第14話:俺、入国しました。
あらすじ:車酔いのリリアと愉快な仲間達
俺らの居たギルイシル大陸は、とても自然豊かだ。それ故に緑が多く、草花や森林も多い。
だが、エルロンド国は大陸が変わり、リンダレ大陸となるらしい。境に海が無いのに大陸なんだ、と思ったが、ユーラシアだのアジアだのと前世居た頃の大陸も似たようなものだった気がする。すまない、俺は地理だけは駄目なんだ。
今、俺らは国の境目―――いや、大陸の境目と表現してもいいだろう。
視界いっぱいに広がる草原と、馬車二台分の幅がある道。
後ろには森林等の木々が多かったが、俺らが今向かおうとしている所はもう薄らと建物が見えていた。
ちなみに、あの建物が沢山ある都市に入った瞬間、リンダレ大陸並びにエルロンド国であるらしい。
背後にある自然豊かなギルイシル大陸に別れを告げ、そのままガタンゴトンと揺れる馬車で真っ直ぐと向かう。
長かった。一週間かかった。いやまぁ仕方のない事だが。むしろ、馬車の割に早かったと思う。
未だ長い道が続いている為、目の前にある街並みは薄らとしか見えないが、何だかギルイシル大陸にある国々とは違い、緑が少ない代わりに発展しているようだ。
田舎と都会、みたいな感じだろうか。
楽しみだ。もしかすると、此処に来るまでに寄って来た町にはない物が売っていたりするかもしれない。
俺はわくわくしながら、窓から顔を出していた。
「……うぇ……」
―――酔っているリリアの背中を摩りながら。
こうして、俺らはやっとリンダレ大陸に入ったのだった。
***
「後少しですよ」
またもや酔っているリリアの為に、一旦馬車から降りて飲食店へ入る。折角大陸に入ったというのに、感動が薄い。
先程も寄って休憩したばかりなのだがなぁ……仕方あるまい。
そうこうしている間に、レアヴロードが俺に冷水を持って来た。有難い。
レアヴロードも鎧を脱げば、結構普通……いや、ずば抜けたイケメンなんだが、如何せん中身がな……。
そんなイケメン(笑)の格好は革製のプロテクターなどを着けた簡易な防備であり、その辺に居る冒険者よりもちょっとお金を持った冒険者って所だろうか。しかし、剣が白銀で華美過ぎて目立つな……。
「このまま真っ直ぐ行けば、すぐに王都に入るでしょう。後少しの辛抱です」
「その台詞は俺じゃなくてリリアに言ってくれ」
何で酔ってないでピンピンと元気な俺に言うのか。
確かに最初に乗った頃は酔いそうにもなったが、今や慣れて窓から景色を堪能するくらいに余裕だと言うのに。
ちなみに、リリアは最早冷水を飲む気力すら湧いていないようだ。可哀想に。
「レアヴロードさんは王都に着いたらどうするんですか?もう国に戻るとか?」
「いえ、折角来たので、古馴染みにでも会おうかと思います」
「へぇー」
「同じく聖女様を崇拝する者です」
その情報は要らん。
「お友達ですかー?」
「……いや、同じ王都の学校卒業生で、ただの知り合いでしかない」
リーフの問いに素っ気無い割にちゃんと答える辺り、レアヴロードは律儀な人なのね。
……ん?卒業生?
「えっ!?れ、レアヴロードさんって卒業生!?今から行く学校の!?」
「はい。それで騎士団に入団したのですから」
「知らねえよ!!」
マジか!!こんな所に卒業生居たわ!!思わず冷水を向かい側に居るリーフに吹くところだったわ!!
飛び起きるような勢いで立ってしまったせいか、人々の視線が痛い。しかもローブ被ってるから倍の痛さ。
リリアは青白い顔で「うるさいぃ~……」とだけ呟いた。マジですまん。
「へ、へぇ……」
「其処で聖女様を信愛する者に出会いました。今日は押しかけようと思います」
押しかけるんかい。
「大丈夫なんすか?騎士団なのに、自国の王城放っておいて」
「団長には言いました。ですが、あの方は適当な方なので、きっと部下達が慌しくしているでしょう。私一人抜けると結構大変ですからね」
何故来たし。
「……大丈夫なんですよね?」
「許可は頂きましたので。ちゃんと許可書を取らせました」
抜かりなかった。これで責められる事はないね。
俺は冷水を飲み終えると、コップを古びた机に置いた。
「そろそろ行きますか?」
「そうさなぁ……」
チラリとリリアを見る。まだ駄目そうだ。
青白い顔で、机に突っ伏している。隣に居るリーフが背中を摩ったりして、何とか体調を戻そうと必死だ。
「うーん……まだ無理か」
「では、もう少し休みますか」
「そうだな」
俺は大きく欠伸をするが、何か忘れている気がする。こういうのって凄いモヤモヤするんだよなぁ。
ええと、テンプレ通りだったら、このまま学校へ行けるか、もしくは荒くれ者が出て来たり~ってところか。
うーん。
商人さんもまだ戻って無さそうだし、もう少し休憩してても……
「そういえば、王都へ行ったらどうするんですか?」
「へ?どうするって……入学手続きを……」
「え?入学試験は来月ですよね?」
……
………ん?
「「らっ来月!?!?」」
思わずリーフと声が合わさった。
え、ちょ、待てよ!聞いてねえよ!!
あ、そうか!!モヤモヤってこれか!!小説とか漫画を見る限り、学校行ってあっさり試験受けてるから普通に頭から抜けてた!!
来月って事は……後一ヶ月はあるという事で……
「マジかよぉ~……」
俺はリリアと同じくして机に突っ伏した。
リーフは未だ状況が飲み込めないようで、頭で何とか整理しようと試みているようだが、目を丸くさせて硬直している様子を見ると、駄目だありゃ。
「御安心下さい、ティルフィーネ様」
「へ?」
「後一ヶ月もあるのです。丁度良い機会ですし、試験勉強をなさったらどうでしょう」
「……試験内容知ってんの?」
「勿論。抜かりは御座いません」
グッジョブ!!
すぐに飛び起きた。こうしちゃいられねえ。この聖女愛好家野郎の話を聞いてやろうじゃねえか!!
とりあえず、思考停止状態のリーフの頭を引っ叩いて目を覚まさせる。お前はリリアの分も聞け。
「まず入学条件ですが……年齢が10歳以上の者。これはクリアしているので飛ばします。試験に関しては三つから選べます」
「三つ?」
「一つ目は筆記試験。数学・歴史学・魔法学についての問題が出題されます。応用を利かせたものから、基礎問題まで幅広いので、しっかりとした予習復習が大事でしょう」
何かレアヴロードが先生に見えた。前世に居た美形の実習生を思い出す。女子の人気と男子の不人気が圧倒的な野郎だった。
そんな前世の逆恨みは兎も角として、筆記試験か……うーん。数学は得意だし、歴史も地理に比べりゃ得意だが……魔法学って何ぞ?
数学はそのまんまだが、歴史はあれだな。戦争だの大陸が分かれた訳だの、前世でもあったような内容だな。少し魔法とか出て来てメルヘンチックになっただけだった、確か。
そして魔法学……何ぞそれ。後で聞こう。
「二つ目は、魔術試験です。その名の通り、魔術の試験ですね。主に魔術師希望の方が受ける試験です。威力・速度・命中率などを統計して点数を出します」
「全部高い方がいいんですよね、それって」
「勿論です。ただし、威力が弱くとも、速度や命中率で、点数が補えます」
リーフは魔術師希望だから、魔術試験を受けるのだろうか。俺も一応魔術師希望だが……悩むなぁ。俺って手加減が苦手っぽいんだよなぁ。
「三つ目は、剣術試験です。剣術・体術の試験で、騎士希望の方が受ける試験です。騎士希望でなくとも、剣術や体術を主に使うのであれば、こちらをお勧めします」
「それってどういう試験なんですか?」
「教員と闘います」
なにそれこわい。アグレッシブでストレートな試験。
「一対一で、教員と闘いますが、ちゃんと手加減はしてもらえるそうです」
「そ、そうすか……」
「ですが、魔術は禁止。また、制限時間内に倒されなければ合格。倒されたら不合格となります」
「えっマジで教師と闘うんですか?」
「ちゃんと手加減はしてもらえますし、怪我した場合はすぐに養護教諭によって治癒魔法がかかります」
ほっと一安心。恐らくリリアはこっちの試験をするのだろう。見よ、死にかけなのに目が輝いてやがる。
「僕は魔術試験だし、リリアは……剣術試験だね」
「……みたいだな。見ろよ、死にかけなのに親指立てて『正解』って暗示してやがる」
実際青白い顔で親指を立てて、コクコク頷いていた。
何か親指立てて溶鉱炉へ沈んで行く某アクション映画思い出した。
「ティナは?」
「う~ん……俺、魔術得意だし魔術師志望だし……俺も魔術試験かな」
「やった!一緒だ」
嬉しそうに満面の笑みを浮かべているリーフと、死にかけで恨めしそうにこちらを見るリリア。何というシュールな光景だろうか。それを真顔で見つめるレアヴロードも凄い。
様子を見る限り、先程よりは大分落ち着いたようだ。突っ伏していたリリアがようやく起き上がる。
「ふぅ~……落ち着いたわ」
「大丈夫か?」
「ええ、さっきよりは」
まだ少し顔色悪そうだし、もうちょっと世間話していてもいいだろう。
「何か他に情報ないですか?」
「他に……ですか」
「うーん、ほら、成績の付け方とか~後は……」
「クラス分けやランク付け辺りでしょうか?」
「その辺かな」
ふむ、とレアヴロードは顎に手を触れさせながら、神妙な顔立ちで考える。
……別に其処まで考えんでもいいんだけどな。あくまで純粋な好奇心だから。
結論を導き出したようで、やっと口を開く。
「教員でない為、深い所は分かりかねますが……」
「別に大体でいいすよ」
「そうですか。でしたら、ランク付けからでしょうか」
そう言うと、レアヴロードは軽く咳払いして説明し始めた。
「まず、ランクは優秀者順に、S・A・B・C・Dと分かれております。これは、入試の結果から上位者順に割り当てられますが……」
「が?」
「実の所、最近は貴族や王族の権力でAクラスに行くような輩が増えているのです」
貴族や王族に対して輩って言い切っちゃうレアヴロードさんマジパネェっすわぁ。
「学園は、権力に屈さず平等に接すると語っておりますが……最近は権力に圧されているような噂も聞きます。あくまで噂、ですが」
成る程。何処の世界にも権力を振りかざしちゃうようなお馬鹿さんが居るわけだ。
しかも、王族まで居るのか……そりゃ先生達も厳しく出来ないよなぁ。もしも、王族が親馬鹿だったら、解雇どころか処刑ー!ってなるかもしれんからな。怖いな、そりゃ。
「昨年も確か首席入学者が貴族だった事もあり、何かと不穏な空気を感じます」
「それも権力ですかね?」
「分かりかねます」
もしも実力で首席取ったのだとしたら、さぞかし嫌な目に遭っているのだろう。「貴族だから」とかで片づけられちゃう場合もありそうだしな。
「何にせよ、最初のクラス分けは成績の上位者順に、Sクラス・Aクラス・Bクラス・Cクラス・Dクラスに分けられます。また、一年の間に成績が上がれば、来年はクラスも上がる事もあり、下がればクラスも下がる事があります」
分かり易い事だ。一年間の合計成績で、来年のクラス分けの参考にするわけか。
つまり、最初にBクラスで入学、しかし下がればCクラス行きもあり……か。やだ怖い。
此処までぶっ通しで説明したせいか、喉が渇いたようでレアヴロードは冷水を持って来て一気に飲み干した。
「成績の付け方に関しては、授業態度・中間試験結果・魔術/剣術能力などから付けられるか、または他の行事等で結果を残せば成績に入ります」
「行事?」
「私の時代ですと、『模擬任務』などがありましたが」
何じゃそりゃ、と思っていると、丁寧に教え始めてくれた。有難いな、このイケメン。
「町の人々からの依頼を受け、それを熟すだけです。ただ、学生なので任務と言っても簡単なものばかりですが、好成績を残したりすると、かなり成績としては高得点でした」
「冒険者みたいですね!」
「……そうだな。その真似事だと思ってくれればいい」
リーフの目がキラキラ輝いている。意外とアグレッシブだよな、リーフって。
すると、リリアが何を疑問に思ったのか、軽く挙手して尋ねた。
「その、騎士や魔術師希望の生徒ってクラス分かれるんですか?」
「……いや、一緒になる」
「えっ?でも授業内容とか違うんでしょ?」
「ああ。だが、一昔前は魔術師と騎士は御互い相容れぬ存在だったからな。戦争において、協力するという概念が乏しかったのだ。騎士と魔術師が組めば、それこそ大きな戦力となる。そう思い、国は学園もクラスなど、環境を同じにすれば協力し合い易いだろうと考えた」
ほう、国も案外賢い事を考えるわけだ。理由が『戦争の為』とかってところが気に食わんが。
確かに学び舎が同じならば、必然的に交流が生まれるし、敵対心も薄いだろうな。
「賢い事考えるなぁ」
「しかし、現在では先程申し上げたように、貴族や王族の素行が目立っております」
おおう?
「騎士と魔術師との蟠りは薄れましたが、平民と貴族・王族の壁が徐々に大きくなってきている節があります」
「と、言うと?」
「まず、教師が駄目ですね。貴族・王族に対しての態度と平民に対しての態度が明らかに異なっていると聞きました。また、最近では嘆かわしい事に貴族や王族の態度や素行に問題があると言われているのです」
「うっげぇ。そうすると、あれですか?『俺様は○○家の跡取りであるぞー頭が高ーい』みたいな事言ってるんですか?」
「……私の時代にもそういう貴族の坊ちゃんが居ましたね」
あら嫌だ。マジで居るの。
そういうのってね、権力振りかざして主人公にボロボロにされちゃうもんなのよ。気を付けなさい。
リーフやリリアに手を出せば、謎の裏ボス仮面が成敗に来るかもしれないのよ。
そう思いつつ、既に空になったコップで遊んでいると、レアヴロードがポットらしき入れ物を持って来て注いでくれた。あ、ありがとう。
「さて、そろそろ行きますか」
「そうっすねー。まずは宿舎探しだな……」
「私もお手伝いしましょう。子供達だけだと、貸してくれるところも少ないですから」
俺は冷水を飲み終えて立ち上がると、リーフは既に店の外に出ていた。彼奴の行動力素早いな。
リリアは少し顔色が良くなっており、足取りも先程よりも軽くなっていた。これなら大丈夫だろう。
商人のおじさんの帰りを待ちつつ、王都についたらどうするかを決める。
「まず、宿舎を探す。次に、学校に行って入学手続きを済ませる。その次は……」
「図書館に行かれては?」
「図書館?」
「試験勉強も大事ですから。一応筆記試験内容を学んでおいて損はありますまい」
その意見に、リーフやリリアも納得の表情で頷いた。無論、俺も同意見だ。
商人のおじさんが帰って来た所で、俺らは再度馬車に乗り込み、一気に王都へ行く。
……リリアが一瞬で車酔いしてたけど、もう気にしない。
読んで頂き有難う御座いました。
次回『俺、試験勉強します』




