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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

狼少年殺人事件

作者: 東堂柳

 山間のある村に、ひとりの羊飼いの少年がいました。少年のお母さんは病気で寝込んでしまっているので、彼にはかまってくれる人がいませんでした。

 そんな寂しさからか、彼はよく嘘をついては、村の人々の興味を惹こうとしました。ミスター・サリバンの家から彼が大切にしていた本を盗んだのは、隣人のミセス・ジェニングスだと言って回ったり、町の学校で教師をしているミス・ベルが生徒に暴力を振るったと騒いだり、さらには、おしどり夫婦で知られていたミセス・コルヴィンと村長のミスター・ローリングスが浮気をしているという噂を広めたり、色々な嘘をついては、その反応を見て楽しんでいました。

 しかし次第に、村人は彼の言うことを信じなくなるようになりました。誰もが、彼が酷い嘘つきだと気付き始めたのです。


 そんなある日、少年は、

「狼が来たぞおっ!」

 と朝から大声で村中を駆け回りました。

 驚いた村人たちは、慌てふためいて家から出ると、逃げようとしたり、農具を持って立ち向かおうとしようとしたり、あるいは騒ぎに乗じて貴重品を盗もうとしたりしました。

 その様子を見て、少年は大笑い。

 騙されたとわかった村人は、少年をこっぴどく叱りつけ、もう二度とこんな事をしないようにと約束させました。

 しかし翌日、再び少年は、

「狼が来たぞおっ! 今度は本当だぞおっ!」

 と、村中を叫び回りました。

 またまた村人たちは大騒ぎです。

 少年は騙された村人たちを見て、やはり腹を抱えて大笑い。

 村人は、またも少年にきつく言い聞かせて、二度とやらないように釘を刺しました。しかし、彼らも馬鹿ではありません。どうせまたこいつは狼が来たと嘘をつくだろう、誰もがそう考えました。二度も騙されたのですから、もう絶対に引っかかるまいと、村人たちは、次はみんなして少年を無視することに決めました。

 村人はみんな、『狼少年』の話を知っていました。町の学校で習うのです。嘘をついて村人を翻弄する、不届き者の狼少年は、最終的に本当にやってきた狼に喰い殺されてしまうのです。嘘をついたものには天罰が下ると、村人はみんなわかっていました。

 その翌日。やはり少年は騒ぎ始めました。

「狼が来たぞおっ! ほんとにほんとだぞおっ!」

 しかしもう村人たちも反応しません。誰もがまたかと思いながら、家の中でいつものように清々しい朝を過ごしていました。 

 しかし、今度は本当でした。

 少年は狼に追い立てられ、必死で逃げました。しかし、村まで来た狼は、他の臭いを嗅ぎつけたようです。狼は少年を追いかけるのをやめて、ある民家の扉を突き破り、中にいた村人を喰い殺しました。

 騒ぎを聞きつけた他の村人たちは、その様子を見て驚きます。

「本当にやってきたぞ! 狼だ! みんな早く逃げろ!」

 村の方々を駆け回り、みんなを避難させようとしたり、武器を持って狼に立ち向かおうとしたりしました。

 村人は恐怖に戦いて、辺りは阿鼻叫喚の大騒ぎです。


 町の警察が村までやってきて狼を射殺すると、ようやく村には静けさが戻ってきました。

 しかしその静けさは、今までのものとは少し違うものでした。辺りは一面血の海で、至る所に村人のはらわたや骨、脳漿が飛び散っていました。酷い臭いです。

 生き残った村人たちは、少年のせいだと口を揃えて言いましたが、少年は、

「僕は本当のことを言っただけです。それのどこが悪いんですか? 僕はみんなを助けようと、必死で叫んだのですよ!」

 こう言われては、ぐうの音も出ません。狼をわざと連れてきたという証拠もありません。結局、警察も手出しできませんでした。

 釈放された少年は、帰り際、口元を歪ませてほくそ笑みました。

「僕が嘘つきじゃないと証明されただろう。これでまた、みんな僕の言うことを聞くようになるだろうさ」

 高みの見物をしていた、村人の騒ぎの様子を思い出して、少年は可笑しくて可笑しくてたまりませんでした。

「こんなにうまくいくなんて、ちょろいもんだ」

 何もかも少年の計画通り。少年は笑いが止まらず、いつまでもいつまでも笑い続けましたとさ。

 お終い。

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