第34話:俺、魔王と出会います
あらすじ:勇者の息子に会います。
※大変お待たせいたしました。約1年近く経ってました。驚きです。これからもっと遅れると思います。申し訳御座いませんが、予め御了承下さい。
ユート・リンドウ。
最初に召喚された【勇者】であり、人族により魔大陸に送られ、戦争によってその命を落とした青年である。
黒髪黒目であり、異世界(恐らく日本)から来たと思われる。
やはり【勇者】として召喚されただけあって、その強さは桁違いだったらしい。召喚された際に、何らかの力を得たとも考えられる。
知力も武力も兼ね揃えた―――正に、超越した人物だったそうだ。
「そんな人間が居るとはねぇ……」
「信じられんかもしれぬが、事実だ。この世界の言語や知識の吸収力も凄まじく、尚且つ剣術も長けていた。見た事もない剣術を扱っていたな」
もしかして剣道部だったりしたんかな。そう思いつつ、俺はオルフェストの話に耳を傾けた。
勇者―――ユートは、とても落ち着いた人物だったと語る。冷静な判断力と、それに見合った行動力。しかし、少し天然で人間らしい部分もあったという。
よくオルフェストのお茶会にも付き合ってくれたらしい。きっと人が好いのだろう。じゃないと、こんな強面のオルフェストとお茶会なんぞやってられん。或いは、それすら気にしない鋼の心―――いや、冷静さというべきか。
そろそろ空になりそうなティーカップに目をやりながら、俺は大理石の床をコンコンと踵で叩く。貧乏揺すりをしつつ、目の前の、漆黒に染められたクリスタルの様な透明感あるテーブルにティーカップを置いた。
庭園からこちらの応接間に通されて、早五分ほど。
オルフェストと対面しながらお茶を嗜む。
目的は勿論、勇者の子であるアーベント・リンドウとやらに会う為。
しかし、問題がある。何と、勇者の子なのに魔王なのだ。勇者の子が、勇者の天敵になるとは。
魔王の実力は定かではないが、流石にオルフェストよりは下だろう。だが、どんな力を持っているかは分からない。案外俺と相性が悪いような能力を持ち合わせているかもしれない。……いや、化け物だけどね?
流石に全く相手を知らぬまま会うのも怖いし、気が引けるので、オルフェストに魔王のことを尋ねてみた。
まず、この魔大陸―――モルニエ大陸は、国が分けられている。
中心部には『サウロン城』という、オルフェストが住まう城があり、特に国を統べているわけではないらしい。統治するのが面倒だから、魔王に任せてるとのこと。面倒って何だよって思ったが、敢えてつっこまない。オルフェストは意外とそういう面がある。
そして、その城を中心に五つに国が分けられている。
一つは、サウロン城から北に位置する“イシリエール”という国。通称、“月の国”。
この国は日が昇る事がないのに、作物も植物も育ち、大陸中で最も美しいとされている。稀に、雨ではなく星の様な輝く水が降ってくるそう。“流星雨”と呼ばれており、とてもロマンチックでファンタジックな国だという印象だ。
この国を統べるのは、魔王・ルナ。小柄な女性だそう。
二つ目は、サウロン城から東に位置し、イシリエールの隣にある“ヴァラール”という国。通称、“黒の国”。
一番気候や地形が安定しており、住み易い国だそう。また、大陸中で一番発展しており、建物が多々聳え立つ中、自然豊かな面もあり、その二つが合わさって調和された、景色も良い国だと。
この国を統べるのが、魔王・アーベント・リンドウ。黒髪の青年らしい。会うのが楽しみだ。仲良くなれたら、国も見てみたい。
三つ目は、サウロン城から東南に位置し、ヴァラールの隣にある“モナドール”という国。通称、“力の国”。
大陸中、比較的小さい国だが、強者揃いの国らしい。よく大武道会的なイベントもやっているらしく、戦争などになったら真っ先に此処に武力を借りるんだと。少し殺風景なところもあるが、腕試しをしたいのなら、この国だそう。
この国を統べるのが、魔王・ガルテリオ。一番大男らしい。
四つ目は、サウロン城から南西に位置し、モナドールの隣にある“エンドール”という国。通称、“風の国”。
風が強く、よく台風といった強風も起こるそう。水資源が豊富で、陸よりも水面積が多いらしい。“水竜巻”という水を巻き込んで起こる竜巻が起こる事もあるそうだ。大陸中で最も自然豊かで涼しい国とのこと。
この国を統べるのが、魔王・シエル。ルナとは異なり、大人の女性といった感じとのこと。
最後の国は、サウロン城から若干北西に位置し、エンドールとイシリエールに挟まれた“ゴルドール”という国。通称、“岩の国”。
モナドールよりも殺風景で、あまり人が住めるところではない危険地域ともいえる国らしい。火山が多く、噴火期といった毎日噴火し続ける期間もあるとのこと。しかし、溶岩や噴火どころか、隕石にすら耐える建造物が多く存在し、火や岩を好む強き魔物も多数存在するとのこと。よくモナドールから、強者達が来て鍛えて行くそう。
この国を統べるのが、魔王・ヘルゲ。訛りが入った男とのこと。
魔王や国の情報を整理しつつ、アーベントについて考える。
……黒髪。本当に勇者の子である可能性が高い。実際、その黒い髪から黒の国と呼ばれるようになったとか。
空になったティーカップを置いて、俺は口元を手で押さえながら考える。
すると、何か気になることがあったのか、オルフェストは神妙な顔立ちで俺を見つめる。そんな見つめちゃいやん。
そして、口にした言葉は意外なものだった。
「……ゼロ、貴様もしや異世界人ということはないか?」
ギクリ。
いや、ギクリじゃねえわ。元だからギクリではねえわ。
「何故ですか?」
「ローブの端から黒い髪が見えるが」
あぁ、染髪したからね。黒に染めて良かった。前々から結構髪が見えそうで危なかったからな。
しかし、そのことを言う義理はない。俺はフッと格好良く笑いながら答える。
「この姿が真実とは限りませんよ。案外仮の姿ともいえるでしょう」
「だろうな。態々己の正体を晒す様な阿呆でもあるまい」
む。あっちのフッとした笑いの方が格好良いぞ。何だこの差は。威風堂々とした佇まい……あ、これはもう経験と立ち振る舞いの差ですね、はい。後は顔かな。
談笑しつつ、ティーカップに新たな紅茶を注ごうとしたその時、ノックの音が部屋に響いた。
「入れ」
たった一言、オルフェストが言うと、静かに扉が開かれる。
頭を垂れ、「失礼致します」と丁寧な口調で入って来た青年は―――
艶のある、黒い髪を持っていた。
一瞬息を飲む。そうか、そうか、此奴が。
勇者の子である、魔王―――アーベント・リンドウ。
***
【???視点】
父は、魔族ではなかった。
今でも覚えている。父の黒い目を。父の黒い髪を。
魔族の証である赤い目は持っておらず、見たこともない黒い髪を持っていた人。それが私の父だった。
血色の良い肌に、艶のある黒い髪、翼も角も無く、魔族から見ると貧弱にも見える肢体。
父は、人族であると母に教えられた。
聞くと、父は“異世界”から来たらしい。海の向こうに住まう人族に無理矢理呼び出され、故郷と離れ離れにされた哀れな人。
そんな不条理なことをされた挙句、島流しにされたと。
そして、色んな経緯があって、母と父が出会い、私が生まれたのだと。
最初は、父が嫌いだった。
赤くもない目に、頼りない身体。近所の子に馬鹿にされたこともあった。だから、嫌いだった。魔族じゃない父が嫌いだった。
嫌いだったのは、それだけではなかった。
―――黒髪。
父から遺伝された黒い髪。いつも隠して外に出ていた。無理矢理剥ぎ取られて、見世物のように嘲笑われたこともあった。
唯一の救いは、大人がそれを良しとしなかったことだ。
―――あの人は、あの人族共とは違う!!
まるで決められた台詞の様に、皆口々に言い合い、馬鹿にした子供達を叱った。
いつしか、そんないじめはなくなり、皆が皆受け入れてくれるようになった。
だけど、父は嫌いなままだった。
人を傷つけるのが苦手で、よく苦笑いをしていた軟弱な父。皆の父は、頼り甲斐があって、己の身の丈よりも長く大きな武器を持つ。軽々と振り回して、どんな魔獣も一掃するのだ。
だが、私の父は、武器を振り回すのが苦手だった。武器を持たず、ペンを持つような人だった。争いごとを好まず、本を読む事を好む人だった。
その姿が、情けなくて、弱く見えて、嫌いだった。
◇◇◇
そんな父の印象を払拭した出来事があった。
それは一度、人間が攻め行って来た時だった。
魔族は強い。それ故に、負ける心配など、毛頭しなかったのだが……父が、心配だった。
死んでしまったら、負傷して来たら、或いは、帰って来なかったら―――
嫌いだと口で言いつつ、私は結局、武器を持たずに側で本を読んでくれる父が、何だかんだ好きだったのだ。
不安で不安で、家に閉じこもりながら、母に抱き締められながら、私は父を心配し続けた。
負ける不安も、殺される不安も、そんな不安は何もなかった。
ただ、父が、帰って来なかったらと思うと、怖くて寝れなかった。
―――それ故、母の目を盗んで、私は外に出た。
今思えば愚かな行動だと感じる。しかし、それほどに不安であり、恐怖だった。
既に戦場と化している市街地に赴いた。
数多の魔族が武器を持ち、数多の人族と争っていた。
骸の山と、血潮の臭い。咽返るほどの光景に、私はその場で膝をつきそうになった。
だが、此処で足を止めるわけにはいかない。
私は、息を止めながら、駆け巡った。父を探し、父と共に逃げようと思っていた。浅はかな考えだった。
―――そんな私の目に飛び込んできた光景は、今も、忘れない。
飛び散る赤い飛沫と、命を絶っていく人族。
一閃。
美しい螺旋状を描き、上から下へと流れて行くような剣先。白く輝く、変わった形状をした剣を持つ戦士。
黒髪を靡かせ、剣を片手に持ち、真っ直ぐに先を見据える姿は、いつもの情けない姿と異なった。
あの日、私は父のようになろうと決めた。
***
一体、何がどうなってこうなったのか。
普段通り、仕事を熟し、市街地への視察と政策を考えつつ、お茶を嗜んでいた。
ペットが最近太ってきた気がするので、散歩数を増やそうかと思っていた時、使者から差し出された一通の手紙。
ガルテリオからの修行の誘いか、ヘルゲからの飲みの誘いか、或いは、可能性は少ないにしても、ルナからか―――。
色々な考えを巡らせながら、手紙の宛先を見た時、口に含んでいた紅茶を全てぶちまけそうになった。
まさかのまさか。選択肢にすら入っていなかった、予想外の相手。
―――魔王をも統べる大魔帝王・オルフェスト様だった。
『焦りは禁物』という言葉を普段から胸に刻んでいるが、流石に焦りながら身支度をした。
何故だ。何故呼び出されたのか。全く理解出来ない。
側近に頼んで書かせたのであろう長い丁寧な文脈が羅列されているが、簡潔に述べると「ちょっと顔に見せに来い」とのことだった。
そんなわけで、私は城へと駆け行ったわけなのだが―――
「紹介しよう。以前言った得体の知れぬ者こと、ゼロだ」
「え、ちょっと、“得体の知れぬ者”って紹介してたんすか」
「事実だ」
「否定し切れない辛い事実ですね」
頭を垂れ、緊迫した中入室したつもりだったが、当の本人はあっけらかんとしていた。
そのまま促され、今現在紅茶を淹れて頂いたが……目の前に揃って並んで座っている二人の内、オルフェスト様の隣に居る者、彼……彼?が、以前話していた不審者らしい。
美しく珍しい造形をした目元だけ隠れる仮面と、気品溢れるローブとマフラーを身に着けた者。……意外と小柄だ。
「ええと、初めまして。アーベント様、ですね?私はゼロと申します。以後よしなに」
「……お初目に掛かります。アーベント・リンドウと申します」
そっと手を差し出されたが、此処で握り返すのはあまりにも愚鈍過ぎるだろう。
高く、まだ声変わりもしていない少年の声だ。まさか、まだ年端もいかぬ幼子なのでは、と考えてしまったが、すぐにそんな馬鹿な考えを拭い去る。
流石に、そんな幼くして大魔帝王であるオルフェスト様の御心を掴み、側に置いておくことを許されるような天才児―――いや、最早異端児と言えるべき存在なんて、人族に居るとは考えられない。
一体、奴は何を考えているのか。
オルフェスト様の前である為、無礼を働く事は許されぬが、奴にだけは警戒をしておかねばならぬ。
◇◇◇
【ゼロ(ティルフィーネ)視点】
何ということでしょう。(某大改造番組風)
久々に見た黒髪は艶があり、それでもって線の細い美男子が現れた。前世でどれだけの徳を積めば、こんな勝ち組容姿になるのか小一時間程問い詰めたいものだ。
そんなアーベント君と会えたはいいが、オルフェストに「得体の知れない者」って紹介されてるわ、アーベントには握手を拒否られるわ、割とここまで散々である。
いや、勿論何で拒まれたかは想像がつく。まぁ、警戒しているのだろう。当然の事とはいえ、ショックである。
しょんぼりしながら、オルフェストの隣に座り直し、紅茶を自棄に飲む。うまし。
「アーベント、ゼロに闘う意思なぞ感じられぬだろう」
「……しかし、」
「儂の顔に泥を塗るか?」
ほんの少しの否定文だけで、オルフェストの眼光はより鋭くなる。おお、末恐ろしい。俺が土下座してしまいそうだ。
アーベントは、大魔帝王の機嫌を損ねるのだけは避けたいと判断したのだろう。一気に狼狽えたが、音を立てて立ち上がらないところ、流石礼儀は弁えているといったところか。
「そんなつもりは!」
「ならば、今どうすべきか分かるだろう」
すうっと目を細めて、オルフェストはアーベントを一瞥した。先程の端麗で冷たい顔は一気に崩れ、焦りと狼狽を感じる。
そして、俺に対し、頭を垂れ―――
「もうしわけ、」
「握手してやれ。ゼロが拗ねる」
頭を垂れ―――
……って、おいオッサン。
「誰がいつ拗ねましたか、すっとこどっこい」
「すっとこ……?いや、今不貞腐れて紅茶がぶ飲みしたではないか」
「しましたけどね!美味しかったです、おかわり」
「ちゃっかりおかわりを所望して……おい、儂のに目を付けるな貴様」
近くのメイドさんのおかわりを待ちつつ、オルフェストの紅茶を見ていたら、勘違いされてしまった。誰が飲むか。
そんな俺らのやり取りを見て、唖然とした表情を浮かべるアーベントは、慌てて口を閉じて表情を真顔に戻した。そして、俺を真っ直ぐ見て、
「……御用件を、仰って頂けますか」
たったそれだけ、冷たく言い放った。
……まぁ確かに本題に入った方がいいんだろうけどね、あんまりな態度じゃないか。オルフェストの(自称)知己やぞ、コラァ。
だが、仕方ないか。こちらは魔族でもないし、得体が知れないのは確かだ。警戒するのも、まぁ許容範囲内だ。俺は心が広い。寛大だ。だから、オルフェストは「どうする?処す?」みたいな顔するのはよしなさい。
「私がお願いしたいのは、勇者―――貴方の父親のことです」
俺がそう言うと、一瞬ピクリと眉を動かしたが、アーベントはあくまで冷静を保った。
そして、少しオルフェストの表情を窺った後、目を瞑り、何処か一瞬考え込んだ。
ゆっくりと目を開け、俺を真っ直ぐ見据える。
「……理由は、お尋ねしても宜しいでしょうか」
「あぁ、簡単です。勇者がどのように召喚されたか、そのようなことを知りたいだけです」
「何故でしょうか」
「召喚方法さえ分かれば、人族が勇者を召喚することを食い止める事が出来ますから」
和やかに淡々と言えば、アーベントは目を見開き、呆気に取られていた。
「……失礼を承知で申し上げますが、その、不思議な方ですね」
「ええまぁ。人族の邪魔をしてやろうかと。ま、滅ぼすつもりはないんですが」
駄目だったのは王族だけだし、人族全体悪いわけではないからな。王族をちょっぴり苦しめてやろうかと企んでいるだけなのだ。
しかし、俺も人族だ。魔族が人族を襲うようなら、俺は人族を守るだろう。だが、今は魔族を守る。ならば、一番良いのは勇者を召喚せず、魔族への矛先を少しでも減らしたい。
それに、勇者も可哀想だ。勝手に召喚されて、殺してこいとか。鬼畜極まりない。
その二点が大事。その為なら、俺だって危ない橋だろうが何だろうが渡るさ。
……という事を、出来るだけ分かり易く丁寧に噛み砕いて説明した。
アーベントは黙々と俺の話を聞いていた。隣に居るオルフェストは途中で船漕ぎ始めた。おい。乏しいボキャブラリーを頑張って駆使して説明した俺に何という態度だ。
苛立ちながらも、アーベントの様子を見る限り、真剣に聞いている様子だった。
そして、何処か躊躇った表情を浮かべながら、口を開く。
「―――理由は分かりました。しかし、私が存じているのも、それは僅かなものでしかありません」
「それでも構いません。構いませんので、少しでも知りたいんです」
そのほんの少しの情報が役立つことなんて、サスペンスなんかじゃよくあることだ。役に立つかどうかなんて聞いてから判断すればいい。
俺が食い気味で知りたいという意思を強調させると、さすがにアーベントも観念したと言わんばかりに口を開く。
「父に尋ねたことがあります。どうやって来たのか、何処から来たのか、幼きただの好奇心でしかなかったため、それが正しいかも分かりかねます」
ええい、分かったからさっさと話せ。
そう言わんばかりの熱視線を送っていたら通じたらしく、コホンとわざとらしく咳込んでアーベントは話した。
◇◇◇
其処は、薄暗い場所だったそうだ。灯りはポツリポツリと寂しげに散られていた。
最初に飛び込んできた光景は、その薄暗い場所に馴染む保護色のような薄暗い色のローブを着た謎の集団。そして、薄気味悪い場所に似つかわしくないほどの満面の笑みを浮かべる男。
足元には薄く輝く魔法陣のような複雑な紋様が刻まれていた。
だが、そんなものよりも目を疑う、いや、目に焼き付いた光景があったのだ。
それは―――
「死体、ですね?」
「……!」
図星と言わんばかりにアーベントはその端正な顔を崩す。やはりか。勇者召喚に用いられる魔力はそれはもう、途方に暮れる程に膨大だ。それは既に僅かに残っている資料から分かっている。
―――そして、それの犠牲になったのが、ミルディン人だということも。
話を続けるように片手を上げて促すと、アーベントは目を細めて戸惑いの色を見せながら話を続ける。
要約すると、
召喚された者―――ユートは、王様に魔族を倒すようにお願いされた。しかし、突然召喚された挙句、もう戻れないということを知って、絶望感に打ちひしがれて混乱しながら、されど冷静さを見失わずきっぱり拒否をした。
折角異世界から召喚したというのに、このままだと魔力も労力も全部無駄になってしまう。そこで、言うこと聞かないなら、その魔族の島に置き去り―――いわば、島流しである―――にすると言ったそうだ。
ユートは、それでも拒み続け、遂に王族は本当に島流しにしたそうだ。気が短いものだ。
島に流されると、魔族がうじゃうじゃ。魔族も、急に怪しげな人族が来たことにより、警戒したそうだ。
そして、オルフェストと出会う。オルフェスト曰く、「只ならぬ力は感じられたが、敵意は全く感じられなかった」そうだ。
敵意もなく、見たことのない装いの人族。人族は憎いものの、あまりにも不可思議に感じたオルフェストは、本人に何があったのかと問うたらしい。そこで、人族の思惑を知る。
「あの時の会話は、今でも覚えている」
オルフェストは、重々しく口を開く。
『お主は、これからどうする』
『どうする、とは……?』
『……もう、元の世界には帰れまい。だからといって、あの人族の島に戻るわけにもいくまい』
『……選択肢なんて、俺に、ある?』
『……』
『別の世界といえど、俺はあんたらが憎む人間だよ。殺すも良し、生かすも良し。ただ俺は―――もう、帰れない』
酷く、暗く淀んだ目。虚ろで、地をずっと見つめ続けながら、吐き捨てるように言い続けたそうだ。
『俺を、助けてくれないか、魔王さん』
「……父は、召喚されたことを、その光景を、方法を、誰にも伝えたがらなかったそうです。それを記憶して、真似する愚か者が居ないように、と」
「……」
ユートは、身勝手な理由で召喚され、人生を滅茶苦茶にされた挙句、島流しにされた。あまりにも、哀れな境遇だった。
しかし、折角本人の息子に会えたというのに、得た情報は何ら俺が今まで得て来たものと大差なかったのは、少し痛いな。
やはり、あの文献に記載されたことだけか……いや、あの文献が嘘偽りなかったという事実だけでも大きく得られたものと言えよう。ポジティブに行こう。よし。
俺がうんうん悩んでいると、横からオルフェストが声をかけた。
「お主が其処まで悩む理由はよく分からぬ。召喚する贄はもうないのであろう」
「……ま、そらそうなんですけど」
「あまりにも慎重過ぎるな。杞憂であろう」
「オルフェスト様は、どうも楽観視する風潮があるように感じますがねぇ」
むっと眉間に皺を寄せるオルフェスト。恐ろしい顔が更に険しく恐ろしくなっていらっしゃる。
確かに一理あるのだ。俺はどうも慎重過ぎるというか、最悪な方向のことを考え過ぎてしまう。先程ポジティブに行こうと思い立ったばかりなのに、既にマイナスな思考をしていた。反省しよう。
魔力の宝庫といえるミルディンが居ない今、例え魔法陣の陣形や詠唱が分かっても、魔力がなくて実行不可能というのが現状である。
「……やっぱり、人族の王城でそういう禁術の資料は片っ端から燃やした方が……」
「発想が突飛過ぎるな、お主は」
「……あの、やはり私のお話では足りませんでしたか」
アーベントが恐る恐ると言った具合に、俺に尋ねて来た。おっと、いけね。忘れてた。
「いえいえ、大変参考になりました」
「……申し訳御座いません。父も、召喚された時の光景は話して下さいましたが……詳細は口を割って下さらなかったのです」
そりゃ息子にこんな話したくないよな、親としては。むしろ、何人もの死体の上でお父さん召喚されたんだぞっていうところを話したっていう事実だけでも驚きだわ。
「ま、今の所召喚する為の魔力もありませんし、実際にエルロンドに接触しましたが、そういう素振りは一切見当たりませんしね」
はぁ、どっこい。結局振り出し、というか、一歩も進まなかった。
オルフェストも、「会ってみるか?」といやらしい顔で言った割に、俺が得ていた情報と大差なかったし。いや、文句言う筋合いないから、言わないけど。アーベントにも悪いし。
ま、文献に記載されていたことが正しいと確認できただけでも―――
……ん?いや、待てよ。
『其処は、薄暗い場所だったそうだ。灯りはポツリポツリと寂しげに散られていた』
「……薄暗い、場所?」
俺は目を見開かせた。思わず、体が硬直する。俺の一言に、オルフェストとアーベントも目線をこちらに動かす。
酷くネガティブな方向に思考回路が動かされる。背中に冷や汗が流れるような感触がした。
薄暗い場所―――以前、そんな場所に行ったじゃないか。そう、サラを救う為に―――
―――まさか。
「召喚された場所は、地下室?」
薄暗い場所なんて、早々あるもんじゃない。特に、この世界では。電気が無い以上、光を入れる為に窓は多く、夜以外は基本明るいのだ。
勿論、夜に召喚された可能性だってある。その方が闇に隠れて効率は良い。
しかし、何処に誰の目があるのか分からない。魔法で見ることだって出来る。だからこそ、普通は窓のない場所で監視を恐れて禁術は行うはずだ。
……そして、陣形は、描く方法と、刻印のように刻み付ける方法がある。
勇者召喚の魔法陣は―――
『足元には薄く輝く魔法陣のような複雑な紋様が刻まれていた』
―――刻まれている。
「……どうした、ゼロ。急に独り言を垂れ流しおって」
「もしも、詠唱を知っている者も居れば―――魔力さえあれば、いつでも召喚できることに……?」
「ゼロ、己の世界に入るな」
「オルフェスト様!!」
立ち上がって叫んだ俺に、アーベントは僅かに目を見開かせた。しかし、オルフェストは冷静のまま、ふむ、とだけ声に出した。
「どうやら、最悪な結論を導き出したようだな」
「……ッええ……」
召喚された地下室で、魔法陣が刻まれた状態で未だ保存されており、更にもしも詠唱を知っている人物がまだ居るとしたら―――
「魔力さえあれば、召喚が可能に……なります」
「……」
「勿論、その結論に至るまでには数多の“条件”が必要にはなります。一つ、魔法陣が未だ保存されていること、二つ、詠唱を知っている人物が居ること、三つ、魔力があること」
「中々に高難度な条件のように感じられるが」
「最悪な事態は、想定しておいて損はありません。空回りであることだってあります。その時は、俺の発想が浅はかで杞憂だったと笑い飛ばしてください」
この条件が揃うことは、それことロイヤルストレートフラッシュを出すくらい難しいだろう。
魔法陣が上手く保存されていないかもしれない。詠唱を知っている人物何て居ないかもしれない。膨大な魔力なんてどこにもないかもしれない。
だが、思い立ってしまった以上、それを前提に動いた方が良い気がする。
一度そう思い立つと、最早他の考えなんて出来やしない。
「……ゼロ」
「はい」
「儂らは、どうも出来ん。人族がやることを止めることなぞ、戦争でしか出来ん」
オルフェストは突然物騒なことを言い出した。俺がこんなに真面目に考えているというのに、ストレスフルマッハにするつもりか。胃痛になったら覚えておけよ。
しかし、俺のそんなアホな考えとは裏腹に、オルフェストは鋭い眼光で言い放つ。
「言いたいことは、分かるな?」
「……―――」
「お主にしか、出来まい?」
その一言。その、たった一言から汲み取れる。
そう、言葉数の少ないオルフェストなりの―――信頼の言葉。
“上手く止めろ”。そう言わんばかりの一言。俺を、信用しているからこその言葉。
自意識過剰だろうが、自惚れだろうが、そう汲み取っていいだろう。ああ、全く、この人は相変わらず格好良い。
「……お任せ下さい」
俺は口元しか見えない仮面の下で、満面の笑みを浮かべて言った。
杞憂なればそれで良し。
とりあえず、俺がすることは―――
魔法陣を探し、それをぶち壊すこと!!
読んで頂き有難う御座いました。
※大変申し訳御座いませんが、現在多忙につき、感想の返信が出来かねます。目は通しております。御迷惑おかけします。




