第7話:俺、思いつきます
あらすじ:地学と歴史を学ぶそうですよ
父には色々な事を教わったが、歴史や地理については今一つ教わっていなかった。
理由は知らないが、父は「知らなくてもいいよ」と微笑んでいるだけだった。
きっと、何か理由があるのだろう。それこそ、深く掘り下げない方が良い理由が。
まぁ、母さん曰く「多分、あの人忘れただけだと思うよ」と言っていて、シリアスぶち壊しだったが。
***
「えーと……」
「まだぁ?」
「待て待て。多分、この辺り、に……」
少し古びた木製の家。リーフやリリアと共に、玄関で突っ立っていた。
何故立っているかって?この小さくコンパクトな家の持ち主はを待っているのだ。だが、リリアの不服そうな声から察するだろうが、未だその主は来ない。
当の主――ヴィスタは、奥の部屋で何やらゴソゴソと怪しい物音を立てている。
俺らは玄関に居るのにも関わらず、某青い猫型ロボットが映画版の時に慌ててポケットから秘密道具をぶちまけているように、玄関からも見える程にあらゆる物をぶちまけていた。
廊下が悲惨な程に、ガラクタかあるいは大事な物か、得体の知れぬ物で渡れない状態へと陥っていた。
「……」
ハッキリ言おう。
きったねえ。きったねえよ、ヴィスタ先生。
色んな物が散乱してるよう。汚いよう。
……はぁ!!あ、あそこにある黒い紐のような物は……ま、まさかの「おぱんてぃー」ではないか!?
此処で男の夢が詰まった物に会えるとは……案外ガラクタではなく、宝物なのかもしれない。
そんな夢を巡らせているのは俺だけのようで、リーフとリリアは待ちぼうけである。
特にリリアはリーフと違い、気が短い方のようだ。むすーっと不機嫌な表情でリズミカルに足踏みしている。
ま、確かにかれこれ何十分待たされているのだろう。
普通の9歳児だったら、「まーだー!?」って言いながら部屋に飛び込んでいるかもしれない。
俺?オイオイ、俺今年で何歳になると思ってんだ?ごめん、前世の年齢うろ覚えです。
「あった!」
三人で会話する事なく待ちぼうけていたら、奥の部屋からよく分からぬ物が吹っ飛ばなくなった代わりに、ヴィスタの晴れやかな声が飛んできた。
そして、にこやかな笑みを浮かべ、廊下に散乱したガラクタを足で端に寄せながら俺らにボロボロな紙切れを見せて来た。
そう、俺らは地理の勉強をする為に、地図を探していたのだ。
地図は手書きである為か、あまり人手に渡っていない。なので、実質地図なしの勉強になるかと思いきや、何とヴィスタが冒険家時代に手に入れたと言って来たのだ。
ラッキー!と思ったが、元よりヴィスタが冒険家を辞めたのは十年近く前の事。何歳ですか、ヴィスタさん。
まぁそんなわけで、そんな年代物を奥深くにしまい込んだ為に、探すのに結構時間を取られてしまった。しかも、ヴィスタが結構埃まみれになっちゃって、哀れ。
しかし、こんな子供に、しかもローブを被った怪しい子供に教える為に、よくもまぁそんな必死に探してくれたものだ……惚れるぜ、姐さん。
「わーぉ……」
「……きったなーい」
ああん!!(泣)
駄目よ、リリア!!そんな本音漏らしちゃ駄目!!俺、頑張ってその言葉を飲み込んだのに!!
実際汚いし、ボロボロで、少し強く触れたらすぐにビリビリに破けてしまいそうだ。
ヴィスタに手渡され、恐る恐る触れてみると生地は良さそう。正直意外としっかりしてた。
見た目だけかよ、ボロいの。
年代物のせいか、地図が若干見難い。薄い。
しかもヴィスタがふーって吹くたびに、埃が軽やかに舞っていらっしゃる。俺はハウスダストアレルギーなんだ。やめてくれ。
「ふーむ……地形はともかく、国名が変わってなきゃいいが」
ヴィスタは不安そうにそう呟いた。
***
先程魔法の練習をしていた場所へと移動した。相変わらずリーフとリリアは我先にと走って行く。俺?もう若くねえんだって。今は9歳だけど。
ある程度広い場所に行くと、ヴィスタが地図を地面に広げる。
すると、先程駆け回っていたリーフとリリアが地図へと駆け寄ってくるが、若干息切らしてる。特にリーフ。無茶すんな。
「わぁ!……あっ!えと……あ、ら、……『アラゴルン』って書いてある!」
「首都『ガラズ』もあるわね」
リーフが無邪気に拙く読みながら喜んでいるのに対し、リリアは冷静に読んでいる姿を見ると、同じ素直さでも二人して性格が反対だな。
そんな俺は普通に字を読んでます。ただね、文字が小さいというか薄いというか……古いから仕方ないけど、読みにくいっす。はい。
「まず、大陸から見て行こうか」
無邪気にはしゃぐ俺らを他所に、冷静にヴィスタは地図を指差す。ボロすぎて何処を指差しているのやら。
「まず、真ん中に大きな島国があるね?」
「はい」
「此処が我らが住む島国だ。総称して『アダンの島国』と呼ばれているが……まぁこれに関しては覚えなくていいだろう」
「此処にある小さい島国は?」
リーフが横から、左ななめ端にある小さな島国を指差しながら尋ねる。
「あぁ……そこは、『サリオン大陸』だな。此処は詳細不明の島国だ」
「詳細不明……?」
「調査はしたようだが……危険地域らしい。竜が沢山居ると言われていてな。元々は『魔女の一族』が住んでいたとされる島国なんだが、滅んでからは竜が住み着いているという調査結果だ。船も通ってないし、ほぼ詳細不明と言っても過言ではない」
おぉ!!ドラゴン!!あのファンタジー界の大物であり象徴とされるドラゴン!!
そして、またもや出てきました『魔女の一族』!!住んでいたのか!!
俺が興奮していると、ヴィスタとリリアにクスリと笑われた。くっそう……恥ずかしい……
「やっぱり男の子ね!」ってリリアが大人ぶっていたけど、若干話聞いてる時鼻息荒かったよね。興奮してたよね。そしてリーフは瞳をきらきら輝かせてるね。隠すつもりないね。
「んじゃ、此処の黒い島国は?」
「あぁ……其処は……」
ヴィスタは俺が指差した黒い島国を見ると、微笑みから一変、顔を顰めた。
何か言い淀んでいるようだが……もしかして、相当危ないのか?
「……其処は『モルニエ大陸』。通称『魔帝国』と呼ばれている。魔族が住む島国だ」
おっ魔族。居るんだ、この世界に。
微妙な顔つきなのは、もしかして差別とかあるのか?
「へー……ん?此処のバッテンは何ですか?」
「……これは、その、ううむ……」
何故か言葉を詰まらせている。何と説明すればいいのか分からないって顔つきではなさそうだ。
もしかして、魔族の偏見ではなく、此処のバッテンに言い淀んでいたのか?
ま、まさか、魔王が住む居城とか……まさかね。
「其処は、“大魔帝王”の居城。決して近づいてはならない、禁断の場所だ」
フラグ回収致しました。
マジですか。地図にまで載っちゃってるんですか。
それ以前に、魔王ってレベルじゃなかった。大魔帝王様だった。あらいやだ。
ふと横を見ると、リーフが鼻息荒くして興奮してた。
まぁ……興奮したくもなるよね。男の子だもの。
「ふっ、やはり男子か。大魔帝王の名に恐れぬとは」
恐れる以前の問題ですね、これは。
冒険活劇とか勇者の話とか知っている子だと分かるよね。興奮するよね。「ぼく、しょうらい、だいまていおーたおすんだー!」なんて言いたくなっちゃうよね。
「このモルニエ大陸は五つの国があるのだが、その五つの国を統治するのが“魔王”と呼ばれる存在だ」
「強いんですか?」
「さぁ……こちらもサリオン大陸同様、情報がほとんどなくてな。大魔帝王や魔王の存在を知った人族はその後消息不明だし」
サラッと恐ろしい事言っていらっしゃる。
「ま、この二つの大陸に近づく機会はないだろう。船も通ってないし、空を飛べればの話だな」
「そうですか……」
「大魔帝王は、いつこちらに攻め入るかは分からん。今も機会を窺っているのだろう」
またもやサラッと恐ろしい事言っていらっしゃる。
やめて。貴方の側に、いつだって大魔帝王とかやめて。怖い。
リリアとか若干青ざめてるじゃん!あ、でも可愛い……いやいや、俺はロリコンではない。ロリコンレッテルを貼るんじゃない。まだその時ではないのだから。
俺がそんな事を考えている間に、ヴィスタは話を変え、一番大きな島国を指差す。
「じゃ、我らが住む島国に関してだが……今は、三つの大陸として分かれている」
「へ?」
「仲が悪いのかもしれんな。一つの島国を三つの大陸に分けるとは。昔の人の事は分からんよ」
ヴィスタがクスクス笑いながら、適当に流す。俺の視線は笑顔より先に胸の方に行ってしまうので、笑顔をあまり見れないのは残念。
「まず、一番規模が大きい大陸が『ルインダゴル大陸』……『ドゥアリン国』が一番権力と統治する土地を持っているな。残り二つが同じくらいの大きさで、自然が多いのが『ギルイシル大陸』。あたし達が住んでいる大陸だな。次に魔術が発展しているのが『リンダレ大陸』。此処の『グロル』という国は未だ戦中にある」
「ギルイシル大陸とリンダレ大陸で権力を持っている国は?」
「ギルイシル大陸は『ガラドリエル国』だろうか。リンダレ大陸は『エルロンド国』で、魔術師や騎士団を育てる学校があるとされている」
うおおお!!学校!!テンプレ!!
魔術師だけでなく、騎士団まで養成するのか!!うっきゃー!行ってみたい!!
まず、騎士団って何よ?という考えを俺は吹っ飛ばしてしまう。無念。
興奮してたら、何故かリリアはクスクスと俺を見て笑っている。何だ、俺の顔がそんなに面白いか。
「リーフと同じ顔で興奮してるわよ」って言われた。……俺も、お前も男だな。うむ。
つか、ローブで隠れてるのによく分かったね。口元?口元そんなににやけてた?
「学校かぁ~……」
一方、リリアはあまり気乗りしている様子はない。はて、武術や剣術が好きみたいだから、てっきり騎士団に憧れてるのかと思ったが。
「そういえば、リリアは既に10歳だったな。もう学校行ける年だろう。来年辺り行くのか?」
「え?」
「リリアは僕より誕生日早いからね」
いや、そうではなくて。
「……何か、乗り気じゃなさそうだな」
「……だって、リーフもヴィスタも……ティナも居ないもん」
「え?リーフは?」
「僕の家はお金ないもん。リリアは村長の娘だから……」
金なら俺の髪で稼いだ金があるだろ。使うがいい。
「……独りなんて嫌よ」
俯きながら、何処か辛そうな悲しそうな表情で、ボソリと呟いた。
ごめん、不謹慎かもしれないし、第一雰囲気ぶち壊しだけど、カーディガンの裾をいじりながら泣きそうな顔で言うリリアが凄い可愛いです。太腿輝かしい。
「ふーん、じゃあ別にいいんじゃね?」
「……えっ」
「行きたくなきゃ行かなきゃいーし!」
「……っそ、そうよね!そうよ!」
パッと花火のように一気に表情を明るくしながら、リリアは俺の意見に同意した。
別に行きたくなきゃ行かなきゃいいじゃない。義務教育じゃないんだから。
俺の時は義務教育だったのよ?中学の時は正に暗黒時代だったわ。
その様子を見ていたリーフは苦笑いだったが、何処か安堵したような、嬉しそうな表情を浮かべていた。
***
「昔、大戦争が起こっていた。ルインダゴル・ギルイシル・リンダレの三つで、三つ巴のようにいつまでも睨みあっていたわけだ。戦中で徴兵されたのが、魔女の一族――ミルディン人と魔族の二つだった。特に魔族は戦闘能力が、獣族よりも高い。特に徴兵されてしまったわけだ。其処から逃げるように、魔族は離れた島国へと逃げ込んだ。その島国で徐々に発展して……」
「……魔帝国が生まれた?」
「その通り。いつ大魔帝王が生まれたのかは定かじゃないが、何千年前には生まれていたとされている。そして、大魔帝王は国一つ滅ぼし、己の圧倒的な力を見せつけた。そして、人々は魔帝国には決して近づこうとはしなかった」
ふーむ……何か話だけ聞いてると、人間の自業自得じゃね?としか思えん。
そんな陳腐な感想しか出てこない歴史学を学んでいると、戦国時代を思い出させる。何だっけ、ほら、織田と豊臣と徳川みたいな。あれ?でもあれって三つ巴ではなかったな。
地学では北海道と沖縄の場所しか知らんかった俺にとっちゃ、既に頭から抜け落ちそうだ。可哀想な程に少ない俺の脳内タンス。
「そして、次に徴兵されたのはミルディン人だった。ミルディンは魔力が常人より高く、たまにミルディンしか持っていない≪能力≫が備わっているらしい。だからこそ、ミルディンは奴隷としてではなく徴兵としても扱われた」
能力って何すか。俺知らない。
「能力って何?」
「研究者の間では長く研究されているが……あたしは、その辺疎くてな。すまない」
リーフが代わりに聞いてくれたが、答えは出てこなかった。しょんぼり。
そして、ヴィスタは一呼吸置くと、再度口を開く。
「ミルディンはかつての自国――島国に逃げようにも、魔族の事もあってか、国はそれを許さず、ずっと国に監禁し続けた。結果、奴隷として、兵士として、多大な命が失われていった」
酷い話だ。俺と同種族だからこそ、強い憤りを感じる。
思わず、顔をしかめてしまうが、ローブを被っているせいか誰にも気づかれない。
「ミルディンは元々遺伝子が弱いのか知らないが、他の異種族と交尾しても、決してミルディンは生まれなかった。――そして、その事もあって、すぐに数は減少した。こうして、ミルディンも徐々に姿を消して行ったのだが……」
「だが?」
「……“魔女”が現れた」
出たぞ、我がオカン。さぁその悪逆非道な国を滅ぼしてくれい!
「魔女は突然空から現れ、無人島を木端微塵に壊したとされる。そして、“お前達の国もあんな風に壊してやろうか”と脅し、ミルディンの徴兵は減って行った。魔女の圧倒的力を完膚なきまでに見せつけられたわけだ」
心成しか、ヴィスタはとても嬉しそうに語る。まさか、貴様……魔女信者か?
「その力を見込んで、人々は魔女に“どうか、魔帝国を潰してほしい”と頼んだ。一番恐怖するものは魔帝国だしな。そこで、魔女は“ミルディンの奴隷制度をやめたら、潰してやろう”と応えた。だから、ほとんどの国ではミルディンの奴隷制度を無くしたんだが……当時の『ドゥアリン国』はそれを拒否し、奴隷制度を続けた。その結果、魔女は決して魔帝国を潰さないと断言してしまったわけだ」
アホか!!ドゥアリン国アホか!!
「ま、その後、一番の敵は魔帝国ーってなって、現在は一時的に休戦状態に落ち着いている。特に、ガラドリエル国とエルロンド国は同盟を結んでいる。一方のドゥアリン国は一匹狼状態であり、未だ国々の溝が深いな」
「……っはぁ~」
思わず大きく息を漏らす。意外とあっさりしているというか、深いというか。
何と言うか、ドゥアリン国がアホなのは分かった。変なプライドを持つなよ、見っとも無い。
俺が溜息を吐いていると、リーフが俺の体調を心配するかのように窺う。
何でだろうと思っていたら、ミルディンが滅ぼされた理由を知ってしまったかららしい。優しいね、リーフ君。お兄さん、涙が出そうだよ。
まぁそんなのはいいとして、意外と魔帝国は何もしてないんだな。脅威になるから潰そうと、人間が思っているだけっぽい。
う~む……これは、直接確認した方がいいんだろうな。うん。
まだその時ではないが。
***
そろそろ、夕刻が近づきそうだ。
「あぁ……悪いが、あたしは抜けるよ。そろそろ見回りしないとね。森の爆発についても調べなきゃならんし」
「そっかぁ」
ごめんなさい。森に関してはごめんなさい。
そのままヴィスタは森の方向へと足を運ばせていった。
さて、
「?何処行くの、ティナ」
「……ちょっとな、この村を探索しようかと」
「僕、案内するよ?」
「え?リーフは、カメリアおばさんの手伝いがあるじゃない」
「そうだけどぉ……」
リリアはリーフを引っ張りながら、俺にも「一緒に行こう」と誘う。女の子のお誘いだ。これを断れるか――否、断った奴はリア充だ。見つけ次第消せ。
ま、此処は断りますよ。ええ、断腸の思いです。
「悪いけど、一人でするよ」
「迷子になるわよ?小さい村だけど、広いもの」
「へーき、へーき!じゃあ、すぐ帰るからな、リーフ!」
「ティナぁ~!」
何か間抜けっぽい声出してたけど、無視無視。
リーフはリリアに引きずられて、そのまま立ち去って行った。
さっ、俺も行こうかな。
森へと足を向けるが、森には用はない。
じゃあ、何処に行くかって?
大魔帝王様に会いに行くのですが、何か?
読んで頂き有難う御座いました。
次回『俺、大魔帝王様に会います』
そろそろバトルが欲しい頃ですね。




