第30話:私、ずっと祈っていました
あらすじ:ティルフィーネがゼロになってサラを助けたいようです。
※前回、次回予告を書き忘れてました。多分そこまで必要ないかと思われますがごめんなさい。
私は、ずっと、祈っていました。
兄は、とても優秀な人でした。
魔力を沢山持っていて、頭も良くて、愛想も良くて、とにかく、優秀だったのです。
父も母も、兄ばかり見ていました。
妹の私は、出来損ないでした。
魔力がほとんど無くて、頭も良くないし、愛想も良くなかった。使用人にも、両親にも、邪魔者扱いされました。
魔力が無いのは、生まれつきだったようです。
魔力が無い、幼い私を心配した父は、早々に医者に診て貰いましたが、まるで原因不明でお手上げだったそうです。
魔力の無い私を、母は「出来損ない」と言って嫌いました。
父も、最初は私を庇ってくれたけれど、段々兄が優秀になっていくにつれて、私に関心を持たなくなっていきました。
母にとっては、家の後継者である兄が全てだったようで、父も、出来損ないの私には興味が無いようでした。
それでも、頑張って来たつもりです。
唯一の救いは、兄はとても優しく、私を励まし支えてくれた事です。
私が困っている時は、すぐに助けに来てくれました。私が泣いている時は、例え勉強の途中だろうが、すぐに駆けつけてくれました。
とても優しくて、甘えてる事は沢山あったと思います。それは、分かってるつもりでした。
しかし、両親は、とことん私に冷たかったのです。
『この出来損ない!後継者であるあの子にまで迷惑かけて!二度とあの子に近づかないで、役立たず!』
母は、私に向かって、そう言い放ちました。
その時の表情は、醜く歪み、気持ち悪くて、忌み嫌うものを見るような目を真っ直ぐと私に向けていました。
その後、私はどうやって自室に戻ったのかは覚えていません。確か、兄の部屋に、本を読んで貰おうと向かっている途中、母に呼び止められた。其処までは覚えています。
しかし、私は一体どんな表情で、どんな事を母に言ったのでしょう。いえ、きっと何も言わず、ただ黙々と部屋に戻ったのでしょう。私は、愛想がありませんから。
幼い頃の話を、今になって冷静に判断出来るなんて、私も大きく成長したのでしょう。
もしくは、我慢をする癖が付いてしまったのかもしれません。
あの日、母にそう言われて、自室に戻った直後、泣き叫びそうになりました。
視界が歪んでいったと思ったら、大粒の涙がボロボロ流れて、服の袖で目を擦って、袖が濡れても尚拭き続けて、嗚咽し続けました。声に出してはいけないと思ったからです。
声に出して、いつものように泣き叫べば、また兄が私の下へ駆けつけると思ったからです。
そうすれば、また私は母からあの言葉を投げつけられるのではないか。そう思ったのです。
それが恐怖でなりませんでした。
それからは、何を言われようと、自室に戻るまで、ずっと堪え続けました。
吐きそうになっても、声を押し殺し、ばれないように必死に隠し続けました。
しかし、兄は気付いたのです。
いつもの様に、母に罵られ、使用人に馬鹿にされた私は、自室に籠り、簡素なベッドの中でうつ伏せになって泣いていました。勿論、声は布団で押し殺しています。荒い息遣いだけが、狭い布団の中で耳に木霊します。
その時、突然布団がはぎ取られたのです。
何が何だか分からず、泣き過ぎて目を腫らしたまま、私は顔を上げました。
其処には、兄が居たのです。
いつも愛想が良くて、笑顔が綺麗な兄が、酷く悲しそうな、辛そうな表情を浮かべていました。一生、忘れる事はないでしょう。
そして、ゆっくりと、震える両腕を私に近づけて来たと思ったら、静かに私を抱き締めました。
震えていましたが、しっかりと力強く、私を抱き締めました。
最早、唖然としてしまい、涙を眼に浮かべたまま何も言えぬ私の耳元で、兄はずっと呟き続けました。
ごめんね、と。
兄は悪くないのに、何故謝ったのでしょうか。
私は、何処か水の音が混じった声で謝り続ける兄を、不思議に思いながら、そっと両腕を兄の背中に回したのです。
~
その後、私と兄は、こっそりと会うようになりました。それは庭であったり、物置であったり、色々な所で会っていました。
本を読んでくれたり、家庭教師の付かない私の為に、文字や算術を教えてくれました。とても幸せな時でした。
そんな時、兄は話してくれたのです。
“魔女・フォルティア”の話を。
強さを秘め、かつて愚かなる人族に罰を与えた人だと、兄は熱心に話してくれました。
「彼女は強い。彼女の様に、きっと自身を信じて努力すれば、いつか強くなれる」
「サラ、大丈夫。祈ろう。きっと、強くなれる」
兄は朗らかに微笑みながら――しかし、何処か悲しげに、私に話をしてくれました。
私は、この魔女の存在を信じることにしたのです。
魔女を信じ、祈り続ければ、もしかしたら、本当に強くなれると思って。一縷の望みに賭けたのです。
兄が十三歳の時、途中で学校に通う事になりました。理由は、後継者として様々な事を学ぶという事と、厖大な魔力量からでした。
私とは違い、その多過ぎる魔力は、いつしか兄の負担になっていたのです。
その為、魔力によって暴走してしまっても、すぐに処置出来るような完備な施設である学校に入る事になったのです。
兄が居なくなってから、より一層私への風当たりは強くなりました。
それでも、めげずに勉強し続けました。教えてくれる兄は居ないけれど、独学で何とか勉強して来ました。
父に、私も学校へ行きたいと強請りました。酷く顔を顰めていましたが、合格出来たら入ってもいいと言いました。
私は体力も専門知識もありません。剣術は無理でしょう。魔力もありません。魔法は無理でしょう。
ならば、学問しかない。そう考えたのです。
それからは、自室に籠って勉強し続けました。
勿論、魔女への信仰は忘れません。しかし、何処か疑心暗鬼になっていました。
――本当に、強くなれるのか、と。
いえ、本当は分かっていたのです。兄の話はきっと、“現実逃避”から来るものだと。私を励ます為に、慰める為に言った事なのだと。
だけれど、もう、私には魔女信仰しかなかったのです。
何処か、信じなくなった魔女の存在と強さ。それでも、私は祈り続けたのです。
――魔女よ、どうか、私にも来ますように。
それは、かつて兄が読んでくれた絵本に描かれていた“王子様”――いえ、私が望んだのは、王子様じゃなかった。
キスをしなくても、私は最初から目覚めてる。悪者を退治することもしなくていい。
私が望むのは、もっと、別の存在でした。
きっと、私は自分が苦しんでる時に現れてくれる、そんな存在で良かったのです。
助けてくれるだけで、良かったのです。
~
嗚呼、魔女よ。もし、貴女が居るのならば、何故私にこんな仕打ちをするのですか。
何故、助けてくれないのですか。私が貴女を信じなかったからでしょうか。それとも、私なんて、助ける価値もないのでしょうか。
ボーっと立ち尽くす。赤い絨毯と、綺麗で広い部屋、高い天井に大きなシャンデリア。目の前の大きくて輝く玉座には、何処か厳しい顔立ちをした男の人が座っていた。
豪華な王冠と、高価そうな服装。白くて立派な髭から漂う風格は、私の様な凡人とは全く違う。
――この国の王、パーヴェン・エルロンダ・シュヴェルツァ
まさか、こうやって顔を合わせる日が来るとは思わなかった。
呆然と立っている私の右手を、そっと温かい何かが包み込んだ。
兄の震える手だった。私がそっと上を向くと、兄がニコリと微笑んだ。「大丈夫だから」と言うが、その目は昔見たのと同じ――悲しそうな微笑みだった。
震えているのに、怖がっているのに、怯えているのに、兄は私を慰めようと必死なのだ。
昔から変わらず、私を慰めようとするのだ。
私が笑顔を失ったのを、己のせいだと責めているのかもしれない。だから、こんな時でも私を心配してくれるのかもしれない。
王様の側に居る偉い人であろう男性が、淡々と何かを言っていた。だけど、私には何のことだか分からなかった。
きっと、私が馬鹿だからだ。もっと勉強すれば良かった。
独学でも学校に入れた。笑顔を作るのは苦手だけど、友達が出来た。魔力が無いことを心配し、どうにかしようと一緒に悩んでくれる友達が出来た。
分からなかった。何の話をしているのか。
魔力を動かすとか、私を生贄にしたとか、何だか突飛な話でよく分からなかった。
兄の隣に居る母は、泣き叫んで金切り声を上げていた。その隣に居る父は震えて、青白い顔をしていた。二人とも、何かを王様とその側に居る人に何かを言っているようだったけど、私にはよく分からなかった。
「仕方がなかった」とか「優秀な後継者を」とか、私に関係する話なんだろうけど、頭に入らないし、理解出来なかった。難しい話なのは理解したけど。
壁のすぐ側に居る銀色に輝く鎧を着た小さな女の子と、怖い顔をしたおじさん。おじさんは、凄く怖い顔で母を見ていた。
気付くと、周囲に居る騎士様はほとんど怖い顔や呆れた顔、蔑んだ顔をして、私達を見ていた。
何でなの。どうしてなの。
私が何をしたの。
怖い。怖い。怖い。怖い。
そんな私の心境が伝わったのか、兄が更に強く手を握った。でも、もう安心感は感じなかった。兄も同様に震えて、それでもしっかりと立っていた。今にも崩れそうな私とは違って、強く両足を地に着けて立っていた。
兄も怖がっている。だけど、誰も助けてくれない。
この空間に、私の事も兄の事も助けてくれる人は居ない。
ただ、じっと見るだけ。私達をずっと見続けてるだけ。
怖い。
誰か、誰か、誰か、誰か、誰か、誰か!!
「助けてぇ……」
目から、生温かい水が、一粒零れ落ちた。
「――趣味、悪……」
――――え?
~
ずっと、祈っていました。
キスなんか要らない。魔女を倒さなくたっていい。そうやって、遅く遅く来て、いつもお姫様が苦しんでしまう。そんな王子様なんて要らない。
私が、私が欲しいのは……――
「誰だ、貴様は!!」
「ん?おれ……あ、違う。私、私は――」
私を助けてくれる、英雄だった。
「――ゼロ。ゼロと申します」
***
【ティルフィーネ視点】
「趣味、悪……」
思わず、引いてしまった。何が悲しくて、転移先がこんな修羅場なのだ。挙句の果てに、ヒステリー起こしてる女と、それを宥める気ゼロな男と、震える兄妹。それを傍観し続ける王様。いや、仕方がないとは思うが、これを見て顔色一つ変えないとか何だか怖いよ。
上手く≪転移≫出来たと思ったら、この有様だ。これを淡々と傍観し続けるとかどんなプレイだよ。趣味悪過ぎだろ。いや、仕方ないと理解してるけど。
やれやれ、と外国人並みのオーバーなリアクションで肩を竦めながら、ローブを少し正す。
「誰だ、貴様は!!!」
「ん?おれ……あ、違う。私、私は……ゼロ。ゼロと申します」
お前が誰だと言いそうになったが、すぐに我に返った。煽っているようにしか感じない。「神だ」とか言ったら面白いかもしれないが、逆に痛々しい奴に思われそうだ。そうなると、正にオウンゴール。自身にしかダメージが来ない。辛い。
それにしても、誰だこの男。三十代前半ってところか。黒色の鎧だが、恐らくエクスと同じ騎士なのだろうが……。
「ゼロ、何しに、来た」
「おや、エクスさん。昨夜振りです」
「……エクス!?まさか、お前……!」
「違い、ます。誤解、なさらないで、下さい、団長」
団長か。そういえば、エクスが副団長だったな。成る程、エクスの上司ってわけか。
目つきが鋭く、刻まれた薄い皺、さほど長くない長髪……限りなく短髪に近い藍色の髪をオールバックにしており、下手すれば「ヤ」の付く職業を思い出させるおっさんだった。しかも、長身でごつい。強そう。
怒りを露わにしたその表情の中には、困惑を一切感じさせなかった。いつでも警戒態勢ってわけか。このくらいでは怒りを感じるくらいで、さほど動じてはいない……いや、怒ってるのは動じてる証拠なのか?
しかし、彼の右手は既に剣を握っている。周囲の人間が唖然としてる中、凄い行動力と判断力だ。恐れ入る。……中々のやり手なのは確かだろう。
「……誰だ、お前は」
そんなざわめく空気の中、重々しい声が響く。――国王陛下だ。
立派な髭と、少し豊満な体。白髪混じりの髪。豪華絢爛とも言える服装の中には品位が籠っている。だが、本などでよく見られる王様の傲慢さや、裸の王様のような間抜けさは感じられない。その目は、真剣そのもの――いや、何処か余裕さえ感じられ……――
……
キリリとした表情、玉座に頬杖を付く姿。間違いなく格好良い。うん、格好良い。
……生まれたての小鹿並に、下半身が震えてる。
そりゃもう、ぷるぷるぷると。バイブみたいに小刻みでブルブルブルブルと。此処で地震が起きたら、きっと国王が震源地だろう。キリッとした姿とは裏腹に、下半身だけ冷や汗が滝の様に流れてそうで情けない。
思わず呆気にとられたが、此処で「ビビってるゥゥゥゥ――――――」と言ったところで、寒い空気が流れてるだけだろう。真面目に行こう。
「私は、「国王陛下は何故震えてるのですか、兄様」
言っちゃった―――――――――。
後ろを向くと、先程まで泣いていたサラがミラにくっつきながら、ミラに尋ねた。涙声だが、それでも凜とハッキリと、言った。
国王陛下 に 10000のダメージ!! 国王陛下 は 敗れた ▼
子供の純真さとは、時に残酷である。無邪気とは、「邪気」が「無」いと書いて、「無邪気」なのである。そう、邪気はないのだ、決して。
現にサラは涙で目が赤いが、疑問に思ったから声に出しただけと言った、無垢な目をしているではないか。彼女に罪はない。反逆罪に問うものなら、俺は大人の汚さを一生恨む。
ふと国王を見ると、脚を震わせたまま、しかし先程と違うのは、額に凄い冷や汗がダラダラと滝の様に流れていた。思わず、騎士や側近達も目を逸らす。俺も逸らす。ミラも逸らす。
「……先程も申し上げましたが、ゼロと申します」
「…………ゼロ、か。何用だ?此処が王城と知って来たか?」
「勿論に御座います」
仮面着けてるけど、微笑みながら愛想の良い声で応える。サラの疑問なんて俺には聞こえなかった。
何か国王が何処か、「ありがとう」という感謝と慈愛に満ちた目をしている気がする。
「して、ゼロよ。何しに参った」
「単刀直入に申し上げましょう。此度のボルボレッタ家の行為に関しての罰ですが……どうか、目を瞑って頂きたい」
「……何?」
「え?」
国王が聞き返すと同時に、ミラも声を上げた。目を丸くさせ、大層驚いているようだ。恐らく、此処に居る者全員が似たような表情を浮かべているだろう。何せ、この発言は想定外だと思われる。まさか、貴族間の問題を得体の知れない俺が割って入って来るなんて、誰も思わないだろう。
だが、俺はサラとミラを助けに来たのだ。正直、その両親がどうなろうと、ましてや家がどうなろうと知ったこっちゃない。冷たいようだが、己が仕出かして来た事であり、自業自得だ。
しかし、サラとミラを救うにはボルボレッタ家の罰をなるべく軽減……もしくは、限りなく無かった事にして貰った方が、彼らの傷も少なくて済む。
ぶっちゃけ、力技だが、単細胞の俺にはこれが一番手っ取り早いとしか思えなかった。
「しかし、彼らがしてきた事は、」
「重々承知しております。彼らは、あまりにも許されない罪を犯しました。それは、国を敵に回す事や法律に逆らうなどといった罪ではない。子供に対して、親として、人として許されざる大きな罪を犯しました」
「ならば、何故」
「その身勝手な行為により、何故被害者である子供達も罰に巻き込まれなければならぬのでしょうか」
「……」
「処罰を下すのであれば、どうか彼ら兄妹には、今の学園を通っても問題のない程度の処遇を求めます」
俺は浮かしていた体を静かに下ろし、地に足を着ける。そして、玉座に深々と座り込む国王に、直角ともいえる程に頭を下げた。
俺が出来るのは此処までだ。これ以上、派手に動き回るには、あまりにもリスクが大き過ぎる。
勿論、いざとなれば力ずくでサラとミラを助けることも出来る。しかし、それをしないのには大きなリスクが伴うからだ。
仮にそうやって助けたとして、その後の二人はどうする?匿う?それとも、俺の持ってる金でどうにかする?
どうするにしても、力ずくで行なっている時点で、国を敵に回す様なものだ。それだけは避けたい。流石に其処まで馬鹿じゃないぞ、俺は。
あくまで、俺は二人に“いつも通りの生活”をさせたいだけだ。そんな逃げ続けるような、隠れるような、生活をさせたいわけじゃない。
それに、いざとなったら、あの事を持ち出せばいいだけだ。
頭を下げたまま、室内には沈黙が続く。どうか、俺の望むような答えであれば……――
「……それは、わしの一存では出来ぬ」
「……やはり、そうですか」
「しかし、法的機関で再度話を聞くが、元々その二人に刑罰を科そうとは考えておらん。あくまで、わしは、だが」
俺の発言に何処か訝しげだか、真剣味帯びた表情で告げる。それでも、少しは希望が持てる。何せ、国王陛下が罰そうと考えてないのだ。少し安堵しつつも、俺はそれを表に出さない様にする。
「そのお答えに、期待していますよ」
それだけ告げると、俺は顔を上げる。そして再度頭を下げ、ゆっくりと国王に背を向けるように歩く。
さぁ帰ろうかと考えていたら、何やら沈黙の中に突き刺さる視線が痛い事に気づいた。チクチクと針のむしろのように突き刺さる。
周囲を見渡すと、構えていた騎士や魔術師達がこちらを見て睨み、剣や杖に手をかけながら静止していた。先程激昂していた黒騎士も剣に手をかけながら、騎士達に目で合図しているように感じる。何じゃこの空気。
杖を手で遊びながら、俺は首を傾げた。すると、見かねたエクスが溜息交じりに俺に言う。
「皆、ゼロに、警戒、してる」
「わーぉ。そりゃどうも……ま、そろそろ帰ろうかと思ったんですがね」
俺は杖の先を床にそっと置くと、チラリと国王を一瞥する。先程の震えよりは落ち着いており、初期微動くらいになっていた。俺は深呼吸すると、国王に再度歩み出す。
「もし、私の意見を受けて頂けなかった場合、これをネタにしようかと思いましたよ」
ニッコリと無邪気に笑うが、生憎仮面のせいで、スマイルフェイスが見えないだろう。残念。
怪訝そうに眉間に皺を寄せる国王に、一気に緊張感を高める周囲に、何となく優越感を感じながらも、俺は杖でコンと床を鳴らす。
「……何の事だ?」
「無論、あの魔法と魔法陣を描いた人物の事ですよ」
ざわり。一気に沈黙は破られ、周囲は一瞬騒ぐが、すぐに静寂に包まれる。
国王は目を見開かせ、一気に下半身をマナーモードかと疑うくらいに震え出す。何か心当たりでもあんのかと思ったが、単にビビってるだけだろう。此処までの雰囲気と、国王の脆弱なメンタルを考えて。
そして、ゆっくりと俺は杖の先をある女性に向ける。皆は、その杖の先に目線を見やる。
その女性は――
「……母様……?」
サラの震えるソプラノボイスが響く。そう、俺が向けたのはサラの母親である。先程までヒステリックに叫んでいたが、どうやら俺の登場で少しずつ平静を取り戻したようだった。
「……リラ……!?お前!!」
「ち、違いますわ!私は……!」
「確かに、リラ・ボルボレッタ殿は、魔力に関して研究していた経歴があるが……」
「知識は、揃えて、いるという、事ですね」
金切り声で叫ぶように否定をする母親――リラに、黒騎士の団長とエクスが小声――のつもりだろうが、沈黙のせいで響く声――を被せて来た。
「やめて下さいよ、火に油を注ぐような真似」
「衝撃、発言を、したのは、そっち」
ぷりぷりと怒る俺に対して、冷静にカウンターを決めて来るエクスに若干の悲しみを覚えながらも、俺は咳払いをする。
そして、一息吐いて、国王に向かって告げた。
「確かに、リラさんの協力はありました」
「……どういう事だ?」
「あの魔法と魔法陣を描いたのは別に居ます。私の推論としては、恐らく……その術式を試したかっただけなのでしょうね」
そう言って、ゆっくりと俺はその人物に向かって歩き出し、指を差す。それは、見た目は子供、頭脳は大人の小さな名探偵のように。
「貴女でしょう?リラさんに協力し、サラ・ボルボレッタとミラ・ボルボレッタを研究対象のように扱った人物は」
それは、妙齢の女性――
王宮に仕える魔術師団・団長の女性だった。
「王宮の不正、暴いちゃいましたねぇ」
皆の空気が凍てつく中、俺は悪戯に成功した子供のように、コロコロと笑うのだった。
読んで頂き有難う御座いました。
次回『俺、問い質します』




