第21話:俺、入寮します
あらすじ:やっと入寮するようです。
「やはり、そうでしたか」
学園の廊下にて。周囲が未だ授業中―――まぁ自己紹介やら何やらしている合間に、俺と担任であるマリーは廊下に出て話し合った。
俺のフード事情とか。何となくマリーは察していたが、一応事実確認の為に尋ねたそうだ。
一つ溜息を吐いて、マリーは頭を軽く抱えた。其処には、やれやれと言った雰囲気が込められている。
「すんません。あまり騒ぎには……」
「いえ、今時の子の中には最早ミルディン人という種族を知らぬ子も居ますが、知っている人が大半でしょう。仕方ありませんし、ベテルギウス先生や学園長から許可を頂いているのであれば問題ありませんから」
思いの外、理解してくれる先生で良かったわー。一々疑われたり詮索されたら面倒だもんな。
「周囲に言わなくて大丈夫ですか?詮索されたりするでしょう」
「んーまぁ……いざとなったら晒します。別に売り飛ばされるわけでもないし」
「確かに学園内は安全ですが……」
「噂になったって、部外者は学園内に入れませんし、大丈夫大丈夫」
心配そうに見つめるマリーに、俺は笑って気にしない素振りを見せる。
実際、確かに怖い所はある。
こんな売られるような物珍しい種族だと、周りが全員敵に見えて来てしまい、それから警戒を怠ったことはない。襲われた時は、無詠唱で対抗するしかない。
だけど、それは俺の本気の力も晒すのだ。それは、売られたり襲われたりする以上に怖いことなのだ。
情けない事に、嫌われたり恐れられたりするのが一番怖い。
リーフや、リリア、新しく出来た友人のジェイドが……恐怖の対象として俺を見て来たら、俺はどうなるだろうか。
答えは決まってる。
逃げてしまうだろう。それこそ情けないし、男らしくもないが、俺は一人じゃ何も出来ない。それは前世でも……
……いや、前世では、どうだったかな。
でも、確か一人じゃ何も出来なかった気がする。一人で何とかしようとして、駄目だった気がする。親友に情けない顔をされた気がする。それこそ、悲しいものを見るような、そんな目で。
……何で最近前世がおぼろげになって来てるんだろうな。転生者ってのはそんなもんなのだろうか。可笑しい、ネット小説とかではそんな描写見た事ないぞ。俺が見た限りでは。
「大丈夫ですか?ティルフィーネ君」
「へっ、あ、はい!すみません。もう、戻りましょっか」
「ええ、あぁすみません一つだけ」
「何すか?」
「……ミルディンの姿、見せて頂いてよろしいでしょうか?」
少し恥じるような、何処か気まずそうな表情を浮かべ、小さな声で尋ねる。
「……すみませんが、俺そういうの嫌なんです。何か、珍獣になった気分で」
「あ、ご、ごめんなさい。不躾でしたね。失礼致しました。さ、戻りましょう」
すぐに頭下げて謝ってくれたので、恐らく純粋な好奇心だったのだろう。だが、見せる気はない。ごめん。レアなのよ、勘弁して。
俺は苦笑いしつつも、マリーの後を追い、静かに教室に入った。
「おっせーぞ!」と笑うジェイドを見て、何処か安堵した。
そして、一人黙々と本を読むサラたん可愛いよprpr
***
「ティナ!早く寮行こうぜー」
午前中授業で早くも皆が帰路に着くのだが、俺らは生憎寮生活である。何か皆寮生かと思っていたら、案外町で店切り盛りしてる親や知り合いが居れば、別に自宅通学しても良いみたいだ。
その為、周囲にはちらほら校門を出て帰る人が目に入る。
折角なら、気になるサラたんに一言くらい話しかければ良かった。あの子凄い可愛い。
……俺は、大人しくジェイドに引き摺られて寮に行くのだが、最近皆さん俺の扱いぞんざい過ぎませんかね?
~
「ティナぁ~!!」
「へぶらいッ(叫び声)」
情けない涙声とドスッという鈍い衝撃音と共に、俺の身体は宙に浮く。
背中から地面にダイブし、俺は半生を終えるのだった―――って、馬鹿。
「何すんだよ、リーフ!」
「ご、ごごごめん!!ただ、あまりにもティナが心配で心配で……」
お前じゃあるまいし、俺が一人でメソメソしてると思うたか?確かにコミュ障で一人で便所飯食ってそうかもしれんが、一応しっかりしている方だ。極限まで気配を消せば、案外辛くはない。その割に俺は何故か心の汗が目から溢れ出そうだった。可笑しいな。あれれ?
とりあえず、リーフによって圧死しそうだったので、俺の胸へと遠慮なしに飛び込んできやがったリーフをどかす。男に抱き着かれて喜ぶ趣味はねえが、十歳だったね。多感な御年頃だ。
凄い訝しげな目、というかあからさまに不思議なものを見る目で、倒れた俺をジェイドが見下ろして来る。何故だ。
「……何だ、その目は」
「いや、何で立ち上がらねえのかなと思って」
「見れば分かるだろう」
「見ても分からないから聞いてるんだけど」
「単純な話だ」
「ほう」
「―――頭打って、腰も痛めたから助けてくれ」
「……凄い音したもんな」
そう言って、俺に手を貸してくれるジェイドは優しき常識人だった。ただの単細胞とか思っててごめん。優しい。オルフェスト並みに優しい。
~
男子寮。今でも思うが、何故男女分けてしまったのだろうか。普通一緒だろ。可笑しいだろ。何故なのだ。何故異世界において、そんな現代社会の様にリアリティを追求……否、厳しくしたのか。意味が分からない。
間違えて、女子の入浴時間に入って、「キャー!!な、何入ってんのよ!ちょっと、見ないで!出てってー!」とか赤面して体を隠しながら叫んだり、「や、やだ……!は、恥ずかしい……!」って叫ぶのも忘れてただお風呂で顔まで浸かっちゃったりとか、「キャーの●太さんのエッチー!」とか王道的展開があったりな。
それとも何だ?女子の部屋で見回りの先生に見つかっちゃ不味いと布団の中に潜って抱き合うのか?あ、これ修学旅行とかの定番だった。
後は、食堂で風呂上りで水に滴り、頬を薄紅に染めた女子を見たりとか?眼福じゃねえか。もうおかずいらねえよ。二重の意味で。
そういうのすらない。男の風呂に何のラッキースケベがあるというのだ。入浴中に「おら、タオル取れよ!自信ねえのかぁ?」とか言い出すアホが居るくらいだ。何処にラッキーなスケベ要素があるというのか。稀だが其処にあるのは、誰得かも知らぬ薔薇な展開だけだ。
そんな事を脳内で繰り広げつつ、俺は渋々寮へと足を運ばせた。寮へ行く道中でジェイドとリーフはすっかり仲良くなっており、会話に花を咲かせる。ハハッ(高音)いいねぇお子様は。
溜息を何度も吐きつつ、小奇麗な寮へと到着した。
何か見た目は横長なマンションって感じだ。ベージュ色で青い屋根―――これが、男子寮みたいだな。木製で温かみを感じる良い造りだ。うん、嫌いじゃない。男子寮は嫌いだけど。
出入り口を開き、長い廊下を渡るとロビーに続いていた。一番広く大きく天井も高い部屋、此処がロビーか。
そう思っていたが、どうやら食堂でもあるようだ。沢山のテーブルと椅子と共に、左側には台所みたいなのがチラッと見えた。
あまりにも異世界と言う割に、前世と変わり映えがないもんだから四方八方キョロキョロと見渡してしまう。
「そんなに首を動かすと、首がポロリと取れますよぉ~?」
「何それ怖い……って、誰?」
「おやおや、失礼致しましたぁ。寮長を務めさせて頂いております、ミラ・ボルボレッタと申します~。以後よしなにぃ」
濃い青紫色の髪はサラサラと風に靡いており、細長い目は狐目と表現するに相応しい。にんまりと直角に口角を上げて笑みを浮かべる青年は何処か飄々としつつも掴み所がなかった。
背が高く、細いというのが衣服の上でも分かる。制服の上に俺と同じくローブを着ているので、どうやら魔術師志望のようだ。ニコニコと愛想良く笑顔を振りまいているが、凄い胡散臭い。思わず、少し後ずさった。
「……ん?ボルボレッタ?」
「はいはぁい。どうしましたかぁ~?」
「もしかしてさぁ、サラ・ボルボレッタの関係者?」
ジェイド、年上に敬語を使え、敬語を。どう考えても先輩だろうが、というツッコミは投げ捨てる。
……愛しのサラたんと何らかの関係者、だと?確かに、ボルボレッタだし……サラとミラ。名前も近い。
すると、ミラという青年は少し目を見開き、すぐに目を細めて笑みを浮かべた。
「おやぁ、サラも入学したのですかぁ。そういえば、あの子はもう十歳ですねぇ」
「やっぱり関係者なんすか?」
「えぇ。顔立ちが似てないのであまり気づかれませんがねぇ、彼女と私は兄妹ですよぉ」
「……ファッ!?」
「私はもう十六歳で今年卒業ですがねぇ。彼女は今年入学ですかぁ。いやはや、気づかなんだぁ」
クックック、と口元押さえて笑うミラはやっぱり何か嘘くさい。すると、十分笑ったのか、一息吐いてミラはこちらに顔を向ける。
つか、十六歳か。意外と若いな。
「さてさて、それは兎も角。改めましてぇ、ようこそ新入生方ぁ~貴方達が最初に来ましたねぇ。荷造りは済んだのですかぁ?」
「……あ」
「済んでいないようですねぇ。では、済んでからまたお越し下さぁい。新入生全員に寮生活の説明をせねばなりませんからぁ」
俺らは一気に走って各々の部屋へ向かう。ヒラヒラと手を振るミラの姿なんて眼中にない。義兄さん、妹さんを僕に下さいとだけ言いたい。
道中、リーフの「部屋何処だっけ?」発言によって、俺らは各自部屋を確認しにロビー兼食堂に戻るのであった。
~
二人部屋の為か、結構広く感じる。扉を開けると、左右対称な家具の配置で、基本あるのは棚とベッドと机のようだ。俺は右側、リーフは左側のベッドと机を使う事になった。
部屋の雰囲気は悪くない。木製の割に、木製さがあまり感じられない。壁紙とかカーペットは真新しいようで、シミ一つないように思える。壁はベージュでカーペットは鮮やかな青色だ。
荷造りと言っても、俺は最初から持ち歩いてたトランクと杖しかないのだが。村に居る時、着替えはいつもリーフの借りてたからな。後は金だ。
金に関してだが、流石に大金を持ち運べないので困った。けれど、其処は流石のレアヴロードである。異次元空間収納庫のような働きを見せる『トレジャーボックス』なるものを貰った。
曰く、生物でなければ大体の大きさの物は入るそう。だが、数に限度があり、二十個までしか入らないとのこと。
だが、これは意外と重宝出来るので喜んで感謝した。レアヴロードは「御役に立てたのならば本望です」といつも通りのテンションで応えてたけど。
「荷造り終わった?」
「んー」
リーフの一声に応じ、俺は顔を上げる。荷造りと言ってもそんなに持ち歩いてないからなぁ俺。
対して、リーフは結構荷物を持って来ている。着替えや本など数多の荷物。大き目なトランクケース二つ分。足りない物は現地で買おうと決めてたらしい。
そんな大荷物にも関わらず、もう荷造りが済んだらしいリーフに尊敬の念が芽生える。
「おーっす、リーフ、ティナー。終わったかーい」
「あ、ジェイド」
「僕らも終わったよー!」
「じゃあ、行こうぜ。オレらが最後みたいだしよ」
ジェイドの呼びかけに俺らはひょこひょこと小鴨のようについて行くのであった。
~
眠い。長い。帰りたい。
この三連コンボは兎に角最強だと思う。少なくとも前世では校長の話聞く度に終始こんな気持ちだった。
その懐かしき気持ちが今現在込み上げようとしている。
寮長―――ミラの話なっげぇ……。
いや、仕方がないんだ。彼は寮生活でのルールや注意をして下さっているんだ。無駄話なんて決してしていないんだ。していないのに何でこんなに長いのさグレるぞオルァ。
集められた新入の寮生、無論俺らも含むのだが、彼らは食堂兼ロビーである此処で椅子に座り、ミラの話を聞いていた。
ついでに、俺は既に半目で、ジェイドに至っては白目で夢の中である。リーフ、真面目に聴いているお前だけが頼りだ。
周囲を見渡すと、意外と寝てる人がちらほら見えた。全く、駄目じゃないか。俺も寝たい。
「ね、寝ちゃ駄目だよ?ティナ」
「……フリか、貴様……」
「?」
「いや、何でもない……」
某芸人の「押すなよ!絶対押すなよ!」みたいなフリかと思った。
だが、もう俺の思考回路は停止しそうだ。眠い。寝たい。帰りたい。思わず、ヘドバン状態でうつらうつらと睡魔に負けかけている。
―――あぁ、俺の要塞を打ち破る戦士は存在しないのか……。
思えば、彼女の脚によって覚醒した事がしばしばあった。恋しい。あの脚が恋しい。
「―――以上で、話は終わりです~。何かご質問はぁ?」
ミラの言葉に俺の目は一気に覚醒した。終わった。長かった。勝ったよ、勝ったんだよ、戦士。
質問する人は居らず、そのまま解散となった。まばらに散る若人達。さっきまで睡魔に負けそうになってたせいか、頭が上手く働かず、何かおっさんみたいな気分だ。少年よ、大志を抱け。
「やぁ、少年達~」
「あ、ミラさん」
「君も魔術師志望かなぁ?嬉しいねぇ」
各自室へ帰宅道中、ミラに話しかけられて足を止めた俺ら三人は一斉にミラを見ると、やはり何処か怪しげな笑みを浮かべるままだった。
どうやら、俺が被り続けているローブを見て魔術師だと思ったようだ。
「ええ、俺は……」
「僕もですよ!」
「オレは魔法剣士だかんな!剣士も目指す!」
「うんうん。いいねぇ夢ある少年達。頑張ってねぇ」
そっとミラは俺の頭を撫でる。優しく優しくゆっくりと……ローブの上に手を乗せて撫でる。
どうしよう。何か嫌な予感がする。
「君だねぇ?」
「へ?」
「とぼけても駄目だよぉ~」
ニッコリと笑うその顔は、今や恐怖の象徴としか思えない。これは、何か企んでいる顔だ。初見だが、分かる。この悪びれなく笑う表情は、悪戯を企む子供と同じ表情だ。
―――まさか。
「ほらぁ」
「……んな!?」
優しく撫でていた手が、いきなりローブを掴み、バサッと強い布地の音を立てて俺の姿見……いや、俺の顔を露わにした。
「君が、入学試験に現れた―――“魔女の一族”かぁ」
久々にハッキリとした視界に目が眩む。
銀色と金色が混じった前髪が、俺の眼前に現れた。妙に長いサイドの髪も同様に。
驚きのあまり目を見開き硬直してしまったが、間違いなく視線が己に突き刺さっている。声が発せられず、ただ口を開き唖然とするしか出来なかった。
「……綺麗な容姿だねぇ。ふふふふふ、会えて嬉しいよ……“魔女の愛し子”」
『魔女の愛し子』。それは、かつてレアヴロードが言っていた『聖女の御使い』と同じ呼称。由来は知らない。
そう言われた俺は、ただミラを見続けるしか出来なかった。いや、きっと途中から睨みに変わっていただろう。
平穏を求めて、売買されないように逃げてきて、学園生活を謳歌しようと思ったのに。この様かよ。ふざけんな。
未だ部屋に足を運ばせていなかった寮生達は、好奇の目や敬愛の目、あるいは欲望の眼差しかもしれない。そんな視線ばかりを送って来る。
ヒソヒソと繰り広げられる小さな話に、俺は耳を塞いで此処一帯全て爆発させたくなった。焼野原にした森だったもののように。
クスクスと楽しそうに笑うミラに、俺は小さく一つ舌打ちをする。
すると、そんな俺の頭に何かが被せられる。俺のローブのフードのようだ。
ふと横を見ると、酷く冷たい無表情を浮かべるリーフが立っていた。
「……リーフ?」
「行こう、ティナ。僕、疲れちゃったんだ」
フッと口角を上げて微笑むが、目が全く笑ってない。何この子怖い。
「おやおや、もう少し話したいんですがねぇ」
「ふふふ」
ミラの発言にリーフは、先程のミラのように小さく笑う。
「魔女が怒りますよ?」
「……は?」
「愛し子を傷つけた罰は、さぞかし痛いでしょうね」
ただそれだけ言い残すと、リーフは俺の腕を引っ張って食堂を後にした。
リーフ、ジェイド忘れてるよって言えなかった。ごめん、ジェイド。
読んで頂き有難う御座いました。
次回『俺、親友に恐怖を覚えます』




