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第九十六話 魔女狩り(四)夜襲

 新聞の各朝刊に、希教道謝罪会見と三回目のモール街魔女騒動が同時に載り、魔女騒動に本質が見えると連鎖自殺を関連付けた。

 連鎖自殺の五人は殺害の可能性が濃厚だと、警察が調査に乗り出したとも告げる。

 毎朝新聞社説には、連鎖自殺は仕組まれた殺人である。だが、犯人はもうすぐ捕まるだろう、と大見得を切ったコメントを載せていた。

 自殺者に催眠を仕掛けたのが希教道幹部だと、瞬く間に認知され、今までの否定報道とあいまって、世間は希教道を敵、悪、殺人犯と定めた。

 午前中から洗脳された一般市民が、マスコミのカメラに撮られるのも気にせず、道場の入り口や、駐車場の車に石やゴミを投げ始める。

 ネットで、「希教道タイホー」のツイートが拡散。

 プロ市民の団体も人が増え、水を得た魚のように中傷を激しくさせた。


『希教道は殺人者の育成施設だ。解散せよ!!』

『人権侵害した殺人幹部は、早く自首して首を吊れーっ』

『連鎖自殺者の遺族に、賠償金を支払って死ねーっ!!』


「まるで、某巨大掲示板のようだな」

「言わせておけば良いわ。私たちには関係ないのだから」

「耳障りだけどね」


 窓から外をのぞいていた俺の言葉で彩水、純子が続けたあと、一団と外が騒がしくなって注視する。

 窓から見えてきたのは、ワゴン車とそれに群がるマスコミ陣が写真を取りまくりインタビューを敢行していたが、こちらの敷地内駐車場に入ると警察が来て下がっていった。


「教団の魔女は出て行け」

「退散せよ教団の魔女」


 路上の野次馬はたえず罵声を浴びせ、止まったワゴン車に小石を投げつけた。


「おっ、戻ってきたな」


 彩水が言うと、純子と篠ノ井が廊下へ出て、栞を迎えに行く。

 昨日倒れた栞は、竹宮女医のリハビリセンターで一泊して、体調が戻ったので帰ってきたのだ。



***



 病室のベッドで目が覚めた栞は、付き添った俺たちに元気良く「何でもないよ」と笑顔で答えて安心させてくれた。

 倒れた原因は集中のし過ぎと竹宮女医に診断され、集中の元になった広範囲幻覚ファントムシンドロームの計画を知って呆れられたあと叱咤された。


「だからそんなに負担になることは駄目だといったのが、あなたって子はまだわからないの!」


 付き添いの俺や麻衣、純子たちは、女医が酷く怒ったのに驚くが、怒られた彼女は泰然自若としていて凄いと思った。

 ただ「これから脳の精密検査よ」と最後に言われて、俺たちに舌を出す栞だが、「あの……お手荒かに」と耳を閉じた猫のように弱々しくなった。




 ワゴンのドアを空け、自らの足で降りてきたのはポニーテールにした要だ。

 玄関ドアを開け放っていた純子たちのところへ、小石などがいくつも飛んできたので、運転手だった高田さんにかばわれるように走ってきた。


「連中は、随分と酷いことをするようになったわね」


 玄関を閉めながら、中に入ってきた小石を見て純子が激怒する。


「警察官が立っているのに何もしないね」


 ポニーテールを揺らして要は廊下に上がった。


「歩いてきて、もう大丈夫なのか?」

「はい、心配かけてすみません」


 廊下へ迎えに来た俺に、要は両手を胸に当てて答えるが手が震えていた。


「もしかして、外の状況はヤバかった?」

「えっ……まあ、ええっ……思い出すものがあって」


 言葉を濁して、高田さんと一緒に中へ入っていった。

 周りは要を見て、栞の現出させたまやかし(イミテーション)と認識したらしく、彼女に集まってくることはなかった。

 栞と要の話を幹部にはしてないので、これは当然な反応なんだろうなと少し寂しく思ったがしかたない。

 



 要は事務所にいる道場主と経理の中村さんに挨拶して少し話してから、道場でまやかし(イミテーション)の練習を再開していた俺のところへ戻ってきた。


「忍君ちょっといいですか」


 彼女の足元にワン公が元気に擦り寄って、歩きながら背中を撫でられていた。


「今日は何でまた要なんだ?」

「そうよ。車椅子は?」


 唐突に彩水が要の横に現れ話し出すが、本人は中央で座禅をしているのでまやかし(イミテーション)だと納得。


「はい。それを含めてですが……」


 栞の接近で俺の横に立っていた麻衣が、腕握ってまた背後霊をやり始めたので振り返って聞く。


「いつまでやっているんだ?」

「だって、あんまり話したくない」

「我がままだな」

「お前が言うのか」


 麻衣に取られていた腕がひねられた。


「いてーっ、肩が外れる。よせ」

「ここで遊ぶか」


 彩水が暑い暑いと手で顔を仰ぎ、要も目を細めてから言った。


「あいかわらず、仲がよろしいですね。……それでなぜ要の私がいるかですが、今日、明日にも希教道信者に何か起きる可能性が出てきましたので、動ける私でいる予定なのです」

「それは……」


 俺と彩水は真面目になり、麻衣もそれを聞いて前に出てきて聞く姿勢を取った。


「これからみんなにも話す予定ですが、情報が入りました。希教道信者を襲う予定者が動くと」


 麻衣が不安になり俺の腕にしがみついた。


「誰が襲うってのよ?」

「プロ市民の押見代表のつてですね。……高田さんの所属会社(PSC)で押見代表を調べてもらったら、行動を起こす情報を得ましたので、遠隔視(オブザーバー)で詳しく調べてきました。暴力団関係者かそれに組するグループが信者を狙うと」

「えーっ」


 麻衣が声をあげ、俺も驚き話しながら頭で整理、状況を確認する。


「ぼっ、暴力団……そうか、それが今日、明日ってわけか。凄いぞ要。では押見代表ってのは、表で自殺者遺族をダシに人権活動、裏で暴力団を使い恐怖を煽って、金を巻き上げる算段ってことか」

「人権は金になるって言われる典型ね」


 要がポニーテールを揺らして追加情報を話す。


「あの十人の弁護団も人数だけでした。老人から年金詐欺、架空手続詐欺などの行為を繰り返しているエセ弁護士ばかりです」

「ホント、世も末だわ」






 俺と麻衣とで、バラけていた信者を話があると道場に集めると、道場主たちも事務所から降りてきた。

 道場には泊まり込み信者七人、日帰り信者五人、そして俺と要を含めた幹部五人にボランティアの麻衣たち三人、教祖の彩水に大人たち三人が中央に集まった。

 要が全面に立ち、重要な用件として話を切り出した。


「高田さん関係から、私が事前に調査したもので、今日か明日にでも、我々信者に攻撃を仕掛けてくるようです」


 周りが一斉に声を上げた。


「ええっ」

「マジっすか」

「攻撃ってなんですか?」

「それは、死を連想させる恫喝と思われます。もちろん行動次第では状況が悪化するでしょう」

「ひーっ」


 また声が上がる。


「彩水が一番狙われそうと思いますが?」


 直人が早口で聞いてきて、彩水が口をへの字にする。


「そうですね。教祖への確立は高いですのでより注意が必要です」


 今度は今村が挙手して言う。


「先にこちらから打って出てはいかがでしょう? こちらには押さえられる能力があるんですよ」

「それだと相手に、別の手段に出られます」

「待ってても、こちらは夜になればバラバラに家に帰る。そこを弱い人物などは付かれます」


 ふいに今村は正座している向葵里に目をやるのを見て、俺は隣の麻衣の手を握って発言する。


「それなら事が収まるまで、一箇所に全員留まればいい。団結できて対峙しやすいし総出で解決できる」

「ええっ、バラバラだと二箇所以上に問題が起こると対処ができません。事が収まるまで最低幹部の方はここに泊まる事を進めます」

「じゃあ、そんな面倒なことせずにさ。敵の本丸倒せばいいんじゃない?」


 信者の中で一人突き抜けて背のある曽我部が言ったが、周りから冷めた視線。


「えっ?」


 曽我部一人が、空気読めてなく呆けた。

 栞と要が裏で暗躍してやっていたことだが、それで脅威はなくならない。だがそれは話せない。


「本丸ってどこよ? 金融のダルトン? 谷崎製薬? 公告会社のE電広? マスコミならどこだろう。TV局、新聞社、出版社? 頭と思われるところを叩いただけじゃ止まらないよ。もうそれぞれの私欲で動いている」


 俺が一般論で話すと向葵里と純子が続けた。


「今じゃ、一般の人たちも扇動されて敵になってしまっています」

「希教道に非がないのなら、強風が過ぎ去るのを待つしかないのよ」

「あははっ、そうすね」


 周りの否定に焦って笑う曽我部である。


「こちらが能力の行動を移せば、相手もすぐわかります。現在の一般常識から外れたことをするとどうなるか、みなさんわかっていると思いますが」

「ブーメランね。残留思念抽出(サルベージ)でいろいろ暴いたら、クラスや家族からモラハラを一身に受け、逆上したことを思い出されるわ」


 彩水の吐露に、俺は同志を感じて背を叩きたくなった。


「今は汚名を着せられているけど、この時期に敵をモグラ叩きして倒せば汚名じゃない、本当の汚名が来ることとなるわ」


 純子がまじめに言ったあと、まとめるように要が話す。


「こちらは守りですので、相手の出方を見極めて証拠を掴んで叩かないと、モグラ叩きになって、こちらからボロを出すリスクが上がります」

「相手の行動意図と証拠を掴むため、それまで道場で我慢するってのがいいね」


 彩水が納得したように語った。


「それでは、ここで攻撃か守りか、手を上げて決めましょうか」

「はい。守りの泊まりいいです」

「みんなと泊まった方がいい」


 純子が行きよい良く挙手すると、浅丘結菜も喜んで手を前にかざした。

 二人の挙手のあとから、ほとんどが手を上げて方針が決まる。


「瞳に工作頼む連絡して、着替え持ってこないとね」


 俺と一緒に麻衣も挙手してそう言った。

 だが、それはお泊り工作員の同級生にさせられる椎名瞳は、確実に勘違いして冷ややかな視線を俺に向けそうで怖い。






 話が終わり信者が散ると、彩水が笑顔で要に話しながら近づいた。


「今日はやけに積極的だね。いつもの消極志向はどうしたの」

「私も道場を立ち上げてきた一人として、これ以上の横暴は放置できませんから」

「ほうっ、それ聞いて安心したわ」


 彩水は右手を回して左手にまやかし(イミテーション)を現した。

 それは左手に乗った小さな玉手箱で、彼女は大事になでてから俺たちに見せ付ける。


「……私の役目はこれを守ることね」


 要は驚いて彩水を見て、そして戸惑った。

 前に栞の教祖引退宣言で、彩水に渡した小さな玉手箱なのだ。

 もらい物だった箱の中には、勾玉の形をした拾った石に油性ペンで零の聖域と書いて、布団綿と一緒に収めただけの御神体。

 そんな作った経緯など話せず、どうしようと俺に目配せして、念話をしてくる要。


『彩水がこんなに大事にしてるなんて……罪悪感をひしひしと感じてきました』

 ――もう教団の宝物になったと自覚した方がいい。

『……はい』


 返事をしてうなだれる要。




 そのあとは、人数分の食料、食器、布団の調達で忙しくなる。

 発注した布団が届き、道場前に止まった軽トラックから荷を受け取りに外へ出た俺と今村たちは、すぐ好奇の目で見られ罵声をかけられた。


「教団の魔女どもに売りさばいてんじゃねえよ」

「奴らに物を渡させるな」


 若い野次馬たちが、次々に道路上に出てきて、俺たちを取り囲んでくると、マスコミや他の住人も押しかけて人の波となり、軽トラックを囲んで人々が揉みくちゃになっていった。

 危惧していた状態になって、またまやかし(イミテーション)が必要かと思ったら、「戻れ」と怒鳴り声。

 声を発した警官が数人割って入ってきて、拡声器の罵声、警察の笛、いろいろの方向から大声が飛び交って騒乱状態になりながら野次馬やマスコミたちを引き戻していった。

 その隙に俺たちは走って荷を持ちかえり、玄関を往復しながら口々に不満を吐いたが、玄関口で立って見ていた要の手が震えているのに気づく。


「要、大丈夫?」

「ええっ、ちょっと人が多いのは苦手で……」


 ワゴンから降りてきたときもそうだったな。


「あの野次馬とマスコミたちの多さと、ネガティブな迫力は俺も見ていて寒気がしたよ」


 彼女の震えている手を、両手で押さえてやると、落ち着いてくれた。


「私が逃げ出したあの日を思い出してしまうんです。一般住人の能力者抗議の波の中に能力者狩りと称した殺人者グループが混ざっていて、能力保持者を次々に惨殺していました。この家にも大勢の一般住人とそこに混じった能力者狩りが、声を上げて侵入してきたんです。逃げるところがなくて恐怖から時空移(フライト)で過去へ逃げてしまいました」


 要が時間軸の恐怖体験を語っているのにすぐ気づいた。前に聞いた、過去へ飛んで改変していく話だ。


「あんな連中に囲まれるのは俺もゴメンだな」

「ああっ、つまんない話しましたね。ごめんなさい。……でも、私は生き延びていますが、栞ほど能力は使えません。今村君並みでしょう。だから、襲撃とかあっても私に期待はしないでください」

「そんなこと、気にしなくていいよ。全員で切り抜ければいい」

「はい」


 能力に釘を刺してきたってことは、栞と変わることはないのか? そうだとすると、栞は変われないほど休養が必要だったのか。


「その、栞は大丈夫なんだよな?」

「えっ、はい。全然大丈夫ですよ」


 そう言って俺に微笑む要。






 日が沈んだ七時以降は、外の野次馬やマスコミ陣はさすがにかなり減っている。

 泊まるのを危ぶまれた浅丘結菜も、道場主と彩水のコンボ連絡で許可が下りていて、彼女の身内は能力への理解と中庸の徳を持っている人たちで安堵する。

 廊下の隅で麻衣が携帯電話で連絡を入れていた。

 瞳たちとの泊り込みは良いが、実家への定期連絡を入れなさいとの約束を実行してたらしい。

 俺がのぞくと、話し終えて携帯電話を仕舞い、「面倒だわ」と艶のある唇を、久々のアヒル口にして披露してくれた。

 つい抱きしめたくなったが、他の信者の手前、彼女の頬に頬を充てて肌キスをしたら不思議がられる。


「不快を下げるスキンシップ」


 そう言うと、麻衣は顔をほころばせて、「頑張ろう」と言った。


 その夜は何も起きず、夏休みでの大勢の泊り込みが嬉しくて信者たちがはしゃいで和気あいあいで過ごした。

 道場をパーテーションで半分に区切って、女子、男子と別れて寝ることになり、要も部屋でなく一緒に寝ることにしたので柴犬もついて来ている。

 この頃のワン公は希教道のマスコット犬になっていて、女性信者に愛でられてシッポを振ってご満悦である。

 向葵里や麻衣たちに撫でられて、「しのぶくん、可愛い」と聞こえてくるので紛らわしく、そしてうらやましいので嫉妬してしまう。

 さすがに深夜は、道場の男たちは眠れない者が続出、枕投げをする始末で修学旅行である。

 襲撃されるという暗い雰囲気が、出てないのが救いだろうか。


 翌日も順調に道場生活が続き、昼には竹宮女医が出張クリニックにやってきて、要を診察室で検査をしていた。

 異常なしが出て診察室からでてきた要は、道場の栞が倒れてすみに置かれていた車椅子に歩を進め、あの日本列島写真をプリントした用紙を持って、俺の立っている場所へやってきた。


「女医にしばらく負担になる零翔(ぜろか)けは使うなと言われました。なので、広範囲幻覚ファントムシンドロームを忍君が試してみたらいいと思います」

「俺が広範囲幻覚ファントムシンドロームを? ……どうかな」

「試しにですよ。どうです?」


 と言うわけで、用紙を受け取りあぐらをかいて座ると、要から能力集中の移動する仕方などのコツを教わって試してみた。

 まずはこの辺一帯で悪戯の気持ちで十分ほど集中して試すが、上手く行ったのかわからない。


「何のイメージですか?」

「勾玉のUFOを今、上空に飛ばしてみたんだが」


 要は目を開けたあと振り返って、窓から外のマスコミ陣を見ていた太った永田に聞いてみた。


「永田さん上空に何か見えませんか?」

「えっ、えっと……いえ、何も」


 急いで窓から体を出して空を左右眺めるが首を振った。


「ありがとうございます」

「無理だったか」

「ちゃんと実験の結果が確認できる方法でやり直してみましょう」


 栞がやっていたTVの方法で用紙に集中したあと、麻衣が同級生の瞳に連絡して番組の確認してもらうと成功していた。

 すぐその場で俺は、TV捏造の字幕スーパー係が決まってしまい、長時間集中が辛い事に実感して、ようやく要にはめられたことに気づく。

 最初の勾玉のUFOも成功していて、空高くに巨大な勾玉がしばらく妙な動きをして浮かんでいるのをかなりの人数に確認され、希教道と切り離されてネットの都市伝説として話題になった。



 ***



 夜八時を過ぎてから、示唆していた異変が起きた。

 道場での食事を終えてテーブルをどけているところで、路上が騒がしくなってきたので、何人かで窓から外をのぞいた。

 数台の爆音を鳴らした四台の改造バイクが、希教道前をゆっくり通りながらアクセルを吹かせて警察官たちを煽っているのが見える。

 罵声も飛び交い始め、拡声器の声が響きだし、数を増やしたプロ市民たちが路上に出て声を上げだしていた。


『教団の魔女は、出て行けーっ』

「出て行けーっ」

「何だ、走り屋の爆音に対抗したように抗議してきやがった」


 お盆とテーブル布巾を持った要が、隣にやってきて困惑して言う。


「抗議活動って、時間制限があるんじゃなかったのですか?」

「違うようだね」

「国会へのデモは、最近は夜十一時頃まで地声でやっているぞ」


 反対側で外を見ていた今村が、話しに加わった。


「なんて迷惑な」

「しかし、小規模ですが、暴走族なんて久しぶりに見ました」

「おっさん暴走族かな? あんなのが遊びに来るようになるとは酷いもんだ」

「プロ市民も一緒になって、うるさいですね」

「これ……何か怪しくないか?」


 俺の会話のあと、排気音にかぶさるように、裏の勝手口から人の騒がしい声が聞こえてきた。

 排気音の間に二度、三度と大きな叩く音のあと、間髪容れずに悲鳴が上がる。

 俺と要、今村が顔を見合わせる。


「きました」

「台所か?」


 麻衣や純子たち女性陣が台所で、夕食の後始末をしていたところのはず。

 今村が窓からはなれて台所へ向かうが、俺は目を閉じて集中。

 すぐ麻衣目線の遠隔視(オブザーバー)を使って、その場の状況を確認する。

 暗闇が開けると目の前に、天井と蛍光灯と目だし帽(フェイスマスク)をかぶった細目の顔がアップで飛び込んできた。


「止めーっ、いやっ、いやーっ」


 麻衣の声に、他の子の悲痛も聞こえる。


「教団の魔女はレイプがお似合いだろーっ」


 台所にいた純子や篠ノ井が黒服の目だし帽(フェイスマスク)男に殴られて、引きずり倒されていくのが見えた。

 ――襲われてる!

 迷わず、その男にまやかし(イミテーション)で麻衣が醜くただれだして軟体生物に変化するように送り込んだ。


「わーっ、何だぁ」


 男は接触していた腕部分がただれだして驚き、転がるように麻衣から飛びのくとテーブルの足にぶつかり乗っていた皿が何枚も落ちて破壊音を上げる。


「ぐあーっ、いてーっ、いてーよ」


 細目の男は両腕を胸にしまうようにして、正座して痛みをこらえると叫びだす。

 純子と篠ノ井にかぶさっていた男たちにも、まやかし(イミテーション)をかけようとするが、もう彼女たちから飛び退っていた。

 二人とも細目の男と同じように、正座になって体を丸めてうめきだしたあと、黒のTシャツを着た男たち三人は床にはいつくばって静かになる。

 刀を持った要が麻衣目線に入ってきて、片目をつぶって見せた。


「た、助かったわ。ありがとう」

「こいつら、気絶……したのよね?」


 麻衣が溜息をつくように言うと、純子が確認するように聞いた。




「犯人が倒れているけど、まやかし(イミテーション)で仕留めたの? やったの誰?」


 道場でテーブルを折りたたんでいた彩水が声を上げたので、俺は意識を戻して彼女に声を出すと、隣にいた要が挙手した。


「やっぱり忍ちんと要か、早いわね」

「要は能力使って大丈夫か?」

「緊急のときは、その限りではありません……」


 彼女の言葉を遮り台所へ向かった今村が、逃げてきた向葵里を引き連れて道場に走り込んできた。


「侵入者です。大勢いる」


 廊下から複数の歩く足音とともに、黒のアロハシャツに黒のハット帽にサングラス、黒のスカーフを鼻から下をおおった男を先頭に手にバットや鉄パイプを持った黒系のTシャツ、黒の目だし帽(フェイスマスク)を装着した不良が六、七人と現れる。

 麻衣たちに襲い掛かった連中の他にも、別の窓から入り込んでいたようだ。

 道路上の連中はおとりで、こちらが本体か。

 これはストリートギャングの殴りこみの様相を呈してきた。

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