人族かと思ったが……」


「わしは龍人族らしいぞ」


「はあっ!?」


「まあ見ておれ」


 スゥっと肺一杯に息を吸い込み、上を向いて口から灼熱の息吹を吐き出した。


 ーーゴオオォォッッッ!!!!


 森の中では燃やしすぎないように息吹(ブレス)の威力を抑えていたのだが、今回は遮るものが何もない大空という事で被害を気にせず初めて全力で放った。


(おぉ、なんとも爽快じゃ!)


 身を焦がすような火炎は今までと比較にならない程に強大で、口を頂点に円錐状に果てしなく大きく拡がり、どんよりと空を覆っていた分厚い雲を一瞬で消し飛ばした。


(いい天気じゃー)


 自分の上空だけぽっかり雲が消し飛び、まるで偉業を讃えるかのように燦々と降り注ぐ眩しい太陽の光。


「あ……あ……?」


 その光景を見たルーベンスはピシリと石のように固まった。

 ちらっと眼を向けると、視線に気付いたルーベンスがブルブル小刻みに身体を震わせて、泣きそうな顔で助命を嘆願し始める。


「ひっ…………な、ナナシ殿……いや、ナナシ様!! 今までの非礼をお詫び申し上げます!なので、命だけはどうか、寛大な処置を……!!」


 ルーベンスが乗っている飛竜も突然ギャーギャーと怯えた鳴き声をあげて、10メートル近く後退して距離を取った。

 アルテが肩の上で楽しそうに笑っていたので念話を繋げる。


『言われた通りにしたが、些か効果が有り過ぎたのではないか?』

 

『これは変なことに利用されない為に必要な事だよっ!』


『理屈は分からんでもないが……』


 今まで比較対象がアルテしか居らず、自分の力がこの異世界でどの程度のものなのか正確に理解できていなかった。

 なので、身を護るために力を示した方がいいと言うアルテの言葉に従ったのだが、その結果が命乞いというのはどうしたものかと途方にくれる。


(ルーベンスの怯えようから推察するに、それなり以上に強い部類に入るということは分かったが……)


 そこでふと思い付く。


「がおー」


「ひぃぃ!?」


「……」


 棒読みで吠えただけでこの怯えようだった。


(……むぅ、やはりこれはやり過ぎ……いや、舐められることが無いのであれば、それでよしとすべきかの)


 そんな暢気な事を考えている間に、崖の穴から飛竜がわらわらと姿を現して、あっという間に取り囲まれてしまう。

 先程報告に向かった、ラピスと呼ばれた青髪少女がルーベンスに近付き何やら伝言を伝えている。


(何やら揉めておるようにも見えるが……危険人物扱いされて、このまま襲われたりせんじゃろうか?)


 盗み聞きは悪いと思ったが、不安に駆られて風魔法でルーベンスとラピスの会話の音を拾うことにした。


「ーーなので、オブシディアン様が直接会いたいと仰っておられるんですってば!」


「ば、馬鹿を言うな!あの白い(むすめ)は龍人族なんだぞ!?」 

 

「え"っ……、あはは……いやですねルーベンス隊長。こんな時に笑えない冗談なんてやめてくださいよ」


「ただの子供が雲を吹き飛ばすなど、本当にできると思っているのか?」


「なんですかそれ……、まさか、あの分厚い雲に空いた穴って、あの白い()がやったんですか!?」


「そうだと言っている!見てなかったのか!?」


「は、はい!なんかすごい魔力を感じて慌てて出てきました!」


「なら理解しろ。あれは私達がどうこう出来る相手ではない。それが嫌ならお前が龍人に命令してみるか?」


「オブシディアン様の命令は一旦忘れます」


「そうしろ」


「あの白い娘は最上級の賓客として迎え入れましょう」


「当たり前だ。龍人の逆鱗に触れれば都市ファレーズは今日にでも滅びるかもしれんのだぞ」


 思った以上に話が大きくなりすぎていた事がわかり、ひくっと顔が引き攣る。

 賓客だなんて、そこまでの待遇は望んでいない。

 というか、これではまるで先程の行動が脅しだったみたいだと思い、慌てて二人の会話に割って入る


「……そこの二人よ、ちょっと話を聞いてくれんか」


「な、なんでしょうか?」


 ルーベンスの声が裏返っている。

 ここまであからさまに怯えられると、拒絶されているみたいで少々悲しくなってきた。


「わしは買い物がしたくてこの街を訪れただけで、過分な歓待は要らんし、賓客扱いなど望んでおらん」


「き、聞かれていた!?」


 青髪少女ラピスの顔が蒼白になっていく。

 

「そう怖がらんでも取って食ったりせん」


「はい……」


「普通に接してくれる限りは、わしはこの街のルールに従うつもりじゃ」


 そこでルーベンスがハッと顔をあげる。


「……気が動転して忘れていましたが、ナナシ様はアプルの実を売って、そのお金で買い物にきたのでしたね……」


「出来れば敬語も辞めて、先程までと同じように話してくれんか」


「それは……」


「ま、無理強いはせんよ? なんせ、今のわしは一介の商人のつもりじゃからなー」


 おどけるように軽く言いながらチラチラと横目で見ると、ルーベンスは意図を察したのかホッと安堵の息を漏らした。


「……分かった。ナナシ殿の意志も確認せず勝手に騒いで済まなかった、……っと、本当にこれでいいのか?」


「うむ。こちらこそ急に火を吹き驚かせてすまんかった」


 ペコリと頭を下げると、ピリピリしていた空気が幾分か和らいだ。

 部下に幾つか指示を飛ばし、覚悟を決めた顔でこちらに近付いてくるルーベンス。


「案内しよう。遅くなったが、煌めきの都市ファレーズへようこそ!」

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