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第11話:俺、我慢出来ませんでした

少しずつ読んで下さる方々が増える今日この頃。

読んで下さり有難う御座います。まだまだ若輩者ですが、宜しくお願いします。

大魔帝王様に会って来たばかりというのが嘘のような、ほとんど変わらぬ日常を過ごして、一ヶ月経とうとしていた。


朝起きて、飯食って、リーフと一緒に外でヴィスタとリリアに会い、そのまま勉強し、午後は遊んだり復習したり、夜になって飯食って風呂入って、そして就寝。


一体、俺が大魔帝王様に会ったのは何だったのか。その疑問に答えてくれる者は居ない。

唯一つ言うなれば、裏ボスは軽い気持ちでやるもんじゃないって事だけだ。

重過ぎる。俺には重荷過ぎる。

大体何なの?人族と魔族との因縁深い歴史。アカンやん。俺、入る隙ないやん。何で勝手に「人族と話し合います(キリッ」ってやっちゃってんの?馬鹿なの?

まぁ言ってしまったもんは仕方ない。やる時はやる子。やらない時はとことんやらない子。

まずは、話の通じる国の王族に会わねばなるまい。あー……裏ボスやるもんじゃねえな。9歳……実は、もう10歳になりそうなんだが、この年で胃痛を起こしそうだ。


そんな俺は今現在、ローレルを探している。リーフは別の場所を探しに行った。

昼飯時だってのに帰って来ないとは……愛妻家である彼が珍しい。いつも、カメリアの飯を楽しみに必ず早めに帰って来ると言うのに。

何処で道草食ってんだ。昼飯食わずに道草食ってんのか。


アホな事を考えつつ、結構探し回っているんだが……ヴィスタもリリアも知らないって言うし、村長さんも知らんって言ってた。何処だよ。


畑や牧場も見えて来たし、此処は昼飯時はあまり人も居ないからなぁ……他の所か?

そう思い、別の場所を探そうとUターンした瞬間、



「テメェ!!いい加減にしろよッ!!」



怒号が響く。

人気が無く、鳥のさえずりしか聞こえない程物静かな為か、木霊するのではと思うくらいに響いた。

声の主は誰だかすぐ分かった。低くて何処か威圧感のある――ローレルの声だ。

だが、いつもの穏やかで頼りのある声ではない。怒りを露わにして、チートな俺ですら恐ろしく感じる程の声だった。

慌てて俺は、その場を物陰から見守る。


ローレルは、見知らぬおっさんと話していた。

少し痩せこけていて、青白い肌。頭に乗ってるのかとツッコミ入れたくなる程度の髪。その不気味な男は、歯を見せながらニヤニヤと不快な笑みを浮かべていた。例えるならば、飲み会で女性を品定めしてそうな上司の顔。

俺の位置からじゃ丁度ローレルは背を向けていて表情が見えないが、声からして怒っているのだろう。


……誰だっけ?あのおっさん。何処かで見た事あるな。


あ、副村長だ。副村長のゲール・バラタ。

たまたま出くわした時、不気味過ぎて顔が引きつったが、一応挨拶した。すると、現在進行形で見ているような不気味な笑みを浮かべたまま去って行った。

リーフは少し不快そうな顔をしながら、副村長だと俺に伝えた。何があの穏やかなリーフをあんな複雑な表情にさせるのだろうか。何かしたんか?あのおっさん。セクハラか?してそうな顔だ。


ローレルがゲールの胸倉を掴もうとした時、俺はつい足を一歩踏み出し、カサッと草地の音を立てる。


「……ッ誰だ!?」

「へっ、あっ、あの、ローレル……さん?」

「……!!」


その般若の面のような鬼のような形相で、こちらを睨みつけたローレルに思わずたじろぐ。

真っ赤にしたその顔は、怒りで血が頭に上りまくってるのが分かる。

だが、俺を見た瞬間、徐々に赤い顔は元の色に染まる。落ち着きを取り戻したようで、ゲールの胸倉を掴もうとした両手を下ろす。


「……悪い、どうした?ティナ」

「あ、えと、お、お昼だって……」

「……そうか」


先程の鬼の形相は何だったのか。ローレルは、何処か気の抜けた表情を浮かべつつも、寂しげな笑みを零す。

いつもの活気溢れる笑顔はどうした、ローレル。怖いよ。俺、チキンガラスハートなのに。さっきの一睨みで木端微塵にハートが崩れたよ。


「ひひ……ティナ君、だったね?君、何でローブ被ってるのかなぁ?」

「え?」

「もしかして……お尋ね者だったりするぅ?最近ねぇ、コソ泥のガキも少なくないんだよぉ」


何この人。超キモイ。

顔を引きつらせてしまうが、もう仕方ないと思う。マジで不気味だし、俺の顔を覗き込もうとしゃがむ光景は不審者そのものである。おまわりさーん!!此処に不審者がー!!

心の内で叫びつつ、後ずさりした俺の目の前にやって来たのは、犬のおまわりさんではなく、鬼のローレルであった。


「いい加減にしろっつったよな……?此奴はコソ泥なんぞするような奴じゃねえ!!お尋ね者でもねえ!!これ以上しつこく付きまとうんだったら、村長に告げ口すんぞ!!」

「そんな事言って……明日、何の日か分かってて言ってるのかい?」


そうゲールが言い放った瞬間、激昂していたローレルは若干鳩が豆鉄砲を食らったような苦そうな表情をする。

明日?何かあったっけ?

俺が首を傾げていると、俺の腕を引っ張ってローレルはそのままゲールに背を向けて去って行った。


え、ちょ、明日何があるんすか。





この時、俺は知らなかった。



明日――騎士団が視察に来る事を。






***






「今日は一日家に居ろ」

「……ふぇ?」

「家に居ろ」


明朝。生け花のような芸術的センスが伺える素晴らしき寝癖を作ったローレルが真剣な声と眼差しで俺に告げる。正直頭の寝癖しか印象に残らない。


「何でですか?」

「今日は騎士団が視察に来る」

「え、行かなきゃやばくないですか?」

「やばくないから家に居ろ。ばれても、俺が何とか取り繕っとく」


取り繕わなければいけないって、やばいんじゃないか。

カメリア特製のクリームシチューを飲みながら、呆れる。あの真剣な顔に声に寝癖。恐らく奥深く聞いちゃいけない理由でもあるのだろう。例えば……え、何だろう。村の外から来た部外者だから?

こんな可愛いキュートボーイだからか?やめよう。何か虚しくなってきた。


しかし、カメリアまで深刻そうな表情を浮かべている。

騎士団の事か、ローレルの寝癖の事か、未だ起きて来ないリーフの事か。どれだか分からないが、今日は一日大人しく家に居よう。

その後、「おはよぉ」と更なる高みを目指した芸術的な寝癖を持ったリーフも起きたのだった。




***




暇なう。


家の中、暇なう。何しよう。

本はもう読み漁った。冒険活劇とかしかなかった。何もする事無く、リーフの狭い部屋でゴロゴロ寝転がる。

前世だったら携帯いじって漫画読んでテレビ見てインターネットしてた。やる事沢山あった。

この世界はそういう若者が大好物なものがない代わりに魔法だの何だのと科学や物理法則をまる無視したものがあるが。

こういう時って何するんだろ……。


そう思っていたが、俺にはあるじゃないか。

……そう、チートが。

ならば、外の様子を(うかが)おう。≪千里眼≫と≪聴音接続≫である。≪聴音接続≫とは、遠くのものの音を拾う古代魔術である。

早速行おう。丁度騎士団も見たかったしな。




***




見えた風景と拾った音はいつも通りの村の様子だ。

だが、皆々が一方向に一斉に頭を下げる。


其処には、白銀の甲冑を着込み、馬に跨った……漫画やゲームでよく見る『騎士』そのものが陳列してゆっくりと進む。


数は、大体4,5人といったところか。村民達は道の真ん中を開け、騎士団は馬で人々を見下ろしながら、村長の下へと歩んだ。

遠目からでも分かる、その閉ざされた甲冑の中の騎士の目は冷ややかで凍てついた、人々を見下したものだった。


「……現状報告を述べよ」

「ハッ。森の一部が謎の爆発により、焼失。魔獣の仕業かどうかは、現在調査中です。その爆発のせいか、魔獣は最近見ておりませぬ」


頭を垂れ下げた壮年――群青色の中に混じった白い髪に鋭い眼光、深く刻まれた僅かな皺。その凜とした顔立ちは、男らしく雄々しいものだった。

何を隠そう、この頼れそうな男性こそが村長である。老け顔だが、実は若い。

そんな村長を見下ろしながら、騎士は「他には」と素っ気無く尋ねる。

村長が静かに首を横に振ると、先頭を切った騎士は「撤収」とだけ言い放った。


……えっ、もう終わり?


俺の存在、皆さん普通にスルーしてる。俺、家の中ですよ?いいんですか?さぼっていいんですか?


ま、何事もなかったは良い事だ。何もお咎めないし、俺はホッと安堵の息を吐き、胸を撫で下ろす。

そのまま(リーフの)ベッドに横たわり、安心し切っていたのも束の間、あのおっさんが口を開き、その不気味で震えた声を出した。


「ひひ……何も言わなくていいんですかな?村長……」

「……何がだ」

「大体一月(ひとつき)程度前にふらりとやって来た少年ですよぉ……」


周囲は微かにざわめく。俺も安心し切って居た為か、誰も居ない部屋で「はっ!?」と変な声を上げてしまった。

村長はその落ち着いた表情を崩し、僅かに目を見開かせる。ローレルは顔をしかめ、ゲールを睨みつけた。

カメリアとリーフは青ざめ、何も知らぬリリアやヴィスタなどの村民達は不思議そうな顔をしながら、互いの顔を見合わせていた。


しまった。迂闊だった。

だから、ローレル達は留守を言い聞かせたのか。

あの騎士団の前でローブを被ったまま外に出るわけにもいかないしな……ん?別にミルディンだからって外出ても良くないか?

顎を指で触れつつ、俺は首を傾げていた。


すると、騎士団を引き連れている隊長らしき風格を持ち合せた男が、村長の首元に剣先を向ける。

その喉元に向けた剣先は光沢帯びており、何の躊躇いもない様子から、皆々はざわめきを隠せない。

娘であるリリアは慌てて村長の所へ駆けようとするが、案の定母親に止められていた。


「パパぁ!!放してよ、ママ!!パパが!!」

「やめなさい、リリア……大丈夫だから……」

「大丈夫じゃないわよ!!ティナは!?ティナを連れてくればいい話じゃない!!」


リリアは涙を浮かべながら、必死に母親に訴えかける。

母親は何も事情は知らないが、ただ口を紡ぎ、目を逸らす。だが、決してリリアを放そうとはしなかった。

羽交い締めとなったリリアを横目で見つつ、ただ冷たい眼差しで村長は騎士を見上げる。


「……その、“ティナ”という少年を連れて来てもらおうか」

「……彼は事情があって、姿を現せない」

「どんな事情だ?」

「……」

「用件次第では……どうなるか分かっていよう」


重苦しい声でそう告げると、騎士は村長に向かって剣を振り下ろす。

振り下ろした瞬間に生まれる風が、村長の髪をなびかせたものの、当の剣先は村長の首筋にギリギリ止められていた。

リリアは徐々に憤慨してきており、遂には頬に涙を流す。

その様子をニヤニヤと不快極まりない笑みで、ゲールは見ていた。


クッソ、何が目的だよ、あのおっさん。ふざけんな。


俺は憤りを感じるものの、此処で出て来ていいのかという葛藤を生じていた。

すると、ゲールは更に追い討ちをかける。


「いいんですかな?ローレルの旦那……あの少年を連れて来なくて」

「……ッき、貴様!!」

「妙な動きはするな。そして、其処の男。そいつの場所を知っているなら、連れて来い」

「……!」

「さもなくば、」


騎士は剣を村長の首筋狙って、腕を振り上げる。

村長は何も言わず、目を瞑って全てを受け入れるかのような姿勢だった。

ローレルは、ただ掴んだゲールの胸倉を放すしか出来ない。俺の事を言う気はなさそうだ。


だが、俺は動かねばならないようだ。


「やめてぇぇッ!!!」




リリアは、涙を流して叫んだ。


悪いが、泣いている女の子を放っておけるほど、俺は強かではない。




俺は勢い良く扉を開く。


瞬間、村はざわめきを消し、静寂に包まれる。


鳥の声と、風の音。森が風によって生まれる擦れた音しか聞こえない。



そして、やっと気を取り戻したのか、村民の一人は呟くのだった。







魔女の一族(ミルディン)」と……





読んで頂き有難う御座いました。


次回『俺、出て行かねばならぬようです』

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