第16話:俺、入学試験を行います
あらすじ:入試試験を受けるようですよ
ブクマして下さっている方々にいつも感謝しております。もっと早く上げられるように頑張ります。
皆さんどうも。幻ポ●モンよりも激レアというか、絶滅危惧種なミルディン人・ティルフィーネです。
早速ですが、俺―――酔ってます。
「……おぇ」
「どうしたの?大丈夫?」
「緊張で酔ったんじゃないでしょうね……」
それはないぞ、リリア。俺は大分図太い神経を持っているからな。
酔っている理由とすれば、この人混みである。荒れた波の様にゴッチャゴッチャしている中で乱される俺らがきんちょ。三人で手を繋ぎながら歩を進めているが、上下左右に動いて気持ち悪い。
可笑しい。車酔いはしなかったのに、まさかの人混みに酔うとは。おのれ!前世のコミケを思い出せ!あの人混み!あ、でも入るまでは陳列してたわ。コミケスタッフも居たわ。イェーガーな状態だったわ。
決して迷わぬよう、はぐれぬようにガッチリと繋がれた手を早速離しそうになっている俺を助けるのは、聖女愛好家だった。背が高い彼は俺を迷子にせぬよう後ろからちゃんと支えてくれる。
有難う、イケメン。でも君のせいで女性が集まっている気がしなくもないんだ。
この人混みには、勿論理由がある。
ずばり、入試試験である。
俺らと同い年くらいの子供が大人(多分保護者)と共に同じ方向へ進んでいるし、恐らくそうだろう。むしろ、十中八九そうだろう。
でも俺みたいに怪しげローブな人は居ない。知ってる。分かってる。魔術師希望の子でもしかしたら……ってちょっと期待してた。
俺、超浮いてる。やだ恥ずかしい。助けて心の友。
今以上の目深にローブを被って学校へ行く。
……進んでいるのかな?最早道幅すら分からなくなってきたよ?背が低いせいで、今どの辺りかも分からないよ?
***
予め受験票は貰っていたが、その時に受験番号を言われる。貰った瞬間……三人で硬直した。
……受験まで二週間はあったはずだが、既に6000人超えてるぅー……
レアヴロード曰く「今年は少ない」そうだ。ハッハーやってらんねえな!
何故少ないのか、どうでもいいことが気になってしまったが、リリアが凄い冷静に「子供が少ないんじゃない?今年は」と言っていた。まさか異世界にも少子化問題が来ているのか。末恐ろしや。
だが、レアヴロードがすぐに否定。今年は王族の子供が入学するかもしれないから、その関係だろうと。俺らと同い年だから入学する確率が高いそうだ。
その為、王族の騒ぎに巻き込まれない様に子供を入学させまいという保護者がたまにいるらしい。優しいこった。
ま、俺は逃げれれば何処でも良かったし、リーフやリリアも学校皆で一緒に行きたがってたし、どうでもいいわ。
ともあれ、俺らは無事に(人波に飲まれボロボロになりながら)学校へ到着。
「不本意ながら、私は此処までです。御勇姿を間近で拝見出来ぬのは心苦しいですが、これも規則。どうか全力を尽くして下さい。応援しております」
そう言って、校門の側で深々と頭を下げるレアヴロード。校内は基本生徒か受験生、教員しか立ち入っちゃ駄目なんだそうだ。
全力尽くしたら学校が何処かの森のように焼野原になっちゃうので、そこそこ尽くします。
こうして、リリアとリーフと共に入学試験に挑むのであった。
「うほー……」
あ、ウホッとかいい男とか言いませんよ?御安心を。
ただね、意外と校内が広いんですよ。6000人以上も入っているのか、とツッコミいれたくなる。
昇降口入ったら、真っ先に飛び込むのは提示版みたいな案内版だった。「実技試験は左」とか書いてある紙が貼ってある。
全体的に白く、その白い壁に足されたようなライン状の幾何学模様は鮮やかな色合いで、何だか不思議な空間に居るみたいだった。実際異世界ですけど。
真っ白で綺麗で、真新しい雰囲気がある。結構古い建物のはずだが、そんな古風さなんて微塵も感じない。美術館のような内部だった。
廊下も広くて、5人くらい横で並んでも隙間が出来る。おお、凄い。広い。T字になっており、実技試験をする人は左なので左へ行く。皆も流れるように左や右へ行く。
ついでに、俺の受験番号は6012、リーフは6011でリリアは6010だった。
もしかすると、既に7000人超えてる可能性も否定し切れないんだよな……怖くなってきた。受かるかしら。
つか、倍率幾つなんだろう……何人まで入れるんだっけ……。
怖くなってきた。キリキリと痛む胃を携えていざ出陣。
リリアは剣術実技試験の方へ行くので、此処からはリーフと行動である。のほほんとしたリーフと違って、リリアはしっかりしている方なので安心出来る。あれ、いつから保護者になったんだっけ、俺。
とりあえず、リーフとはぐれぬように一緒に試験会場へ行く。
「うへぇ……」
これは校内が広くて出した感嘆の声ではない。人混みに対する俺の心情である。
ごっちゃごっちゃ。
某夢の国のパレード並みである。これはひどい。
目の前には人しか居ない。どうなってるのか、中は。
目の前に広がった扉と、体育館のような内部。だがしかし、中は人しか見えない。人以外が見えない。
中に入ると、人が陳列されているようで、その列の横には立札らしき物がある。何やら番号が書かれているな。
「これ、受験番号みたいだね」
リーフに言われた通り、再度確認すると、確かに立札には『1000~1500』とか書かれている。
えっ?ちょっと待って。此処に6000人以上詰まってるの?有り得なくね?広過ぎね?ギャーギャー騒がしいし、大丈夫か?
考えてみたら、剣術試験と魔術試験と筆記試験と三つで分かれてるから、入れるもんなのかな。
俺が混乱して、どんどん押し寄せる人の波に流されそうになっている時、声が響く。
「静かにしろッ!!!!!」
……。
おお。一瞬で静かになった。凄いな、どなただ?低い渋い声を持ったおじさまは。
響く低音ボイスのお蔭で、静かになったが、人の波は変わらない。お願い、おじさま。どうにかして。
そのおじさまを探しつつ、波に飲まれていると、ようやく立札を見つけた。
『6000~6488』
……中途半端やなぁ。
と思ったが、もしかして6488人受験するのか?
まぁ何にせよ、リーフが「やっと見つけたね!」と嬉しそうに小声ではしゃいでるし、俺もテンションは高い方だ。だって、見つかったもんね。俺もう酔いそうだけど。
吐き気を催す俺の背中を摩ってくれるリーフの優しさときたら。お兄さん、思わず目頭押さえちゃうよ。
長くなるかな、と不安になったが、俺らは6011と6012。比較的早い段階で順番が来るだろう。
ブツブツと色んな人が詠唱らしきものを繰り返し繰り返し呟いている。勿論、リーフも不安げに何度も何度も呟いては「大丈夫かなぁ」と俺に確認する。お前は大丈夫だろ。俺なんか詠唱覚えていないんだぜ?
いざとなったら、口パクである。安心したまえ。
何度も不安になって、最早そろそろ倒れるんじゃないかレベルに緊張したリーフを落ち着かせてると、遂に「6008番!」とまで順番が迫って来た。
ついでにその6008番はリーフの前の人である。どうやら、6009は剣術試験か筆記試験を受ける人なのだろう。そのまま6010であるリリアを飛ばして、次はリーフ。大丈夫だろうか。既に死にそうだけど。
6008番と呼ばれた女子は、「はい!」と大きく返事して、自分の名前と行う魔法名を言った。そして、詠唱して魔法を発射。
……的に当たる前に消えてしまったようだ。実際、的には焦げ跡一つない。
レアヴロードは威力・速度・命中率などを見ると言っていた。つまり、的に当たらなければ無条件で……不合格である。
意外と的も遠くて、約50mくらいあるんじゃないだろうか。リーフの緊張度は最高潮に達したらしく、上下に面白い程揺れていた。
6008番の少女は涙目のまま、静かにとぼとぼと立ち去って行く。その哀愁漂う背中と言ったら……こっちまで泣きそうだ。
ガクガクに震えるリーフに対して、無常にも「6011番!」と呼ばれてしまった。
「ひゃ、はい!!」
噛んだが、ちゃんと大きく返事した。偉いぞリーフ。俺?無理だよ?大声出すの苦手だもん。前世コミュ障舐めんな。
的のすぐ後ろには5人くらいの教師陣が縦に陳列しており、厳しい眼光でこちらを見ている。おっかねえ。よく見ると、薄く結界のような物が張ってあるようだ。魔法を外しても大丈夫なように、保険の防壁かな?
的の命中率を確認する為に、的の横には一人ずつちゃんと教員らしき人が立っている。勿論防壁の中に入っているが。
「り、リーフィ・グリフォン!!≪風巻弾≫を行います!」
大きく叫び、詠唱も大きく唱える。教師陣も目を丸くさせ、少し驚いているようだ。無理もない。
何せ、≪風巻弾≫は風属性の初級魔法の中で結構高度な分類に入る魔法だ。リーフは本や独学で覚えた天賦の才を持っている。
その≪風巻弾≫は、細長い竜巻を真っ直ぐ弾丸の様に撃ち込む魔で、真っ直ぐな為に命中率も高く、弾丸なだけあって威力や速度も高い。ただ、消費魔力もそれなりに高いので、戦闘向きかと言われると、微妙な所だ。
だが、リーフは風属性が得意だと言っていたし、粗相がない限りその集中力で威力を最大限まで高められるだろう。
俺が安心し切っている間に、リーフは魔法を放った。
ヒュン、という風切る音が鳴った瞬間、的から爆発音が響く。音速……弾丸と言われるだけある。
見事、的のほぼ真ん中を撃ち抜いている。俺は背後に居た為、どのくらいの威力かはちゃんと見切れなかったが、的から僅かに上がる黒煙を見る限り、大成功だと言えよう。
実際リーフは涙目で嬉しそうな顔をして、「有難う御座いました!!」と叫んだ。
そのまま俺を抱き締める。ちょ、待て、まだ心の準備が。あ、そうじゃない?
とりあえず、リーフさん。次は俺なんで、放してもらえませんかね。ほら、もう的交換されてるよ?スタッフ……ならぬ教員によって。
「次!6012番!」
「あっはい」
思わず普通に返事してしまった。聞こえてなかったようなので、ワンモア叫んでおく。
……心成しか、的の斜め後ろに座って踏ん反り返っているデブなオッサンが凄い嫌な顔してる。不機嫌って言葉を表したような顔してる。
失敬な奴だ。俺の何が駄目だと言うのだ。返事か?ローブか?どっちもだろうな。
気にせず、魔法を行う。
「えーと、ティルフィーネ・エンドレス!魔法は……≪ファイア・ボール≫を行います!」
クロスエンドと叫びそうになった。危ねえ。
とりあえず、口パク……ではばれそうなので、何かしらブツブツ誤魔化して呟いておく。
横に居るリーフは誤魔化せたようで、「頑張って!」と小声で言ってる。いや、俺にプレッシャーかかってるのお前のせいだから。あんな高度魔法された後とか無理だろ。良かったな、俺で。
手の平に魔力が集まり、火球が生まれる。よっしゃ。此処まではオーケイ。後は威力を抑えて……
ポッ。
小さく甲高い音と共に、火球がゆっくりと動き出す。
……やっべ、下手こいた。手の平から離れた火球はそれなりに大きいけどおっせえ。なにこれおっせえ。
リーフとか苦笑いすら忘れて、青ざめてる。「やっべえ」って顔してる。俺もやっべえって思ってる。
火の玉みたいなゆるゆる火球は的に向かってゆったりのんびりと進んで行く。
一応遠くから調節してよう。真ん中に行くように。ばれない程度に。
ゆーるゆるふーわふわ。
挙動不審に上下に揺らいでいる不安定な火球を何とか真ん中に調節出来た。波が激しいものの、それなりに大きく拳大以上はあると思う。
命中率と威力で何とか賄えないものだろうか。出ないよりはマシだし、消えないよりはマシだろ。
ゆっくりとそのまま的の真ん中に命中した火球は、動きと相反してドンッという大きな爆発音が生まれる。
的の真ん中は焦げ、若干黒煙も上がっている。リーフ程ではないが、それなりの威力ではないだろうか。
俺は少し満足気にして「有難う御座いましたー!」とだけ言っておく。
さて、帰るか。既にリリアが待っているかもしれぬ。女を待たせるのは童貞がやる事ぞ。俺やな。
リーフと共に回れ右して帰ろうとした瞬間―――
「何ださっきのガキは!」
……という何とも言い難い偉そうな怒鳴り声が響く。お?やんのか?焼野原にしたろか?得意ぞ?我、得意ぞ?
俺よりも先にリーフが声がした方向―――後ろを向いたのだが、何やら驚き固まっている。慌てて俺も向くと、其処には……先程の踏ん反り返ったオッサンが突っ立っていた。
的の斜め後ろに居るものの、ちゃんと表情は確認出来る。うーわ、何なのあの不機嫌そうな、家の前に犬のウ●コがあった時のような嫌な顔は。
まあ、流れからして俺だろうけど。「さっきのガキ」っつってるし。俺ですね、はい。
ざわざわと会場が少しずつ騒ぎ始め、試験していた他の受験者や教員までもが手を止めて戸惑っているようだ。
……俺のせいなんですかね?
「落ち着いて下さい、ツェッカ先生。彼に何か不備があったでしょうか」
怒鳴っていたオッサンの隣に座り込む、顔に大きな傷を持った壮年男性は渋い声を出して、冷静にオッサンを宥める。その様子を見る限り、日常茶飯事だろうか。
ついでに、俺らは一応足取りを止めているものの、何もこちらに話が無いのであれば帰りたい。
つか、あの低く渋い声は間違いなく「静かにしろ」と一喝した素敵なおじさまではないだろか。声に合った渋い雰囲気をお持ちでいらっしゃる。
「フン。さっきのガキはふざけ過ぎている。先程の≪ファイア・ボール≫を見たか?あんな初級魔法をよくあんなにノロノロと出せるものだ。そういう奴はたかが知れている」
「しかし、威力と命中率は全く以って問題ないと、横に居る試験官も判断しております」
「馬鹿を言え!まず、態度も気に食わん。最初の挨拶は小声で小さいわ、自身の名前を出すにも声が小さい。あんな小心者なんぞ、この学園に相応しくない」
コミュ障は駄目ですか。そうですか。
思わず不機嫌になって来るが、元祖短気少年・ティルフィーネは此処でキレてはいけない。落ち着け、無になれ。こういう時こそ、我が心の友リーフを見て……あらやだ、俺よりもキレそうになってる。真っ黒な顔してる。誰これ怖い。
「名前はハッキリと聞こえましたし、問題は……」
「しかも、ローブを被ったままの試験、だぞ?馬鹿にしているのか!?この学園を!!」
……ぐぅ正論。
そして、オッサンは俺が視界に入っていないのか、言葉を続ける。
「どうせあんな奴、そこいらの平民だろうが。平民風情が貴族も出入りする学園でローブを被ったままで飄々と現れて良いものか」
……。
「ああいう奴の親はろくな者ではない。奴隷上がりか何かだろう?下賤な輩だ」
…………。
「ローブで顔を隠す様な奴だ、お尋ね者に違いあるまい。そんな不届き者、二度と学園に足を踏み入れんようにせねばならん」
………………。
「案外魔族か何かだったりするもんだ。亜人なんか、合否判定するまでもな―――」
「はいはいはいはいは――――――――――――――い!!!!」
「「!?!?!?!?」」
ぶっちゃけ、親の事を馬鹿にされた時点で俺切れそうになってたけどね☆此処までよく我慢した俺。偉い。エクセレント。
目を丸くさせて吃驚するリーフを他所に、俺はずんずんと進み、再度列の真ん前に立ち止まる。
オッサンも俺が帰ったとばかり思っていたのか、目を丸くさせて驚いている。おいおい、汗で光っているのか、それとも禿げ頭だから光っているのか分からんが、オッサン……輝いて見えるぜ。
そんなボケは置いといて、ローブを目深に被ってもきっと分かるだろう、俺が笑っていることくらい。
「な、何だ貴様は!!さっさと帰れ!!貴様のような得体の知れない存在は……―――」
「いやぁさっき亜人だの魔族だの言われたので、一応訂正しておこうかと!!」
「はぁ!?」
オッサン驚いているねー。気のせいなのか知らないが、若干小刻みに震えているねー。殺気でも溢れたかしら?
ま、気にしない気にしない。皆一斉に俺を向いて、ざわついているが気にしない気にしない。
俺を助けようとしてくれたおじさま有難う。でも俺は、自分の問題くらい自分で片づけてやるよ。
俺は、高らかに叫びながら、フードを脱いだ。
「残念ながら亜人ではありません!!!見ての通り、人族のミルディン人です!!どうぞ、宜しくお願いしまぁぁぁッす!!!!」
……。
一瞬にして静寂に包まれた試験会場を後にする。口を開けたまま唖然とするリーフを連れて。
ああ、ちゃんとフードを目深に被り直さなきゃ。大変だ大変だ。
とりあえず、一言。
やっちゃった――――――――――――――――――☆テヘッ☆
読んで頂き有難う御座いました。
次回『私、運命の出会いを果たす』
視点が変わります。