迷宮前夜 その1
遅くなりました。長くなったので分割です。
前半はもっと短い予定だったのに。前半はエドモンドさん視点です。
「た、助けて下さい! ば、化物がっ、僕の仲間を!」
冒険者ギルドに大声が響きわたる。周りに居た者たちが何かとそちらを向いている。
俺もそちらの方を向くと、まだ少年と言ってもおかしくない様な若手の冒険者が血塗れで入り口に立っていた。
俺は慌てて彼のところまで行ってケガの様子を見てやる。
「大丈夫か? 今治療してやるからな。」
「僕は大丈夫です。それより、仲間を、仲間を助けて下さい。」
「大丈夫って、このケガだぞ! 大丈夫な訳あるか!」
「僕を治している間に仲間が死んでしまいます。」
何を言っても仲間を助けろの一点張り。
仕方ない……。
「わかった、助けに行ってやる。だが、その間お前は治療を受けるんだ。いいな?」
「はい、ありがとうございます。」
了承したのを確認し、俺はギルドお抱えの治療士を呼ぶ。
治療が始まるまで待って、俺は少年に何があったか尋ねる。
少年の話を要約すると……
少年達のパーティーは駆け出しの冒険者が集まったFランクパーティーで、毎日近くの初心者用の迷宮に行って経験を積んでいた。
今日は「人鬼の森」の浅い地域で依頼をこなしていた。
しかしそこで、初級冒険者には厳しい魔物であるオーガに襲われ、何とか撃退したもののパーティーは怪我人だらけの満身創痍で、急いで帰ろうとしたところで化物に襲われたらしい。
少年は仲間が吹っ飛ばされたのを見て、すぐに逃げ出したから少ししか見ていないそうだが、巨大な赤いオーガに見えたとのこと。
命の危険に合ったのだから、実際よりも過大評価している可能性は有るが、どちらにしろ「人鬼の森」に異常が起きているのは間違い無い。
それに、大きく赤いオーガと言えば、一つ思い当たるのだ。キングオーガ。とても初心者に相手できるような魔物ではなく、その強さはAランク冒険者ですらも敗北する可能性があるという、正真正銘の化物だ。
そもそも、「人鬼の森」は浅い所ではゴブリンのような弱い魔物しか出ないレベル帯のはっきり別れた迷宮だ。彼らが本当に浅い部分にいたとするなら、そもそもオーガ位しか出てくる筈が無いのだ。
しかし、浅域でオーガが出たという報告は今日で4件目。それ以上の魔物が出たと言うなら、確かめに行くしか他は無い。
そう考えをまとめると、俺は立ち上がり野次馬達へ大声で呼び掛ける。
「おいお前ら、緊急依頼だ。依頼内容は少年のパーティーを救う事、人鬼の森の異常についての調査だ。詳細はお前らの聞いた通りだ。これには俺も参加する!」
にわかに騒然となる周囲。盛り上がる声と共に驚きの声も聞こえてくる。
恐らく、前者は緊急依頼に、後者は俺が出ることに対するものだ。これでも俺は元Sランク冒険者だからな。
俺は早速その場から有能な冒険者達を選ぶ。
幸い大きな騒ぎになったからか、実力の有るパーティーも多く野次馬をしていた。お陰で良い人材が揃っている。
結果として、Cランクが数人とこのギルド最高峰のBランクパーティーまで含めて10人。本当にキングオーガが出てもまず負けない程の戦力、考えうる中でも最高に近い面子だ。
俺は他のギルド職員に、人鬼の森を立ち入り禁止にするよう伝えてから、依頼を受けた面子と共に出発した。
迷宮に着くと、そのまま少年が襲われたという場所に向かう。
その道中は大した事もなく順調だ。
否、これは余りに順調過ぎる。何せ一度も戦闘を行っていないのだ。
「おかしい、静かすぎる……」
誰からともなくそんな声が漏れる。
それはそうだ。普段なら、この森の何処にそんなに住んでいるのかというほど直ぐに遭遇するのだから。
それはそれでおかしい気はするが、それにしてもこれは明らかな異常だ。
気付けば戦闘が一度も起こらないまま、少年が襲われたという場所の近くに来ていた。
すると、何処からともなく錆びた鉄の様な匂いが漂ってくる。嫌な予感がする。
「こっちだ。」
鼻の利くCランクの冒険者がその匂いの元へと案内する。臭覚とか言うスキルを持っていたはずだ。
彼に着いていく間にも嫌な匂いはその強さを増して行く。確実に血の匂いだ。
人間の物ではない事を祈りたいが……。
「この先だ。」
唐突に先頭を歩いていた男がそう呟く。前を向くと、へし折れた木や枝が散見された。ここで戦闘が行われた証拠だ。
前からは生き物の気配は感じられないが、念のため気を付けて進む。
そして、そこには……
少年達の死体がなかった。
有ったのは僅かばかり食い残された肉片と、ボロボロになった装備の一部、地面に広がった大量の血痕のみだ。
「間に合わなかったか……。」
半ば分かっていたことではあるが、それでも何か割りきれない物がある。
このメンバーは長い事冒険者をやって来た面々だ。全員こういった体験は何度もしてきているだろう。だが、慣れはしてもつらい事には変わり無い。
意気消沈したメンバーで、遺品を回収する。
本当ならここで帰りたい所だが、そうも行かない。
まだこの森の異常については何も分かっていない。少なくとも何かしらの成果を得たい所だ。
あれから数時間が経過した。
結局何の成果も無いままだ。だが、既に日が沈む時間、タイムリミットだ。
俺達はギルドに戻った。
ギルドに着くなり、走りよってきた少年に事実を伝えて、遺品を手渡す。
少年はその場で泣き崩れた。
俺は少年の側を離れる。こういう時はよく知らない者が下手に慰めるのは良くない。
彼の知り合いに任せるしかない。
俺は自分に、良く有る事だと言い聞かせ、通常業務に戻る。
何せ、今回の事件の件で仕事は溜まっている。
人鬼の森の立ち入り禁止令に調査依頼、今回の依頼の事後処理や、ギルド員の死亡処理などだ。
仕事を始めようと席に座ると、職員の一人が寄ってきた。
「どうかしたか?」
「はい、あの……実はエドモンドさんが出て行った後に、帝国軍人が来まして。」
「帝国が? 何しに来やがった?」
「『これから3日間、人鬼の森に入るな』、と。王からの命令だそうで……。」
「何だと! ふざけやがって。何か? じゃあこの異変も奴等のせいだって言うのか!」
確かに、冒険者ギルドは迷宮の管理を国から任されているに過ぎない。しかし、だからこそ向こうも不干渉を決めると言うのが普通だ。実際、他国ではこんな話は聞いた事もない。
現王に代替わりしてからと言うもの、こんな横暴ばかりがまかり通っている。
だからと言って、今はこの命令を無視する訳にも行かない。とりあえず、調査依頼を出すことは出来ない。
ならば……俺が一人で調べに行ってやろう。ギルド職員としてそれは駄目なのだろうが、そんなもん知ったこっちゃ無い。
帝国が何をやっているか、場合によっては邪魔しなければ、納得いかない。
明日からは人鬼の森通いだな。
そう俺は決心した。
……さしあたっての問題は、この仕事を今日中に終わらせなければならない事だ。
今日は酒場に行けそうに無いな。
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「お久し振りでございます、ブルーノ様。」
慇懃無礼な声が後ろから掛けられる。何事かと思い振り向けば、そこには正装をした初老の男性が一人。
但し、彼からは異様な程存在感が感じられない。そうと知らなければ、彼の存在すらも疑ってしまうほどに。
さらに言うならば…
ここは王の寝室、世話役のメイドなど限られた人間しか入ることの許されない場所だ。勿論、彼がその一部の人間である筈が無い。
そしてもう一つ。先程までこの部屋にはブルーノ王以外に人はおらず、誰かが入って来た気配は無かった。
何処をとっても怪しい人物であるにも関わらず、ブルーノ王は慌てずに言葉を返す。
「久し振りだな、フリードヘルムよ。」
「ブルーノ様に置かれましては益々の御健勝の事と存じます。」
「貴様!何が健勝な事かっ! 全部判って言っておるのだろ。早くこの状況を何とかしろ!」
ブルーノ王はそう言ってフリードヘルムに詰め寄る。しかし、フリードヘルムはわざとらしい困り顔で返答を返す。
「そう言われましても、なんの事か皆目検討も付きません。」
「貴様の部下の事だ!
なんだあれは。勇者を召喚してからと言うものの何の役にも立やしない。大した情報は何一つ持ってこないし、怪しい奴を殺ろうともしない。
かと思えば、此方に要求ばかり。やれ、勇者達を人鬼の森に送れ、兵を貸してくれなどと。
ふざけるのも大概にしたらどうだ!」
「それはそれは、申し訳ございません。部下には私から強く言い聞かせておきます故。」
「そう言うことを言っているのではない! 埋め合わせをしろ言っておるのだ! わしはお前達を莫大な金銭で雇っておるのだぞ。それに報いる術が無いと言うのなら、今まで払った金を全て返すなり、誠意の見せ方と言うものがあるはずだ!」
「それは弱りましたね。此方としてもブルーノ様とは末永いお付き合いを考えさせていただいております。
……何とか、これで気を納めて下さいませんか?」
そう言って、フリードヘルムは今まで手に持っていた丸い包みを渡す。
ブルーノ王は何かと思いつつも包みを開くと、中から現れたのは果たして……生首であった。
「は、なっ! はぁ!?」
あまりの衝撃にフリードヘルムと生首を交互に見るブルーノ王。
その生首には見覚えが有った。何せ、昨日まで「影」として自分に報告に来ていた男だったのだから。
散々無能と罵った相手ではあるが、その実半分位は言い掛かりだと自覚していたのだ。
無論、その生首を見ても恐怖しか湧いてこない。まるで自分を何時でも同じ目に合わせる事が出来ると暗示しているようで……。
「私の優秀な部下の一人でございます。私の居留守を任せられる数少ない人材の一つでしたが、残念です。
せめてもの弔いとして、明日は彼の立てていた作戦も行おうと思うのですが、いかがいたしましょうか?」
すっかり気をされてしまったブルーノ王にそれを拒否するだけの力は残っていない。
ブルーノ王が頷くと、フリードヘルムはにこりと微笑み、
「ありがとうございます。これで彼も報われます。
それでは、私はこれで失礼させて頂きます。後日また伺いますので、その時はまたよろしくお願いいたします。」
と言い残し、その姿は急に霞んで見えなくなってしまった。
後に残ったのは、呆然とするブルーノ王と生首だけであった。
ウルフルズのライブに行って来ました! いやあ、良いね。ウルフルズ。
Jリーグの話。
ガンバ大阪が凄い! 3冠達成まであと2勝
えっ、どうでもいい? はい。すいません。
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