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異世界での時限旅行~ただの植物好きが突如異世界に行ったら!~  作者: ちくわ七福神
1章 異世界での安全生活
8/10

甘い一夜の桃源郷

 昨夜の神様からの仕事を聞いてから次の夕方、俺は遊女がいる館まで来た、そこは大きな木造の宿であり、表向きは宿、裏では遊女を売りさばく奴隷商の温床だ、俺はここに居る少女一人を殺せば仕事が終わる、懐中時計を割ればすぐに終わるであろう、神様が刺した針のおかげで場所も完全にわかる、地下3階の12番室という座敷牢の中だ


 宿の中は普通の旅館という感じだ、しかしカウンターの奥がうっすら見えるがそこには旅館には似つかわしくない兵士が立っているのが見える、要するにあそこが地下の入口というわけだ


《パリン!!!》


 懐中時計を割ると周囲は灰色になった、誰も動かない、誰もしゃべらない五分もあれば地下まで言って座敷牢まで行くのなんて余裕だ、地下をかつかつと歩いて行くと、無数の座敷牢の中に女が横たわっている、何というか吐き気をも通す状況というやつだ、傷だらけの女や目が焼かれたあとのある女まで、しかしこれは仕事だと割りきって地下まで進む、地下三階の目的地まで行くと、三階の見張りの兵士の口の中にトリカブトを摩り下ろしたものを口の中に刷り込んだ、そして勝手に兵士の鍵を使って檻を開けて、牢の中に入り少し待つと時間が動き始めた


 時間が動き出す、目の前には梅の花のような色の髪のの少女が座っている、背丈も小さく、何と言っても、、、臭い、桃の匂いだ、甘い匂いは花を焦がすようである


「あの、、、どちら様でしょうか?」


 桃の匂いの少女は俺に訪ねてきた


「俺は、、、死神だ、お前を殺しに来た」


 入れがそう言うと桃の匂いの娘は甘ったるい笑顔になった、桜色の目はゆらりと揺れて、手を胸の前で組んで俺の方へ近寄ってきた


「そうですか、お勤めご苦労さまです、私はここで死ぬんですね」


 元々俺はここで殺す気なんて無い、、、と言うか針を打たれた時点でこの場で殺すなんて事はできなくなった、、、


「ここでは死なない、お前は牢獄を出たことがない、そんな常識知らずが閻魔様に出会っては閻魔様が困る、だから今から外を出歩いて、少しでも世界のことを知ってから死んでもらう!、分かったな!」


 そうすると彼女は凄い嬉しそうな笑顔口を開いた、息まで桃の匂いで甘ったるい


「外の世界を見せていただけるのですか!、それは楽しみです、お願いします」


 こうして俺と遊女の一夜の散歩が始る、この遊女は【桃娘】、桃の実だけを食わせて育てられた少女、最後は遊ばれた後に肉を喰われるといった物だ、そんな酷い境遇の娘を殺せと言われて普通に殺せるほど俺はできた人間ではなかったのだ


《パリン!》

 そうして俺は時間を止めて、彼女を外へ連れだした



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺と桃娘は最初に森のなかに入った、森の中は夜というだけあって真っ暗だ、俺は前いた世界の話なんかをきかせながら歩いた


「凄いですね、これが森というものですか、美しい」

「美しいだけじゃない、森の植物には面白いものがたくさんあるんだ、例えばそこの葉っぱ、触ると葉っぱが畳さるんだ、オジキソウと言うんだが触ってみな」


 彼女がその葉を触ると、楕円形に連なる葉っぱはパタパタと閉じていき、羽ペンのような形になる、彼女はそんなくだらないことでも目を輝かせて笑うのだから滑稽だ


「凄いですね!!!、これは面白い!」

「まだまだ色々あるぞ、そこの木の実、それなんか美味しいぞ」


 そう言って俺が指を刺した方向の木の実を彼女は口に放り込んだ、彼女が食べたのはスモモだ


「あは!、酸っぱくて美味しい、これが酸っぱいってやつですよね?」

「そうだ、それはスモモっていうんだ、一応桃扱いだ」


 彼女はスモモを3つほど食べると俺に色々と話してくれた


「私は桃好きなんですよ、あれはいくら食べても飽きないんです、ただ食べ過ぎですかね、最近は体が重くて、、、もう歩くのもキツくなってきました、ははは、情けないですよね」


 彼女がそう言うと、俺の背中のスライムが彼女に取り付いて酒樽運びの時同様代わりに歩き始めた


「凄いですねこれ、綺麗」

「俺の気の利く友人スライムだ、可愛いだろ?」

「ははは、可愛らしいですね」


 そう言って森のなかを進み次の目的地に向かった、魔物なんかは一切襲ってこない、まあスライムがいるからだが


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 次に向かったのは川であった、川は月明かりを反射して赤く輝く、彼女は川の水を手ですくうなり顔にかけた


「ははは、冷たいですね!、気持ちい、畳より冷たい、ははは」


 たかが川でここまで楽しむ、幼少期より檻の中にいたためであろう、梅の花のような髪の毛は赤い月に照らされて余計に赤くなり、今にも溶けて落ちてしまいそうだ


「森とか川とか、お話でしか聞いたことがなかったもので、こんなにも綺麗だとは思いませんでした」

「そうか、ではそろそろ次にいこうか、時間は有限だぞ」

「はい!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 次に向かったのは滝であった、滝はものすごい勢いで水を落としている、その光景に釘付けになる唐にゃんの姿はまるで子供、否、事実子供であった


「凄いですね!!、これは何というものなのですか?、綺麗で豪快ですね!」

「それは滝というものだ、危ないから行っちゃダメだが、あの真下には滝壺という穴があるんだ、水が落ちる力で岩に穴が空いたんだよ」

「水で岩を、、、凄いですね」


 桃娘は滝の近くまで行くと、水しぶきを浴びて冷たそうにしている、その様子はまるで子猫のようであった、好奇心旺盛で、少しやんちゃな、、ただの猫のような少女であった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 最後に向かったのは少し小高い丘の上であった、彼女は疲れたのか、丘の上に生えている一本の木によしかかった、しかしその表情は満面の笑みであり、とても幸せそうにしているのが俺の胸を刺した、こんな事で幸せそうにしてしまえるほど彼女は不幸であったということだからである


「あはははは、楽しかったです、死神様、楽しかったです」


 俺は桃娘の隣まで行き、彼女の隣に座った、相変わらず桃の甘い匂いがする


「そろそろ私死んじゃうんですよね、お別れですね死神様」


 彼女が寂しそうな笑顔でそういった、その表情はなんとも言えない感覚だ、ただただ虚しさを俺に与える表情だ


「まあ、閻魔様に怒られそうだが、明日になってから5分間は待ってやる」

「まあ、お優しいのですね、何か見られるのですか?」

「ああ、空を見ておけ、まあそれまでは暇だし、何か話でもしようか」


 俺がそう言うと、桃娘はただ一言こういった


「ありがとうございます」

「なあに、来世は幸せにいなれればいいな、娘よ」


 俺がそう言うと彼女は腹を抱えて笑った、今までと違い、甘い笑顔ではなく、太陽のように明るい笑顔であった、ただ、ただ笑っていたのだ


「私は現世でも幸せですよ、確かに味気のない人生ではありましたが、最高でした」

「はあ、世の中もっと幸せな奴は五万といる、そんな奴と比べても幸せなぐらい幸せになりたいだろ?」


 彼女は俺の方へ顔を近づけると、俺の目元に手を当てた


「いいえ!、私は幸せです、何故かと言うと、桃を食べられたこと、そして私のために色々と考え、行動してくれる方がいた事、そして」


 彼女が最後の一言をいうかと思った時、彼女は俺の唇を奪っていった、その唇は甘く、彼女は目に涙を浮かべている


「私のために、泣いてくれる方がいた事、特に最後のは特別幸せになれました、そんな大泣きしてくれる方がそばにいるなんて、私は幸せものです、死ぬとき側で泣いてくれる方がいる人は幸せものなんですよ」


 嗚呼、俺は泣いていたのか、そう気がついたのは彼女がそういった時であった、夜明けだ、太陽はゆるりと空に出始めて、地上を明るく照らしている


「ああ、綺麗ですねこれ、これを見せてくれるために引き伸ばしてくださったのですか、、、ありがとう、死神様」

「ああ、そしてさようならだ、最後に名前を聞かせてはくれないか?、俺の名前は銑次って言うんだ」

「死神様にもお名前があったんですね、銑次様、私は桃娘というのが名前です、ふふ、これ本名でもあるんですよ、、、それではおさらばです、銑次様」


《パリン!!》

 そうして世界は灰色になった、俺の腰にかかっている小瓶のうち、この日トリカブトの瓶がからになった、皮肉なことに彼女がよしかかった木は桃の木であることに気がついたのは、彼女が死んだあとの事であった


「あ~あ、一番甘いのは俺じゃねえか」




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