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魅魍魎島シリーズ

婿捜シ姫ガ婿ヲ捜ヨウニナルマデ

作者: 文房 群

 ――――昔々、ある所に。

 雪のように白い肌と、豊かな大地の色をした髪を持つ、それはとても可憐なお姫様がいました。

 優しい王様と綺麗な女王様の間に生まれたお姫様は、国の人々から愛され、優しい心を持つお姫様としてすくすくと育っていきました。

 

 そんな心優しいお姫様が十歳になる、誕生日会の日。

 国の人々を招待した盛大なお誕生日を王様は開きました。

 国の近くに住んでいた魔法使いや、妖精達も招待された盛大なパーティーでした。


 しかし、一人だけ呼ばれなかった人がいました。

 それは招待状を送る時、たまたま南の国へバカンスに出掛けていた、祝福の妖精でした。


 祝福の妖精は地元のお姫様の誕生日会が開かれていることを風の便りで聞くと、直ぐ様パーティー会場であるお城に駆けつけ、ビュッフェ形式のバイキングスタイルで立食していたパーティー参加者の目の前で王様に抗議しました。



「な・ん・で・ぇ! この、祝福の妖精であるアタシを! こんな面白そうなパーティーに呼んでくれなかったのおおおおおおおおおおおおおおおお!!!?」



 抗議、もとい、駄々をこねる祝福の妖精。

 たとえ年齢が六世紀であっても見た目は永遠の十二歳という合法的な少女に、普段優柔不断で有名な王様はさらりと。



「え。だって祝福さん、いつも所在地不明で招待状どこに送ればいいか分からなかったもん」


「……………………」



 沈黙する祝福の妖精。それもそのはずです。

 いくら地元とも言えども、それはよく出没する場所がその場所であるから地元であると言い張っているだけであって、実際祝福の妖精はありとあらゆる場所へ飛び、足を運んだ土地に祝福を与える、神出鬼没な妖精です。

 根無し草である彼女の現在地など、現在彼女を目の前にした人物と本人しか知りません。


 一度ぐぐっ、と押し黙った祝福の妖精。

 すると次に彼女はパーティーに同席していた妖精達に目をつけます。



「…………で、でもでもでもっ! アナタ達だって、アタシに声かけたっていいじゃない!」


「いや、我々は祝福の妖精のように俊足でも体力があるわけでもないので」


「そもそも祝福ちゃんどこにいるのか私達にも分からないし」


「ていうか祝福ちゃんさー、魔女さんが造ってくれた妖精用の通信具持ち歩かないじゃん。連絡しようにもできないんじゃダメじゃない?」



 他の妖精達からもボロボロに言われる祝福の妖精。立つ瀬がありません。

 今度こそ反論できず黙り込んだ祝福の妖精。やれやれと、問題児に対し呆れる教師のように王様や他のパーティー参加者が肩を竦めます。

 次の瞬間。



「もういいもぉぉぉぉぉぉぉぉぉんんんんんん!!」



 ぐわぁぁん、と。絶叫する祝福の妖精の声が、その場に居合わせた人々の脳内を掻き乱します。

 思考を蹂躙する大声量。その中に含まれた莫大な量の魔力に、耳を塞いだ妖精や魔法に精通する者達が「あ」と声を上げます。

 これはヤバい。

 誰かがそう呟きましたが、既に遅く。


 言葉という原始的な音にありったけの魔力を注いだ祝福の妖精は、突如発生した魔力に酔い、顔が青くなったためまだ若い執事に体を支えられているお姫様に指をさして――――告げてしまいました。



「もう! パーティーの主役のお姫様なんかぁ! 婚期を逃す祝福(ノロイ)をかけてやるぅぅぅぅぅううううううう!!!!」


「あ、ちょっ」


「祝福、おまぁ…………!」



 妖精と魔法使い達が慌てて祝福の妖精の言葉を訂正しようとしますが、身軽な祝福の妖精を捕らえられることは誰にも出来ず、そうしている間に祝福の妖精から発生した魔法の渦はぐるりと旋回し、呆然としていたお姫様の体を突風として突き抜け――――


 祝福(ノロイ)が成立した事を示す、絢爛豪華なハンドベルの音がどこからともなく鳴り響きました。

 それは天啓のように、どこまでも透き通り、まるで神の国への門が開かけれているかのような神聖さで人々をうっとりと奏でられる音色に酔わせ――――



「こんなくだらないことで神格級の祝福(ノロイ)使う馬鹿がいるかぁぁぁ――――――ッッ!!!」


「くだらなくないもん! アタシにとっては死活問題だもん!」


「もうお前黙れホント頼むから大人しくしてろ祝福うううううううううううううう!!!!」



 魔力に当てられて酔っていた王様も、パーティーの参加者も、お姫様も。

 誰も彼もが祝福の妖精の『祝福』が成立した時流れる清らかな音楽に心を傾ける中、祝福の妖精のした所業の意味を知る妖精と魔法使い達が阿鼻叫喚しあわてふためくという、なんとも奇妙な光景がパーティー会場に出来上がりました。

 まもなく、化粧直しのために従者と別室にいた女王様が会場へ帰還し、ぐるりと辺りを見回した女王様は絶世の美貌をゆるりと笑みの形に変え、唱えました。



「さて、二十秒以内に誰か私に事情を説明してくれないかしら。さもないと私…………槍を持って舞を披露しちゃうかもしれないわ?」


「誰か! 頭のいい奴! 女王様がやってきた瞬間光の速さで逃げていった祝福の妖精の代わりに、女王様に事の一部始終を!!」




          ×




 ――――こうして。

 祝福の妖精の祝福(ノロイ)によって、時間に計算して五百年、結婚もできなければ恋愛することもないという呪いをかけられたお姫様に、王様と女王様は嘆き悲しみました。


 生きている間に女の子として最大の幸せを得ることは出来ないお姫様の運命に、内心祝福の妖精を呪いつつ嘆く王様と女王様に、パーティー来ていた他の妖精がある提案をします。


 それは――――祝福が解けるまでの五百年間、眠り続けるというものでした。


 歳を取ることなく眠り続ければ、お姫様はまだ若いまま、誰も想像出来ない遠い未来でお姫様は恋をして結婚できるかもしれません。

 しかしそうなるとお姫様は誰も知らない世界で一人、生きることになります。

 お姫様が結婚を望まなければ、お姫様は眠ることなく普通の人間として一生を終えることが出来ますが――――お姫様は夢見る女の子。

 お父様とお母様のように結婚したい、と瞳を輝かせてしまえば、王様と女王様は泣く泣くお姫様のために、この世の穢さすら知らない我が子を眠りにつかせるしかありません。


 五百年後には王様達がいる王国も滅んでいるかもしれない。

 五百年後には全てが変わり、時代の流れに取り残されたお姫様にとって辛い現実が待っているかもしれない。


 一緒に眠りにつくことの出来ない王様と女王様は、しかし。

 それでも、何があるか分からない未来に希望を抱くお姫様を信じ、十歳になったばかりのお姫様を妖精と魔法使いの力で、長い眠りにつかせることにしました。


 せめて――――目覚めた先でひとり、孤独に嘆くことのないように。

 最も信頼のおける、お姫様の世話人でもあった若い執事を、共に眠らせて。



 それからその王国には、あるお話が語り継がれるようになりました。


 それは――――城の離れにある、美しい湖の傍にひっそりとそびえ立つ、茨に囲まれた塔の頂上には、とても可憐なお姫様が眠っているというもの。

 お姫様は呪いのせいで何百年も眠り続け、運命の人が現れるのを待っており、今も眠り続けている――――という。

 未だ結末のない、お伽噺として。





×




 そうして――――年月は流れ。

 豊かだった王国は飢饉を乗り越え、繁栄し、何代にも渡る王権の移り変わりで緩やかに衰退していき、やがて異国からの侵略者に負けて植民地となった頃。

 お姫様が眠りについてから、ちょうど三百年近くが経ち、異国の兵士が王国へ足を踏み入れた時には――――茨の塔はどこにも、ありませんでした。

 湖ごと姿を消した茨の塔に、だが誰も気を留めることは無く、お伽噺すら人々の記憶の中から忘れられ――――五百年間。


 深い眠りの中についていたお姫様は、ようやく。

 呪いの解けた幼い身を、ベッドから起こしました。

 外を見れば、そこは見たことがない街の風景が広がっていました。

 そこはまるで――――商人が集う週に一度のバザーのような、見たことのない色鮮やかな光景。


 初めて見る景色に瞳を輝かせるお姫様。

 そんなお姫様のいる部屋の扉がノックされ、蝶番の軋む音がして緩やかに開かれます。



 振り向いたお姫様が目にしたのは、真っ白な髪をした青年でした。

 


 晴れた空に浮かんだ雲のように、真っ白な髪をした青年はお姫様の方へと近付くと、にっかりと口角を吊り上げて笑います。



「こりゃあ随分と小さな新入りだな! んん? いや、サラちゃんよりは大きいか?」


「わっ…………!」



 ぽふんっ、と大きな手でお姫様の頭を撫でる真っ白な青年。

 青年の行動にお姫様は驚きますが、しかし不思議と悪い気にはなりませんでした。

 なぜなら、青年の手はまるで父である王様のように、固くて温かいものだったからです。


 後にティーシャツという物であると知る、質素であるけど良い生地で作られた軽装の胸元に、大きく筆文字で『侵略』と書かれている衣服を着こなしている青年は、部屋の真ん中にてぐるりと辺りを見回すと、わざとらしく両腕を開きます。



「さて、新入りが来たら『これ』をするのが恒例行事だからな! いつも通り、盛大にやらせてもらうぜ!」



 不敵に語る青年にお姫様が、何をするんだろう、と見守っていると、遠くの方でバタバタと忙しない足音が聞こえました。

 お姫様が青年の入ってきたドアの方へ目を向けると、荒々しく物音を立ててお姫様のよく知る若い執事が、慌てた様子で入室してきました。

 姫様、と若い執事がお姫様の名を唱え、部屋の中心で両腕を広げている青年の姿を見ると訝しい表情で警戒します。

 真っ白な青年は、執事の登場を待っていたかのように喋りだしました。

 高々と――――朗々と――――



「ここは世界に取り残された奴等が集う時空の辺境! 辿り着く最果て! 最後の楽園!」



 その声は否応なしに、お姫様と執事の身体の芯へ刻みつけられます。

 まるで心臓に直接、彫刻刀で言葉を刻まれているように。



「世界征服を目論むも良し! 平和をおうかするもよし! 殺伐を寵愛するも良し! 安寧を折檻するも良し!

 何でもござれの最終地点! 毎日が歌えや踊れの処刑所! 殺せや生かせの祭り会場!」



 言葉の意味を掴むにはあまりにもあやふやで、意味不明な詩を歌う青年のは呵呵大笑するかのように、石造りの天井の先にある空を見上げ――――次の瞬間、恭しく頭を垂れる。

 目に見えないスイッチが切り替わったと、言わんばかりの動作の変わりよう。

 次にゆるゆると顔を上げた青年は、柔らかそうな長髪と同じく、汚れない乳白色の双眼に妖しさを灯して、朗唱する。

 口角は、三日月を髣髴させる歪さで。



「ようこそ――――長き時に取り残された、世界の切れ端達に愛されし新入り共。

 遠き終末の地。殺戮と平穏のパーティー会場――――魅魍魎島へ」



 この世のものとは思えない妖しさに、ぞわっと全身のありとあらゆる毛を総毛立たせる若い執事。

 喜劇を眺めているかのようで、自分と白髪の青年を遠ざけようと行動を始めた若い執事のように、危機感を抱くことのなかったお姫様は唱えられた詩を何一つとして理解出来ませんでした。


 しかし、最後に青年が唱えた言葉の意味だけは、はっきりと分かりました。



「ここは、願いの叶う島――――神様のいる島」



 ――――キミの願いは、何だ?



 お姫様は答えます。



「お母様にとってのお父様をさがすこと!」



 ――――こうして。

 長い眠りにから目覚めたお姫様は、自分だけの王子様を捜しに塔から旅立ちました。

 妖精達の加護により、永遠に終わることのない幼い身体で。

 胸には、希望を抱いて。



「ちなみにこの島の男は吸血鬼ゾンビ人狼不死者改造人間付喪神キョンシー亡霊熾天使堕天使悪魔土地神と選り取りみどりだぞ!」


「人類がいないんですけど」



 少し、過保護な執事も従えて。





〈了〉

×あとがき×



俺達の 冒険は まだ 始まった ばかりだ ――――!

『先生の次回作にご期待下さい!』



雰囲気的にこんな感じの内容です。

久々にこのシリーズを書くに当たってどんなキャラがいたのか見返しました。

一言で言うならカオスでした。

何なんだろうこれ、どうしてこんなに詰め込んだし。



というわけで今回は締切までに間に合いました!

突破衝動企画第十四弾!

お題の内容にほとんど触れることの無いまま、ギャグにしようとか言いながら全くギャグになってないコレジャナイ感が半端ない感じで投稿させていただきます。

カッコよく文章が書けるようになりたい。そう思いながら書いてます。

このシリーズを書き始めた時より面白く書けていたらいいな、と願ってます。うん?文章おかしい?


何はともあれ締切までに間に合って良かったです。一週間前から書き始めて正解でした。

雪野ちゃん……今回は間に合ったぜ!

さあ、次の企画の準備だ!



最後に。当企画に参加してくださった皆様。なんども締切を被り呆れ果てながらもいつも付き合ってくれる相棒雪野様。そしてこの短編を閲覧してくださった皆様へ、心からの感謝を!


ご閲覧ありがとうございました!



〈完〉

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― 新着の感想 ―
[一言] 「婚期を逃す呪い」というのは面白いと思います。ギャグかどうかはちょっと微妙ですが… これからもお互い頑張りましょう!
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