異世界での蒸留器
道中ひまわりの道を通りつつ、以前の集落から北に進む、馬車の御者台には鼻歌を歌いながら馬車を進めるエミリ、そして荷台には酔って気持ち悪くなった俺がいる、空は雲一つない晴天であり向日葵の根本には何やら赤い花がびっしりと生えている
「エミリ、あの向日葵の下に生えている赤いのは何って言うんだ?」
「ああ、あれは紅紅っていって、向日葵の下によく出る雑草だよ、なんか煮だすと水が赤くなって、それが目につくとすんごい痛いらしいよ」
「少し馬車を止めてくれ」
「わかったよ」
馬車が止まると俺は向日葵の下に生えている紅紅を幾つか採集してカゴの中に詰め込んだ、花はコスモスのような形であり、葉は向日葵の茎を巻きつけるように生えている、匂いは少しりんごのような臭がする
採集が終了すると馬車の中に戻った、まあエミリは暇そうにしている、俺が彼女の立場であれば暇でしょうがない
「何やってたの?」
「ああ、ちょっと紅紅を採集していた、実は俺植物が少し好きでね」
「すごい趣味だね」
この世界では植物が好きなのは珍しいことらしい、前の世界では『へ~、家でなにか育ててるの?』程度にしか言われない趣味も、この世界では『すごい趣味』とまで言われる
「見た目は勿論だけれども、植物には無限の可能性があるんだよ、例えばムクロジって言う植物は皮を使うと手を綺麗に洗うための薬になったり、さらに扱い次第によっては延命薬として扱うこともできるんだ、そう考えれば植物には多くの可能性があるだろ?」
「へ~、うん、そうだね」
全く興味がなさそうである、、、まあいい、街についたら何か作って植物の偉大さがわかるようなものを作ってやる、、、
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石造りの建物に多くの露店が立ち並ぶ、背中に剣を携えたものも多く彼らに襲われれば自分なんかは一溜まりもないだろう、露店には変わった肉からアボガドなどの野菜まで、幅広いものが数々売られていた。
少し歩くと宿についた、宿の手続きをするというので俺は少し街の中を散策することになった、俺の手持ちは前回の救出料でフラメリ銀貨50枚、リンゴ1つ3銀貨である、俺は現在ある金の中から30枚を消費してガラスの小瓶を3つ、アボガトを2つ、麻袋を1つ、安売りの鍋を2つ、メルト合金と呼ばれる変形させることが簡単な金属を少量購入した、売っている人は全員笑顔でありとても会話上手であった。
宿に戻るとエミリがぐっすりと寝ている、宿の中はそんな目立ったものではなく、高校生の修学旅行の時に止まったホテル程度のものである、しかしベッド付近においてある木彫のカラスが少しかわいい
「さ~て!、じゃあ少し頑張りますか!」
俺はそう言うと外に出て宿にある共同料理施設に行った、そこには火が焼べられており、各自最寄りの器具で調理することが可能である、
俺は鍋に水を少し入れて、もう片方の鍋には穴を開けて、先ほど購入したメルと合金をバネ上の筒にして鍋の穴に内側から差し込んだ、バネ上のメルと合金は鍋の内側をしっかり沿うように4巻、残った部分は傘の柄のような形にしてある、要するに、『バネ上の筒を鍋の中にぶち込んだ』、
水を貼った鍋に紅紅の葉をぎっしり詰め込んで穴の開いた蓋をした、そして蓋の穴に先ほどのバネ状の筒のはみ出た部分をその穴に差し込んだ、後はバネ状の筒の入った鍋に水を張れば『簡易蒸留器』の完成である、これは植物等から成分を抽出する道具である、今回は『紅紅の葉』、『紅紅の花』を蒸留してみる、ただこれ、、、すっごい面倒くさいんだよね、、、
しばらくして、両方共蒸留が終わった、香油が葉のほうが2グラム、花のほうが3グラム、フローラルウォーターは葉のほうが200グラム、花の方はいらないから捨てた、葉の方のフローラルウォーターは林檎のような匂いが爽やかとする良い感じのものが出来上がった、エッセンシャルオイルも葉の方はとても良い臭がする、花の方はいい匂いもするのだが、すごい刺激臭も混ざっている、ガラスの小瓶に各自を入れると俺は宿へ戻った。
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宿に戻るとメアリが凄く不機嫌そうにベットの上に座っていた、もう何というかご立腹の様子だ。
「何してたの!?、宿の手続きにこんな時間かからないよ!?」
俺は頭をかきむしりながら謝ることにした
「悪い、ちょっとやりたいことがあってな」
そう言うと俺はエミリに葉の方のエッセンシャルオイルを手渡した
「なにこれ?」
「いい匂いのする水だ、顔に塗れば爽やかに気分になれる」
《キュ パシャ!》
エミリはその場で顔に塗った、彼女の行動力には眼を見張るものがある、彼女の表情はとても明るいものでありとても嬉しそうだ
「すごいこれ!、売ってたの?」
「作ったんだよ、紅紅で作ったんだ」
そう言うとエミリはとても不思議そうに瓶を眺めた後に俺に訪ねてきた
「これもらっても良いのか?」
「いいぞ、元々お前に渡すのに作ったんだし」
まあ蒸留装置のついでなのだが、どうせならば喜んでもらえるように伝えたほうが粋というものであろう、エミリは大事そうに瓶を握ると少し髪を揺らした
「ありがとう!!」
「どういたしまして、まあもう一つお土産があるからそっちも貰ってくれ」
こちらは正真正銘のお土産であり、先ほど作った葉の香油とアボガトをすり潰したものを混ぜた物である、食用ではない
「なんだこれ?」
「少し頭を貸してくれ、これは頭を洗う道具だ」
そう言うとエミリは水の張った桶に仰向けに頭を入れて、俺はその頭を洗った、まるで美容室の頭を洗う状態だ、青い髪の毛はやはりボサボサであった、こんな世界だ、食事も良くなければトリートメントなんかもない、しかしながら俺は現代人としての知恵を持っているわけで、折角くだから髪の毛をサラサラにするぐらいはやってあげたいというものだ。
髪の毛を洗い終わると先ほどのアボガドをエミリの髪の毛に練り込んだ、アボガドの油分は非常に髪の毛によく、髪の毛をサラサラツヤツヤにする効果があった
「な、、何をやっているんだ!?」
まあ何も知らない方としては『突如緑色のペーストを頭に塗ったくられた』という意味不明なシチュエーションが故に、少々エミリは混乱していた
「まあ、後5分ほど待ってて」
その後五分ほど経ってから髪の毛を洗い流した、髪の毛は先程とは変わり、艶が出て指がスルッと滑り落ちる、しかも混ぜ込んだ香油の匂いが少ししていい匂いだ
「何をやったんだ!?」
本人からすれば未だに意味不明な状況にもはや混乱は頂点に達していたッッッ
「髪の毛に油分、まあ油を染み込ませて艶を出したんだよ、少し髪の毛を触ってみな」
俺がそう言うとエミリは髪の毛を手で溶いた、すると驚いた表情で俺の方に近づいてきた
「すげぇ!!!!、どうなってるのこれ!、髪の毛さらっさら!!」
「どうだ!、少しは植物に興味でたか!?」
「うん!、なんか楽しそうだな植物って!」
勝った、この時俺はそう心に思って頬を上げた、植物というのは悪用すれば毒となるが、使いかたによ
っては素晴らしいものである、
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少し時間が経ち、少々暇になった頃である。エミリは少々真剣な表情で俺に話しかけて来た、窓際のテーブルに二人、月明かりでしっかりと彼女の顔が見えた
「で、明日から仕事をしなければならないわけだけれども、何をする?」
確かにその通りである、おれたちが持つ財力はほぼ皆無、仕事をせずに生活できるほど裕福ではないというのは百も承知、しかしながら集落から逃げた少女と完全身元不定の男、そんなものが働ける仕事なんてあるのであろうか
「すまん、俺はここらへんの事がよくわからなくてな、ウチラで働ける仕事は何がある?」
そう言うとエミリは腕を胸の前で組んで説明を始めた
「一つは風俗、しかしこれは嫌です、二つは靴磨き、でもこれはスラムの子が神がかった職人技でやるもので一般人には難しい物があります、最後にトールー冒険者組合に登録して魔物退治、非常に危ないけれども金はよく、身の程にあった以来をこなせば生活には困りません」
風俗は俺も嫌なので無し、靴磨きは街で買物をする最中に見かけたが、前の世界の貧相な感じとは言えない雰囲気であった、数々の道具を隣に置き、その表情はまるで日本刀を作る職人のようであり、磨かれている靴は鬼のようにテカっていた、消去法で魔物退治というわけだ、彼女の言い方からもこれが一番まともだということが見受けられる
「いったい冒険者組合と言うのは何をするんだ?」
「簡単なのはクロメル・クロノ、と言われる薬草集めだよ、これはポーションの材料になるからね」
ポーション、、、いったいそれはどういうものなのだろうか、ゲームとかでは見かけたがイマイチよくわからない
「ポーションってなんだっけ?」
「忘れるなよもう、まあいいや、ポーションていうのはすごい即効で効く傷薬だよ、質のいいものであれば切り傷がぶっかけると嘘のように消えるらしいけど、大体は痛みが消えるだけなんだよね」
ふと思った、『これ俺でも作れるんじゃね?』、と
「それどうやって作ってるんだろうな」
「お湯で煮だしているんだよ、ただその煮出し方が旨いか下手かで大きく効力が変わるんだ、素人がやってもただの痒み止めにしかならないよ」
「よし!!、明日は少しその薬草を取りに行こう!」
「え、ああ、うん」
こうして俺達の異世界生活が本番を迎えた、今後どのような生活になっていくかは分からないが、楽しく行ければいいなと思っている、窓を見ると赤に輝く星が空に散りばめられていた。
今回登場の植物
向日葵・夏の花の代名詞、太陽の方へ花を向けるため一日で花の向きが変わる。
アボガド・カリフォルニアロールの使用するあれ、実は人間以外には有毒
ー以下この作品オリジナルー
紅紅・花には強烈な刺激臭があり、葉には林檎のような臭がする