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俺、裏ボスになろうと思います  作者: 現実逃亡者
第二章:10歳in学校
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幕間:私、愛する人が出来ました

母となる人と父となる人のお話。

「お前は、何を望む?」



私と似たような容姿を持つ男性―――父にそう尋ねられた時、年相応な答えを導き出した。

「お菓子が食べたい」「玩具が欲しい」「新しい遊びがしたい」。

幼かった私にとっては、それは哲学的で難し過ぎたのだろう。父の望む答えではなかったのだろう。

父は少し頭を抱え、そして困った様な笑みを見せる。


「お前には、早過ぎたようだ。もう少し大人になったら教えてくれ」


私の頭を撫でながら、何処か悲しいような哀れんでいるような、そんな笑顔を浮かべた。


これが、父と私の思い出。





***





「ほう、魔女」


私は人の体温くらいの温かさを放つお茶を啜りながら呟いた。

魔女。

無人島を軽く木端微塵にしたといわれる女性。私と同じくミルディン人らしい。

最近めっきり数が減ったといわれるミルディンで、まさかそのような強大な力を持つ人が、他にも居たとは(・・・・・・・)

深々とソファーに預けていた体を起こし、飲み干したからのティーカップを土魔法で≪分解≫し、本来の姿―――土に戻した。


確かに人々の所業は許されるものではない。


自分で言うのも何だが、ミルディンの姿は本当に美しい。月の光に当てられた時、星雲よりも美しく、星屑よりも輝く。その姿は、思わず口を開けて感嘆の溜息を吐いてしまうほどに。

その目もまた美しいのだ。

黄金の目は、まるで太陽のようで。白銀の目は、まるで月のようで。

欲深く、それでいて没個性な人族が欲しがるのも無理はない。奴隷化させてでも、喉から手が出る程にどの貴族も欲するのだ。


その為か、競争率が高まり、現在は数年前のミルディンの人口の約半分以下となった。もしかすると、もう1/3ほどに減ってるかもしれない。

今現在は、ミルディン人の価値(・・)も高く、地位の低い貴族では遺産を出してでも到底足りないほどの高値がついているらしい。


……全く、愚かだ。

減る事を考えないのか。これじゃあ絶滅しても可笑しくはないだろう。

もう数年も経てば、絶滅するだろうな。まるで他人事のようだが、私も助けたい気持ちは山々だ。だが、数が少なく、今や何処にミルディン人が居るのかさっぱり分からない。

奴隷商が売っているのなら見つかるかもしれないが、生憎奴隷商ですら、現在は手に入り難いのだ。


はぁ。憂鬱過ぎて溜息が出る。


“魔女”という規格外で神出鬼没で計算外な存在は、私とは違い、恐らく強行突破、所謂“力ずく”で奴隷制度を無くそうとしたのだろう。

それでも止めない愚かしい存在が人族なのだが。


「……仕方ない、か」


人族は許される存在ではないのは確かだが……何も無人島を壊す必要はないだろう。

聖人君子と言う訳ではないが、あそこにはもしかしたら生物も居たのかもしれないし、植物も生きている。それどころか、何か貴重な資源があるかもしれない。


一度壊れたものは、もう直せない。


だが、私にはそれ(・・)が出来るのだ。





―――≪禁術≫






***





「失敗したあああああああああああ!!」


ははははははは恥ずかしい!!ああ恥ずかしい!!

私はいい年しているのにも関わらず、ソファーにダイビングして、まるで玩具を強請る子供のように足をじたばたさせてしまった。それほどまでに恥ずかしい。穴があったら入りたいとは正にこの事だ。

顔が熱い。今鏡を見たら、それはもう立派な茹蛸が出来ている事だろう。

顔から火が噴きそうな勢いだった為、私はすぐに水魔法で頭から水を被り、冷静になろうとする。



結論から言おう。失敗した。

何が失敗したって?私は、魔女(かのじょ)とは違って、あまり目立ちたくはないのだ。

だからこそ、部屋にあった適当なローブを着こんで顔を隠したと言うのに!!


か、髪が長いくらいで……せ、聖女……って!!


あんまり過ぎる。いや、気づいてほしいわけでも目立ちたいわけでも知ってほしいわけでもない。

ただ、何か悲しかっただけだ。

人間と言うのはどうしてこうも極端なのだろう。長髪=女性と言う考え自体根本的に可笑しい。長髪の男性に謝って頂きたい。主に私に。

女々しいのは自覚してる。実際、色白で筋肉が付き難いせいで華奢で、他の女性からは「何か私より美人だから嫌」と言われ続けたのだ。そんな直球にコンプレックスを突かないで頂きたかった。

私もこんな容姿で産まれたかったわけではない。父親に似なかっただけだ。

父は、結構凛々しくも優しい顔立ちをしていた。男性らしい優しい雰囲気を持っている人だった。

何処か異国人のような容姿をした父を、私は憧れの眼差しで見ていたものだ。



……そういえば、父に教わったんだったな。あの≪禁術≫。



人族の前に姿を現してまで、やりたかった事。≪禁術≫ではあるが……仕方がない。


無人島を直す事。


いや、言葉を変えれば、少し前の姿に≪戻す≫のだ。

それこそが≪禁術≫の一つ―――≪巻き戻し(リターン)≫だ。

流石に少し疲れたな。ああでも、魔女にまた壊されたらどうしよう。一々直すのも、彼女に悪い気がして躊躇ってしまう。


そう考えつつ、ソファーで休もうと寝転んだ時、



ドンドン、という打撃音が聞こえる。



明らかに扉を叩く音なのは分かる。分かるのだが……音が可笑しくないか?

いや、ノックなら普通「コンコン」と軽く叩いて来るものだし、第一こんな所(・・・・)に客人なんて来るか?

私は拭えない警戒心を溜めつつ、ゆっくりを扉に向かって歩む。

どんな猛者でも、それなりに薙ぎ払える自信はある。大丈夫だ。ちょっと手首を捻って、相手を黙らせてしまえばいい。




そっと扉を開けた瞬間、



そう、刹那―――私の右頬には鈍い音と共に、口の中が切れたような鋭い痛みが生じた。




其処に居たのは、







銀髪の、とても美しい、女性だった。







***





それから、彼女に殴られた右頬を≪治癒(ヒール)≫するつもりもなく、怪我したまんま彼女にアプローチし続けた。

お恥ずかしい話、惚れてしまったのだ。


あの殴られた後、彼女が「折角人がぶっ壊した島を何をいけしゃあしゃあと直してくれてんだ」とそのまま文句を言い放って帰って行った。


彼女が、魔女?


とても見目麗しい女性は、言葉に言い表せない美しさを放っていた。

美しく清水のように流れる銀髪、白くも健康的な肌、女性らしい豊満な、それでいて何処か華奢な身体、凛々しさと気高さが滲み出るつり目。

そして―――堂々とした立ち振る舞い。

私を殴った後も、何の躊躇いも罪悪感も無さそうに見えた。一体何が彼女をあそこまで行動させるのだろうか。




何度も話しかけて、何度も怒鳴られ、何度も殴られ蹴られ、以前は魔術によってぶっ飛ばされたが、一応それなりの関係を築けてきた。

この前、遂に名前を教えて貰ったのだ!これは良い一歩だ!

彼女は、フォルティア・クロスエンドというらしい。名は体を表すと言うが、名前負けしていない容姿をしている。美しい。


「アンタも変わってるね」

「そうかな?それよりほら、今日は君が好きな菓子折りを持って来たんだ!どうだろうか」

「あら、どうも……じゃなくて、よくもまぁ初対面でぶん殴った相手に執拗に話しかけるわね」

「何度も言っているが、私は君に惚れたんだ……その、ええと、出来れば……清き付き合いから始めたいとも思ってる」

「はいはい、お断り。菓子だけ置いて帰りな」

「相変わらずだな……しかし、私は殴られるまで帰るつもりは――ッゲホォ!!」

「おら、殴ったから帰んな」



今日も元気良い右ストレートだった。





***




「あのさ、」

「ん?何だね、フォルティア」

「さんを付けろ」

「……フォルティアさん?」

「よし」


満足気に笑みを浮かべるフォルティアはとても愛らしい。ついでに、今日はポミエという実のパイである。自分手作り。

手の平くらいの大きさにも関わらず、大きな口の為か、一口で半分食べていた。意外とよく食べる。華奢な割に。

ゆったりとリラックスして椅子に座り込んでいる。私の家なのに、この寛ぎよう。素晴らしい適応能力。


「その、何か言うの恥ずかしいけど」

「君が恥ずかしがるとは可愛らし……待って待って、拳下ろして」

「ふんっ。本題に入るわよ……あのね、その……わ、私の何処に惚れたわけ?そんな可愛さアピールも何もしてないんだけど」

「そうだね……魅力、というか、オーラかなぁ」

「オーラ?なにそれ。哲学的ね」

「いやいや、此処からが哲学的さ。実の所、君を初めて見た時とても綺麗だと思った。凛々しいと、気高いと思った。だけど、その目は何処か愁いが帯びていた。何を抱え込んでいるのかは知らないが、それほどまでにどす黒い何かを抱えているのだけは分かった」

「……」

「否定しないということは、肯定でいいね?」


彼女は頬張っていたパイを全て食べ終えると、お茶を飲んで一息つく。

そしてそのまま、お茶の香りが残った口を開いた。


「……私、過信しているわけではないけど、強いと思わない?」

「ん?確かに、ミルディンは通常より魔力は多く生まれたりするが……君の場合は異常だね」

「でしょう。これね、親が施した(・・・)のよ」

「……施した?」


思わず、顔をしかめてしまった。どういう事だ?つまり、彼女は生まれつき―――いや、なるべくしてなったわけではないのか?

彼女は私の顔を見て、少しだけ微笑んだ。何処か悲しい様な、そんな顔。


……幼い頃、父が見せた笑顔に似ている。


「私って生まれた時、尋常じゃない魔力を放っていたらしいのよ」

「ほう」


魔力は多すぎると溢れて、≪魔力感知≫をしなくても、魔力が勝手に放出されて感じ易くなる。

彼女の場合は、実際そうなったわけか。


「でもね、今ほどじゃないわ。もう少し魔力少なかったの。ま、今は魔力を完全に抑制出来てるから、あまり違いが分からないでしょうけど」

「……それで?」

「父母はね、私を見て“神が授けた奇跡の子”だなんて言って興奮してたのよ」

「……まさか……」


少しだけ頭に過った憶測。

彼女のニヤリとした怪しげな笑みを見る限り、どうやら当たっているようだ。



「恐らく、その憶測は正解。父母は生まれたての私に≪禁術≫を施したの」



≪禁術≫―――数多ある中で、危険なもの、簡単には使ってはならないもの、人間の域を超えるもの、そして……神に逆らうもの。

私は目を見開いた。つまり、彼女の力は人工的(・・・)に生み出されたものだったのか?

驚きのあまり、言葉が出てこない私を放っておくように、彼女は言葉を続ける。


「……自分達を生贄にして、私を強く強く育てようと必死になった。人族にばれないように、ひっそりと生きて行く中で、ただただ強くさせようとし続けた。そして、≪禁術≫が完成される時……10歳の時、父母は天に魂を捧げ、私に人外なる力を与えた」

「どうして、どうして、そこまでして……」


私は言葉を詰まらせる。いや、分かっているじゃないか。この流れからして。彼女の両親が目指したものが。


「……復讐よ。人族達を潰す為に―――私を、人族を潰すだけの殺戮人形にしようとしたわけ」



―――息を飲んだ。



彼女の目は、いつもの気高さなんてない。酷く暗く、そして―――沈んでいる。正に虚無を表すのに相応しい目。

すると、彼女はフッと微笑んだ。先程のように、悲しい笑みを。


「……酷い、顔。何で貴方がそんな顔するのよ」


自分が今どんな顔しているのかは分からない。ただ分かる事は……彼女を憐れんだと同時に、とても愛おしくも思えた。


彼女は、寂しい人だ。


両親に愛されず、その力を駆使して復讐しか出来ない……悲しい人だ。

私とは違う。この人は、私と違う。

私のように両親の側で愛を注がれたわけではない。私のように生まれつき(・・・・・)の力というわけではない。その力は運命と言うには残酷で、必然的に生み出された力。

そう簡単に愛を囁くものではなかったのだ。


今思えば分かる事だった。

彼女は最初から私を、私の愛を拒絶していたではないか。

それは疑っているとか、信じられないとか、そういう類もあるのだろうが―――きっと、愛された事が無いから、知らなかっただけだ。

愛とは何か。どんなものかを。


「……」

「どう?それでも、私を好きになる?」


まるで悪戯をする子供のような、無邪気に笑う彼女は、心成しか少し寂しそうに見える。

私の答えは一つだ。


「その話を聞いてから、君を見る目が変わる気がするよ」

「……どんな風に?」

「君は気高い。気高くて凛々しい。それだけではない、堂々としていて美しい。まるで凜と野に咲く一輪の花の様に、だ」

「素敵な口説き文句ね。キモいけど」

「そういう毒づくところは正に、美しい花には毒があると言ってもいいだろうね。其処も好きだけど」


私は一呼吸置く。彼女の薄ら笑いは未だ消えない。


「でも、本当は違う。君は、凜と咲く花というより、独りで咲いた花だ」

「……」

「水も、光も、手助けなんて不要だと言わんばかりに咲こうとして、だから……弱々しい」

「……自分で言うのも何だけど、強かだと思うわ」

「そうだね、外面はね。花も実際外面は綺麗だけど、中身はどうなってるか分からないよ?毒を持ってるかもしれないし、意外ともう枯れかけてるかもしれない」

「屁理屈ね」

「そう?案外当てはまってると思うよ―――君に」


刹那、彼女の笑みは消えた。


「君は、寂しい人だ。悲しい人だ。愛する事も、愛される事も知らずに育ってしまった人だ」

「……だから、何だって言うの?」

「私は君を、勘違いしていた、という事だよ」


既に彼女の顔色は窺い知れないが……少し顔をしかめているのは分かる。どう思っているのかは分からないが。

しかし、私は言葉を続ける。


「……私は、君を愛してる……と言っても、無意味だと気づいた」

「諦めるんだ」

「まぁね。物分りいいだろう」

「最低ね」


バッサリと斬り捨てられた。結構傷つくなあ。そう思ったのは、彼女もみたいだ。


「私は君を勘違いしていた。凛々しいとか強かとか。そんなんじゃない。君は……風に吹かれると、すぐに折れてしまいそうな花のように……本当はとても脆いんだ」

「そんな事ない」

「そんな事ある。だけど、君は優しい。無人島を壊したのだって、其処にどの種族も住んでいないと知っていたから。だから、無人島を壊した。誰も犠牲にならぬよう、ただの威嚇の為に」

「違う」

「違わない。君は脆い。誰も気づいてくれなかった。誰も気づけなかった……私も含めて」

「……違う!!」


彼女は立ち上がって、私に向かって拳を振り下ろそうとした。だが、その拳は振り下ろされる事なく、弱々しく静かに下ろす。

……酷い顔。泣きそうな顔だ。


「でも、私は今気づいたよ」

「……」

「君を愛してるとは言わない」

「……」

「でも、これだけは言わせてほしい」

「……何」


荒んだ低い声で、彼女は反応する。少し震えているようだ。何故だろうか。



「……君に、愛を教えたい」



その言葉を言った瞬間の、彼女の顔は忘れられない。


目を見開き、潤ませた。でも歯を食いしばって、その溢れそうになる涙を堪える。


「君に愛を教えたい。君を愛したい」

「……勝手にすればいいじゃない」

「君が信じてくれた頃に、愛してると告げるよ」


彼女は顔を手で覆う。立ち上がった私はそんな彼女を静かに抱き締めた。





温かい。


しかし、彼女はすぐに私の脇腹に渾身の一撃(パンチ)を食らわせるのだった。










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