合流
少し長めです。
魔力の反応があった方向に暫く行くと、果たして委員長と猛の姿が見えた。
猛が正座していて、その猛に対し委員長が何か言っている。
「……大体、貴方という人は何時も。この間だって……」
どうやら、委員長はお冠の様だ。プンプンという効果音が聞こえて来そうだ。
なんでこいつらはこんな所で説教してんだ?
「よう猛、委員長。何やってるんだ。」
「あら、久世さんではありませんか。それと確か、鑑さんだったかしら?
何って見ればわかる通りお説教ですわ。久世さんもこっちに来て大和さんを怒って下さい。」
「怒ってって、猛がまた何かしたのか?」
「またってな…。別に大した事はしてねぇよ。委員長が気にし過ぎなだけだっての。」
猛はそこでヨイショと立ち上がる。
委員長の雰囲気からして猛がろくでもない事をした事は分かるんだが、何をしたんだろうか。
「実際見てもらった方が早いですわ。」
委員長がそう言うと、猛が頷いて俺達の背後に向かって歩き始める。
そちらの方向にいるのは尾行していた「影」2人。
そういえば、猛と委員長には俺達のように見張っている「影」が居ない事に気付く。
まさか…。
5m程歩いた所で猛の姿が掻き消える。
すぐに気配を追うと、やはり猛の気配が「影」のいた場所から感じられる。
しかし、その場に「影」の気配は感じられない。
一瞬にしてその命を刈り取られたのだ。
あまりの出来事に俺は茫然としてしまう。
一瞬過ぎて止める間も無かった。
そんな俺の前に猛が戻って来る。
「ま、そういうわけだ。」
「そういうわけだ、じゃねえよ!! 何やってんの! 」
「ちなみに、「影」は通信器機を持っていましたので、既にバレていますわ。」
「まじか…。駄目じゃん、全然。そりゃ委員長も怒って当然だぞ。今まで誤魔化してきたのが全部無駄になってんじゃないか。」
俺がそうやって溜め息をつくが、猛は全く反省した色を見せずに反論してくる。
「いやいや、全部俺がやった事にすりゃあ、丸く収まるって。」
「そんな嘘、向こうが信じるとでも思ってるのか?」
「そこはほら、お前の演技力って奴を見せてくれよ。」
一切悪びれる事なくそう言う猛。
誰のせいだと少し苛立つが、今までの情報抑制が無駄に成らない様にするにはそれしか無いだろう。
猛だけが強力な力を持っていて、猛が頑張ってA組全員を守っていたと勘違いさせる事が出来たなら完璧だ。
「影」の注意は確実に猛一人に向かうし、俺達に大した力が無いという偽情報も信じ込ませやすい。
今後の展開がかなり楽になるはずだ。
それに、昨夜決めた作戦とも噛み合う。
そう考えればいい考えだとは思う。
ただ一つ言うとするなら、それを信じ込ませる事がかなり難しいと言うことだ。
「影」は諜報組織だ。情報だけを武器にして、この世界の裏側を支配していたと言っても過言ではない。
そんな「影」が情報の扱い方を知らない筈がない。知り得た情報が嘘か本当かを見極める力も当然ある。
実際、俺達A組の得体が知れないと言うだけで、殺そうとする連中だ。
それだけ情報を重く見ているのだ。
そんな連中を騙す。
今までの様な時間稼ぎの為に嘘を付くではなく、騙す為に嘘を付く。
その嘘が通じれば万々歳。通じなければ俺達に対する警戒は一気に高まるだろう。
ただ、猛がやらかしたお陰で、何もしなくとも同様に警戒は高まってしまうに違いない。
なら、やらない理由は無い…か?
やるなら、詳細を詰めなければならない。
どうせ猛の事だ…
「はぁ…わかったよ。で、そうするとして、詳しいプランとかあるのか?」
「そんなもん、有るわけがねぇだろ。成り行きだ、成り行き。」
「そうですわよね…。じゃあこれからどうするか話し合いましょう。大和さんの作戦とさえ言えない何かを実際にするかどうかも含めてね。」
そこから俺達は猛の作戦を肉付けしていく形で内容を練っていった。
ちなみにここからは全てスキル以心伝心で会話をした。以心伝心はA組スキル詰め合わせの内の一つであり、人の近くで念じるだけで意志疎通が出来るスキルだ。元々は、人の表情や目の動き、仕草などから相手の意思を読み取ったり、さりげなく情報を伝えたりする能力だったのだが、随分便利な能力になったものだ。
鑑さんが居る手前大っぴらには話せないと言うことで使っているんだが、口ではどうでもいい内容を喋っているため、それなりに頭を使う。
閑話休題
作戦の話に戻ろう。
まず、相手の位置などの情報が不足していては詳しい内容を決める事など出来ない、というわけで、そこら辺の情報を猛に探ってもらう。
何せ、一人だけ自重を止めたのだ。一人だけ能力を使い放題なら猛に任せた方がいい。
今は「影」が周りにいないから、スキルなんかを使ってもバレないかも知れないが、そんなものは知らん。
お前のせいでこうなったんだ。働け。
と、まあそのお陰でかなり現状が掴めた。
どうも転送された人間は全員、別々の場所に数人単位のグループで飛ばされたようだ。そして、その組にはそこから少し離れた位置に一、二人がついている。恐らく「影」の監視だ。
また、迷宮内であるにも関わらず、ほとんど魔物が居ない。そして、僅かにいる魔物は例外無く誰かと戦闘している。
恐らく魔方陣か何かで魔物達を送りつけているのだろう。
しかし、これは考えてみると恐ろしい。
何しろ、これだけの広さにいる魔物を恐らく完全に制御下に置いているのだ。ここがいくら低級の魔物が多いとは言え、その全てを制御できると言うのは尋常ではない。
何らかの能力で有るのは間違いないと思うのだが。
なんなら、その能力で軍隊を作ればいいんじゃないのか? まあ、その辺りにその能力の弱点が隠れているのかも知れない。
話がずれたな。
他に知り得た情報としては、これを最初に上げるべきだったのかも知れないが、最も重要な、自分達の位置と敵の位置だ。
俺達が飛ばされた位置は迷宮の中でも王都に近い南西側だ。そこら一帯にある程度の距離を開けて生徒達が広がっている。
そして、そこから少し離れて迷宮の奥に向かった所に十数人の気配がある。他にここら辺に人間の気配がないにも関わらずそれが有るって事は、これが「影」であることに間違いは無いだろう。
その中心に一際存在感の薄い人物がいる。彼、彼女が新しくやって来たという「影」の幹部なのだろう。
しかし、「影」の幹部が現場まで来ているのは好都合だ。
嘘を信じさせるなら実際に目で見た方が信じ混ませやすいからな。
ともかく、情報が揃った。その後その情報を元に作戦も立てた。
後は実行あるのみだ。
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(何とか仕事を終らせ迷宮に着いた。
昨日途中で酒場に少し行ったのが間違いだった。お陰で完徹だ。)
エドモンドはそう考えつつ迷宮の中に入っていく。
もう昼に差し掛かろうという時間帯であるにも関わらず、迷宮の中は昨日と同じで静かなままだ。
「やはり、異常な雰囲気は変わらないか。」
呟いた声が森に飲まれて行く。何時もと違うその雰囲気に何か不気味なものを感じつつも先を急ぐ。
出来るだけ周囲の情報を漏らさないギリギリの速度で進んで行く。
現役時代は斥候職では無かったものの、その感知能力の高さから、パーティーの状態によっては斥候役をしていた事もあったのだ。
故にこういった事には慣れていた。
その経験からか、暫く走ると一つの異変を見つける事が出来た。
僅かに草が倒れていた。普通の人間が見れば分からない程度のそれを見て、何かが通った後だとわかる。
少なくとも半日は経っていない程のもの。
誰も居ない筈の迷宮内にそれが付いているのはおかしかった。
ようやく有った変化に何か嬉しさを感じながらも、気を引き締めてその後を追っていく。
痕跡を追うに連れてそれは明らかに新しいものへと変化して行く。
さっき付けられたと確信できるものが出て来はじめた頃、ついに前方から音が聞こえた。
逸る気持ちを抑えながら対象に見つからない様に近づく。確実に見えるであろう位置まで来たところで対象を覗き、そして…
それはゴブリンであった。
(ゴブリン、ハズレか?
しかし、今まで全く見かけなかったゴブリンが何でいるんだ?)
ゴブリンであった事に気を落とすが、もしかしたら何かあるかも知れないと僅かな期待を胸に観察し続ける。
そしてそれは、結果的に正解であった。
ゴブリンの行く先には人間の集団があった。歳の頃は10代後半といった所で、装備は充実している。
ゴブリンは突如その速度を上げて集団に突っ込んだ。
その人間達は、突然現れたゴブリンに驚きながらも応戦している。
(ビンゴだ! 追ってきて良かった。
しかし、彼らは何故こんな所にいる?服装は冒険者の様にも見えるが、見たことが無い奴らだな。他所の冒険者か?
しかし、遠出の荷物が有るようにも見えん。
さて、どうしたもんか?)
彼らの戦闘を見つつ考える。その戦闘はお世辞にもスマートとは言えないが、ステータスが高いのか、余裕はありそうだ。
戦闘はあっという間に終わりを迎え、ゴブリンに止めを刺したその時、その逆側から別のゴブリンが現れる。
しかし、彼らは気付かない。
「危ない!」
エドモンドは咄嗟に飛び出しそのゴブリンを殴り倒す。倒した事を確認して、エドモンドは振り向く。
彼らは急に飛び出してきたエドモンドに驚いた表情をしている。しかし、集団の内の一人、先程止めを刺した少年がいち早く落ち着き、前に出てきて礼を言う。
「危ない所を助けて頂いて有り難うございます。僕の名前は聖野希望です。よければ、貴方の名前を教えて頂けませんか?」
芯の通ったいかにも正義感の強そうな少年であった。
一週間以上掛かってしもうた。
進むときはかなり書けるんだけど、一度止まると中々筆が進まぬ。
あ、ブックマークが150を越えました!
読んで下さって有り難うございやす。
感想、ブックマーク、評価等くれると奇声を発しながら喜びます。




