激突 その1
「よっしゃあ、てめぇら。準備はいいか?」
猛の掛け声に俺と委員長が頷く。そもそも俺達に準備するものなどない。
俺達の様子を確認して猛は再び話し始める
「いいみてぇだな。それじゃあ…」
と、猛はそこで一端溜めを作り、大きく息を吸い込む。そして今吸ったその息を全て吐き出す勢いで叫ぶ。
「状況を開始する!」
作戦開始の合図が告げられた。
「大和さん。」
すぐさま委員長が猛に声を投げ掛ける。
「なんだ?」
「『状況開始』は自衛隊が訓練を始める時の合図であって、作戦を開始する掛け声ではありませんわよ。」
「えっ、まじで?!」
何とも締まらない作戦開始となった。
気を取り直して、作戦が開始される。
猛が肩捲りをし顔を叩いていて、気合いを入れている。
それが一通り終わると猛は体から体内の魔力を取り出した。
猛がその魔力を一ヶ所に収斂させていく。一瞬にしてその魔力の濃度が通常の10倍程になる。
それに合わせて、俺と委員長も同じようにしてそこに魔力を込めて行く。
50…60…70………100…
あっという間に100倍を越え、魔力はその濃度を上げていく。
その速度は凄まじく、気がつけば最早何倍かも分からない程の濃度になってしまっている。
暫くそうして魔力をつぎ込み、保有魔力が半分を切った所で猛は魔力を注ぎ込むのを止める。
代わりに圧縮された魔力の維持に移る。魔力が圧縮され過ぎて反発を起こしている。圧縮から開放されようとする魔力を抑えるのに全力を注ぐのだ。
俺達の魔力もそろそろ半分を切るが、気にせず魔力を注ぎ続ける。
そのまま更に3割、結局8割もの魔力を注ぎ込んだ所で俺と委員長も止める。
俺達が魔力を注ぎ込んでいたその場所には、光輝く玉が出来ていた。
本来見えない筈の魔力で出来ているにも関わらず、直視するのが辛い程に輝いている。
あまりにも魔力を圧縮し過ぎたせいか、押さえきれずに洩れ出たエネルギーを光の形で放出しているのだろう。
猛はその塊を持って嬉しそうに笑う。
「よっしゃあ、これで完成だ。あとはこれを…」
そう言いつつ、光の玉を思いっきり上空まで投げ上げる。猛の非常識な筋力で投げられ、玉は異様な速度で天を駆け昇る。
玉はぐんぐんその高度を上げていき、100mをも越える勢いだ。
徐々に勢いを失い自由落下を始める直前、一瞬静止した状態になった瞬間、猛は玉を自分の制御下から外す。
すると、押さえ込まれていた大量の魔力は抑止力を失い、互いに反発して一気に拡散される。今まで無理に閉じ込められていた反動か、物凄い勢いで魔力が飛んでいく。
さながら魔力の爆発と言った所だ。
何せ俺達の魔力を半分以上注ぎ込んだのだ。その勢いは凄まじく、迷宮全域に轟くだろう。
幸い魔力には質量がなく、そのままでは物質に影響を及ぼさないため、爆発による被害が出ることはまず無い。
が、迷宮内にいる実力者には確実にこの魔力爆発が感知出来ているだろう。
A組や「影」の上位層なんかは確実に気付いているはずだ。A組を除いた召喚者の中にも感知出来る人間はいるだろう。
実際、間近に居たからかも知れないが、鑑さんもその爆発に驚いている。
突然、今まで何の気配もしていなかったにも関わらず、ここからすぐ近くの場所に一つの気配が表れた。召喚術か何かを使ったのだろう。
そして、最初の気配を皮切りに気配の数がどんどん増えて行く。
「来ましたわね。」
「ハッハァー! 早速動いて来たみたいだな。」
当然2人もそれに気付いているようだ。
その間にも数は増えていき、最終的な数はおおよそ500にも上った。強い気配からゴブリン程度の弱い気配もあるが、注意すべきなのはその中でもかなり強大な3つの気配だろう。
ランクで言えば、Sランクに当てはまる程の気配だ。
他にもAランク程度ならちらほらといて、かなりの大戦力だ。最初のゴブリン集団とは比べ物にならない。ついに「影」も本腰を入れたか?
それにしても、これだけの戦力が有ったとは。
明らかに俺達を殺す事だけを目的とした戦力とは思えない。
召喚者とは言え、まだレベル1の雑魚を倒すのには明らかな過剰戦力だ。実際は全く足りていないが。
先程、猛に迷宮全域の気配を察知してもらったが、その時にはこいつらの気配なんて無かった。恐らく別の場所から送り込んで来ているのだろう。
それなら、わざわざ彼らを呼び出した甲斐も有ると言うものだ。
4人の「影」を始末していて、更に魔力爆発まで起こして挑発したのだ。来るとは思っていたが、本当に来てくれて良かった。
来ないなら、直接相手の所まで乗り込む予定だったが、「影」の幹部と同時にこれだけの戦力を相手どるとなると、猛1人だけでは厳しかったかもしれない。勿論幹部の強さ次第ではあるのだが。
「そろそろ戦いに行くか?」
相手の戦力が確認出来たので、俺はそう問いかけた。
「そうだな、先制で攻撃を仕掛けてやろうぜ。」
「相手に気付かれていますので、隙を伺う意味など有りませんし、そうしましょう。でも、その前に一つやりたい事があるのですわ。」
委員長はそう答えると、鑑さんの方まで歩いて行く。
そして、彼女の前で止まった。
「何だ?」
「少し失礼しますわ。」
委員長はそう言うや否や、右手で鑑さんの顎をカスる様に撃ち抜く。鑑さんは脳震盪を起こしてそのまま倒れこんだ。
「なっ、委員長なにしてんだよ!」
「何って、見ての通りですわ。あの大軍と戦って彼女が生き残れるとは思えませんわ。だからちょっと隠しておこうかと思っただけですわ。」
隠しておこうって…。いや、確かに言う通りではあるんだが。
「ハッハァー! やっぱり委員長はおっかねぇなぁ!何の躊躇も無しにパンチを撃つんだからな。」
「ちょっ、大和さん。これは仕方無かったんですわ!」
「それにしたってやり方ってもんが有ると思うんだが…。」
「ゆ、悠長にそんな事を言っている時間などありませんわ。もうそこに相手さんは来ているのですから。
そういうわけですから……【テレポート】」
彼女は俺と猛に責められ、誤魔化す様に倒れ伏した鑑さんに手を翳して超能力を使った。それと同時に鑑さんが目の前から消える。
【テレポート】は超能力の中でもかなり高難易度の技だ。A組でもこれほど簡単に使える人間は彼女だけしかいない。流石、超能力のスペシャリストだ。
俺は発動に1分は掛かるし、成功率も半分と言った所だ。
「誤魔化しついでに、テレポートとは流石は委員長だな。」
「別に誤魔化してなどいませんわ! もう。冗談言って無いでさっさと行きますわよ。」
拗ねてしまった。
存外、委員長は煽り耐性が低いな。
遠目で相手が見える位置まで移動してきた。
鬱蒼と繁る木々の隙間にぎっしりとゴブリンとオーガが詰まっている。ゴブリンもオーガも強さや大きさがまちまちだ。
今まで戦ってきた普通のゴブリンもいるが中にはオーガの大きさを越えるゴブリンもいる。
そして、要注意だと感じていた3つの気配。
この軍団の中でも飛び抜けて体の大きい個体があった。体の色が緑色であることからゴブリン種なのだろうとは思うが、最早原型を留めていない。
元のゴブリンからは想像もつかない程の貫禄と威圧感がある。流石はこの迷宮の最上位モンスター、ゴブリンエンペラーだ。
そして、もう一人注意しなければならない人物がいる。ここから軍団を越えて向こう側、殆ど存在感の無い人間が一人。彼が恐らく「影」の幹部。
先程まで軍団の影に隠れてその存在にすら気付けなかった程に、その気配は薄い。
彼と一緒に他の「影」の人間も来ているが、気配を殺すその技術だけ取っても桁違いだ。
だが、気配を隠していると言うことは、最初は様子見をするという事だろう。
ならば、彼が出てくる前にさっさと片付けてしまおう。
俺は2人に先駆け、軍の一番前に居たゴブリンの首を切り裂いた。
意図せず1週間1回ペースになってますね。もうちょっと早く書ければいいのですが…。
まあ、欲張るのは良くないね。エタらないよう更新していきます。
来週末は忙しいので、水曜日までに投稿が無ければ再来週の更新になると思います。
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