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第12話:俺、出て行かねばならぬようです

あらすじ:外に出ました。

「やめてぇぇッ!!!」



泣き叫ぶ声。涙で顔をぐしゃぐしゃに崩した少女。可愛らしいいつもの笑みは其処にはない。其処にあるのは、父が殺されそうになって泣く事しか出来ない少女の泣き顔だ。


扉を開けるのも、その場へ駆けて行くのにも、何の躊躇がなかった。


ただ、誰かが泣くのは嫌だった。誰かが傷つくのは嫌だった。



何故なのかは分からない。ただ、嫌だった。それだけだ。




扉を開け、飛び込んできた光景は……――


母親に抑えつけながらも涙で顔を濡らしたリリアと、腰に差した剣を手に取ろうとしていたヴィスタ、青ざめた表情を浮かべていたカメリアとリーフ、死を覚悟した軍人のように真っ直ぐな顔つきをしていた村長、そして怒りで顔を真っ赤にさせていたローレル。

驚きと困惑、そして誰かに助けを乞うような表情を各々で浮かべる村民達。

中には、酷く不気味で険悪な笑顔を持ったゲールも居た。

その中心――いや、人々の視線の先には、目を合わせて固まり続ける騎士と村長と、嫌でも視界に入り込む村の入り口と俺が燃やした深い森。

車二台分の道路のような幅の狭い道には、酷くカオスな状況が繰り広げられている。


そんなカオスな状況の目の前にある一軒家――グリフォン家から、俺は静かに周囲を一瞥し、静かに騎士団の方へ歩む。


村長の首筋目がけて、振り下ろされようとしていた剣は力なくゆっくりと下ろす。それは、力が抜けているようだった。



そして、誰かが言う。





魔女の一族(ミルディン)」と……。






***




「……村長、さん……何してるんですか。馬鹿なんですか。大人ぶって責任全て被ろうとするのやめて下さいよ。格好良いとでも思ってるんですか」


俺は軽く息を切らしながら、一気にまくし立てた。自分でも驚くほどに言葉がスラスラと流れる水のように口から出る。

村長の目の前にまで歩み、前世で学んだ某提示版の辛口を見て来た俺は、人の心を抉る様な言葉が今なら言える気がした。

いつも見に付けている無表情の仮面は外れかけ、村長は俺を見て目を見開く。それは、俺の言葉からの驚きではないようだ。

その表情は周囲も同じようだ。皆々が驚き固まり、何も喋れないでただ立っている。騎士団も同じように。


「……ティナ君、君は……」

「これが、ずっとローブを着て顔を隠していた理由です」


俺のまくし立てた問いには答えず、村長は震える声で俺に話しかける。

先程、そんな村長を殺そうとしていた騎士団は動く事もなく、じっと俺を見つめ続けていた。


「ティナ……」

「リーフ、そんな顔すんなよ。ローレルさんも村長さんもピンチだっつーのに、動かないでいられるか」

「だからって、お前なぁ……!」

「怒らんで下さいよ、ローレルさん。どうです?俺、お尋ね者じゃないですよ?ゲールさん」

「……」


口角を上げて歯を見せて目を細めた笑みは何処へ行ったのやら。ゲールは真顔で俺を見たまま硬直している。

はぁ。こうなるわけね。皆似たような反応しか起こさない。つまらんなぁ。

徐々に俺や村長、騎士団を中心にして人が集まる。まるでドーナツのように、輪を作り上げた。

すると、騎士の隊長的風格を持つ男が剣を落としそうになったところ、我に返ったようだ。ああ、良かった。剣落さなくて。


「……ッみ、ミルディン……族、でしたか……!」

「え?あ、はい……」

「あ、ああ……!」


いきなり話しかけられたと思ったら、まさかの敬語。しかも、その騎士はわざわざ馬から降り、俺に近づいて来る。ほぼ距離はないのだが、静かに一歩一歩確実に歩んで来た。

あと一歩という所で、ローレルが目の前に立つ。


「……何だ、貴様は。退け」

「断る。この子に何するつもりだ?」

「……何をする、だと?決まっている……」


すると男は、そっとその白銀に輝く兜を脱ぎ、その素顔を露にする。

何ということだ。『異世界にはイケメンしか居ない』という定義が成り立ってしまうほどのイケメンさだった。

ベージュに近い色の短髪。目つきは、「鋭い」という言葉ではなく、正に「しなやか」と言い表すのが相応しいだろう。だが、その冷たく涼やかな雰囲気は決して穏やかな人物像には見えなかった。そしてイケメンだった。そろそろ殺すぞイケメン。


「おい、いい加減に……」

「貴様、“聖女”様の御使いの目の前に立つな」

「……へ?」


俺がつい間抜けな声を出したにも関わらず、その男は無表情でローレルを押し退け、俺の目の前に立つ。



「……」

「あ、あのぅ……“聖女”って……」



そして、男は深々と頭を下げると同時に跪く。




「このような場所で、“聖女の一族(ミルディン)”に会えること、心より感謝申し上げます」





―――彼は“聖女信仰者”だったようだ。


流石の俺も、周囲も、そして率いられた騎士団も唖然としていた。





***




「貴方様の御名前をお尋ねしても宜しいでしょうか?」

「拒否権は御座いますか」

「御座いません」

「ですよね!!」


最近俺の拒否権が存在しない。おい待てや。俺は仮にも貴様の信仰する聖女の御使いだろうが。

跪きながら、俺に向けられた目線。忠誠、いやむしろ神を見るような目だった。

この絵面は何となくシュールだ。早くおうちに帰りたい。


「ティルフィーネです……」

「ティルフィーネ様……私はレアヴロード・ディセインと申します」

「自己紹介はいいので帰って頂けませんかね」

「気軽にお呼び下さい」

「聞けよ」


どうしよう。しかもこのイケメン会話が成立しない。

すると、恐る恐る部下らしき人が馬から降りて、レアヴロードに話しかける。


「あ、あの……そろそろ帰らねば……」

「貴様。聖女様の御使いを目の前にして、何故平然と居られるのだ」

「えぇ?だ、だって……こんな髪見た事ないへぶしッ!!」


問答無用で部下らしき人がレアヴロードにぶん殴られていた。その隙に俺は、そっとリーフの後ろに隠れる。何故ローレルじゃないかって?威圧感凄すぎる。


「銀髪と他の色のグラデーション。紛れもない“プラチナム・ミルディン”だ。巷で噂されているし、恐らく売られていた髪はティルフィーネ様のであろう」

「あ、知ってたんですか」

「無論。話は城下中に広がっており、髪もちゃんと買いました」

「アンタが買ったんかい」


まさかの事実。あんた何してんだ。

周囲は最早ミルディンである俺に驚いていると言うよりも、騎士の変貌っぷりに驚いているのだろう。俺に向けられた視線はほとんどなかった。

だが、一人の男は何も躊躇もなく、そして何の変化もなく話の中心へと入り込む。


「き、騎士様!ひ、姫様はミルディンを欲しておりますか!?」


多少は動揺しているものの、ゲールはローレルを無視して、騎士に叫ぶように話しかけた。

人をかき分け、態々挙手しながら人々の視線の先である俺達に近づく姿は中々シュールだ。超うけるー(棒)

話しかけられたレアヴロードは、少し考える素振りをした後、口を開く。


「……聞かねば分からぬ。現状報告は上に伝えておく」

「俺の存在もですか」

「貴方様の意見を尊重したいのは山々ですが、私も国に仕え、国に忠誠を誓う者。申し訳ない」

「いえ、仕方ないでしょう。どうぞ、お帰り下さい」

「その寛大なる御心に感謝致します。差し支えなければ、是非お話を……」

「差し支えあるから帰れ」


渋々といった感じでレアヴロードは背中を向け、そして馬に乗って村を後にした。

村の外へと向かう道……森と逆方向の出口からは、微かながらも王城のような建造物が空の色と交じりながらと薄ら見える。意外と近いのかな。

そして意外と出口遠いな。皆々がぞろぞろとついて行ってるが、此処から見ると、ぶっちゃけ出口が小さい。遠い。


……聖女信仰者で良かったような。良くなかったような。


ただ、ローレルの顔つきは赤いというよりも、最早ドス黒い空気を放っていた。あらいやだ。




***



「何で出て来たんだ」

「だって、ピンチだったんだもん」

「そんな話じゃないだろ!!どうすんだ、もし姫様が欲しい……いや、下手すりゃ国王も欲しいとか言い出すかもしれんのだぞ!!?」

「そうなる前に出て行くって言ってるじゃないですか!!」

「お前、今何歳だと思ってんだ!!」

「9さ……あ、この前10歳になりました!!」

「マジで!?おめでとう!!……じゃねえよ!!」


ローレルがノリツッコミをしているが、話題は至って真剣だ。俺が出て行くか否かで今は恐ろしい程に(つばき)を飛ばし合いながら談義していた。INグリフォン家である。

リビングの明かりがゆらゆらと揺れる程の怒鳴り声を響かせるローレルは、俺の斜め向かい側に座っていた。カメリアはと言うと、心配そうにしながらもお茶を淹れている。あざーっす。


それはいいとして、俺にしてみれば迷惑極まりなかった為に、出て行きたいのは山々なのだが、いかんせんグリフォン一家がそれを許さない。

出て行く→出て行かせん!→じゃあどうするか→分からん!→じゃあ出て行く→ざけんなバーローみたいな無限ループが続いている。死神な某蝶ネクタイ少年探偵も吃驚なほどに答えがない。

リーフも俺が出て行くのには反対なようで、逞しい顔つきで鼻息荒く俺の向かい側の席に座っていた。だが、何も話さない。恐らくはローレルの気迫に圧倒されているんだろう。


「じゃあ、どうすんですかー!!」

「その話なんだが、」

「ファッ!!?」


いきなり扉が開いたかと思いきや、演歌が似合いそうな渋く低い声が聞こえて来る。

慌てて振り向いて玄関を見ると、青い髪と共にその鋭い眼光を持つ男性――村長と、その下でちんまりとそれでも堂々と仁王立ちしているリリアが居た。

ちなみに、玄関とリビングはすぐ近くというより日本みたいに靴を脱ぐ習慣が無い為に、玄関とリビングはほぼ繋がっていると言っても過言ではない。


「……ええと?」

「その話なんだが、学校に行かせたらどうだろうか」

「「学校?」」


思わず一家揃って声を合わせた。

学校……学校か。考えもしなかったな。


「丁度リリアも行く年頃だ。ティナ君も10歳だろう。ならば、娘と共に学校へ行ってはくれまいか」

「なるほど……」

「費用はこちらで負担しても構わぬ」

「あ、それはいいです。俺、髪売った金があるから」


正しくは、“レアヴロードが俺に貢いだ金”だが、其処はどうでもいい。

問題は、学校へ行くか行かないかである。俺は正直言うと迷っていた。

そう、俺の向かいに居る不安そうな表情で俯いている少年――リーフのことである。

彼は恩人である。豪雨の中、俺を献身的に世話してくれただけではなく、あろうことか“友達”とまで言ってくれた。友達よ?友達。中学時代はぼっちだった俺にとっちゃ恩人どころか、神に見えた。


リーフは学校に行けない。以前言っていたが、リーフは金銭的な事情で行けないらしい。

何せ、この国の学校は魔法系ではなく、騎士学校だとのこと。リーフは騎士ではなく、魔法を専門にしたい為、まずこの国の学校は行きたくないそうだ。

すると、魔法と騎士を鍛えられる隣国の学校しかなくなると。

だが、其処まで行く為の交通手段として馬車を利用するにしても、お金が必要になり、また学費や寮費も必要となり、かなり高額な金銭を出さねばならないとの事。


ローレルはこの村の用心棒や、たまに城下へ村の作物などを売りに行く程度なので、金銭的に足りないから行けない、と。

リリアは一応村長の娘だからな。色々お金を工面する手段があるのだろう。


だから、俺が学校に行く事になったら……リーフは村に一人ってわけか。


……。


俺はしばらく腕を組んで考えた後、頭を上げてリーフと顔を合わせる。



「リーフ」

「ぼ、僕の事は気にしないで。学校行きなよ。ティナ、普通に魔法使えるし、だから、」

「一緒に行こうず」

「……へ?」


随分と間抜けな声を出したものだ。俺はふっと一息吐いた。

周囲を見ると、またもや皆は目を見開き固まっていた。何だい何だい、皆して。


当たり前だ。ぼっちって切ないんだぞ?知ってる?俺中学時代マジで寂しかったんだからねっ!


独りは寂しい。あれ?じゃあ俺どうやって前世で親友作ったんだっけ……コミュ障なのに……。

まぁいいや。リーフは固まっていたと思いきや再起動し、わたわたと戸惑い始めた。大人達は未だ固まっているがな!

そして、バンッとテーブルを両手で叩きながら立ち上がった。


「はっ!?で、でも、僕んち……お金ないし……」

「俺の髪の金使えよ」

「だ、だだだ、駄目に決まってるじゃん!」

「何でよ」

「何で……って……」

「俺の金なんだから、何に使おうが自由だろ?」


とびっきりの笑顔。スマイル0円。前世のバイトで鍛え上げられた営業スマイルを見よ。

リーフはポカンと口を開いて再度固まった。すると、カメリアがフッと微笑む。


「いいんじゃないかしら?」

「……カメリア?」

「いいと思うわ。ティナ君は、リーフを大事に思ってくれているのね」

「だがな、」

「実際お金はティナ君のなのに、大人だからと言って私達が扱うなんて。きっと大人げないわね」

「あのな、」

「じゃあどうすればいいのかしら?ティナ君は子供だけど、ちゃんと持ち主の意見を尊重すべきだと思うのだけど」

「……」

「私は、ティナ君の意見に賛同するわよ」


お茶を俺の前に差し出す。白いマグカップに入った紅茶は、温かそうで湯気が立っていた。

良い香りが漂う中、少しずつローレルや村長も呆れたような笑みを浮かべ、まるで「降参だ」と言わんばかりの態度だった。

優しく温もりのある香りに相応しいカメリアの微笑みは、まさに女神のような笑みだった。


「……じゃあ、僕は、」

「幼い子に我が子を委ねてしまうのも気が引けるけど、これも一種の教育であり愛情よ。後は貴方が決めなさい、リーフ」


震えつつ、リーフの目は何処か潤んでいた。

そして静かに口を小さく開き、震える声で呟く。


「……いき、たい」

「じゃあ、行こうぜ!」

「……うん……うん!」


俺はきっと、此処の底からの満面の笑みを浮かべていた気がする。


リーフは瞬間、大粒の涙を頬に流し、そのまま泣き始めた。



学校に行きたくとも、行けない。ならば我慢するしかない。

前世でもそのような光景を見た。


今生なら、俺は出来るだろう。



今生での俺の友達の為に、俺は出来るだけの事をしよう。

だから、こんな力(チート)を手に入れたのだろう。



前世でも、後悔をした気がする。友達に対して出来る限りの事が出来なかった気がする。


ならば、今生では、今度こそ。


今度、こそ。






そして、舞台は学校へ……―――








読んで頂き有難う御座いました。


第一章完結致しました。

次回からは第二章『10歳in学校』が始まります。


追記

様々な方からの御指摘・助言を頂き、自分がいかに未熟なのかを痛感致しました。

改めまして、第一章が終わりましたので、第二章が始まる前に、

稚拙な文章が減る様に努めていきます。

その為、第二章の構成を練りながら、精進出来るように学ぼうと思います。


読んで頂き、改めて感謝致します。

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