第26話:俺、足りない頭を酷使します
あらすじ:サラたぁああああああん!!!
※遅くなりまして、申し訳御座いません。
「エンドレス君、格好良い顔が台無しだぞ」
「いや、もう、何か……う~ん」
「君も体外頭を悩ませるのだな。ベルのようだ」
頭を抱え込む俺に、何処か他人行儀にヴィエラは言い放った。
……あの後、サラは何とかミラと共に教室で見つけたが、正直目も当てられない姿だった。
泣き叫んで、魔術書やら何やら全てを散らかして、ただただ自我を失った獣の様に狂いに狂って泣き叫び続けていた。
ミラが何か魔法を唱えて、サラを落ち着かせていたが、泣き過ぎて過呼吸にはなっているし、目も赤くなっていて、見るに堪えない状況だった。
ミラが「私が何とか休ませますんで」と言うが、サラの様子は気になる。ミラと押し問答の末、渋々俺は立ち去る事にした。まぁ兄妹だしな。話し易い事もあるだろう。
正直、あそこまで考えていなかった俺にも落ち度がある。彼女の希望が全て打ち砕かれた結果なのだ。
大体予想出来るだろう、僅かな希望さえ失った人がどうなるかくらい……想像出来ただろう。
はぁ……上手くいかんなぁ。前世の人生経験全く以って活用出来ていない。
「エンドレス君、あまり悔やむな。今回の事は私に落ち度がある。あんな直球に言えば、幼き精神なんぞ脆く破壊してしまう事なんぞ、容易に想像出来たはずだからな」
「先生のせいでもないでしょ、今回のは……はぁ。無神経過ぎたかな……」
「責任持って私が、女子寮での様子も見て来よう。だから、安心したまえ。子供が多く精神に負荷をかけるものではない」
「あ……どうも」
何だか輝いてるぜ、ヴィエラ先生。アンタ、最高に良い女だ。将来有望な俺とかいかがですか。
「さ、本題に入ろう」
「へ?」
そう言うと、ヴィエラは研究室の扉を閉めるようジェイドに指示する。ジェイドも不満なんて微塵もなさそうに素直に閉めた。
何だ?
「コホン、それでは……」
「?」
「第一回、ミルディン研究会を始める」
「………………………は?」
俺の呆れ返った声が、散らかった部屋に木霊する。
「む?ミルディン研究会をしようと思っただけだが、何か不都合でも?」
「いやいやいや、明らかにサラの件が先でしょ!」
「そう言われても、私が出来るのは此処までだ。生憎、古来魔術で調べても理解出来る範疇を超えており、私の知識内には到底存在しない症状だ。どうすればいいのだ?」
「う、そりゃそうっすけど」
「なら、仕方あるまい。彼女の事は後々私が知り合いの魔術師に頼み込むつもりだ。私のお墨付きの知識を持っているから、不安要素はあるまい」
意外にもヴィエラはちゃんとサラの事を考えているようだ。何も考えてなさそうに見えていたので、正直驚いた。
一応教職員なので、不思議ではないが、やはり心配しているのだろう。
……ま、ミルディン研究はそれとこれとは別って感じだけど。
「それじゃ、俺らも何か考えましょう。サラの体質改善について」
「君、約束を忘れたわけではあるまい。男に二言はないだろう?ちゃんと約束を果たして貰わねばならぬ」
「ボク、まだ十しゃいだからわかんにゃい~」
「貴様!!!!こういう時だけ子供ぶるな!!先程の大人びた会話を再度してみろ!!アンバー君なんて全く理解していない表情をしているにも関わらずちゃんと頷いて理解しているフリをするという何とも年相応の可愛らしさと無知さを誇っているというに!!」
それはジェイドが可哀想だからやめろ。
早口で捲し立てたせいか、ジェイド話の内容が半分くらい頭の中に入っていなさそうだけど。
「……分かりやしたよ。んで?何すりゃーいいんすか?」
「まず、髪の毛を採取させて貰おう」
「ヘイヘイ」
「まぁ大体一本、二本くらい……」
「ジェイドー、その辺に鋏ないー?」
「ある!すっげーでっかいの!」
「いや、その横の小さいのでいいわ」
何で態々庭で使うようなデカい鋏を持って来るのか。何故に研究室にあるのか。
とりあえず、その机の上に危なっかしい刃を光らせる銀色の小さな鋏を持って来させる。小さいと言っても、庭用の鋏より小さいだけで、大人の手の平程度の大きさがあり、十歳児である俺らにとっては結構大きい。
気にせず、そのドデカい鋏を持って、後ろの少し伸びて来た髪の毛を掴む。
伸びて来たと言っても、少し肩にかかる程度なので、ちょろっとしか切れない。十分かな。
「えい」
「えっちょっと待て、」
バッサーリ。
何の躊躇いもなく鋏の二枚の刃が重なる。シャキンという金属音と共に、掴んでいた髪の束が取れた。パラパラと指の隙間から短い髪の毛が数本落ちたが、別に気にしない。
「ほい。これくらいですかね」
「……」
「足りませんか?」
仕方あるまい。我がアイデンティティ(第二弾)であるサイドの髪の毛を……。
「いやいやいや待て!!エンドレス君!!か、か、髪の毛……束……えっ!?いいいいいいのか!!??」
「へ?別にいいすけど」
「こ、こここんなに……い、いくらするんだこれだけで……白金貨何十枚……いや、何百枚……」
「ちょっとだけじゃないっすか」
「どれだけ君は愚か者なんだ!!いや愚か者でなくてはこんな行為出来まい!!ある種褒めるべき行いだ!!」
「どうも……?」
いまいち褒められている気はしない。だが、ヴィエラは鼻息荒くして興奮した様子で髪を大事そうにフラスコの中へ入れて行く。震える手つきが見てて心配になる。
たかが俺の髪である。数か月のうちに伸びた髪を切っただけだ。案ずるな。
ポカンと口を開いて唖然とした顔のジェイドを横目に、俺は一息吐いてヴィエラに話しかけた。
「んで?どうするんですか、それ」
「髪か?満月の夜になったら使う。大体想像つくだろう?」
そう言いながら、ニヤッと悪戯めいた笑みを浮かべるヴィエラの行動は至極簡単なものだった。第一、髪の入ったフラスコに、魔法で水を入れている時点で想像がつく。
「……光らせるんですか」
「その通り。何故、髪が輝くか知っているか?」
「いえ」
「ミルディンは魔力が高い者が多い。ミルディンは、その溢れんばかりの魔力を体外に放出する前に、全身をくまなく通ると言う特徴があると推測されている。その為、同じく魔力が高いエルフとは違い、ミルディンは髪の先にまで魔力が宿り、輝くとされているのだ」
「へー……何で満月なんですか?」
「それはとても簡単な事だ。丁度良い光の強さが満月の光だった。ただそれだけの事だと言われている。実際は定かではないがな。調べようがないのだから、あくまでほとんど推測だ。だが、理には適っているだろう?」
ドヤ顔で言う割に、結構筋が通っている内容だった。
成る程……じゃあ、満月の光に大体似たような強さだったら良いのだろうか。何だか難しい話だ。
前世と違い、この世界は科学は特化していないので、ほとんど推測だと言う事が玉に傷だが。
俺が難しい顔で考えていると、いつの間にか近くに寄ったジェイドが頭を撫でる。
「……何だい、ジェイド君」
「何かさーよく分かんねーけどさー、お前むつかしー事よく考えてるよなー」
「そうか?」
「そーだよ。お前と会ったばっかだから、何も言えねーけど、オレが覚えてる限り、お前よく考え事してるもん」
口を尖らせて、ジェイドはあっけらかんと言い放つ。
その姿に、今度は俺がポカンと口を開けて唖然とする番だった。
子供は何かと人の表情や感情に敏感だ。そのことを、前世だったかな……前世だろうな。前世の時に学んだ気がする。
子供は意外と人の違いとか変化にすぐ気づく場合がある。ジェイドはまだ十歳児(俺もだが)だし、俺の姿に違和感を覚えても仕方ないだろう。
だって、同い年なのにこんなに考え込んでいるガキが居るとか怖いもんな。
「お前、何かオレと違って、遠い人みたい」
ケロッと言い放ったところを見ると、何も考えずに言ったのだろう。だが、その言葉は酷く重みがあった。それこそ、ズシンと心臓か脳かに響く重みが。
「……そんなことねーよ。ちょっとボーっとしてただけだし」
「えぇ~?そうかぁ?ぜってー何か考え事してたよ」
「してねーよ!ぶわぁぁ~~~~~っか!」
「ひっでぇ!!ヴィエラせんせぇ~~~~~~~!!」
「エンドレス君落ち着きたまえ。いきなり幼児化してるぞ」
「元々幼児でちゅ」
「わざとらしい」
何だか少しだけスッキリした。
ま、確かにガキの俺があまり深く考えても仕方がない事だな。少しだけ、考えるのを放棄するのもいいだろう。
清々しい気分でいると、ヴィエラは「さて、」と何やら本を数冊置いた。
「……何スか、コレ」
「私が著書の本だ」
「何て書いてあんのー?」
「タイトルは『ミルディンに関しての考察と解明』」
何それつまんなそう。
「……その割に、名前が“ヴィエラ・ベラトリックス”じゃなさそうですけど」
「それはペンネームだ。私のペンネームは“ベガ・ヴェール”と言うのだ」
「へぇー」
意外としっかりしてそうだ。
そう思いつつ、本を手に取ってみると厚く、子供である俺にとってはズシンとくる重さだった。そんな大人の手の平以上の大きさのある本を、到底読む気にはならず、静かに机の上に乗せ直した。
「読みたまえよ、結構面白いぞ」
「自筆のモン薦めんなよ。ステマか、ステマなのか」
「……?コレ、読めないぞー」
「はぁ?ジェイド……お前、人語も読めないのか?」
「ちっげーよ!これ人語じゃねーよ!」
そう言われて、ジェイドの指差す文面を読むと、確かに人語ではない文字羅列が連なっていた。少々個性的な文字ではあるが、読めるといえば読める。
……でも、この文字は、
「それは、“竜人語”だ」
「りゅーじんご?」
「竜人族独特の言語だ。以前、少々調べてみてね。何となく書いてみたんだ。意味は『御愛読感謝します』って感じかな?」
「……『大事に読んでくれた事に、有難う』」
「ん?」
「あ、いえ、何でもないっす」
直訳すると、そんな感じだろう。竜人語もちゃんとマスターしてある為、難なく読める。
ただ、初めて竜人語見た時からずっと頭に引っかかっているんだが、何処か似たような文字を呼んだことがある気がする。日本語ではないんだけど……。
恐らく、気のせいなのだろうけど、こう、長くモヤモヤしてると、どうも落ち着かないと言うか、スッキリしない。あまり、気にしない方がいいんだろう。
「さて、まずは研究会の代表として、ミルディンの歴史について学ぼうか」
「代表って他に誰か研究会に入ってるんですか?」
「ない!!生意気な生徒やら、ませたガキやらを入会させる気は毛頭ない!!」
「何ちゅー人だ!!!」
まさか、研究会会員一名だったとは。ドヤ顔で語ってるのが美人なのに腹立つ。
「ま、今回で三人も入った事だし、良しとしようではないか」
「……三人?」
「アンバー君にボルボレッタ君に、忘れちゃいけないエンドレス君」
「忘れて下さいよ!!!」
いつの間にか頭数に入れられてた!!畜生!!何だこの人、横暴だ!!職権乱用だ!!
俺がぐぬぬと顔をしかめている横で、ジェイドはとりあえず喜んでいた。彼は恐らく状況を理解していない。
ヴィエラは黒板らしきボードを持って来て、本棚に吊り下げる。俺らも必然的に適当な近くの椅子に座り、授業風景の様な立ち位置になった。
「そんで?ミルディンについて勉強するんだろ?」
「ああ。まずは、ミルディンがいつ生まれたのかについて学ぼう」
「……いつ生まれたって……そんなの、人族とかエルフとかと同じじゃないんですか?」
「いいや、ミルディンは少々特殊でね。まず、ミルディンが発見されたのは大昔だが、種族の中では真新しい種族には違いない。つまり、新しい種族なのだ。文献には詳しく載っていないが、2000年前以上には既に存在していたとされている。詳しくは不明だな」
途方もない数字に、俺は目眩を起こしそうになった。いいなぁ、ジェイド。お前、分かってないだろ。
「ミルディンが発見された後、しばらくは人族との干渉はなかった」
「へ?何で?」
「ミルディン族は酷く迫害を受けてね。無人島へと逃げたのさ。その数百年、数千年?くらい経った頃、人族はミルディンに目をつけ、奴隷化しようと目論んだのさ」
成る程。つまり、ミルディンが発見された後、奴隷化されずに済んだ空白の年があるわけだ。だけど、その後人族に目を付けられ、奴隷種族に……ってわけか。下衆いぜ、人族。
「が、失敗に終わる」
「…………へ?」
俺は間抜けな声を上げた。
じゃあ、いつ奴隷種族にまで堕ちたんだ?タイミング的にもその辺りだと思っていたんだが。
「ふーむ……君達は、“四大神”を知っているかね?」
「オレ、知らなーい。ティナは?」
「悪いけど、俺も知らん」
「今は“三大神”と学ぶことが多いからな。知らぬのも無理はない」
そう言うと、彼女は黒板の様なボードに何か文字の羅列を書き始める。
「まず、竜人族と魔族の混血種“龍神”。次に、エルフ族と魔族の混血種“鬼神”。獣族と魔族の混血種“魔神”。これが“三大神”と呼ばれる者達だ。混血種なだけあって、強さは到底計り知れない。魔族の血も含んでいる為、かなり長寿だと言えよう。未だ生きていると言われているぞ」
「こんけつしゅって何?」
「いい所に気づいた、アンバー君。混血種とは、どちらか一方の種族の血が勝ったわけではなく、互いの特徴が入り混じって出現した種族だ」
意味分からないと思った君。俺が説明してやろう。
つまり、【混血種】とは、普通にハーフとは違う。主に、他種族の間で産まれた子は、基本どちらかの種族の特徴を持って生まれる。エルフと獣族の間に、耳の長い子―――いわば、エルフとして生まれてくるのだ。
だが、【混血種】の場合、エルフと獣族の特徴両方を持って生まれてくる。いわば、耳が長いものの、獣族特有の身体能力や、獣耳や尻尾が生えて来るといった、極めて稀な種族となる。それこそ、ミルディンレベルではなかろうか。
全く理解していないジェイドを捨て置いて、俺は文字を書き足すヴィエラの後ろ姿を見続ける。
「そして、“四大神”の場合、“死神”という存在が足される」
「……“死神”も混血種なんですか?」
「いいや。“死神”は―――ミルディンだ」
「!!」
目を見開かせて、俺はヴィエラをじっと見つめる。
「だが、既に死んだと言われているのだ。さもなくば、ミルディンが奴隷化なんてするはずがない」
「どう言う事です?」
「要は、その“死神”が、ミルディンを奴隷にせんと島に来た人族達を追い払っていたと思われる。だが、何らかの事情、或いは戦闘において死亡。それ以来、ミルディンは島から消え去った」
「……」
「その“死神”も、君と同じく“プラチナム・ミルディン”なのだ」
「え……」
「実際文献にも残っている。“死神”によって、“プラチナム・ミルディン”が発見されたようなものだ」
サラッと衝撃な事を仰ってくれるヴィエラに、俺は目が点になる。
……これは、どう返すべきか。ええと、何だ?「うっそー☆マヂマヂー??チョベリグなんだケドー☆☆」って返せばいいのか?ナウでヤングな反応を示せばいいのか?
呆れや驚愕を入り混じらせる俺に、ヴィエラはフォローするように話し始める。
「いきなり言われても、信じ切れないのは無理もないだろう。ま、この話は追々行おう。次の話題に……」
「ヴィエラァアアアアアアアアアア!!!!!」
「「!!??」」
ヴィエラが興奮気味にミルディンを語っていると、突如扉が勢い良く開かれ、其処には龍神も真っ青な般若な顔をした男性―――ベテルギウスが息を切らしながら現れた。
バンッという扉の大きな衝撃音と共に、ベテルギウスは足の踏み場もない部屋に、何の躊躇いもなく慣れた様子で踏み入れる。
そして、驚きのあまり何も喋れない俺らを他所に、ズンズンとヴィエラに近づき、頭を思い切り叩いた。俺が見る限り、この二人は頭を叩き叩かれな関係である。
「っっっっったぁああああああああああ!!!!ベル!!どうして、いつもバカスカ頭を叩くのだ!!学生時代からいっつも叩いてた!!これはいじめだ!!教師が教師を苛めるとは如何なものか!!!!」
「大法螺吹くのも大概にしろ!!!お前の部屋から生徒が泣きながら出て行ったと聞いた!!!!何をしたお前は!!!そして、何故私に報告しない!!!」
「忘れてた」
「お前はいつもいつもぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
またもや夫婦漫才が繰り広げられている。
ジェイドは非常に怯えたような、何処か呆れたような目で見ていたが、俺はと言うと完全に呆れていた。
……帰るか。
そうジェイドに促すと、そそくさと夫婦漫才を繰り広げられている部屋を後にした。
何やら、またもやパーンという耳に残る心地良い音が響いたが、彼女の頭は無事だろうか。
***
―――禁術。
禁術だとしたら、非常に問題である。
リーフが寝静まり、寮全体が静寂に包まれる。窓を覗くと、既に闇夜に染まった外が一望出来た。
今日は新月か?
尚更、都合が良いと思った自分に、少々苦笑いをする。
俺は頭が良くない。それこそ、前世では平々凡々な学生だったのだ。
此処で、どういう行動をすべきか考え付かない。考えるより、まず行動派なのが自分だし、自分らしい。
なので、その個性を発揮すべく、俺は行動に移すのであった。
もし、本当に禁術だとしたら、問題である。それこそ、国家問題にまで値する。
まず、今の貴族としての位を没収されるだけではない。下手すりゃ国外追放である。別に俺は構わないが、サラやミラが出て行ってしまうのは胸が痛む。
なので、もし禁術だとしたら、その魔法陣を壊してしまえば無問題である。
……穴だらけの計画には変わりないが、俺に出来る事はそれしかない。
何せ、俺はチートなのだ。
「さて、行くか」
仮面を着け、俺はローブを翻す。
ゼロとして、或いは一人の友として、俺は闇夜に溶け込んだ。
読んで頂き有難う御座いました。
次回『俺、調査します』




