迷宮 その2
いやぁ、遅くなってすみません。
3ヶ月?ぶりです。
3日後と宣言してからも1ヶ月…。
さぼりぐせもなんとかせんとなぁ。
遭難したらその場から動くな、とよく言われる。
確かにそれは、ほとんどの場合に於いて正しい。
闇雲に動けばただ単に体力を消耗するだけだし、崖から落ちたりして怪我を負うのが落ちだからだ。
しかしこの状況においては、動かないというのは悪手だ。
そもそもが救助が来ることを前提にした話。
俺達の存在を知るのは唯一帝国だけで、その帝国の手によって遭難したのだ。救助なんて来るはずがない。
仮に来たとしても、そこにいる「影」に殺されるだろうしな。
それに、動かないのは体力温存のためであって、狩りも出来て寝ていても危険を感知出来る俺にとっては関係の無い話だ。
そういうわけで、移動するに越した事はないのだが、問題は何処に向かうかである。
一番良いのは本隊との合流だ。
遭難状態から解除される訳で、簡単に王城に帰れるし、「影」から襲われる心配も確実に減る。
問題はその本隊が何処にいるか分からない、と言うことだ。
むしろ、本隊があるのかどうかも怪しい所だ。下手すれば全員が別々の場所に飛ばされた可能性もあるからな。
次に考え付くのは、バラバラになったA組と順次合流していく事。
だが、やっぱりその居場所は分からない。
現実的に考えるなら、そのまま帝国の城まで歩いて帰ることだ。
この迷宮は帝都から見て北東に広がっている。なので、ここから南西に行けば自ずと城まで帰れると言うわけだ。
もっとも、ここから帝都まで歩いて行けば、少なくとも2日はかかるだろうし、この鬱蒼とした森の中を真っ直ぐ南西に進めるとも思えない。大体の方角なら、今の時間と微かに見える光のグラデーションから何となく分かるんだが。
能力さえ使えるなら、いくらでも方角を確認する方法は有るのになぁ。本当に「影」の存在は鬱陶しい。「影」さえ居なければ……。
いや、うん。言っても仕方が無いか。そもそも「影」が居なければ、遭難することも無かった訳だし。
無駄な事を考える位なら、さっさと出発しよう。
向かうのは勿論南西だ。
他の選択肢は森の中を無闇に歩き回るのと同義だからな。
鑑さんも一緒にいる以上、そんなことで迷宮内に居続けるのはまずい。
俺はこういう環境に慣れているが彼女の方はそうでは無い。
それに、命に別状は無さそうだとは言え、いまだに意識が戻らないのだ。なるべく早く安全に休める場所まで連れていきたい。
そう思って、気絶している鑑さんを見やる。
既に呼吸は安定しているし、顔の血色も悪く無い。
うん、大丈夫そうだ。
気絶したとは言え、そこまで酷いものでも無かったのだろう。もしかすると、直ぐにも目を覚ますかも知れないな。
俺は彼女の容態に安心しつつ、彼女を背負おうとする。
しかし、彼女の体重が俺の背中に掛かった瞬間、俺は大きな判断ミスを犯している事に気がついた。
ヤバイっ‼
そう思った瞬間、俺は急いで彼女の体を俺から引き離そうとする。
しかし……
ふにゅん
そんな効果音が流れて来そうな柔らかな感触が背中から伝わってくる。
恐らく、というか確実に、胸が当たっている。
急に何とも言えない罪悪感の様なものが沸き上がってきた。こういうラッキースケベは嬉しいもんだと思ってたけど、実際に体験してみるとむしろ逆だな…。
なんというか本当に申し訳ない……。
ちょっと嬉しいのが、逆に罪悪感を駆り立ててくる。
これが九十九とかだったら何も無かったんだろうが、生憎鑑さんの胸は学内でも大きい方でDだったはずだ。
ちなみに九十九は……止めよう。うん、彼女の名誉の為に伏せておこう。
さて。行こう。
これは仕方の無いことなんだ! 彼女を運ぶためには必要だ!
そう唱えつつ、俺はなるべく背中の感触を忘れる様にして、その場を出発した。
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ザッ、ザッ、ザッ、ザッ
何かを掻き分けるような音が一定のリズムで聞こえてくる。そして、それに同調するかのように体が揺れる。
どうやら気付かない内に眠ってしまっていたらしい。
しかしこれはどういう状況なのだろう?
ズキン
と、頭が痛い事に気付く。何かで叩かれたような痛み。
その痛みが強まるにつれて、自分が意識を失った過程が思い出されてくる。
そうだ、私はゴブリンに殴られて……
でも、なんで、私は生きているんだろう?
寝ぼけた頭でそんな事を考える。
すると急にずっと感じていた揺れがピタリと収まった。
どうしたのだろうか、私は不思議に思って目を開く。
目の前に見覚えの有る少年の顔が映し出された。確か彼は同じ班の、久世、だったか。その彼がこちらを覗きこむ様に振り返った。
「意識が戻ったみたいだな。気分は悪くないか?」
「う、うん。少し頭は痛いけど大丈夫。」
「そうか。受け答えもちゃんと出来ているし、無事で良かったよ。」
彼は嬉しそうに笑いかけてきた。
どうやら、私は彼に迷惑をかけたみたいだ。恐らく彼は倒れた私を介抱してくれていたのだろう。
現に今も私は彼に背負われ……て……!!
そこまで考えてようやく今の状況を把握する。
俺が彼に背負われているこの状況を。
恥ずかしさのあまり、寝ぼけていた頭が一気に覚醒する。
「は、はは、は……」
「は?」
「離せ! 俺を降ろせ~! 」
そう言って俺は彼の背中の上で暴れる。
「ち、ちょっと。わかったから、危ないから落ち着いてくれ。」
「これが落ち着いてられるか! 早く降ろせ!」
「暴れられると降ろせな……って、危ない!」
ドシン と音を立てて俺は地面に落ちた。
落ちた時に打ったお尻が痛い。
「ごめん。大丈夫か?」
「何するんだ! 痛いだろ。」
「だからごめんって。そもそもそっちが暴れるのが悪いんだろ。」
「それは…そうだけど。」
俺は反論しようとしたけれど、その通りなので言葉が出てこない。そんな俺に彼は優しげに話しかけてくる。
「まあ、それだけ暴れられれば体調は大丈夫そうだな。鑑さんが倒れた時はどうなることかと思ったけど、無事で良かったよ。」
そう言って彼はにこりと微笑む。
その笑顔に俺は不覚にもドキッとさせられてしまった。
彼の背中で暴れた事が今更ながらに恥ずかしく、それも合わさって顔が熱くなるのがわかった。
咄嗟に彼から顔を背けて、色めき立った心を落ち着けようとする。
い、いや。これはちょっとドキッとしただけで。恋とかそんなんじゃなくて。その、あれだ。そう! 吊り橋効果! 吊り橋効果なだけで。あ、でも、それだと恋している事に? や、やっぱり無し。吊り橋効果は無し。
なんて考えて。
結局ちゃんと落ち着いたのは、それから30分程後の事だった。
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俺は30分程かけて、現在の状況とこれからの方針について鑑さんに話していった。
一応、鑑さんの意見も聞こうと思ったのだが、何処か心ここに有らずといった感じで、大した意見も返って来なかった。
やはり、倒れた影響がまだ出ているのかも知れない。
まあ、話している内容は理解しているようだし、話し終わる頃には大分意識もしっかりしてきたみたいなので、大丈夫だとは思うのだが。
この30分で鑑さんの体力も大分回復したように思える。
そろそろ出発しようか。
そう思ったその時、俺の後方から僅かな魔力が感じられた。
巧妙に隠してはいるものの、僅かに漏れだした魔力。A組でもなければ気付けない程だ。
だが、確実に感じ取った。
間違いない。
これは、猛と委員長の魔力。
しかもかなり近いな。歩いて15分程度といった所だ。
ならばすぐにでも向かおう。
出発だ。
というわけです。
もうね。恋愛ゾーンの執筆が進まない進まない。
リア充は消えてしまえばええんや。
ちなみに鑑さんはヒロインでもなんでもないです。
その筈です。
次回から恐らく戦闘に入っていく、のかなぁ?と思います。
いつになるかは分かりませんが…。な、なるべく早く更新するし。
取り合えず日曜日を目標に。1週間更新が無ければ……察してください。




