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「ーーというわけで、この世界には沢山の種族が存在しているの!」
アルテ先生の異世界講義が始まってから数刻が経過した。
太陽は真上に昇っており、辺りはジメジメとした蒸し暑さに包まれている。
異世界について何も知らないので教えて欲しいと頭を下げて頼み込み、説明を受けていたのだが、南国の密林のような馴れない環境下だと何もしていなくても暑さで体力や気力が消耗していく事が分かった。
しっとりと全身から汗が染み出て、首筋をツーッと滴が流れ落ちる。
アルテは平気そうにしているが、妖精はその辺り何も感じないのだろうか?
「種族間で対立があったりするから旅をするなら気を付けないといけなかったりね!ふっふーん、まあわたしくらいの旅の上級者になるとその辺り完璧だけど!……って、あなた、しんどそうだけど大丈夫?」
「正直、不慣れな気候のせいで心身ともに参っておる……」
「じゃあ休憩にしよっか!!」
「わしから説明を頼んでおいて、すまん……」
己の不甲斐なさに落ち込んでいると、アルテがふわふわと浮かびながら近寄ってきた。
「むふふー、よしよし!よく頑張りましたっ!」
「あぅ……」
恥じらう姿に味をしめたのか、事ある毎に不意打ちで頭を撫でてくるアルテ。
今の自分は幼女だった時の人格と、年老いた人格が混ざりあっており、普段は老人としての部分が表に出ているが、特定の行動をされると幼女の部分が強く反応してしまう。
具体的には、頭を撫でられることが引き金になっている。
「やめてぇ……!」
頭を刺激される度にゾクゾクと身体が反応してしまう。
勝手に脳内物質が分泌されるようで、抗いがたい多幸感に支配されてしまう。
頭をぶんぶん左右に振って諸悪の根源アルテを払い除ける。
「撫でるなと……言うておるのにぃ……!!」
頭を両手で庇い、キッと睨み付ける。
「はぁ……はぁ……可愛ぃいい!上目遣いで涙目の幼女っ!ああぁぁぁ……!!」
「ひっ!?」
アルテはビクンビクン身体を震わせて、そのまま動かなくなった。
これでもう何度目になるのだろうか。
短い付き合いではあるが、現時点で既にアルテが幼女が大好きな正真正銘の変態である事が露見していた。
(そのお陰でこうして話に付き合ってくれておるのは分かるが……突然叫び出すのはどうにかならんのか……)
呆れ半分で批難のジト目を向けると、それを見たアルテがにんまり笑みを浮かべた。
もはや、何をしてもご褒美にしかならないらしい。
「はぁ……もうよい……」
抗議する事は諦めて、アルテを放置したまま少し離れた繁みの向こう側に移動する。
(汗で身体中ベタベタで気持ち悪いのじゃ……)
のんびり歩くこと数十秒、目的地に到着すると、そこには以前発見した小さな泉があった。
念のため、辺りに危険な生物がいないか魔力を飛ばして安全を確認してから、腰に巻いた帯をほどいて、するりとバスローブを脱いで裸になる。
「ふあぁぁ、生き返るのじゃー」
音を立てないようにソッと泉に浸かると、ひんやり冷たい水が疲れを洗い流してくれる。
地下深くから清涼な水が湧いているであろうここは密林に於ける一種のオアシスなのかもしれない。
ゆったりと水浴びを堪能しながら、身体を手洗いでこすって綺麗にしていく。
「ふふ、心と身体の洗濯なのじゃー」
日本人特有の感覚かもしれないが、やはり毎日お風呂に入らないとどうにも落ち着かない。
今は水浴びで妥協しているが、その内自分好みのお風呂を自作してみるのも面白いかもしれない。
そんな事を考えている内に洗うべき部位は残すところ2ヵ所だけとなった。
「んっ……」
年相応に薄っぺらな幼女の胸部装甲に手をかける。
膨らみかけの双丘に軽く触れただけで自然と喉から声が漏れる。
色々と思うところが無いわけではないが、不潔にするのは我慢ならないと、覚悟を決めて擦っていく。
「はぁ……はぁ……」
身体がじんわり暖かくなってきた。
この感覚は色々と不味い気がして、下の方も手早く済ませる事にした。
股の間に手を伸ばして細い指で軽く表面を撫でていく。
(っ……無心じゃ……何も考えるでない……!!)
目を閉じて作業のように淡々と同じことを繰り返す。
そろそろ十分だろうと思う頃には、腹の奥がじんと熱くなっていた。
どれだけ集中していたのだろうか、接近する危険な存在を察知出来なかった事が悔やまれる。
「何してるの?」
「ひぇっ!?」
目を開けると、そこには面白いものを見たとでも言いたげに、ニマニマと笑みを浮かべるアルテがいた。
「か、身体を洗っておっただけじゃ!」
「へえー? 本当に?」
「や、やましい事などしておらん……」
「ふーん?」
事実を伝えたのだが、アルテは納得していない様子。
先程の行為が端からどう見えるか、それぐらい理解しているが、それでも無実を主張しないわけにはいかない。
「あの……その……ち、違うのじゃ……」
しどろもどろになっていると突然アルテが服を脱ぎ始めた。
見せ付けるようにゆっくり、そして背中の部分が開いた緑色のドレスがパサッと地面に落ちた。
モデルのようにくるりとその場で一回転してから腰に手を当ててポーズを決める。
「ふふっ、どうかな?」
一糸纏わぬ姿になったアルテは幻想的だった。
水晶のように透き通った4枚羽が太陽の光をキラキラと反射して、しなやかな肢体が虹色に輝いて見える。
(なんと美しいのじゃ……)
普段からは想像も出来ない、憂いを帯びた表情を見せるアルテは神秘的でもあり、眺めているだけで心が洗われていく。
今ならば地上に舞い降りた天使と言われても信じてしまいそうだった。
そこまで考えたところで、ハッと我に返る。
(待て待て……今、わしはアルテのような変態に見惚れておったのか……!?)
不覚にも一瞬心を奪われてしまったが、慌てて顔を背ける。
するとアルテがわざわざ視界の先に入るように移動してきた。
我慢できずにチラチラと盗み見る度に口元に手を当てて上品にくすっと笑うアルテ。
大人の余裕を纏ったアルテに手玉に取られた気分だった。
「ねえ、わたしと契約しない?」
「契約……?」
「難しく考えなくていいよ。相手の事が気になるからもっと一緒に居たい。繋がりが欲しい。ただそれだけ。あなただって、今わたしに見惚れていたよね?」
「そ、それは……」
「むふふー、隠さなくてもいいのっ!わたしも同じだからねっ!」
「同じとは……?」
「自覚が無いみたいだけど、あなたこそわたしを魅了してやまないくらい素敵。外見だけじゃなく、魂もね。妖精は綺麗な魂の持ち主にしか見えないんだよ。知らなかった?」
「じゃが、わしは……」
「嫌……なの……?」
泣きそうな声が聞こえてハッと目を向ける。
すると、アルテはいつも飄々としていた態度からは考えられない悲痛な顔をしていた。
(な、何故そのような顔をするのじゃ……調子が狂うではないか……)
罪悪感から胸がキュッ締め付けられるような息苦しさを覚えて、自然とその先を口にしていた。
「契約してもよい……」
「やったー!いただきまーす!!」
「っ……!?」
次の瞬間、唇と唇が触れ合った。
飛び掛かってきたアルテにキスされたと理解すると同時に、胸の奥に暖かいものが流れ込んできた。
「な、な、何をするのじゃ!?」
「今ので契約完了だよっ!これからよろしくねっ!」
「えっ……あ、うむ……よろしくなのじゃ……」
アルテは満足そうに、いつまでも嬉しさが滲み出る笑顔を続けていた。