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第五十八章 終章  

 よく日、バートが消えた。

 夜中に監視員を倒し姿を消したらしく、私服警官らしき者たちが病院内を騒がしくしていた。

 意識消失で安静が必要だから、寝かせて護送を控えていたのが仇になったようだ。

 俺は昼もたっぷり寝た午後に、麻衣から瞳達とこれから行くとのメールを受け取る。

 そこへ要が病室へ見舞いの果物を持って入ってきた。

 有田純子も一緒で、二人の持参した紙皿やナイフを使い試食会。

 麻衣達との鉢合わせが怖いが、三、四十分ほど時間はあるから大丈夫だろう。


「ニュースでやっていたよ。怖いね。あんな事件に巻き込まれるなんてさ」


 純子は、要が皮をむいて切り分けたりんごを頬張りながら話す。


「今日は犯人が逃亡したとかで、何かありました?」


 要が二個目のりんごの皮をむきながら聞いてきた。


「午前中、人が行ったり来たりで騒がしかったよ。聞き込みに刑事が回ってきたくらいかな」

「警察は何をやってるのよ。近くに潜んでないわよね? 怖いわーっ」

「失敗して面も割れてるから逃亡でしょう」


 要はりんごの皮を途切れさせず、一本のままで切り上げて一人喜んでいる。


「それなら安心だけど、お礼参りとかないよな?」

「やくざじゃないんたから」


 俺が不安を口走ったら、二人から速攻で突っ込まれる。

 そのあとは、希教道のやり取りをして二人は帰って行った。

 切ってもらったりんごを頬張りながら、窓の外の遠景をみる。

 要とは二人だけで話したかった。

 バートのこともあったし、だが麻衣と鉢合わせにならずに済んだから良しとしよう。

 遠隔視(オブザーバー)を使ってバートを視ることを試みるが、何も現れてこない。

 今度は麻衣がどこにいるか、遠隔視(オブザーバー)で視ると場面が開けた。

 麻衣目線の先に、要と純子の姿が見えてくる。


『……にうろついているの?』

「先週はすみませんでした」


 要が頭を下げている。

 これはロビーで鉢合わせした? 

 麻衣達が来るのが早い。

 タクシーでも使ったか?


『それ真面目に謝っているつもり!?』


 麻衣が怒り声を出した。


「はい」


 と要が言った。

 麻衣が近づき、右の手のひらが要の左頬に飛んだ。

 まずい、彼女たちをいさめないと。

 一階ロビーまでは時間がかかるし、怪我しているんだ。

 まだ不安だけど零翔(ぜろか)けに頼る。

 ロビーを想像して、その場所にいる人たちに自己イメージを送信してみる。

 麻衣目線に戻って様子を見ると、立ち位置目線がおかしい、椅子に座った? 

 いや、地面にしゃがみ込んでいる。

 麻衣が倒れたのか?


「……また何かする気?」

『何もしません。それで気が済みましたか?』


 要が麻衣の心に話しかけていて、それを声を出して返答している。


「こっ、声が……何で」

『ただ先週の件は黙っていて欲しいだけです。くれぐれも内密にしてください。忍君が困るだけですから』


 倒れた状況を知るため、佐野雅治をイメージし目線のチェンジを行う。

 麻衣が床に尻餅をついて、椎名瞳が寄り添っている。

 前にいたはずの要は、数歩下がったところで叩かれた頬に手を当てて当惑している。

 エレベーターから病衣姿で松葉杖を突いた俺のイメージが歩いて出てきたので、声をかけてみる。


『おい、何している』

「あっ、忍……」


 麻衣から声をかけられた。要も反応があったが、偽者(イミテーション)の俺は認識してないようだ。

 彼女には、セキュリティがあって能力がうまくかからない。

 麻衣に近かったので先に、


『大丈夫?』


 と声をかけた。


「……んっ」


 麻衣は俺の松葉杖姿に見入ってる。

 あれっ変じゃないよな。

 じゃあ驚いているのか。


 ――忍君? 来ているの?


 俺の意識に要の言葉が降りてきた。

 零感応(エアコネクト)の念話だ。


『俺を認識してくれ』


 返事を返してロビーに意識を戻す。


「何で倒れてんだ?」


 側にいる瞳に聞いてみた。


「えっ、びっくりして下がったら足がもつれて……巫女、白咲さんが手を上げてきたからよ」

「忍君違うの。私、頬が痛かったから手を当てただけですよ」


 要が俺の偽者(イミテーション)を認識して言った。


『腫れてるね? 喧嘩しちゃった?』


 要に向かって聞いた。


「殴られました。思いっきり」


 彼女が、冷静に激しい言葉で言ってきたので少し驚く。


「すっ、少し叩いただけよ。大げさな」


 麻衣は立ち上がり言い返す。

 純子や雅治は、突然の出来事についていけないで棒立ち。

 瞳だけ麻衣の後ろについて、何かあったら出ようとしている体制だ。

 要が俺に向いて首を下げるしぐさをしてから、麻衣に向き直る。


「借りは今ので返してもらいました。ついでに私の言い分も了解したと受け取りますね」

「……勝手だわ」


 横を向く麻衣。

 要は一言挨拶して、玄関口に行きそうになったので俺は引き止めて、麻衣達に声をかける。


『今日はありがとう。来てくれて。麻衣……彼女と少し話していくから、先に病室行っててくれる?』


 話しながらエレベーターへ誘うと、素直に麻衣は瞳たちに伴われて上がっていった。

 雅治目線を純子目線にチェンジして、俺の偽者(イミテーション)も要たちへ移動させる。


「ねえっ、今の何なの? おっかない女だったけど」


 純子が俺と要に目配せする。


『俺の学校の同級生、ちょっと行き違いがあったんだ』

「そうなの? それにしても、要もやり返せばよかったのに」

「いえ、いえ、忍君に迷惑かけちゃいますから」

『我慢してくれてありがとう。頬痛まない?』

「ええ」


 はにかむ要を送り出して、その場で別れた。

 イメージを真っ白にして病室に意識を戻す。

 まだ誰も来ていないので、急いで病室に戻ってきた設定にしようとベッドから抜け出す。

 だが、松葉杖に手をかけると、刺された太ももが痛んで倒れてしまった。


「えーっ、忍!?」


 そこへ三人が、開けっ放しの入り口からのぞくように驚いて立っている。


「あああっ、もう来た?」

「何やってるの」


 麻衣が先頭に三人が病室に入って、俺を立ち上がらせようとした。

 だが、麻衣だけ急に萎縮して立ち止まる。

 それを瞳たちが不審げに見ながら、俺に手を貸してベッドに戻してくれた。

 雅治が病室の椅子を持ち出して座る。


「松葉杖なのに戻るの早かったな」

「ああっ、魔法が使えるのさ」

「こう言うときは、瞬間移動能力だろ」


 ネタにしたら駄目出しをもらう。


「私たち少し迷ったからね」

「そうなんだが……忍の足は、実は仮病とか?」

「んなわけ、あるか」


 雅治は意外に鋭いので、これ以上話を続けないように話題をそらすことにした。


「俺がメールもらってから、そんなに経たずに早く来てるが?」

「三人でお金出し合ってタクシーで来たよ」


 麻衣が簡単に答えると、雅治がすぐ話し出した。


「昨日の狙撃事件に巻き込まれたんだろ? 学校にもマスコミが来て、お前の人となり聞いてきたぞ」

「げっ、俺のことマスコミにもれてたのか? ここでは静かだったんだが……」

「もうクラスでは有名人になってたわよ」


 瞳が言って、持っていた袋を麻衣に渡して椅子に座った。

 その袋から箱を取り出して麻衣が俺に手渡す。


「はい、お見舞いのお菓子だよ」

「ありがてえ。何?」

「どら焼きの詰め合わせ」

「浅間が忍が好きそうって選んだんだ」


 雅治が後ろから言うのを聞きながら、包み紙を取りのぞく。


「いいねえ。食おう、食おう」

「お茶……ぺットボトル買ってくるよ」


 雅治が出ていくと、瞳もあとをついていった。

 麻衣がさっきから立ったままなので、椅子を進めると座りながら俺を見つめてから話し出す。


「……ねえ、さっきの、ロビーの忍って本物だったの? 先にこの病室来たのに、床に倒れているんだから。駆けよってピンときたわ」

「ああっ、まいったな……」


 また、失敗したことになるか。

 今度は時間差かな。


「さっきの白咲の声もそうだけど、あれってまやかし(イミテーション)とかの幻覚の一種でしょ? 狙撃事件と関係あるんじゃない? だから怪我までして。ねえ、そうなんでしょ?」

「んんっ……」


 白咲の声って、念話を理解してたのか?


「事件のこと聞かせて。ねっ? 異能のことは知ってるから、信じないとか言わないし。ああっ、昨日私も連れて行ってくれれば良かったのに」

「俺は、麻衣に……これ以上巻き込まれて欲しくないんだ。非常に危険なことだから」

「わかってる。だからって忍が、危険なことに巻き込まれるのを黙って見てられないよ」

「俺だって、麻衣に危ない目に遭って欲しくないな」

「じゃあ、危ないところへは行かない?」

「ああっ。行かない。俺も行きたいとは思ってないから」

「本当? 約束だよ」

「指きり」


 麻衣は小指を差し出して言った。

 不安を感じながら俺も指を出して絡める。

 麻衣の顔が一瞬豹変したと思うと、椅子から飛び退り壁に背中を押し当てる。

 また、拒絶。


「あっ……ああっ……ごめん。ごめん。駄目だ、また見えちゃった……怖い物がいた気がして」


 麻衣は壁にもたれ口に手を当てて、震えるようにゆっくり床へしゃがみこんだ。


「移念体(ムーブオーラ)の後遺症だ。麻衣のせいじゃない。俺のせいだ」

「やだ、私……そんなつもりじゃない……ごめんなさい」


 顔を両手でおおうと、ゆっくり嗚咽しだす。


「すぐ直る。直るから……」


 彼女をなだめるが、何かが冷めて体を覆っていく気分に憂いた。


「これじゃ、忍と手すら握れない」


 そう言って、床に座り込んでしまう。

 椅子が倒れ、どら焼きが床に散らばっているところに、お茶のペットボトルを買って二人が戻ってきた。


「広瀬君、何したの!」


 瞳が俺の前に立って鋭く言った。


「あっ、いやこれは」

「違うの……私なの……私の……ううっ、せいなの」


 瞳は、自己非難して半泣きの麻衣を立たせて、廊下に連れ出す。

 それを見て雅治は、落ちたどら焼きを拾い上げる。


「喧嘩?」

「いや、そうじゃないんだが……」

「俺も瞳も、浅間の幻覚から何かに関わってると思ってるが……言えないこと?」

「……悪い」

「そう……俺もトラブルは回避したいからいいんだけど。ちょっと、寂しいかな」

「ごめん」


 俺の一言で、部屋は静かになった。

 しばらくして落ち着いた麻衣が戻ってきたが話は弾まず、どら焼き主食会がお通夜のようになった。

 別れ際、みんなが立ち上がりドア口に行くと、麻衣がまた泣き出した。


「うっ、ごめんなさい……ごめんなさい」


 瞳がフォローに入り、麻衣をなだめながら帰っていった。

 一人になると、前の学校を辞めたときの、何かを失ったような感覚を思い出していた。



 ***



 俺の暗くなった気分をまぎらわしたのが、いろんな人たちの見舞いだった。

 麻衣たちのあとに、谷崎さんがラフなジーンズスタイルで来てくれた。


「大丈夫そうね」

「谷崎さんも取材とか来て、大変じゃなかったですか?」

「それもあって、祖父が自宅療養に切り替えたから、今日は持ち物を取りに来たのよ。バートも逃げて物騒になったからね」


 谷崎さんは腕を組んで、いろいろ聞きたそうな顔で俺を見つめる。


「……それで栞はどうなったの? 撃たれたって報道はされてないけど」


 栞が偽者(イミテーション)かヒートシーカーが正しいのか判断がついてないようだ。


「俺は病院の屋上だったのでよくわからないんですよ。でも報道されてないってことは、そう言うことだと思います」


 しらを切って、あとは谷崎さんの考えにまかせた。


「そうね。忍君たちはバートの情報を知ってたから、対応は万全ってことよね」

「ライフルなんて知らなかったですし、そうでもないですよ。谷崎さんは狙撃の話は聞いてたんですか?」

「そんなわけないでしょ! 待機で病室から連絡を受けてたと思って……いいように利用されてただけだったわ」


 谷崎さんは煮え湯を飲まされたと、語尾が荒くなる。


「俺もナイフまで持参とは思わず、こんな状態にされましたがね」


 そこにビニール袋を持った夢香さんが、開けっ放しの入り口付近のカーテンから顔をのぞかしていた。


「あっ、元気だ! 知美も来てたのね。お爺さん会長の見舞いも兼ねてかな? でも、でも、本当にびっくりしたわよ、忍君。何でまた怪我しちゃうかな、心配させないでよ」


 夢香さんが近づき、矢継ぎ早に話しかけてきた。

 そのつど俺は首を縦に振って答えていると、出してあった椅子に腰掛けて手を握って見つめてきた。


「だっ、大丈夫だよ。夢香さんの方もゾンビ男はどうなんですか」

「あれから出てないね。もう来てほしくもないけど。それでね……」


 床に置いてたビニール袋をひざに乗せて開封する。


「ベランダでまだ元気に咲いてたから、忍君に持ってきたの。シクラメンのおすそ分け。退院しても部屋に飾れるわよ」


 それを見た谷崎さんが急に慌てだす。


「ゆっ、夢香。それ駄目よ。シクラメンは死とか苦とか病人によくないロゴが入っているから、よくない見舞い品よ」

「えっ? ええっ? そうなの?」

「それに鉢植えも、寝ずくとかで失礼にあたるのよ」


 それを聞いてしばらく部屋に沈黙が訪れる。


「えーっ? ご、ごめんなさい。知らなかった。どうしよう。もって帰るね」


 さすが夢香さん、またやってくれた。

 というか、平常運転ってやつだ。


「いいですよ。すぐ退院だと思いますし、部屋に飾らせてもらいます」

「い、いいの?」

「本人がいいんなら、大丈夫じゃない?」


 そう言って肩をすくめる谷崎さん。


「そ、そうね。ははっ。今度から気をつけます」


 ちょっとがっかりの夢香さんと一緒に、谷崎さんたちは帰っていった。







「おう、ここだ。よう、忍ちゃん。元気か?」


 次にうるさいツインテールと相棒の直人が、チーズケーキを持ってやってきた。

 女医による今村の検査で、Bランクの保持者と断定されたと報告をしながら、直人が引いてくれた折りたたみ椅子に座る彩水。


「あいつは、従順で使えるぞ」

「お前はやつの何を握ったんだ?」

「はて、何のことかな。フッフッ」

「面白そうなことなのか?」

「うーふ、ふっふふふ。しらなーい」


 彩水の不気味な笑いに、前かがみだった俺はベッドの背部デッキへ後ずさる。

 直人がお茶の入った紙コップ三人分を持ってきて、彩水が受け取ると持参した箱を開けて中のチーズケーキを食べ始めた。


「まあ、食え。クリームが濃くて甘さが控えめで美味いって評判だぞ」


 見た目も手のひらサイズでそそるので、一つ手に取って口に入れる。

 口の中でチーズクリームの甘さが溶けて、甘美な気分を味わいながら飲み込む。


「うむ、美味いな」

「で、何してたんだ?」


 狡猾な目線で俺を見据える彩水。


「知り合いに付き添ってただけだぞ」

「またまた、要もいたんだろ? 何してたのさ」


 俺にチーズケーキを勧めといて、話しながら一人で差し入れをパクツク彼女。

 その後ろで直人が微笑んで立っている。


「そう思うんなら要に直接聞けよ」

「あいつが話すかよ。何かやっているのは、わかるんだがな」

「ほうっ、何かやっているのか?」

「今の信者からのお布施では、道場を切り盛りしていけないだろ。だから資金をどこからか調達しているんだよ」

「竹宮女医から出てないの?」

「ないでしょ。道場のお抱え医師だし。それで資金繰りのトラブルが今回の件じゃないのか? あの巨漢が一人横槍入れたようだけど」

「俺は入ったばかりで知らないし、末端で言うべき立場でもないぞ」

「この手で視てもいいのかな?」


 彩水は両手を叩いて、俺の体に触れようと立ち上がる。


「また大蛇が出るぞ」

「うっ、忍ちゃんのいけず」


 可愛子ぶったまま、それ以上の追求はしてこなかった。

 結局ツインテールが、十個パックの箱に入ってたチーズケーキをほとんど食べて帰っていった。

 見舞いじゃなかったのかよ。






 最後に雑誌“月刊 怒(ど)!”編集者の小出さんが嗅ぎつけてやってきた。


「また大変な目にあったな。今度も巻き込まれたのか?」

「そんなところですが、よく俺だとわかりましたね」

「あるネタを追っていて、たどりついた先が希教道と谷崎製薬だ。事件の取材に来てみれば中核に君がいて、こっちが驚きだよ」

「ネタってIIMですか?」

「IIM? あの頭の良くなるって話題の薬か。そうじゃないんだ。どうだ。俺のネタ話すから、君の怪我の真実を話してくれないか? ちなみに君の能力を知っていたから、そのネタを追うことになったんだがな」


 小出さんのネタって、他の保持者と関わったってことか? 

 聞きたいが、どこまで話したらいい? 

 バートの話なら逆に何か聞けるかもしれない。


「俺の住んでるマンションの前にある道場が立っているんですが、あの巨漢が不審者っぽく何度か見かけてたんですよ。事件のとき屋上でその巨漢を見つけて、近くだったので不審者として尾行したわけです」

「また危ないことを……では一般報道の出会いがしらではなかったのか。待てよ、その道場って希教道かい?」

「ええ、まあ」

「狙撃って……会長じゃなくて孫の方だったんじゃ?」


 つぶやくような独り言から、しばらく黙った小出さんに聞いてみた。


「あのバートって何者ですか?」

「ああっ、俺は報道以外は聞いてないんだ。情報が流れてこないから、まだわかってないんだろう」


 事件後で情報収集の段階だから仕方ないのか。


「じゃあ、追ってるネタってなんですか?」

「ああっ、最近財界で噂があるんだ。一部の財界、政界人が先を見通せる目を持って、未来が見えてるくらいに適格な拝み屋を囲っているってね。それがある教団の若き巫女だってこと。俺が君の能力の件で神秘主義の話を同僚に聞かせていたら編集長の耳に入ってな、拝み屋を特定しろって俺に回ってきたのさ。で、調べてたらこの事件が持ち上がったわけ」


 若き巫女が栞なら、拝み屋として東京に出張でもしてるのか?


「それで俺が取材したい教団の名前が希教道。場所教えてくれると助かる」

「あっ、はは、そうっすか。いいですよ」


 小出さんは正善的な記者って感じで俺は好意を持っているが、評価するのは栞だから谷崎さんみたいに対立しないことを祈ろう。


「また尋ねるかもしれないが、そのときはよろしくな」


 見舞いの栄養ドリンクのパックを置いて帰っていった。






 入院中に何もしない無駄を省くように、独自に零翔(ぜろか)けの基本操作を練習してミスを少なくしていった。

 毎日要が見舞いに来て、夜は俺が偽者(イミテーション)の練習を兼ねて、道場にある栞の部屋へ行く。

 もちろん携帯電話で連絡を入れると、彼女はセキュリティのメデューサを解除して迎えてくれる。


「今日、委託していたネットの駆け込み寺がアップされたので、見ておいて下さい」


 栞が言った。

 俺が前に要に言ってた、希教道が異能者の駆け込み寺になるとの発言から、採用されたサイト名で設置されたようだ。


「来月からIIM2のCMがTVで流れるそうです」

『動き出してるね』


 俺が言うが、偽者(イミテーション)の栞視線では、彼女の見ている俺自身の投影を確認するだけ。

 栞が見えないのが寂しく能力の限界を感じる。


「私は不安です。流れに乗って進めて行けるのか疑問なんです。何もしなくて一人で暮らしていたら……楽でいいんじゃないかって」

『でも、そんなことはしない。だろ?』

「将来への布石がなければ、幸福もありません。でも、すごく疲れるときがあるんです。何か重いのが胸に引っかかるような」

『そのときは……溜め込まず、誰かに吐き出せばいいんじゃない? 女医や高田さんとか』

「忍君の選択はないんですか?」

『俺で良ければね。聞き役だけで、話し相手になれるか疑問だけど』

「忍君は側にいてくれるだけでいいんです」

『それでいいのか? 失礼ですとか、叩きますよとか言っていいんだぜ』

「わっ、わかってて言ってますね? 忍君、失礼です」


 よく日幹部メンバーが、駆け込み寺をそれぞれにツイートすると瞬く間に広がり、サイト掲示板に少しずつ悩みや異能自慢、それへの反発などが書き込まれていった。

今回で、第三部「白咲要編」終了です。読んでいただきありがとうございます。


次回からは、白咲要編の過去話「少女語り編」の始まり、終わると第四部「教団編」で、栞、麻衣をパートナーとした共闘展開を予定してます。

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