第23話:俺、彼女と友達になろうと思います
あらすじ:サラは魔力がないらしい
―――『サラは、魔力が無いんです』
その言葉が耳に未だ反響している。
魔力が、ない?
そんなの聞いた事ないし、博識な父母からも教わらなかった。
たまに、魔力を厖大に持って生まれる事ならあるそうだが、魔力が無いなんて……そんな事あるのだろうか。あるんだろうなぁ。実際サラそうだし。
でも、得意属性は水だって言ってたし、多少は使えるのか?もしかして、平均以下ってだけだろうか?
謎だ、サラたん謎すぎる(二回目)
俺は小さな頭を悩ませて考える。
十歳児なのに何故に此処まで頭を使わねばならぬのか。
そんな当たり前の疑問を抱きつつ、俺は暗くなった部屋で一人考え込む。
部屋の両端に分けられたベッドで、入り口から向かって右側が俺、左側がリーフが使っている。
左側のベッドからは既に寝息が聞こえており、入学初日の疲労からかよく眠っているようだ。
俺はベッドに潜り込みながら、未だ考え込む。
えーと、魔力が無い……の逆の立場を考えてみよう。厖大に生まれ持った場合だ。
確か、父の話だと『エルフ』の血を受け継ぐと人族でも稀に厖大に生まれ持つらしい。または、ある程度幼少期から鍛錬して無理矢理魔力を上げる事だ。
ただし、後者はあまりよくないらしい。何でも、幼い体には受け入れ難い反動―――まぁ筋肉痛みたいな後遺症が残る場合もあったり、成長が著しく低下する場合もあるらしい。
逆に魔力が無い種族で考えてみればどうだろうか。魔力が無い種族の血を受け継いで……って場合。
魔力が無い種族って何だ?獣人族?いや、確か魔力が全くないわけじゃない。人族と五分五分か、それ以下ってくらいだ。
エルフや人族、まぁ有り得んがミルディンもパス。魔力はそれなりにある。
残るは……
「……魔族、か」
しかし、それはないだろう。仮にも、この『アダンの島国』で魔族と人族の間に子供が生まれるなんて事、有り得ない。
それに、魔族も魔力がある筈。アディやベーゼには見せて貰っていないが、魔法を使う者がちゃんと居るらしいし。
だが、魔族も獣人族と同じでそこまで魔力が多いってわけじゃないらしい。まぁ人族と五分五分か。え?オルフェスト?あの人は規格外だろ?リアルチート。
じゃあ、サラは何で……?
「…………眠れないの?」
ふと、寝息が静まっているのに気付き、代わりに眠そうな声が聞こえて来た。
「リーフ?どうした?」
「……ティナ、眠って、ないから……」
眠いようだ。ウトウトと声も小さく途切れ途切れだし、暗くてよく見えないが、半分寝ているように見える。
起こしてしまったわけじゃないだろうが、心配させただろうか。悪い事しちゃったかな。
「悪い。もう寝るわ。ほら、初めての場所だし寝つけなかっただけだよ」
「そっか……おやすみ、なさい」
フッと瞼を閉じてリーフは寝たようだ。
やれやれ、と安堵の息を漏らしたところで、俺も瞼を閉じる。
真っ暗になる中、俺は思考が徐々に沈んで行くのを感じた。
……あ、そっか……俺…………―――
某青い猫型ロボット漫画の0点取りまくる主人公の様に、瞼を閉じたらすぐに寝ちゃうんだった―――。
案の定、俺は寝た。
***
昨晩は一睡も出来た。超寝た。睡眠不足?何それおいしいの?
生け花の様な芸術的寝癖を作るリーフに睨みを利かせつつ、俺は身支度を終える。キッチリと制服を着こなすのは嫌いだ。だからって着崩すのも好きではないけど。前世ではネクタイ緩めて第一ボタンを開ける程度だったなぁ。ボタン全部取れてる奴居たなぁ。
「アレー?ローブ何処やったっけ……」
「そこそこ」
「あ、悪い」
皆に姿を晒したといえど、このローブは既に俺のアイデンティティーである。此奴は相棒だ。手放すわけにはいかない。
さて、芸術は爆発だと言わんばかりの寝癖を未だ直さずに居るリーフの寝癖を直してやるか。
~
「はよー」
「うっす」
食堂にて。朝食を摂ってる最中、気怠げなジェイドと鉢合せした。朝が弱いとなれば、俺やリーフと同じだ。同志よ。
あまり食欲が出ない俺はパン一切れと珈琲で軽く済ましている。前世も今世もブラックコーヒー大好き野郎である。
ジェイドはそのまま頭を掻きながら朝食を取りに行ってしまったが、入れ違いにニコニコと胡散臭い笑みを浮かべた奴が来た。
「おはようございます~ティルフィーネ殿」
「ブッフォ!」
「ティナ汚い!!」
「ごっめーん!じゃねーよ!何すか、その“殿”って!!」
「えぇ~?ティルフィーネ様は嫌だって言うので、じゃあ“殿”でいいかなってぇ」
「よかねーよ!!」
時代劇じゃねえんだから!!
朝一番に俺にツッコミを入れさせた寮長―――ミラは、悪びれもせず「そうですかぁ?」と笑ったまま首を傾げている。
ニコニコと笑いながらナチュラルに俺の向かい側の席に座るミラは中々強かである。
「少ないですねぇ、お腹空きますよぉ?」
「んー何となく食べる気しないんで」
「まぁ人それぞれですからねぇ。私も珈琲だけですし~」
「アンタの方が駄目じゃん」
俺はまだ何か食べてるからね?飲み物オンリーじゃないからね?
ついでにリーフは俺の隣で、未だ寝ぼけながらパンを口一杯に含んでいる。中々食欲のある奴である。
「ティナー」
「ん?あ、ジェイド。どうした?」
「あのさー珈琲ってさー苦いぃぃぃっどぅわああああああ!?!?」
何を喋っているのか途中で訳分からなかったが、彼奴が持っていたはずのお盆はいつの間にか消え、ジェイド自身は転んで床にキスをするようにうつ伏せに倒れた。
お盆は何という器用さか理解不能だが、リーフの頭上に真っ逆様に綺麗に落ちた。
お盆に乗っていたパンはミラの顔面に美しい曲線を描いてシュートする。
そして、珈琲はと言うと……
「あっぢぃぃいいいいあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
俺全体に万遍なくかかったのであった。
***
この日、学校では騒ぎが起きた。
何と、入学試験にて騒ぎとなったミルディン人が現れたというのだ。何と突拍子もない噂である。
ミルディンと言えば、差別されてしまう人種であり、奴隷だと狙う輩が出て来ても可笑しくない人種である。そんな人種があろうことか、堂々と、見目を隠す様子もなく学校に通っているという。
面白い話だ。いやはや全く。
夢だったら良かったのに☆
「……あの……ティルフィーネさん」
「あ?」
「……怒って……いらっしゃいますよね、はい」
今現在俺とジェイドは長ったらしい廊下をずんずんと視線を気にする事なく歩み続けている。
リーフは名残惜しそうにリリアに連行されて、己のクラスに足を運ばせる。そして、俺らも足を運ばせている最中だが。
……何という事だろう。廊下の真ん中が綺麗に分かれており、歩み易い。
人が左右の端へと集まり、俺とジェイドはまるで人に避けられているかのようだ。実際避けられているわけだけども。
広い廊下で良かったな。狭い廊下だと、この人混みが端に寄っていても正直きつかっただろう。
ようやく教室に辿り着いて、ぶっきら棒に扉を開ける。
「……!」
皆の目が一斉にこちらに向けられ、全員口をつぐんだ。別に喋っててもいいのよ。
俺とジェイドは無言で席に着く。何だかチラチラと人の顔色を窺うようにジェイドがこちらを見ている。
「……ジェイド君、問題があります」
「……はい」
「何故俺はローブを被っていないのでしょう」
「……珈琲で、汚したからです」
「何故珈琲が頭上に降り注いでしまったのでしょう」
「…………俺が転んで、全部手放してしまったからです」
「そうですか」
「はい」
「何か言う事は」
「申し訳ッ御座いませんでしたァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」
ジェイドは食堂でも行なった形状記憶型かと思われる土下座を再度繰り広げる。
そんな彼を、俺は蔑んだ目で見下ろす。ふん、絆されやしない。俺のアイデンティティーが珈琲まみれになったのだ。ミラがすぐに処置してくれたお蔭で、シミは出来ないようだが今日一日使えない。
全くふざけた話だ。何で入学初日からこの姿を日の下に晒さねばならんのだ。
土下座するジェイドを無視して、俺は窓の外を眺める。良い天気。
「ねぇ」
青い空と眩しい日差しと刺さる視線。もうやめて!俺のライフはゼロよ!!
「……」
ああああああ何でこんな事にぃぃぃぃぃ……前世コミュ障平々凡々な俺にはこの視線だけは慣れない。無理だ。痛い。死にたくなってきた。窓から身を投げて楽になりたくなってきた。
「エンドレス君」
「!?」
誰が話しかけてんのかと思ってたら、いきなり苗字呼ばれて驚きたじろいだ。
慌てて声が聞こえる方向を向くと――ええと、何といいますか……
「さ……ボルボレッタ……?」
「うん」
危うく「サラ」と呼びそうになって、不自然ながらも苗字で呼ぶ。彼女は気にする素振りを見せず、可憐なソプラノボイスを響かせて頷いた。あっちも苗字呼びしてるのに、流石にこっちが名前読んだらアレかなって思った。チキンだと笑うがいい。
「サラでいいよ」
ばれてた。
~
「え、ええーっと……」
一体これは何なのだろうか。
本来ジェイドが座るべき俺の前の席にサラが座り、お見合いのように対面している。
彼女の方を訝しげに見るが、俺の事を一点集中しており瞬きすらしない。い、いやそんな見られると照れるんだが。
どうする、おまいら。俺らの天使がこちらを熱っぽく見つめている。穴が開きそうなほどに。いやしかし、この20年越えた童貞である俺には既に鋼の心を持ち合わせている。そのくらいで勘違いなんぞせん。
「エンドレス君」
「い、いや、えと、サラも……名前でいいよ?」
「そう。ティルフィーネ君」
何とも素っ気無い話し方。照れも恥じらいも見せぬサラに少しばかり不満を募らせつつ、俺は周囲を横目で見渡す。
ギャラリーはこちらが気になってはいるが、ジェイドの牽制によってあまりこちらに関心が行かぬようにされている。グッジョブ、ジェイド。朝の件はチャラにしよう。
再度彼女を見ると、大きな目には少し困惑した表情の俺が映っていた。何なんだ?一体。
「あ、あのさ……何か用?」
「うん。あのね、私、魔女信仰者っていうの。知ってる?」
いきなり核心から来ますかそうですか。
俺は無言のまま頷く。
「魔女の強さを信じてるの。私もいつか強くなれるって信じてるの」
それはさながら物語を語る様な平坦な声で。決して自分を語っているようには感じられなかった。
「……えと、そ、そうなんだ」
「うん。私、魔力ないの」
サラリとまるで当たり前だと言わんばかりの超ド級の衝撃発言をぶちかましてくれた。
サラだけにサラリ。なんつって。いや、そんな冗談言ってる場合じゃない。
思わず、俺は目を白黒させた。対する彼女は、動揺しているようにも弱々しいようにも見えない。いつも通りの無表情で淡々としている。
「生まれつき、なんだって」
「へ、へぇ……」
「だから、兄様は私に“魔女”という存在を教えてくれたの。兄様はとても優秀だから。私と違って」
「……」
「魔女・フォルティア様は偉大な方よ。強く凛々しい人だと言われているの。その魔女と同じ種族であるミルディンもまた強く気高い種族だと言われてるの。同じ強さを抱くと言われてるの」
どう見ても過大評価です本当に有難う御座います。
「だから、貴方も強い、はずでしょう?」
「い、いやぁ……どうだろう。魔力は高いかもしれないけど、いまいち制御出来てないみたいだし」
「魔力が高い時点で私にとっては羨ましい限りなのだけど……」
何処かしょんぼりと目を伏せるサラに、俺は戸惑いを隠せなかった。
此処で暴露したい。俺、いざとなったら大魔帝王様此処に連れて来られるよ!優雅なティータイム出来るよ!って言いたい。俺らの天使のしょんぼり顔なんぞ見たくない。
クッ、どうするティルフィーネ!打開しろ!前世でやり込んだギャルゲーとエロゲの知識を駆使するのだ!駄目だ!俺、王道的なツンデレツインテールばっかり落としてたわ!!
「ま、まぁ!サラのは何か原因があるかもしれないし、何なら病気とか……」
「お医者様に診て貰ったけど、異常なしだって」
「……」
つ ん だ ☆
クッソ!現実はクソゲーだ!いやそんな事言ってる場合じゃない。どうすればいい。あらゆる知識を網羅した俺であっても原因が分からん!!何なんだ一体!
「心配してくれているの?有難う、ティルフィーネ君」
少しはにかんだ笑みは、俺の心臓を突き刺すのに十分な威力だった。
この笑顔がある限り、俺はきっと大魔帝王様どころかフ●ーザ様だって倒せる気がする。ベスト・オブ・スマイルのサラたんprpr。
「それでね、ティルフィーネ君」
「ん?」
「お願いがあるの」
お、お願いですと!?それはアレか?「何でもするからお願い聞いて?」みたいなニュアンスが含まれてたり?
……うん、落ち着こう。確かに俺は見た目10歳。彼女も10歳。だが、俺の精神年齢は既に三十路くらいのはずだ。オッサンが幼女に惑わされる。危ない。これは危ない。
つるぺったん(将来性有)な彼女だが、子供ならではの色気というか愛らしさがあって、それにあっさりと惑わされる俺も俺だが、一旦落ち着こう。
深呼吸、吸ってー吐いてー吸ってー吐いてー。ヒッヒッフー。
よし、落ち着いた。気分は賢者モードだ。
「お願い?出来る限りの事ならするけど」
「本当?」
「ああ。任せとけ」
男らしさアピールしとこう。将来の為にも(意味深)。
つか、ジェイドも興味津々にこっち見てるな。何処から持って来たその牛乳。俺にも寄越せ、お前のせいで俺珈琲半分くらい飲めなかったんだぞ。
ジト目でジェイドを見つつ、俺はサラの方向に視線を戻す。
無表情な彼女は冷静に淡々と呼吸をするように告げる。
「私と、子作りしましょう」
ジェイドの牛乳は、まるで霧のように俺の方向へと噴出されたのであった―――。
読んで頂き有難う御座いました。
次回『俺、話を聞きます』




