あたしがここで生きる意味
「ねえ、なんで生きていなくちゃダメなのかな。」
私はそれまで読んでいた本を閉じると、彼女の方に向き直った。
彼女は目を伏せ、パジャマの上着の裾をぎゅっと握っている。
ベッドの上で起き上がっているのも苦しそうだ。
「さあ、なんでだろうね。」
しとしとと雨音が聞こえる。
いつもは看護師さんや患者さんの声で騒がしい院内も、今日はなぜか静かだった。
雨の日は皆、感傷に浸りたくなるのだろうか。
私はそっとカーテンを閉めた。
彼女はそんな私を見て、顔をくしゃっと歪めた。
「どうせ今あたしが死んでも、世界は何も変わらない。そう思わない?」
「そうかもね。」
私は彼女のベッドに腰掛ける。
ちょうど目線が同じになった。
目を合わせて、お互いに笑う。
私は彼女の唇にキスをした。
触れたのは一瞬だけ。
顔をもう一度元の位置に戻す。
彼女の頬には涙が伝っていた。
「たとえ世界が変わらなくても、私はあなたがいないとさびしいよ。」
「…うん。」
「だから、明日の手術がんばってね。」
彼女は無理に口角をあげて、私のそれに答えてくれた。
先ほどまでの雨はもう止んでしまったようだ。
カーテンの隙間から陽の光が漏れる。
それは二人を一瞬だけ照らすと、すぐにまた消えてしまった。