第13話:俺、国外へ出ます
第一章あらすじ
母に置いてかれて、裏ボスになる事を決意したティルフィーネは、迷っていた森でエゼル村の住民・リーフィに出会う。
そして何やかんやで一緒に住む事になった中、ティルフィーネは裏ボスになるべく大魔帝王に会う。
だが、其処で知らされたのは、醜き人族の素顔だった。
彼は決意した。人族と魔族、和解せずともお互い平和に暮らす為の架け橋にならん、と。
そんな中、ティルフィーネは素顔を隠しているせいで住人の一人に「やましい事でもあるのか」と疑われ、しかも騎士団が視察してる時に存在をばらされる。
皆を助けるべくティルフィーネは己の種族を明かし、王国に売られる前に、学校へ行って逃亡しちゃえと企む。
そして、リーフィ、リリアと共にティルフィーネは学校へ入学するべく、試験を受けに行く事となったのだった。
◆遅くなってしまい申し訳御座いません。待って頂いた方々に感謝致します。
ガラガラと凸凹とした不安定な道を進む車の音と共に、浮かび上がっては沈む我が尻。痛い。どすんどすんと悪道へ踏み込む度に尻に振動が伝わって痛い。
此処まで来れば分かるだろうが、今俺は馬車に乗っている。いや、正確に言うと、俺らだな。
学校へ行く事は決まった。
それはいいのだが、学校は国外であり、隣国へ行かなければならない。
だが、この異世界に車だの飛行機だのという便利な交通手段はない。あるとすれば、馬車くらいのものだそうだ。だから、In馬車。
俺らの乗っている馬車は、比較的値が高い馬車らしい。タクシー並の値段だろうかと思いきや、商人の馬車に積荷と一緒に乗っているので、高いと言っても其処まで高値ってわけでもないらしい。
比較的値が高いというのは、恐らく馬車を引っ張っている馬が二頭だという事と、意外と馬車の中が広いという事だ。
真新しい木の匂いから新しいのは分かるし、それに加えて結構広い。
子供三人入っても隙間が出来るどころか、子供三人と大人が一人乗っていても隙間があるのだ。
大体どれくらいの大きさだろうか。俺が背が低いという点もあるが、意外と天井が高い。まぁ立ったら普通に頭ぶつけるだろうけど。
子供三人が横に並んでも狭くないし、側面に背を向けて脚を伸ばせる。子供にとっちゃ余裕があるんでないかい?
……まぁ大人が居るわけですが。ええ、居ますよ。護衛らしき人が。
そんな護衛を買って出やがったクールイケメン(笑)をチラリと横目で見る。さっきから横にくっついて離れん。
「……」
「おや、どうなさいましたか。ティルフィーネ様」
「何で居るんですかね」
「聖女の御使い様を護衛するのは、我が本望に御座います」
「んな事ぁ聞いてねぇ」
キリッと格好良く真剣な表情をしている割に話を聞かないレアヴロードに溜息を吐いた。
何だ此奴。マジで何だ此奴。
話聞かないだけじゃねえ。何で居やがる。イケメンと一緒に馬車とか苦痛以外の他でもない。
聖女信仰者だーラッキーって思っていた過去の俺を全力で殴りたい。それこそ本気で魔力放出して消し炭にしたい。
俺は揺れる馬車の中、壁に寄り掛かって、俺よりも脚どころか座高も高い為に見下ろしやがるイケメンを睨むものの、イケメンには全く通用しなかった。
ついでに、此奴が護衛になった理由はちゃんとある。何で居やがるとか言ったけど、ちゃんと理由がある。
それは、学校へ行く事が決まったあの夜の事だった。
~
三人で仲良く学校に行く事が決まり、号泣して涙と鼻水を出すリーフを慰めつつ、その酷い顔を洗わせていた事だった。
大人達が何やら真剣な顔つきで話し合って居た為、何を話しているのかと尋ねると、
『いや、実はな、10歳と言えども子供は子供だ。ちゃんと護衛を付けたいんだが……』
『……生憎、私もローレルさんも仕事がある。村に長時間離れるわけにはいかん』
『それで、冒険者の方々に頼もうかって。依頼しようかって話になってたんだけど……』
何やら微妙な顔つきで、大人三人組は顔を見合わせた。とてつもなく微妙だ。どのくらい微妙かと言うと、実際にプリンに醤油をかけた時くらいに微妙だ。(※個人差があります)
何故そんな顔をするのか、という疑問が顔に浮かんでしまったようで、カメリアが再度口を開く。
『依頼するにしても、受注して貰えなくちゃ駄目じゃない?いつ誰が受けてくれるか分からないのよ。もし依頼を出したとしても、受注されるのが一ヶ月後とか普通にあるの』
『あー……』
俺は妙に納得してしまった。そりゃそうだ。冒険者も村の子供の護衛とかあまり受けそうにないしな。
恐らく、次に騎士団が来るのは約一ヶ月後。もし、お姫さんが俺が欲しいとか言い出せば、もっと早く来るかもしれない。それまでに逃げねばならぬのだ。
うーむ……俺が本気出せば護衛は全く以って要らんのだが、生憎俺は目立ちたくない。
これには、裏ボスだから、という理由の他にもう一つある。
俺が“魔女”の息子、だということだ。
そうなると、かつて魔女を利用しようとした国々が次は俺を戦闘機――いわば、兵器にしようとするのではないかと不安になったのだ。
勿論……情けないが、リーフ達に恐怖の対象として見られるのが怖いというのもあるが……。
しかし困ったぞ。俺は本気出したくない。だが、護衛が見つかるとは限らない。
うーむ。
俺も大人達に混じって頭を抱え込んでいたら、突然扉が開く。
―――涼やかな夜風と共に、涼やかな目を持った“奴”が現れた。
『……』
『……』
『あらぁいらっしゃい』
『……』
ひどくマイペースな声を上げたのはカメリアだった。
そのお蔭か、沈黙な空気は流れず、突如現れた奴は真顔で遠慮なしにこちらに近寄って、跪いた。
『お話は聞きました』
『聞き耳立てたんですか?ねぇ立てたんですか?つか、何で居るんですか?ねぇ?』
『この私めにお任せ頂けないでしょうか』
『聞けよ』
『私、レアヴロード……僭越ながら騎士団の副団長を担っていまして、腕には自信があります。何卒お願い申し上げます』
普通こっちが依頼してお願いする立場のはずなのに、何故かあちらが頭を下げてお願いするという何とも言えない光景が広がっている。
俺の答えは一つだ。
『お断りし』
『あらぁ~!いいんですか!?助かります!騎士団の方ならば……いいえ、副団長様ならばこちらも信用も出来ますわ』
『いや、カメリア、しかしだな』
『副団長様は一番信頼度が高いし、国民からも愛されておいでですもの!きっと大丈夫!』
『……だが』
『村長さんも貴方も!此処は御厚意に甘えちゃいましょう!ね?』
『……あの、カメリアさん、俺は嫌でs』
『テ ィ ル フ ィ ー ネ 君 も 甘 え ち ゃ い ま し ょ う ?』
『ハイ!!喜ンデ!!』
目が笑っていないカメリアに、男三人は虚しくも負けたのであった。
無念。この世でも、男は女に負ける立場にあるというのか。
~
こうして、レアヴロードが護衛にする羽目になったが、如何せん意外と活用出来た。
まず、騎士である為か、本当に腕っ節は強いらしい。それだけでなく、騎士団という立場からこの馬車も確保出来たのだ。
商人の護衛をする代わりに、俺らも乗せる―――この考え自体もレアヴロードが考えた事であった。
勿論商人は二つ返事で了承。騎士団に守ってもらう以上に心強い事はないと言う。
……でも、俺へと注がれる熱い視線は如何なものかと思う。それがなけりゃーアンタ良いんだけどね。
「で、でも、いいんじゃないの?ね、ティナ。ね?」
「……」
「て、ティナぁ~!」
情けない声を出しながら、さっきから懸命に俺を励まそうとしてくれる心優しき友人・リーフは苦笑い、いや困り顔をしつつ話しかける。
だが、俺には効かない。無駄だ。今の貴様の爽やか癒しオーラなんぞ効かぬ。どうしてもというのであれば、この聖女愛好家のイケメンを引き摺り下ろせ。
だが、この愛好家野郎はどうも俺から視線を外すつもりはないらしい。
「……あの」
「何でしょう」
「見ないでくれません?」
「ところで、何故ローブを着ていらっしゃるのか」
「話聞けよ」
出会った当初から考えてはいたが、此奴人の話を聞かない。
俺は貴様の愛する聖女の御使いだぞゴルァ。聖女俺のオトンだぞゴルァ。
俺は再度ローブを目深に被りながら、無視をする。
あ~さっきから馬車が揺れて尻が痛い。もっと言うなら、吐きそう。酔って来た。
「うぇ……」
俺よりも酔ってる人が、向かい側の壁に寄り掛かっている。馬車の小さな窓らしきものから景色を見ながら、口元を押さえていた。
健康的で白い太腿は、目を奪う色気がある。子供とは思えん。けしからん。
だが、そんな魅力的な脚をお持ちのリリアの白い顔は、最早青白い顔であった。
「リリアー平気かー?」
「む、りぃ……うぇぇ……」
「……酔ったのか」
いきなり声のトーンを低くさせるレアヴロードに目を丸くさせてしまった。
何か冷たいというか、冷淡な声だ。俺に媚びるような、崇拝するような声は何処へ行った。
だが、そんな冷たさとは裏腹に、レアヴロードは馬を操る商人に何か話しかけて行った。
どうやら、道中一旦町に寄って休憩するらしい。グッジョブ、紳士。
「おい、リリア。一旦町に寄るってよ。大丈夫か?」
「……う……ん……分かっ……おぇ……」
「リリア!?ど、どどどどうしよう、ティナ!!」
「いやお前も落ち着け。死にはしねーよ、車酔いに」
正しくは馬車酔いか?そんな単語あったっけ?
そんな下らない事を考えつつ、青白く、今にも死にそうな顔をしているリリアの背中を摩っていた。
***
「此処ってもう国外ですか?」
「……まだ国からは出ていない。もう少し進めば、エルロンド国に入る」
レアヴロードは素っ気無くリーフの問いに答えた。俺の話は聞かんのにな。
そんな俺らは今現在、道中に寄った町で昼飯を食らっている。レアヴロードの奢りで。やりぃ!
商人は折角だから、と他の店の品定めに行った。忙しいな。
そんな俺はビーフシチューのような肉の入ったシチューを、小さな店で堪能していた。
木製で少し古びており、其処を含めて趣のあるレストランのような場所で、テーブルと椅子に腰かける。あまり人は入れないくらいの大きさで恐らく二十人くらいしか入る事が出来そうにないが、客足が止まらない所を見ると、それなりに稼いでいるようだ。
其処で作られたシチューはとろりととろけるコクが素晴らしいまろやかさを引き出していて、凄い美味。何の肉か知らんけど、結構普通に市場に出ている肉らしい。
俺の向かいに座るリーフはパスタでリリアは酔っている為か、あまり食欲が湧いていないようだ。水だけで済ませている。
レアヴロードは腹減ってないのか、何も食べていない。ただ珈琲を飲んでいるだけだった。
「エルロンド国の何処にあるんですか?その学校って」
「王都ですね。王都の『パトリア』です。中心部に王城があり、円形に街並みが広がっています」
「へぇ」
そりゃ上空から見てみたいもんだ。
あれだろ?某巨人漫画みたいに、中心から壁が円形に広がっていく感じだろ?壁じゃないけど。
あと、どうでもいいがパトリアって何か美味しそう。パエリアみたいで。
「楽しみだね!」
リーフがにんまりと笑いながら俺に話しかける。つい俺も笑ってしまった。
何だが和む。だが俺の隣に座る聖女愛好家野郎が、俺の和みを邪魔しやがる。その熱視線やめんかい。
「……何故ローブを外さないのですか?」
「あ?いや、だって俺目立ちたくないんですもん」
「左様ですか……別にドゥアリン王国ではないので、外しても問題ないかと」
「ドゥアリンだと不味いの?」
「はい。あちらは未だにミルディン人を差別していらっしゃいますから。もう……ほとんど数が居ないと言うのに、奴隷制度をやめておりません」
数が居ないと言ったが、恐らくもうゼロに近い事が分かっていて言葉を変えたのだろう。……俺に気を遣って。このイケメン野郎。好感度が微妙に上がってるよ。イケメンのくせに。
だが、俺はローブを外すつもりはない。騒がれるのは非常に面倒臭い。
「折角綺麗なのにね……」
「……綺麗だからこそ、貴族に狙われたんだ」
リーフの純粋な言葉に、レアヴロードは眉間に皺を寄せながら、あまりに酷な言葉を告げた。確かに事実だから仕方ないが、リーフが余計にしょんぼりしてしまったではないか。謝れ。
すると、酔って死にそうになっていたリリアが一息吐いて話に割り込んできた。どうやら体調が落ち着いたらしい。
「……ま、今更何か言ったって仕方ないし、どうせドゥアリン王国には行く事ないからいいじゃない」
「えっ行く事ないの?」
「……ティナは自殺しに行くつもりかしら?」
「えっ」
リリアの予想外の言葉に俺は戸惑った。思わずシチューを掬ったスプーンを地面に落としそうになる。
すると、レアヴロードも珍しく驚いているようだが、どうやら俺に驚いているようだ。
「あそこは、あまりにも酷で危険だと思われますが」
「そんなに!?」
「まぁ確かに冒険者達は多く居るでしょうね。『冒険者ギルド』の本部もありますし、冒険者を夢見る人にとっては夢のような場所でしょう」
あっテンプレギルドや。行きたい。
「しかし、先程も言ったように、あそこの差別は本当に酷い。『亜人』であるだけで、店に入れない、町に入れないって事が多く、騙されて奴隷に堕ちる事も少なくありません」
「アジン?」
「……簡単に言うと、人族じゃない種族よ。魔族とか獣族とか」
「……ミルディンは?」
「一応人族だけど……奴隷制度はなくなってないし……一番危険だと思うけど」
親切に教えてくれたリリアは、とても複雑な表情を浮かべる。うん、俺も同じ表情浮かべてると思うよ。
思った以上に肩身の狭いミルディン人だった。人族なのに!!
絶対店とか町に入った瞬間、奴隷商に売られそうだよね。ミルディン。くっそ怖い。俺の種族はデッドオアアライブ過ぎてヤバい。
食べ終えたシチューの皿にスプーンを置くと、いつの間にか食べ終えたリーフが「早く行こう」と急かす。
何だ何だと思ったが、どうやらリーフは此処に居ると俺が危ないんじゃないかと心配しているようだ。阿呆抜かせ。此処はドゥアリンじゃないわい。
「リリアはもう大丈夫か?」
「ええ、大丈夫よ。心配かけてごめんなさい」
唸りながら伸びをするリリアの脚に目が行く。今日もリリアのアイデンティティのショートパンツだ。子供とは思えない美脚。
商人のおじさんは一服しており、俺らの姿を見た瞬間に優しげに手を振った。おっさん、優しい。はち切れんばかりのお腹からぽんっと良い音を出しながら、商人は馬車を動かす。
俺らはそれに乗って、再度長い長い道を進むのであった。
そして、道中またしてもリリアが車酔いした事は、言うまでもない。
読んで頂き有難う御座いました。
次回『俺、入国しました』